舞台はダイヤモンド・パールから数十年後のシンオウ地方。
かつての女主人公「ヒカリ」の孫娘は、亡き祖母から一匹のポケモンを託される。
ポケモンに興味がなく、トレーナーでもない一般人の孫娘は、
「タマちゃん」というそのポケモンのお世話をすることを決意するが……。


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ゲーム本編で主人公がなんとなく捕まえてる伝説ポケモン、
どう考えても普通にやばくね?
と思ったので書きました。

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なろう系主人公の祖母(ダイパ主人公)と一般人孫娘(本作主人公)。



タマちゃん

 私の祖母は、シンオウ地方で知らぬ人がいないスパースターだ。

 シンオウリーグを13歳という若さで制覇してチャンピオンに君臨、その後数十年に渡ってその座を守り続けた。更に、ポケモンコンテストでは数度優勝、ギンガ団とかいう悪徳組織を壊滅させる、ポケモン図鑑をコンプリートしてポケモン研究に多大なる貢献をした……エトセトラ、エトセトラ。

 その伝説的ともいえる偉業の数々は、枚挙に暇がない。

 リーグチャンピオンを下りて現役トレーナーを引退し、表舞台から姿を消して20年以上は経過した今でも、『フタバタウンのヒカリ』と聞いて憧れぬトレーナーはいないのだ。

 

 そんな祖母は、当然私にとって憧れと尊敬の対象だった……と言いたいところだが、残念ながらそうではない。私も祖母と同じように、ポケモントレーナーであれば彼女に憧れたのであろう。もしくは、その天賦の才能に嫉妬すらしたかもしれない。

 しかし、私はポケモントレーナーに、何よりもポケモンに一切興味がなかった。自分でも驚くぐらい、興味を惹かれなかったのだ。ポケモンにも、ポケモントレーナーにも興味がない私にとって、祖母はただの祖母であった。それ以外の何者でもなかったのだ。

 そんな私に、祖母以外の周囲の人間は口煩く『何故ポケモントレーナーを目指さないのか』『きっと才能が有るだろうに勿体無い』と言い続けた。祖母に憧れてポケモントレーナーになり、現リーグチャンピオンになった母の存在が、孫である私も当然ポケモントレーナーになるであろうという期待を大きくさせていたのであろう。私にとってはいい迷惑である。

 そんな周囲の中で、唯一、祖母だけは笑って『好きにさせてやりな』と言ってくれた。

 『ポケモントレーナーは、なりたいからなるものよ。周囲に言われてなるものではないわ。アカリ、あなたは自分の好きなように生きなさい』

 そう言って祖母が頭を撫でてくれたとき、どこか遠い存在だった祖母のことが、私は大好きになったのだ。

 

 そんな祖母が、亡くなった。

 どんな伝説を打ち立てた英雄でも、人間は人間。いつかは死んでしまう。

 最後に見た棺桶の中の祖母は、大輪の花々に囲まれて満足気な表情であった。きっと、心残りもなく逝けたのであろう。沈んだ心の中で、それだけが唯一の救いであった。

 祖母に頭を撫でられたときは幼かった私も、今では立派な大人である。数年前に家を出て独立し、コトブキシティで一人暮らしをしている。仕事はとある一般企業の事務職。ポケモンを好きでも嫌いでもない私は、特にポケモンと関わることのないこの職業を選んだ。この世界は大体ポケモン中心で回っており、ポケモン好きの人間が多く、ポケモンと関わりのない職業は人気が少なくて就職しやすいという打算もあった。

 喪主で忙しくしている母との挨拶もそこそこに、私は一人コトブキシティの住まいに帰ってきた。立地がいい割に家賃が易いマンションの10階の1室。そこが私のマイホームである。

 マンションのエントランスに入り、取り敢えず郵便受けを確認する。

「あれ」

 中には数枚のハガキと、やたらと大きく膨れ上がった封筒が一つ。ハガキはともかく、大きい封筒は珍しく、また何かを誰かから送られる覚えもなかった為、驚きで目を丸くした。

 訝しみつつ手に取る。

 ハガキは案の定、通っている美容院やらジムやらのお知らせであった。ハガキの確認はそこそこに、問題の封筒を見る。持ち上げると想定よりも軽かった。片手で軽々と持ち上げられるレベルだ。

「え」

 封筒の裏、差出人の名前に息を飲んだ。

 

 ■■ヒカリ

 

 そこには、亡くなった祖母の名前が書かれてあったのだ。祖母の葬式の日に、祖母から送られてきた封筒が届く。一瞬誰かの質の悪い悪戯かと思ったが、やや右肩上がりのクセの強いその文字は、まちがいなく祖母のものであった。

 

 慌てて部屋に持ち帰り封を開ける。ドクドクと脈打つ心音を聞きながら、震える手でそっと中身を取り出した。

 

 中から出てきたのは、一枚の紙と、1つのモンスターボール。

 

「……っ」

 

 思わず息を呑む。どうして、モンスターボールが?

 中にポケモンが入っていてもいなくても、『ポケモンに興味のない』私に、『モンスターボール』を送ってくる意味が分からなかった。しかも、誰にも見つけられたくないかのように、こっそりと封筒に入れて郵送してきているのである。

 嫌な予感がした。とてつもなく、大きな嫌な予感だ。

 

 恐る恐る、紙の内容を確認した。

 

『 親愛なるアカリへ

 

  お婆ちゃんの、最後の相棒をあなたに託します。

  名前はタマちゃんよ。

  きっと、アカリならタマちゃんとうまくいくと思うわ。

  貴方たちの行く末に、幸多からんことを。

 

 

  追伸

  タマちゃんはとても大きくて臆病な子なので、

  夜、誰もいない開けた場所でモンスターボールから出してね。』

 

 

「すぅぅ――」

 思わず、深く深呼吸した。荒ぶる心境を少しでも穏やかにするためだ。

 最初は祖母の懐かしい筆跡に涙ぐんだものの、すぐさま涙は引っ込んだ。手紙の内容がだいぶ問題だった。

 なんでやねん。

 遠い、ジョウト地方の芸人がテレビで言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。

 なんで、私にポケモンを!?

 ポケモンを一度も手に入れたことがなく、お世話すらしたことすらない私に何故ポケモンを!?

 どう考えてもおかしかった。母という適任の人物が居るにも関わらず、どうして態々私に。

 祖母の考えが何一つ理解できなかったが、しかし、そこに何かしらの確かな理由があることだけは確かであった。なぜならば、私の大好きな祖母は、私を、家族を、そして何よりもポケモンを深く愛していたからだ。そんな祖母が、適当な理由で私にポケモンを残すとは考えられない。

 祖母が私にポケモンを託したことは、ひとまず納得しよう。理由は全く理解出来ていないが、祖母が私に託すことを最適と捉えたのだ。信頼する祖母の判断を信じることとして一回無理やり納得した。

 

 しかし、もう一つ気がかりがある。

「お婆ちゃんの手持ちポケモンたちって、もう誰も生きていなかったよね……」

 

 ポケモンは、種族にもよるが基本的に人間に近い寿命を持つ。

 祖母は、チャンピオンになる前、シンオウ地方を共に旅した手持ち達を生涯のパートナーとしていた。チャンピオンになって以降、どんなポケモンも捕まえることはなかった。そして、祖母の相棒たちは、幸か不幸か、祖母が亡くなる前に6匹とも亡くなっている。

 孫である私はこの目で見たのだ。祖母の相棒たちが1匹、また1匹と亡くなっていき、最後の1匹エンペルトが祖母に優しい表情で看取られる様子を。直接、この目で。

 

 つまり、今目の前に転がっているモンスターボールの中には、祖母の7匹目の相棒がいるという事になる。そして、祖母はこの7匹目の存在を誰にも教えていなかったという事実が明らかになった。

 家族である母も私も、この7匹目の存在は知らなかった。当然、家族以外の誰かから、祖母の7匹目の存在を示唆されたことは、これまで一度もない。

 

 どうして、祖母はこの子を隠したかったのだろうか。

 

 祖母は、深くポケモンを愛していた。ポケモンに興味のない私にだって、分かるほどに。

 そんな祖母が理由もなく隠すはずがない。つまり、隠さなければならない、あるいは隠すことが最適と思われる理由が、このポケモンにはあるのだ。

 

 ごくり、と生唾を飲み込む。私以外誰もいない部屋に、時計の秒針の音だけが鳴っている。

 

 正直、目の前のモンスターボールが、その中の存在が少し怖い。

 ポケモンに興味がなく録に知識も得てこなかった私にとって、ポケモンの大部分は未知だ。ただでさえよくわからない存在の上に、あの祖母が存在を隠していたポケモン。

 

 関わりたくない、という気持ちが正直なところだ。

 私は祖母とも、母とも違う平凡な人間。ポケモントレーナーですらない。

 こんな厄介そうなポケモン、母に連絡して引き渡して、後は知らないふりをしてしまえばいい。そうすれば、リーグチャンピオンの母が何とかしてくれる。私は今までどおりの日常を過ごせる。

 それでイイじゃないか。

 

 でも。

 

 携帯へ伸ばそうと迷っていた手をモンスターボールに伸ばす。

 

『ポケモントレーナーは、なりたいからなるものよ。周囲に言われてなるものではないわ。アカリ、あなたは自分の好きなように生きなさい』

 

 そう言って、笑ってくれた祖母のことが大好きだったから。

 大好きな祖母の最後の頼みくらい、聞いてあげたい。

 

 私は、そんな思いでモンスターボールを手にとった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポケモンの鳴き声と私の足音以外、周囲にはなんの物音もない。

 ザクザクと落ち葉を踏みしめながら、私は、コトブキシティの外れにある公園まで出てきていた。目的は勿論、件のポケモンをボールから出してみる為だ。

 本当はもっと人気のない街の外まで行きたかったが、私には手持ちのポケモンがおらず危険な為諦めた。基本的に街の外には野生のポケモンが溢れており、人を襲うことも多々ある。手持ちのいない状態で外にでることは自殺行為とも言えた。

 道中、私は件のポケモンについて予想すべく、生まれて初めてポケモンについて調べていた。ヒントは、ポケモンの名前だ。祖母は、この子のことをタマちゃんと言っていた。

 タマちゃん。

 これは、一般的にブニャット?やペルシ……アン?というような、〇〇ネコポケモンといわれるタイプのポケモンに名付けられることが多いらしい。一般的という言葉と祖母はまったく正反対であるため、あまりアテにはならないが、若干のヒントにはなるであろう。

 

 

「せめて可愛ければ良いなあ」

 

 

 ため息を吐きながら周囲を見回す。時刻は夜中ということもあり、人気はない。

 私も明日は仕事の為、さっさと確認して帰宅して寝よう。

 

「えいや」

 

 生まれて初めてモンスターボールを放り投げる。投げ方とかあるのか、投げても出てこなかったらどうしよう、という私の不安をよそに、案外あっさりとモンスターボールの口がパカリと開き、中から何かが飛び出した。

 

 

 

 ズッ。

 

 

 最初に感じたのは地響き。巨大な質量を持つ何かが地面に降り立ち、反動で大地が揺れ、土埃が舞う。

 どうやら、相当大きなポケモンであったらしい。

 土埃の向こう側、2階建ての家ぐらいはありそうな巨大な影がこちらを覗き込んでいる。

 

 

「で、」

 

 

 デカー!!?

 

 あまりの大きさに涙目になりながら、遥か遠くにそびえ立つ頭部らしき場所を見上げる。

 暗闇の中、明々と輝く紅い瞳がこちらを見下ろしている。

 

 光源は月明かりのみ。

 薄暗くて見えづらいが、体毛は存在せずウロコかなにかで覆われているようだ。体色は青系統で所々白い角のようなものが生えている。態勢は四足歩行。尻尾もあるようで、巨大質量の何かがポケモンの背後でずりずりと地面を擦る音が聞こえてきた。

 こちらを見下ろしている様は、相対するものに巨大なプレッシャーを感じさせる。厳かで神聖な雰囲気すら纏っていた。どう考えてもタマちゃんというツラではない。

 

 

「た、タマちゃん?」

 

 まさか、ポケモン違いか。うっかり送るポケモンを間違えたのか。

 じっと見つめ合う沈黙に耐え切れず、私はそっと呼びかけてみた。

 

 そのポケモンは更に数秒私を見つめたあと、頷くように唸ってみせた。

 

 

 グゥルルル。

 

 

 びっくりした。大地の鳴動かと思った。

 タマちゃん(おそらくそうだろう、多分、きっと)の、大地から響いているのかと錯覚するほどの低音ボイスに、脳内をガクガクと揺さぶられながら私は頷き返した。

 

 

「私は、おばあちゃ、……ヒカリの孫のアカリ。今日から、えっと……よろしくね」

 

 タマちゃんは、こちらをじっと見つめている。

 特に、これといった感情は見受けられない。そもそも、この子感情とかあるの?

 

「あ、これ食べてみる?」

 

 お腹がすいているのではないかと、道中のポケモンセンターで購入したポケモンフードを掲げてみせる。

 こういったものを買ったことがないので、どれが良いとかも分からず、取り敢えず適当に中間くらいのお値段のものを購入した。

 どうしよう、こんな安い食べ物とか食べない子だったら。いかにも高級なご飯食べてそうな雰囲気だし。

 今更不安になる私の脳内をよそに、タマちゃんはこちらを数秒見つめたあと、ふいにその大きな顔を近づけて掲げていたポケモンフードを咥えた。

 

「あ」

 

 軽い力で引っ張られ、私の手からポケモンフードが離れる。

 

「え」

 

 まさか。目を丸くしている私の前で、タマちゃんはポケモンフードを袋ごと丸のみした。

 

「ちょ!袋ごと!!?」

 

 消化できなくない!!?後でお腹壊すんじゃない!!?

 袋から出すのを待てないほどお腹すいていたのだろうか!?

 

「た、タマちゃん!袋ごとはまずいって!ペッしな!ペッ!!」

 

 先ほどの緊張感も忘れ、思わずタマちゃんに駆け寄る。お婆ちゃんの大切な相棒を、預かって早々死なせるわけにはいかない。目覚めが悪すぎる!

 ポケモン相手にどうアプローチすればよいか分からないが、取り敢えず手の届く限りで一番高いところをべしべしと叩く。参考は、赤ちゃんにゲップ出させるアレ。本当は腹部か背中を叩いて促すべきなんだろうが、そもそも手が足にしか届かない。というか硬!!?びくともしねえ!!鋼か!?

 

 

 タマちゃんは、必死に足掻く私を一瞥すると何も言わずに勝手にボールの中に戻っていった。

「ちょっとー!!!」

 

 慌ててモンスタボールに駆け寄ってボールをブンブンと振るが、出てくる様子はない。完全に拒否されている。

 

 

「…君、そこで何をしている」

「え」

 

 ふと、声をかけられた。

 咄嗟に振り返ると、そこには訝しげな表情でこちらを見ている2人の警官。煌々と懐中電灯がこちらを照らしており、足元のポケモンがグルルゥとこちらを見て唸っている。

 

「え、えええ、えーと…」

 

 夜中に一人で騒ぎながら、モンスターボールを振り回している女。

 どう考えても不審者である。

 おまけに、先ほどのタマちゃんによる地響きと唸り声。ご近所さんが何事かと思い通報しても、全くおかしくない状況であった。

 正直、何もやましいことはしていないので、素直に経緯を話せば何も問題はないのだが、今回はそうできない理由がある。

 タマちゃんの存在だ。

 おそらく、タマちゃんのことは誰にも明らかにしてはいけない。

 祖母の言動と私の直感がそうつげている。

 タマちゃんについて伏せて、現在の状況をうまく説明。説明。せつ、めい……。

 

 

「なんでもないです!夜のウォーキング中でした!!さよなら!!!」

 

 

 私は逃げ出した。今夜のできごとは私の小さな頭の許容量をとっくにオーバーしており、正直言っていっぱいいっぱいだったのだ。

 

 

「あ、ちょっと!君!待ちなさい!追え!ガーディ!!」

 ガウッ!

 

 警官の焦ったような声と、それに応えるポケモンの声。

 人間だけならともかく、ポケモンの足から逃げ出すことなどまちがいなく不可能であろう。

 

 あ、終わったな。

 と半ば諦めながら全速力で走った。

 

 それから、走って、走って、走って。

 

 

「あ、っ、はあ、は、あれ?」

 

 気が付けば、私は何に捕まることなくマンションの前まで戻ってきていた。

 キョロキョロと周囲を見渡すが、警官もそのポケモンの姿もない。声すら聞こえてこない。

 どうやら、完全に撒けたらしい。

 

「……?う、ん?もしかして」

 

 私、めっちゃ足速い?大きな違和感を感じるが、現状の説明としてそれしか思いつかないのだ。

 どうしよう、隠された才能にいまさら気づいてしまったかもしれない。

 

 

 

 

 翌日、どうしても気になって、ポケモンの消化能力について調べた。

 あれからタマちゃんはウンともスンとも言わず、ボールから出てくる様子もない。本当に無事なのか心配だった。

 どうやら、種族にもよるが、大抵のポケモンはプラスチックを誤飲した程度では体調を崩さないらしい。消化してしまうか、そのまま体外に排出されるとか。

 

「なにそれ、怖」

 

 やはり、ポケモンは私にとって未知の塊であった。

 




ここのおばあちゃんは、
最初の御三家選択でポッチャマを選んだ人です。



Youtubeでやってた公式生放送ディアルガVSパルキアVSダークライ良かったです。


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