23XX年5月6日 日本時間14:00
「――というわけで、来週からは2階層に進む事になりますからパーティ登録をして貰います。パーティを組んだら事務課に届け出てくださいね。
おさらいになりますが、パーティは最大6名。ユニオンは最大4パーティですから、考えて組むように。
もちろん自信のある人はソロでも構いません。全て事故責任ですからね」
先生の話に教室内がざわつく。
遂にと言うか漸くと言うか、来週から2階層に進む事になるからだ。
そしてその為にパーティを組む必要があるから、入学してからの一ヶ月の間で組む相手が見つかってない人は心穏やかでないだろう。
「Fランク迷宮の2階層は洞窟型で魔物はゴブリンです。徘徊していて遭遇したら襲ってきますからね。
そして洞窟型なので、300人近い人数を同時に授業で連れていけません。パーティ単位で数組ずつの授業になりますので、自分たちのパーティが何階層の授業になるかはメニューから確認するように」
ゴブリン。ゲームなどでもお馴染みの有名な魔物だ。魔物の中では弱い部類らしいけど、探索者になるための篩の1つらしい。
ちなみに3階層はゾンビで4階層はスケルトン、そして5階層はホムンクルスと人型のオンパレードだ。大兎は殺せても人型の魔物を倒すのに心や体が拒絶する人もいるらしく、毎年何人かはこれで脱落していくと……
この一ヶ月で既に10人以上が転校していったし、脱落者が少ない事を祈るよ。
「2階層での授業が終わったパーティは、授業時間外であれば3階層以降に進んでも構いません。全員が2階層の授業が終わったら、授業時間でも好きに探索できるようになります。
そして5階層のボスを倒して転移陣を使用できるようになったパーティは、6階層で罠の授業を受けて貰います。
この罠の授業が進級条件の1つになりますから、遅くても2月までには5階層をクリアするようにね」
全員が2階層の授業を受けるまでは授業時間内は2階層の探索は不可と。授業を受けるパーティがゴブリンに遭遇しなくなってしまう可能性があるから仕方ないのか。
階層のタイプと魔物の情報は調べてあるし、無理せず油断せず進めて行けば大丈夫なはず。
「そうそう、パーティはあくまで暫定と考えておいた方が良いですよ。
この先の戦闘に耐えれずに転校していく人もいるし、ダンジョンハイテンションが衝動型の人は活動制限が付いてしまいますからね。
ですから固定を作るのはキャンプ授業の終わった1学期末以降になるでしょう。それまでは色んな人とパーティを組んでみてくださいね」
23XX年5月6日 日本時間14:30
「じゃあ、早速パーティ登録に行くかっ」
授業が終わるのと同時に信也がやって来た。
早めに登録しておくことにみんな賛成だったので、教室を出て迷宮へと向かう。
「でもアタシたち10人だよ、どうするの」
「暫定で授業受けるだけだし、探索する時はユニオン組めばいいから
移動しながらどうパーティを組むかの話になる。
10人だからどうやっても最低でも2組にはなるんだよね。
「こっちはユーがリーダー、向こうは美咲がリーダー」
「暫定だしね」
「どうせユニオンで一緒に行動するんだしー、それで良いんじゃないかなー?」
ひかりが俺と美咲がリーダーと言うと、雛子と恵のポニテコンビが頷き、他のメンバーから否は出なかった。
俺は採取とかで別行動も多くなると思うから他の人がリーダーでと言ってみたが、2階層の授業は一緒に受けるから問題ないと言われてしまった。
それにゲームとは違って1パーティで探索する必要もなく、4パーティまでならユニオンを組めるからガチガチ編成にする必要もないからという事らしい。
パーティの影響は全体魔法の範囲くらいかな。攻撃系の魔法はユニオンを組んでいればフレンドリーファイアを食らわないし、明日香の聖魔法の回復は単体と範囲内の継続回復だ。健一の全体付与はパーティ単位だから、アイツが一番大変かもしれない。
あぁ、俺の採取系スキルの影響もあったか……。まぁそんなに気にする事じゃないか。
迷宮に入りモニュメントに触れて「パーティ」と念じると目の前にスクリーンが現れた。ガチャと同じような謎スクリーンだが、そのスクリーンには『編成可能なメンバーが存在しません』と表示されている。
そしてモニュメントから手を離すとスクリーンが消える。
どうやら迷宮の機能はモニュメントに触れていないと使用出来ないようだ。
「俺一人だけ触れていてもパーティを組めないみたいだから、みんな一緒に触れて貰えるかな」
俺の言葉でみんながモニュメントに触れる。
10人で囲んでいるのを傍から見たらどんな感じなんだろうか。一般人からだと変な宗教のように見えたりしないよな?
みんなが触れた状態で再度念じると、スクリーン内の左側の列には俺の名前だけがあり、みんなの名前が右側の列に並んでいた。
どうやら触れた状態でってのは間違ってないようだ。並んだ名前の中から信也を選ぶと、名前が左の列に移動された。それから明日香、涼子、ひかりの名前も選ぶ。
「これで編成できたと思う」
「でしたらわたくしの方もやってみますわね――多分これで出来たと思うのですけど」
アイテムボックスからステータスカードを取り出している間に美咲の方も編成が終わったようだ。
みんなに預かっていたステータスカードを返して自分のカードをを確認すると、裏面にパーティ5人の名前が表示されていた。その中でも俺の名前だけが赤い。
「俺の名前が赤いんだけど、自分の名前だからかな? それとも編成をしたリーダーだからかな?」
「私のでもゆ~君の名前が赤いから、リーダーの名前だと思うよ~」
隣にいた明日香に聞くと、明日香のカードでも俺の名前が赤いらしい。どうやらリーダーの名前が色付きになるようだ。
「雪兎様、ユニオンも組んでみましょう」
美咲が俺の腕を取ってモニュメントの方に誘導する。
腕に当たる柔らかい感触に内心ドキドキしながらも、モニュメントに腕を伸ばす。
二人でモニュメントに触れて、頭でユニオンと念じる。
するとパーティの時と同じようにスクリーンが表示される。左に俺の名前があり右に美咲の名前が有るのも同じだ。美咲の名前を選ぶと左側に移動されたのを確認して手を離した。
「美咲の方のみんなの名前が表示されたね」
「名前の大きさが小さくなった」
「青色だね~」
授業では教わらなかったけどユニオンのメンバーもカードに表示されるようだ。
リーダーの美咲の名前が濃い青で、他のメンバーが薄い青色で表示されている。そして表示された名前が増えたからか、文字が小さくなっている。最大24人の名前が表示されるのだとしたら、手の平サイズのカードでは文字が小さくなっても仕方ないよな。
カードを確認していたら他のクラスメートがやって来た。
迷宮の初回授業の時に一緒した女子グループの8名に、クラスでも目立つ金髪女子4人の合わせて12人だ。
この金髪女子グループは欧州系の血が濃いミックスらしいけど、数代前から日本生まれの日本育ちなので他国語はさっぱりらしい。
そんな彼女らとは迷宮で採取していた時に、誰かが作った罠に引っかかっていたのを助けて親しくなったんだ。森の中で4人揃って逆さ吊りになっていた時は、何かの修行かと思ってしまったよ。
罠を作った方も森の奥なら人が来ないと思ってやったんだろうけどさ、土曜日でなければ命の危険だったし、土曜日でもそのままだったら夜中に裸で放り出されたあげく、ダンジョンハイテンションが発症していた可能性があるんだよ。
俺も他人事じゃないから、作った後には壊すか罠が有ると分かりやすくして欲しいところだ。
で、話を聞くとこの12人で暫定2パーティを作るようだ。空きを作るとうざい男子が寄ってくるから、3パーティでなく2つにしてしまうとの事。
女子の多い混合グループを組んだ俺に言われたくないだろうけど、一ヶ月も経ったんだし少し落ち着いて欲しいな。
迷宮を出て事務課にパーティの届けを出しに行く。
その途中でクラスメートたちとすれ違う。その中に仲良くなった人が居れば、手を上げて挨拶もする。
俺は瞳の色が青いからか、避けられがちで友人は多くなかった。これが女子だったら人気なるんだからやってられない。
この学校でも目が合うと避けられる方が多いけど、そんな俺にだって男友達は少しは出来たんだよね。