幼馴染と一緒に迷宮探索者になる   作:猫仔猫

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第16話 Fランク迷宮2階層

23XX年5月10日 日本時間13:20

 

「いや~、やっと2階層に進めるんだな」

「ゴブリンだからって油断は無しよ?」

 

授業開始前の時間だけど俺たちは迷宮入り口の広間に居る。この場に居る4パーティ22人が2階授業の初回メンバーだ。

どうやらパーティ登録順だったようで、見知った顔ばかりだからちょっと安心感がある。

 

「ゆ、雪兎くん、本当にこれで行くの……?」

 

そう尋ねてくる健一は体操服の上にポーションが沢山付いたベストを着ている。

前面にゴム製の(視力検査のCのような)切れ目の有る環っかが縦に並んでいて、そこにポーションをセットしているんだ。

 

「そっちのパーティには回復魔法もアイテムボックスも無いんだから、美咲がダメージ食らったら詰むぞ?」

 

一応他のメンバーにもポーションは渡してあるけど、戦闘中に使う余裕が有るのは付与術の健一だからな。

とは言ってもFランク迷宮の2階ならそんなに強くないだろうし、今日は4パーティ合同授業だからそうそう使うような事にはならないと思うけど。

 

「両手が塞がっていない人なら便利そうですよね」

「バッグに入れていたら戦闘中に使えないしね、ポーションホルダーは必要かも」

 

女子パーティのメンバーも健一の装備に興味があるようだ。

一般的なポーションホルダーはベルト型で2~4本セット出来るくらいなので、今の健一のように10本は無理だ。

アイテムボックス持ちでも慣れていないとピンチの時に咄嗟に取り出して使えないだろうから、ポーションホルダーは有った方が良いと思う。俺も4本のベルトタイプを装備しているけど、戦闘が終わればアイテムボックスから補充できるから、健一のように多くは無くても良いはずだ。こっちのパーティには回復できる明日香も居るし。

 

ちなみにこの装備は購買で買ったものだ。ゴムが手に入れば自分でも作れたと思うけど、残念ながらゴムが手に入らなかったんだよな。

流石に輪ゴムやそこらの品で使われているゴムからなんて、無理過ぎるから仕方が無い。

 

 

 

授業開始時間が近づくにつれて、広間を通り過ぎて行くクラスメートが増えていく。

そして高坂先生がやってくると、俺たちの方に歩いてくる。

 

「月見里君、パーティメンバーは揃ってますか?」

「はい、揃ってます」

 

先生の確認にきちんと答える。

手元の紙には全員の名前が書かれていると思うけど、確認するのはパーティリーダーだけのようだ。

 

「次、真田さん。パーティメンバーは揃ってますか?」

 

 

「はい、全パーティ揃っているようですので2階層に向かいます。先生の後についてくるように」

 

先生の後に続いて1階層の草原を歩いて行く。

目の前に先生がいるから無駄話も出来ず、何時の間にか2列になって歩いていたから、まるで行進しているようだった。

 

 

「あそこに見える岩が今週の2階層に続く階段になります」

 

15分ほど歩いて見えた平べったい岩を指さして先生が言った。

そこそこ大きな岩だったようで、岩の上部に穴があってそこに階段があった。

 

地上部に壁や建物が無いから、数世紀前の2DRPGゲームの下り階段みたいだ。

1階層は大兎だけの自然階層だからあんまり迷宮って感じはしなかったけど、この階段を見ると本当に迷宮なんだって思えるね。

 

「2階層ではパーティ単位で戦闘をして貰います。一回戦ったら先頭を行くパーティを交代ね。

今回は先生が後ろに居ますから挟撃は気にしなくても良いですが、先頭パーティでないからと言っ気は抜かないように」

 

先ずは俺たちのパーティからという事で、決めてあった順に階段を下りていく。

先頭は索敵スキルのあるひかりとタンクの信也。次に涼子と明日香で最後尾が俺だ。

戦闘になれば信也が一歩前に出て、受けている間に涼子とひかりが攻撃する。明日香と俺が周囲を警戒しながら回復したり、投擲したりする手筈になっている。

 

挟撃された場合は俺が足止めしつつ、涼子かひかりが下がってくると。

魔物が弱いうちはこれで良いだろうけど、魔物が強くなったらサブタンクがいないと厳しいんじゃないかな?

 

狭い場所だと簡単に入れ替わりも出来ないだろうし、ゲームとは違うのだよ、ゲームとは!

 

 

階段を下り終わると、情報通りに洞窟が続いている。

何故か壁には松明があり照らされているので、明かりを持つ必要は無い。酸欠になる事も無いようなので、迷宮の謎の一つとされているらしい。

 

緩やかなカーブとなっている洞窟を進んで行くと、身長1mちょっとの緑色の肌をした生物がいた。

皺だらけの醜い顔に毛のない頭、少し尖った耳とイメージ通りのゴブリンだ! 腰布一枚だけで他に何も身に着けていないのはFランク迷宮の2階層だからだろう。

 

そのゴブリンは俺たちに気付くと走り寄ってきて素手で殴りかかって来た。

 

信也が盾でゴブリンパンチを受け止めると、その横から涼子が首に向かって槍を突き出した。

その槍がゴブリンの首に突き刺さり、青色の血液が飛び散った。

 

「うへぇ」

 

その血を見た信也が情けない声を上げる。

迷宮の動画で見る事はあるけど、実際に目にするとね。思わず声を出した信也の気持ちがよく判るよ。

 

「虫の仲間?」

「蛸とかも青かったきがするよ~?」

 

その一方でひかりと明日香は暢気な会話をしていた。

そして涼子は気にもせずに追い打ちで口の中に槍先を突き込んでいた……

 

「はい、終わり。あっけなかったね」

 

うん。うちは女性陣の方が精神的強いようだ。

 

 

「はい、先頭交代。問題なさそうだけど、次は他の人も戦闘に参加するようにね」

 

どろっぷした魔石を拾うと先生から交代の声が掛かった。

一匹相手じゃ仕方ないけど、今回は信也と涼子しか戦闘に参加しなかったからね。

 

ちなみに腰に着けていた布も残ったけど、誰も拾う事は無かった。

 

 

 

 

 

 




バックアタックとか挟撃とか、リアルだとどうしようもないですよね。


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