幼馴染と一緒に迷宮探索者になる   作:猫仔猫

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第19話 リタイア

恵と紅葉にMP回復ポーションを渡して、ドロップ品を拾っていた美咲と雛子にHP回復ポーションをかけた。

 

「ひゃん。雪兎様、ビックリしてしまいましたわ」

「雪兎くん、運動着の胸にかけても透けて見えやしないよ?」

 

かけようとした瞬間に動かれて、たまたま胸にかかっただけだからね? 狙って胸にかけたわけじゃないからね?

それにほら、ポーションはすぐに乾くからねっ!

 

雛子の視線から逃れるように顔をそむけると、少し前の壁際に吐瀉物があるのに気が付いた。

そうだ、健一はっ!?

 

振り向くと、倒れたまま自分の体を抱きしめ震えている健一と、それを心配そうに見ているみんなの姿があった。

 

「お~い、健一。大丈夫か~?」

 

信也の声にも健一は震えるだけだ。

 

「今日はここまででかな?」

「元々様子見だったしねー」

 

健一の方に寄っていくと、紅葉と恵が小さな声で話しているのが聞こえた。

同じパーティなのに結構ドライなのね。って、入学からの流れで暫定パーティ組んでるだけで、そんなに親しいわけじゃないからか。

健一も内気なうえに背の高い女性は怖いからって、自分から話しかけたりして無かったからなぁ……。その怖がりがなかったらショタ枠で人気になっていただろうにな。

 

健一の側に着いて生活魔法の<清浄>で吐瀉物の付いた運動着を奇麗にしてあげる。

 

「今日はもう帰ろうな」

 

手を貸して立ち上がらせるも、脚がプルプル震えていて一人で歩けそうもない。

そして俺や信也では背が違い過ぎるので肩を貸す事も出来ない。

 

「信也、健一を負ぶってくれ。ひかりと美咲が先頭で、次に紅葉と恵。魔物が居たら遠距離攻撃をしてくれ。

最後尾に涼子と雛子、念の為に後ろに気を配ってくれ」

 

信也の盾と剣を預かってアイテムボックスに入れて、使ったポーションと浄化水を幾つか取り出す。

帰りの4~3階層はアンデッドだからな。最短ルートを通ればそんなに多くは要らないだろう。

 

信也が健一を負ぶったのを見て、ひかりと美咲が4階層への会談に向かって足早で歩き出す。

5階層に入ってそんなに距離を歩いていなかったから、幸いホムンクルスに会う事は無く4階層に戻れた。

 

4階層で一度戦闘になったけど他のクラスメートのパーティが居た事も有って、以降は戦う事無く外に出る事が出来た。

 

 

 

 

「なぁ、あいつ大丈夫かな?」

 

寮の健一の部屋まで運んで、自分たちの部屋に戻る時に信也が話しかけて来た。

 

「安全な場所で休んで落ち着いてくれれば良いんだけど、最悪はリタイアだろうなぁ……」

 

二か月以上一緒に行動してきた仲間だしリタイアして欲しくは無いんだけど、元々が探索者向きの性格じゃないからな。

むしろ迷宮高校に進学してきたのが不思議なくらいだったし。

 

 

何時もの夕食の時間、食堂に健一は現れなかった。そして翌日の朝食にも……

 

「村上さんは大丈夫なのでしょうか?」

 

昼食後にお茶を飲んで寛いでいたら、美咲が独り言のようにボソッと発した。

 

「これで3食抜きになるのかな? 部屋にお菓子とか有ったとしても厳しいよね」

「会うのが気まずくて時間ずらしてるだけなら良いんだけどねー」

「明日には元に戻っていると良いね」

 

美咲パーティの残りの3人も会話に参加していく。

たしかに時間をずらしていなければ3食抜きになるのか。部屋の小さい冷蔵庫に食事なりそうな物を入れているとも思えないしな。

 

「それより今週は?」

「ちょ、それよりって……。5階層でも戦えるけど、連戦になると厳しいよな?」

 

ひかりの雑な話題転換に、信也が昨日の戦闘から5階層での連戦は厳しそうだと言う。

 

「もいでやりたくなったわね」

「だからおっぱいを刺しまくってたんだね~」

「違うわよ、心臓を狙っていただけなんだからね!?」

 

防具がなければ心臓狙いは間違ってないのかもしれないけど、本当にそれだけだろうか?

 

「女型は美咲たちに任せた方が良い?」

「男型は逆に下がぶらぶらのがいたよ?」

「あー、思わずあそこに魔法うっちゃったよー」

 

あそこに風魔法だと!? 俺が行った時に1体腹から下が血まみれのが居たが、まさか恵にちょん切られていたとは……

思わず股間を押さえてしまったよ。

 

「雪兎様のならともかく、あんな物を見せられても困りますわ」

「雪兎くんのなら良いんだ?」

「もちろんですわっ!」「もちろんだよ~!!」

 

左右から同時に声が上がった。そして両頬に手を当てたり、身じろいだりして妄想の世界に旅立ってしまった。

 

「いやー、愛されてるねぇ」

「色ボケともいう」

「で、ユキは二人の事はどう思ってるのよ」

 

「う~ん。泊りの授業が終わって、破壊衝動でなかったら……かな?」

 

自分と相手のタイプが一致してるにこした事は無いけど、限定となってしまう破壊衝動タイプだと一緒にパーティは組めないだろうしな。

 

「ユキは女子の間で人気だから、泊り授業の後大変かもね?」

「パーティ組めなくてもユニオン希望くるだろうからねー」

「金髪ちゃんたちは間違いなく来るよね」

 

金髪ちゃんたちって……。紅葉はあの子らと交流ないから名前を知らないのかな?

って、俺がそんなに人気有るの? まともに話すのってこのメンバーと、初めの迷宮授業で一緒した女子グループの一部、あとはそのミックス組の4人だけなんだけどな……?

いやこのクラス男子の中だと女子の知り合いが多い方になるのか。女子とまともに交流できている男子が少なすぎるんだよ。

 

 

 

そして夕食にも健一が来なかったので部屋を訪ねてみると、部屋のドアに付けられている筈のネームプレートが外されていた……

 

 

 

 


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