説明を受けた後、俺たちはなるべく迷宮に近い位置の部屋を借りた。
パーティ棟から見ると迷宮も校舎も同じ方向だから、なるべく近い方が楽だからね。
中に入ると広めの玄関があり、小さな廊下の右側にトイレの扉、左側に風呂場への扉、そして正面にリビングがあった。
玄関には靴箱の他に大きな棚も有る。これは装備なんかを置いておく場所だろうか?
リビングに入ると正面と左側に個室への扉、右側はキッチンとなっていた。
「話に聞いていた通り、棚と冷蔵庫しかないね」
先生の所にあった電子レンジとかは持ち込みか。先生は食欲タイプだから食事方面の物が充実しているのは当たり前だな。
「基本的に食事は食堂でしょうけど、最低限の食器などは必要ですよね」
「お茶とか~、夜食とかするだろうしね~」
購買にはまともに料理するような肉や野菜は置いていないから、食事はやっぱ食堂になるよな。
間食用の菓子パンとか冷凍食品は置いてあるんだけどな。レンジでチンするたこ焼きとかお世話になってます。
「とりあえずテーブルと椅子は俺が作れるから良いけど、ポッドやレンジは買わないといけないか」
「卒業してからも使えるんだから良いんじゃないかな~?」
そうなんだけど、家にも有るんだよな……
「そうか、夏休みに帰省したら家から持ってくればいいのか」
「良いのですか? お家で使っている人は困りませんか?」
「あー、美咲には言ってなかったけど両親亡くなっていて、一人暮らしなんだよ」
俺の言葉を聞いた美咲が申し訳なさそう顔をしたけど、もう4年以上前の事だしな。
頭をポンポンと叩いて、大丈夫だと知らせてあげる。
「さ、個室の方も見てみようか」
二人を促して正面の個室の扉を開けた。
広さは6畳より広いくらい、目測だけど9畳くらいかな。
「寮の部屋より広いね~」
「2部屋ですから、この部屋を3人で使うとなると狭いくらいでは無くて?」
「基本的に寝る為だけの部屋だろうしね。私物は寮の部屋に置いていれば良いのだし」
「んふふ~、一緒だよね~?」
「ここでイヤは有りませんわよね?」
二人の柔らかい感触が伝わってくる。
昨日初体験をしてしまったからか、いつもより意識してしまう。
「うん……破壊衝動じゃなかったしね。二人の気持ちは嬉しいから。……ただ、まだ好意で好きまで行ってないのは許して欲しい」
「ゆっくりと好きになってくれれば良いんだよ~?」
「そうですわ。普通の恋愛でも両想いから始まる事なんて稀ですもの」
好きな人より好いてくれる人か。
この二人の真っ直ぐな感情を受けて行けば、きっと好きになれると思う。
それにあの気持ち良さを知ってしまったらね……
「ベッドは好きな大きさで作れるけど、マットレスはそうはいかないからどうするか」
「それならベッドではなく、一昨日のような大きな布団で良いのではありませんか?」
「さんせ~い。ゆ~君なら材料があれば、この部屋いっぱいの大きさの布団も作るもんね~」
羽毛はまだまだあるし、革も大兎を狩ればいくらでも手に入るから大丈夫だろう。
「これから色々と揃えていかないとな。二人で必要そうな物を纏めてくれないか」
こういう生活観点では女性の方が鋭いだろうし、一人暮らしならともかく、ここは任せてしまった方が良いだろう。
作れそうな物は作る、家に有って持って来ても良い物は持ってくる。それでも足りない物は買えば良いか。
市販品であれば購買に注文すれば取り寄せて貰えるし。
となればポイント稼がないとな。
単価は安いけどポーションの需要は無くならない。HPが自然回復しないから魔法かポーションに頼るしかないもんな。勿論先輩やクラスメートも作成しているけど、余剰分は探索者協会に売られていくみたいだし。
肉は食堂で消費できない分は近場のスーパーに売られるし、木材は日本全国消費されるからこちらも安定して売れる。
逆に低ランクのドロップ装備は供給過多で安値安定だ。早々壊れるものではない上に、需要が少なすぎるからだ。
溶かして再加工するにもコストがかかり、鉱石を買った方が安上がりだったりする。
だから2階層以降で戦闘しているクラスメートは魔石しか拾って帰ってこない。嵩張るうえに安くしか売れないドロップ装備を持って歩きたくないんだろうね。
そんな事情でポイント稼ぎはみんな未だに1階層でやっている。6階層以降にいければ変わってくるのかな?
という事で、クラフトとガチャの成長を期待して、今まで通り森で生産だな。
ヨーコを呼び出して大兎を狩らせれば肉や魔石も手に入るしね。
「じゃあ夕飯まで迷宮に行って来るよ」
「夜はここだよね?」
二人に話しかけると、珍しく語尾を伸ばさずに明日香が聞いて来た。
年の離れたクランの弟妹をあやしている内に癖になったとか言っていたっけか。
「うん。お風呂もあるし、寮で寝る必要もないからね」
そう答えると、明日香は美咲と手を取り合って喜んでいた。
そんな二人を見ながら出ようとすると、美咲が小走りに寄って来た。
「いってらっしゃいませ、あ・な・た。……一度言ってみたかったんですの」
そう言うと美咲は顔を真っ赤にして、逃げるように個室へと逃げ込んでいった。
恥ずかしいのならやらなきゃいいのに。と思うのは女心に鈍いからだろうか?
借りた家を出て迷宮に向かうと――
「ハーイ、ユキト。待ってたわよ」
1階層の草原の入り口付近でソフィーに捕まった……