ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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敵陣強襲

 逃げるフリードを追いかけて着いたのは、レイナーレたちが占拠していた廃棄された教会だった。

「ここ、いい加減に取り壊せよ」

 朧がそう呟く間にも、ゼノヴィアを先頭とした三人は奥に入って行った。

「やれやれ。少しは罠とは考えないのだろうか? 使命感と復讐心で凝り固まった奴らには無理か」

 朧はため息を吐きながら、三人の後を追った。

(いやしかし、これは追って来ないほうが良かったかもしれない)

 自分の行き当たりばったりな行動に、少しは反省しようと思う朧であった。

 

 

 

 隠し通路を使って下に降りると、かつてアーシアが十字架に縛られていた部屋で、ゼノヴィア、イリナ、木場が、フリードを含む三人のエクスカリバー使いと戦闘をしていた。

天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)! 三本ここに揃い踏みか!)

 しかし、朧はそれよりも、聖剣を扱える者が三人もいることに驚いていた。

(聖剣使いの量産化に成功していることは知っているが……教会を追われた者でも三人の聖剣使いを作り出せるほどに研究は進んでいるのか)

 少々関心しながらも、朧はもしもの時のために、三人の戦闘を注視しながら、それを恍惚(こうこつ)にも似た視線で見ているバルパー、そして、どこかに居るであろうコカビエルを警戒していた。

(今の状況はゼノヴィアがフリードと、イリナが透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)、木場が夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)の相手をしているか……)

 イリナの相手は刀身が目に見えないエクスカリバーのため、体にいくつもの細かい傷を負っていたが、同じエクスカリバーを使っているためか、使い手が未熟なためか、深手は無く、変幻自在の聖剣にて相手を追い詰めていた。

 木場は持ち前の速さで相手を翻弄(ほんろう)していたが、エクスカリバーを折ろうとしているため、相手はあまり大きな怪我をしている様子は無かった。

 フリードとゼノヴィアの戦いが一番激しく、破壊力に秀でるゼノヴィアの破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の一撃と、速度に秀でる天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)の連撃とが拮抗し、いくつもの聖なる火花を散らせていた。悪魔的には近づきたくもない光景だ。

(聖剣好きが見たら卒倒しそうな光景だな。エクスカリバー五本が同時に振るわれるなんて、一生に一度見られるかどうかだろうな)

 

 警戒を続けながら戦いを見ていた朧は、木場とイリナが戦っている相手の動きが鈍くなっているのに気づいた。外傷は大した事ではないのに、明らかに動きが悪くなっていき、それだけでなく、体から聖なるオーラが漏れているようだった。

「駄目か」

 バルパーがそう呟いた時、フリードの除く二人は、血を吹き出して倒れた。

「体が因子について行けなくなったか」

(因子?)

 バルパーの呟いたことを詰問しようとした時、エクスカリバーが霞むほどの力が、辺り一体を支配した。

「このオーラ……コカビエルか!?」

「そうだ」

 声がした上を見上げると、五対の黒い翼を持つ堕天使が浮遊していた。

「バルパー、そいつらは?」

「エクスカリバーを取り返しに来た聖剣使いと、それに協力する悪魔のようだ」

「そうか」

 コカビエルはつまらなそうに言うと、イリナに視線を向け――

「聖剣使いを殺せば、天界も少しは本気を出すだろうか」

 イリナに光の柱をぶち込んだ。

「イリナ!」

 イリナが先程までいた場所には光の柱が突き立っており、地面を破壊したことによる粉塵のせいでイリナの安否は分からなかった。

「くそっ、いきなり攻撃しやがって……後一秒遅かったらひき肉だったかも」

 イリナは間一髪の所で、タワーシールドを持った朧に(かば)われていた。

「む、貴様は……」

「木場、ゼノヴィア、逃げるぞ」

「なんだと?」

「ここまで来てどうして!?」

「ここは地下だぞ。下手すりゃ生き埋めで死ぬ。それに、イリナは気絶して足手まといだ。こいつを置いて来なきゃどうにも勝ち目は無い」

 朧の言うことを聞いて、木場とゼノヴィアは渋々と頷く。

「随分と微温(ぬる)くなったものだな」

 三人のやり取りを聞いていたコカビエルが突如口を開く。しかもその口から出た内容はまるで三人の中に旧知の者がいるかのようだった。

「余計なお世話だ。誰が貴様のような奴と正面から戦うか」

 それに答えるのは、この場においてどの三大勢力にも与していない人間、黒縫朧。

「嘆かわしい。かつて単身で『神を見張る者(グリゴリ)』に攻め込んだあの気迫はどこへ行ったのか」

 その言葉に当事者二人を除いた全員が驚愕する。

 人間がたった一人で神を見張る者(グリゴリ)に攻め入ったという事実。それを成してもなお生存しているということは、歴史を紐解いても比類する者は滅多にいないだろう。

「誰があんな事を二度とするか。あの後俺は死にかけたんだからな」

 それを聞いたコカビエルは明らかに気落ちした。

「全く、最近は皆こうだ。種の存続だけを考える牙の抜けた奴らばかり。三大勢力は皆、戦争をしないと言い出す始末だ」

「人間としては、そう言い切れるお前らが羨ましい……よっ!」

 コカビエルの話を間隙(かんげき)を突いて、朧は数十本の黒槍を投げる。

「撤退!」

 朧の掛け声で木場とゼノヴィアは出口へと走り出した。

「逃がすと思っているのか?」

「思ってるさ。だって、その方が楽しめるぜ?」

 イリナを背負った朧は、黒い煙を吹き出す槍をコカビエルに向けて投擲する。

 それはコカビエルにあっさり砕かれるが、槍から吹き出した煙が視界を奪う。

「煙幕か。小賢しい」

 それを吹き払おうとした時、コカビエルの視界が僅かに揺れる。

「毒煙だよ! 天使・堕天使限定のな!」

 煙の向こうで朧の声が遠ざかって行く。

 

 コカビエルが翼で煙を吹き飛ばした時、教会の敷地内には四人の姿はなく、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)のみが残されていた。

 


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