明日はついに三大勢力の会談の日だ。
「動員されるのは旧魔王派のカテレア・レヴィアタン。及び
この戦力では三大勢力の上位陣を殺すことは不可能だ。
「殺せて一人か二人……それも俺とヴァーリが本気を出した場合だが。出さないから無理」
(これで、カテレアは死んだな。『蛇』があったら相討ちには持ち込めるか……?)
どうでもいいか。あれが死ぬなら。
「それはそれとして、イッセーたちはどうしたものかな? 魔術師相手なら心配ないが、カテレアが気まぐれで攻撃したら死んじゃうし、三大勢力の護衛が混じった乱戦になったら大変なことになるかもな……」
さてどうしようと知恵を絞ると、名案が浮かんだ。
「そうだ。いっそのこと全員
ここで登場するのが新キャラのギャスパーくんです。
「
俺がやるなら計画を変更する必要も無いからな。
「さて、それでは適当に、ついでに、やる気も無く、意義もなく、無駄に世界を騒がせましょう。――ほんのささやかな願いのために」
深夜、駒王学園の近く。
「『
朧が現在いる空き地には、真っ黒な二種類の魔方陣が一体を埋め尽くしていた。
「第一陣、転移」
魔方陣のいくつかが発光し、そこから黒いローブを着た女性たちが現れる。
「会議は既に始まっている。俺の合図の後、本隊の転移を開始し、駒王学園への攻撃を開始する。俺はその前に、駒王学園の敷地内に侵入し、旧校舎にいるヴァンパイアの
朧が転移用の魔方陣を展開すると、魔術師の一人が彼に声をかけた。
「それに、我々も同行していいでしょうか?」
「……好きにしろ」
朧は同行を申し出た魔術師たちも含めて、旧校舎の外に転移する。
「外で待機。別命あるまで動くな」
朧は魔術師にそう言いつけてオカ研の部室に入る。
「ギャスパー」
「き、き、き、黒縫先輩!? どうしたんですかこんな時間にィィィ!」
ダンボール箱の中に入っていたギャスパーは、ダンボール箱の中から飛び出すと床に落ちていた紙袋を
「ははは、嫌われたもんだ。――それも仕方無いがな」
朧は部屋の壁を向いてうずくまるギャスパーに近づくと、手に黒い長手袋を出現させ、更に左腕のシルエットが変化し、無数の黒い魔方陣を出現させる。
「悪いな、ギャスパー。適当に恨んでくれや」
左手でギャスパーの頭を鷲掴みにし――
『――
その瞬間、世界が停まった。
「さてさて、世界を巻き込む復讐劇の始まりだ。すまんなギャスパー、これも無駄な被害を減らすためだから、あんまり自分を責めるなよ」
「ああ……」
「おっと、まだ聞こえてないな」
朧は目を血走らせて口を半開きにしたギャスパーを見て少し悲しげな顔をした。
「すまんな、もう休んでいていいぞ。放っておいても後一時間は効果が持続するから、目を光らせている必要も無いしな」
ギャスパーをダンボール箱の中に戻すと、部室の中に魔術師たちが入って来た。
「何の用だ」
「そのヴァンパイアは我らにお任せを。あなたはレヴィアタン様の加勢に向かってください」
「……あっ、そう」
そう言って朧は転移する。無論、カテレアの援護のためでは無い。
「現状はアザゼルとカテレアが戦闘中。ヴァーリ、木場、ゼノヴィアが魔術師どもの掃討中か……ヴァーリは容赦無しだな」
朧は正門の上に転移して、どうすればいいかと考えたが、別に考える必要も無かった。
「このまま様子見かな……いや、そういう訳にもいかないか」
今の朧は周りの魔術師と同じローブ姿をしているため、木場に襲われても仕方なかった。
「はっ!」
朧に自分に向かって振るわれた聖魔剣を跳躍して回避する。
「
空中に現れた魔方陣から赤い炎が吹き出し、木場を襲う。
「氷の聖魔剣よ!」
木場が新たな聖魔剣を創り出して一閃すると、赤い炎は凍りついて地に落ち、砕け散る。
「
今度は先ほどよりも小さな魔方陣三つ描き、そこから雷が木場を狙って宙を奔る。それを木場は、聖魔剣を避雷針代わりに投げて回避する。
(魔術だけじゃちょっときついなー)
木場の剣を
(危なっ!)
それを横っ飛びで何とか回避すると、朧の代わりに刃を受けた地面が大きく抉られた。
(あれ、絶対に人に対して使っていい武器じゃないよな……)
「ゼノヴィア、彼は他の魔術師とは一味違うようだ」
「そうだろうな。先ほどの回避は、普通の魔術師の動きじゃなかった」
「それに、使う魔術も他の魔術師たちとは違っているようだから、油断はしない方がいい」
「分かっている」
(あーやだやだ。こいつら、二人同時に手加減して戦って勝てるほど甘い相手じゃないんだけどな)
しかし、朧は本気出して戦うつもりは無かった。
「
左右の手元に小さな魔方陣を表し、そこから水流が高速で二人に伸びる。それを二人は
「火球、連続発射」
魔方陣から火球が狙いを定めず何発も放たれるが、それが飛び交う中を二人は縫うように接近する。
「
地面がいきなり三メートルほど沈み、それに足を取られた木場とゼノヴィアは転ぶとまではいかないまでも、その姿勢を大きく崩した。
「
頭上に
雷が降り終わって魔方陣が消えて、朧が二人のいた場所を見ると、そこには数十本の聖魔剣でできた壁があった。
(まだまだ、終わりそうにないなぁ……)
朧は剣の壁の向こうから襲いかかる二人の剣士を見てため息を吐いた。
朧が二人と魔術師たちを巻き込みながら戦闘を続けていると、カテレアのオーラが増大したのを感じた。
(カテレア……『蛇』を使ったな)
「頃合いだな」
ヴァーリに
「さて、遊んでいる暇が無くなった」
朧は数え切れないほどの魔方陣を出現させる。
「雷、雷雷雷、雷雷雷雷雷雷雷雷雷――一斉に、射抜け!」
全ての魔方陣から雷が
「木場、ゼノヴィア、終わるまでしばらく寝てな。さて、次は――」
そこまで言った所で、倒れていた木場が立ち上がって斬りかかった来た。
「――っ!?」
聖魔剣でフードが切り裂かれ、顔が露出する。
「君はっ!?」
「ちっ」
朧は軽く舌打ちして、ボディーブローを腹部に叩き込む。殴られた木場は吹き飛ばされて地面を転がった。
「どうして君が……」
木場はそう言うと、今度こそ本当に気を失った。
「どうしてもこうしても無い。ただ、やるべき事をしているだけだ」
朧が漏らしたその一言は、誰の耳にも届かなかった。