小猫が起きると、どこからかいい臭いが漂ってきた。
「……ううっ」
「あ、起きた、小猫?」
小猫の視線の先には、朧が料理の乗った皿を持って立っていた。
「料理は出来たけど、食べる元気はある?
「……なんとか」
「ん、なら大丈夫だな」
朧がやけに手馴れた様子で料理をテーブルに並べていく。
「……これ、先輩が作ったんですか?」
「まあな。食材はこの屋敷に貯蔵されていた物だけどな」
「……料理、できたんですね」
小猫は心底意外そうな顔をした。
「それなりにだけどな。ついでに言うと、味の保証はできないぞ。全く自慢できないことに、他者から
朧はそう言って席に座り、小猫が席に着くのを待たずに、無駄に行儀のいい
「……いただきます」
小猫は朧が一通り料理に手をつけたのを確認してから、自分も料理に口をつけた。
「……
「気に入って頂けたようで何よりだ。超感動」
それからは、二人は黙って食事を続けた。
「……ごちそうさまでした」
「お
朧は二人分の食器を持って、シンクへと向かう。
「……どうして……」
その背中に、小猫が声をかけた。
「ん?」
「……どうして、こんなことをしてくれるんですか? あなたは敵のはずじゃ……」
「俺はお前らの敵になった気はないけどね。これは好きでやってることだから、気にしなくていいさ」
朧はそう言うと、食器を洗い始めた。
「……それで納得できるはずが……」
「強くなりたいなら、そんな細かいことに気にするな」
「……分からないのは、気持ち悪いです」
「……じゃあこれだけ言っておく。俺にも、どうしても強くなりたいと思った事はある。だから、お前が強くなろうとしている気持ちも分かる」
水音がする中、その言葉は奇妙に響いた。
「さて、飯を食べた後すぐに運動するのは体に悪いから、少々仙術についての話をしようか」
「……嫌です」
「嫌だ嫌だで渡っていけるほど人生は甘くないんだよ。使う使わないは置いといて、聞くだけ聞け」
「……はい」
小猫は渋々と頷いた。
「コホン。それじゃあ……まず仙術がどんなものかについては大体知ってるよな?」
「……はい」
「でも一応言っておくと、仙術は生命体に流れる生体エネルギー――俗に言う『気』に干渉する術。応用範囲は結構広く、気や魔力の活性化や不安定化、体力の回復、気配察知など色々できる。俺は気配察知と自分の身体能力を
小猫は黙ってそれを聞く。
「で、仙術の欠点にしてお前が最も警戒している難点は、仙術は周りの気に干渉してしまうため、その影響を受けやすく、世界の負の感情に影響されて、強大な力を得る反面、暴走する危険性がある、、だったか? 俺は向いてないかそこまではならないけど」
小猫は首肯する。
「……そのせいで、姉さんは……」
「ところで、そのことで一つ疑問があるのだけれど」
落ち込む小猫の言葉を朧が途中で
「……なんですか?」
「お前の姉、主を殺したのって本当に仙術のせい?」
「……どういうことですか?」
「酷いことを言うようだけど、あのバカ猫が力に溺れて暴走するような奴に見えない」
その言葉に、小猫が息を呑んだ。
「野良猫のように
小猫は黙り込んで
「けど、力を使うのが好きでテロリスト集団に属している
「……色々と台無しですね」
「そりゃそうだ。俺はあの黒猫のことが基本的には嫌いだ」
その後、朧は小猫に黒歌に対する愚痴を延々とこぼし始めた。普段からどれだけ溜まっていたのか、かなりの間は
「……姉がすいません」
愚痴を聞き終わった小猫は、開口一番そう言った。
「お前、いい子だな……幸せになれるように祈っておく。――ああ、それで、仙術のデメリットに対する対処法は、せいぜい気を確かに持てとしか言えないが――」
朧は小猫に優しく微笑みかける。
「いざとなったら仲間に頼れ。お前には、素晴らしい仲間がいるんだからな」
「……はい!」
「いい返事だ」
「それじゃあ、早速実践と行こうか。危なくなったら俺が止めるから大丈夫大丈夫」
「……あんまり安心できないです。テロリスト先輩」
「