ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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夢見たっていいじゃない、男だもの。


雪女

 部活中にレーティングゲームのミーティングを行うため、早々に帰らされた俺は、思わぬ奴と出会っていた。

「よう朧、遊びに来たぜぃ」

「兵藤一誠に用事があったのでな、寄らせてもらった」

 ドラゴンと猿だった。

「白龍皇は上がっていい。だけど、エテ公、手前は駄目だ」

 ヴァーリには普通に、美猴は適当に接する。

「なんでだよぅ?」

「教育に悪い」

 それを聞いた美猴がついにやっちまったか……という表情をした。

「美猴、何だその顔は」

「もしお前が世間に後ろ指差されるようでも、俺っちたちはお前の味方だぜぃ」

「テロリストの味方なんて要らんわ」

 今の俺が言えた義理ではないが。

(しかも誤解解けてないし)

「大丈夫さ。俺っちたちは分かってるて。――な、ヴァーリ?」

「ん? ああ」

 美猴、人の肩に手を置くな。後ヴァーリ、お前話聞いてなかったろ。

「……とにかく、要件済ませてとっとと帰れ」

「その前になんか飲ませてくれよ。喉渇いちまった」

「お前、本当に図々しいよな」

 ちょっと感心する。

「家には入れてやらん。水は持って来るから少し待ってろ」

徹底(てってい)し過ぎだろぃ……」

 

 

 

 水が入ったコップを三つ持って来ると、そのまま玄関先で話し合いを始めた。

「それで、イッセーに用だったか。隣があいつの家だから待ってればいつかは来るな」

(その場合部長を始めとする眷属と一触即発だが)

 その事を付け加えて伝えると、ヴァーリはそれは好ましくないと伝えた。

「できる事なら他に誰もいない方がいいな」

「まあ、テロリストだもんなぁ……。だったら、悪魔の仕事中に接触するしかないな」

「ん? 悪魔って魔方陣で依頼主ん所行くんじゃねぇのか?」

「最初、魔力が足りなくて魔方陣で飛ぶことすらできなかったらしい。転生したとはいえ元は人間(赤龍帝)だからな。無理もない」

 そこら辺の仕組みはかなり興味がある。一度アジュカ・ベルゼブブにお目通りしたいぜ。

「それで、あいつはチャリで移動してる。それが受けてるんだから、人生ってのは不思議だな。――悪魔だけど」

 ちなみにこれは夜道を散歩してる時に会って聞いた事で、その時はたいそう驚いた。

「だったらその時にするか」

「一応俺も付き合うけど……それまでどうやって暇を潰す気だ? 家には()れんぞ」

「そうだな……」

 ヴァーリはしばらく悩むと、すぐに何かを思いついた。

「そうそうこの近辺で行きたい所があったな」

「それって例のあいつかぃ?」

「そうだ」

「へぇ……お前の相手ができる奴がこの近辺にいるとは知らなかったな」

 ここら一帯の強い妖怪とかは昔粗方(あらかた)倒してしまったから田舎に帰っちゃったし。

「どこに行くんだ」

「日本アルプス」

 あんまり近場じゃなかった。

 

 

 

 買い物に出かけていたレイナーレに――最近はメイド服で出かけそうになっている。変な噂が立つので踏みとどまって欲しい――『日本アルプスに行ってきます』と書置きを残し、白羽におやつを食べたら歯を磨くことを伝えてから日本アルプスに来たのだが……。

 

「流石に寒いな!」

 雪はないけど半袖シャツ一枚で来るのは間違ってた。ヴァーリは鎧を来ていた、何でできているのかは知らないが、何故寒さを――熱さもらしい――防げるのだろうか。じっくり調べてみたい所である。

「それで、今回は何と戦うんだ? 山神とか言うなよ?」

 その場合は相手は自然現象クラスなので、雪崩とかに巻き込まれそうだ。

「今度の相手はイエティだ」

「イエティ? 何でまた」

 あれはヴァーリが戦いたがる相手には思えんのだが。

「何でも、巨人サイズのイエティがいるらしい。ちょっと気になってな」

「何ソレ怖い」

(そういえば、イエティといえば駒王学園の魔獣使いが使役してたなー)

 あれは若輩者(じゃくはいもの)だったが。

 

「そうそう、イエティと言えば知ってるか? 日本古来の昔話に登場する雪女にまつわる話なんだが」

 反応は無い。ならこのままで。

「その昔話に出てくる系の雪女は実際に存在してたんだが、イエティと言う名の外来種に駆逐されたんだ。妖怪の世界でも生存競争とかあるんだよ。ちなみに、雪女の子供は雪ん子とも呼ばれたりするんだが、雪男とかはいないのが不思議だよな。だから絶滅したのかもしれないが。ああ、風の噂によると一部では人里に降りたり山の奥深くで隠れて暮らしているらしいぞ。特徴は雪の様に白い肌と銀色の髪をしてるとか」

「なぁ、朧」

 長々と役にも立たない無駄知識を垂れ流していると、美猴が話しかけてきた。

「どうした。目的のビッグイエティは見つかったのか?」

「まあ、それも見つかったんだけどよ……。お前がさっき話してた雪女ってのはアレかぃ?」

 美猴が指差す方にいたのは、推定身長五メートルはくだらない巨大イエティと、その足元を走っている雪女――というよりも雪ん子。

「ああ、あれだ。と言っても、俺も実物を見るのは始めてなんだが。――うむ、小さくて可愛いな」

 七歳ほどの少女が一生懸命走っているのを見ると、微笑ましい気持ちに――

「なれるか! 今まさに生存競争の真っ最中じゃん!?」

「何にせよ、これで戦える訳だ」

 ヴァーリがそう言って光の翼を広げた時、俺の視界が流れた。

「おや、目の前に巨大イエティの顔面が」

(うん、取り敢えず膝でも喰らわせておこう)

 その次の瞬間、ゴリュッという不快な音を立てて、俺の膝が巨大イエティの眉間に突き立った。

「ウゴォォォォォ」

 別名雪女とは思えない悲鳴を上げて後ろに倒れこみ、その衝撃で雪煙を吹き上げる。俺は巨大雪猿(イエティ)が倒れている間に腰を抜かしている雪ん子を抱きかかえて跳躍して二人の元に戻った。

「ヴァーリ、後は頼んだ!」

「……分かった」

 ヴァーリは一拍置いた後、起き上がった巨大イエティへと飛んでいった。

 

 野郎の戦闘はどうでもいいので省略。今大切なのは俺の腕の中で目を回している雪ん子の事である。

「えっと、怪我はしてない。体調に異状もない。ただ気絶しているだけか」

(……写真に撮りたいなぁ……)

 でも携帯すら持ってないので、撮影手段は網膜に焼き付けるしかなかった。

「お、終わったぜぃ」

「意外と長かったな……う、わっ銀世界」

 ちょっと目を離していた間に、風景が様変わりしていた。

「中々だった。まさかあの巨体で分身できるとは思わなかったな」

「……ダンジョンのラスボスクラスだな」

 そんな相手に嬉々として立ち向かうヴァーリの神経が分からん。

「んんっ……」

「あ、この子が起きるからヴァーリはその(いかめ)しい鎧解除。美猴は半径三メートル以内に近寄るな」

「さっきから俺っちには厳しくねぇか!?」

「厳しいよ」

 お前みたいな教育に悪い奴に厳しくしないで誰に厳しくするんだか。――自分です。

「……誰?」

 雪ん子ちゃんが青い瞳で俺を見て、そう呟いた。

「黒縫朧だ。お兄ちゃんと呼んでくれ(たま)え」

 

 雪女の特殊能力である吹雪で凍傷になった。

 

「すいません、やり直します。黒縫朧です。お兄ちゃんと呼んでくれたらそれだけで結構です」

 ちなみに、今の姿勢は平身低頭である。

雪花(せっか)です。……なんで『お兄ちゃん』にこだわるんですか……?」

(おっと警戒させてしまった様だ)

 これは誰にとっても本意ではないので――と言っても、この場合の誰に当てはまるのは世界広しといえど俺だけだろうが――よくある過去話をしよう。

「俺には妹が居たんだよ。そしてその妹は終ぞ俺の事を『兄』という単語を含む言葉を言ってくれなかったのだよ」

「仲、悪かったんですか?」

「いや、良好も良好。気持ち悪いくらいに長い時間を一緒にいたよ。あいつのためなら一年留年したね」

 義務教育なので出来なかったが。

「じゃあ、どうして?」

「どうして、か……」

 よく考えれば考えたことが無かった。よくよく考えると妹についてよく考えたことは無かったかもしれない。

「ああ、昔の俺と妹は無口・無表情でねぇ。そこに俺は無感情まで併発していたから、口を聞かなかったんだよ」

 なお、無感情は妹以外の時だ。

「それで、その結果目と目で通じ合える様になったな。更に深く考えるとあいつの肉声を聞いたことは――あったな一度だけ」

(最期の、一言だけ……)

「ま、それはそうとお茶でもいかが?」

 相手を考慮して(ぬる)めのお茶を差し出す。先ほどの戦いで水はいくらでも手に入る。

「切り替え早いですね!」

 雪花ちゃんが叫んだ。

「単にゴチャ混ぜに誤魔化しているだけだ」

(おや? 何故俺は柄にもない身の上話をしているんだ?)

 俺に柄はなくて黒一色――って、こんな戯言(ざれごと)はどうでもいい。

「ところで雪花ちゃんには運命共同体、言うなれば家族はいないのかい?」

 この(たと)えは我ながら皮肉過ぎるな。

「お母さんとは、二年前にはぐれました……」

 雪花ちゃんは悲しそうな顔をした。

「辛かっただろう。さあ、俺の胸で泣き給え!」

「お断りします」

「うん、ハンカチいる?」

「はい」

 ハンカチで涙を(ぬぐ)う雪花ちゃんを見ながら、俺はさっきから少し何かがおかしいと思っていた。

「そう、内心がダダ漏れになっている」

「今のも漏れてますよ」

「ちょっと待ってくれ。頭のネジを無くした」

(ええと、確かこの辺りに……)

「あの、頭のネジってひゆ表現じゃ……」

「あ、あったあった」

「あるんですか!?」

 また雪花ちゃんが叫んだ。

(あるだろそりゃ。何か変だろうか?)

 

 注:ここでのネジは金属でできてドライバーなどで回して留めるアレとは違います。――じゃあ何だ?

 

「さて、それじゃあ君はこれからどうするかね? A.このままイエティが群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)する山で暮らす。B.今なら姉的存在と妹的存在に加え、兄的存在になりたい人が付いてくる」

「最後のいらないかもしれません」

「じゃあ、それでいいよ」

 俺はイッセーの家に泊めてもらおう。

「いいんですか!?」

 雪花ちゃんが三度(みたび)叫んだ。

「いいに決まってるじゃん。というか君、よく叫ぶね」

「あなたのせいですよ!」

 また雪花ちゃんが叫んだ。

「それで、どっちを選ぶ?」

「……ちなみに、Aを選んだら――」

「さーて、イエティを全滅させるかー」

「すいませんBでお願いします!」

 黒き御手(ダーク・クリエイト)を出現させながら立ち上がると、必死になって服の裾を掴まれた。冗談なのに……。

 

 こうして俺は、更なる同居人を手に入れたのであった。

 連れて帰ったらレイナーレに殺されかけた。あいつ成長しすぎだろう。

 


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