ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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Second Kill

「お集まりの皆さん、大変長らくお待たせしました」

 レーティングゲームの会場。本来なら(・・・・)グレモリーとアスタロトが戦う舞台に、一つの声が響く。聴く者はいない。何故なら、この空間が使われるのはもう少し先の事であるからだ。

「これより、皆様がご覧になりますのは、共に現魔王の血族である悪魔たちの一戦――ではなく、神仏悪魔による、諦めの悪い古臭い蝙蝠(こうもり)の駆除――でもなく、俺の単なる、周りを巻き込んだ復讐だ」

 聞こえない故彼は語る。黒く塗り固めた胸の内を。

賭けた(ベット)のは我が命。勝率(レート)は換算不可能で、配当金には平穏を。――さあ、受けて(コールして)頂戴、全世界」

 

 世界に対する宣戦布告は、誰にも届かぬ独り言。

 

「さて、早く結界装置設置しないと。アスタロト側の本陣はどっちだったっけ? ああ、そういえば結界に工作しなくちゃいけないんだよな。それとオーフィスを迎えに行かないと……」

 

 

 

「さて、始まりました。『禍の団(カオス・ブリゲード)』旧魔王派対etc. ――皆死んでしまえ」

 真っ黒な椅子の上で、膝の上に寝ているオーフィスを乗せ、朧がサラッと毒を吐いた。

「という訳だから、適当に行ってらっしゃいフリード。適当に殺してきていいよ」

「ひゃはっ! そっれじゃあ、行ってきまぁすっ!」

 横に立っていたフリードは人間とは思えない速度で駆け出していく。

「ま、改造した成果はあったかな? どうせすぐに死ぬけど」

 フリードを見送った後、朧はすぐに興味を失い、膝上のオーフィスを撫でる。

「あなたはもしかすると、実はぜーんぶ知っていて、知らないのは俺で、守るつもりが守られてるだけなのかも知れませんね。――だからどうだっていうんですけど」

 朧が撫でながら呟くその言葉は、実はもう既に何度も自問自答した事。仮令(たとえ)自分が何も知らない愚か者だとしても、止まれないのである。

「ああ、意味もない事を何度繰り返し呟くのか。所詮(しょせん)俺はその程度か。――どう思います、アザゼル総督?」

「悩む事自体は悪くねぇよ。それがいい結果に繋がるならな」

 朧の後ろにはいつの間にかアザゼルが来ていた。

「そうですか。それでは是非とも悩みましょう。――(ろく)でもない(たくら)みごとを」

 そう言って、アザゼルに興味を無くした様にオーフィスを撫で続ける。

「おい、普通に無視すんなよ。しかも、お前の膝の上にいるのは……」

「うるさい黙れ。オーフィスが起きるだろうが」

 朧は振り向かず、音もなく剣を創り出し投擲する。

「うぉ――」

「だからうるさいな」

 アザゼルに悲鳴すら許さず、黒箱(ブラックボックス)に閉じ込めた。

「やれやれ、やっと静かになったか」

 と思ったらタンニーンがやって来たので再び黒箱に閉じ込める。

 

「あああああ、面倒だ面倒だ」

 光力とブレスで幾度も黒箱を壊し、その度に閉じ込め直す行為が百回ほど続いた時、朧が痺れを切らして苛立ったように叫んだ。

「面倒だ面倒だ。ああそうだ。アザゼルの相手は貴様に任せるんだったな、クルゼレイ」

 朧が指を鳴らすと魔方陣が出現し、そこから貴族服を着た男が姿を現す。

「お初にお目にかかる、堕天使の総督。俺はクルゼレイ・アスモデウス。真なるアスモデウスの血を継ぐ者として、貴殿に決闘を申し込む」

「……旧魔王派のアスモデウスか」

 その一言にクルゼレイが激昂する。

「旧では無い! 真なる魔王だ! カテレア・レヴィアタンの仇討ちをさせてもらう!」

 アザゼルもそれに応じる。

「さて、今頃うちの教え子たちはディオドラの所にたどり着いた頃かね?」

 アザゼルが何となく口にした言葉に、朧がこれまた何となく答えた。

「今、たどり着いた所だね。――フリードの野郎、あっさりやられて逃げやがって。後で始末しないと」

 小声でついた悪態は誰にも聞こえず、それを上塗りするように朧が言葉を続ける。

「ディオドラ・アスタロトには『蛇』を渡してるけど、元が下種(ゲス)だから勝てないでしょうね。いい気味だ」

「……それじゃあ、やるか!」

 アザゼルが気合を入れ直し、人工神器(セイクリッド・ギア)の鎧を纏おうとした時、新しい魔方陣が現れた。

「くはっ、ここで現ルシファーのお出ましですか。良かったなクルゼレイ、憂さ晴らしができるぜ」

 クルゼレイは朧の軽口に付き合わず、今現れた男――現魔王、サーゼクス・ルシファーを憎々し気に睨みつけていた。

「クルゼレイ、矛を下げてはくれないだろうか? 今なら話し合いの道も用意できる」

「話し合いだぁ?」

 サーゼクスの言葉に反応したのは、クルゼレイではなく朧。彼はオーフィスから離れ、黒いオーラを漂わせながらサーゼクスを睨みつけている。

「話し合いだと? 当代の魔王、それは侮辱だ。一度負け、僻地(へきち)に追いやられた悪魔共の命を懸けた決死の戦いに、話し合いなんて、なあなあな手段で済ませようとするな。命懸けの相手には、同じく命懸けで立ち向かえよ。それが礼儀だろ。そして言わせてもらうぞ。――話し合い程度で揺らぐような覚悟で、俺たちはここに立っていない。話し合いなんかでどうにかなるなら(・・・・・・・・・・・・・・・・)! 端っからテロなんざしてねぇんだよ(・・・・・・・・・・・・・・・・)ぉぉぉッ!」

 声を荒げて、自身の覚悟を――決して誰の言葉でも止まらないと――言い切ると、今度はクルゼレイに発破をかける。

「何してやがる、アスモデウス(・・・・・・)! とっとと目の前の怨敵(おんてき)を殺せ!」

「言われるまでも無い!」

 クルゼレイが両手に巨大な魔力の塊を作り出し、それを見たサーゼクスは目を閉じ、開いた時には目には冷たいものが映り込んでいた。

「クルゼレイ。私は魔王として、今の冥界に敵対する者を排除する」

「貴様が、魔王を語るな!」

 怒りの叫びと共に放たれた幾つもの巨大な魔力塊は、サーゼクスの滅びの魔力を球体かしたもの――『滅殺の魔弾』(ルイン・ザ・エクスティンクト)によって削り取られ、避けられ、防御障壁に阻まれる。

 そして、自在に動く魔力球の一つがクルゼレイの口から体内に入り込み――

 ――クルゼレイの腹部に穴が空いた。

 

「全く、期待外れも(はなは)だしい。オーフィスの『蛇』の力を借りてこの程度。所詮(しょせん)負け犬は負け犬か」

 その穴を空けた者――黒縫朧は、腹部から血を流すクルゼレイを、先ほどまでとは打って変わった、何の感情も映らぬ瞳で見下ろす。サーゼクス、アザゼル、タンニーンの三人はそれを見て目を見開いていた。

「貴、様ァァァ! 俺は真なる魔王の血族! 正当なる魔王アスモデウスなのだぞ!」

 激昂したクルゼレイに、朧は鼻で笑って返す。

「はっ。王なぞ、ただの人を纏めるための一階級に過ぎんだろうに。リーダー、(おさ)(かしら)――その相似形に過ぎん。相応(ふさわ)しくなければ()げ替える、その程度の存在だ。それに従わない者にとっては、王なぞただの獲物だ」

 もう、朧にとってクルゼレイは道端の歩く(アリ)に等しい――踏み潰すだけの存在だ。

「お、おのれぇぇぇ!」

 クルゼレイが最後の力を振り絞って朧に反撃の魔力を放つ。朧はそれを黒手袋で包まれた右手で弾き飛ばす。

「最期に教えてやるよ。カテレア・レヴィアタンを殺したのって、実はアザゼルではなくて俺なんだよ」

 それを聞いたクルゼレイの顔には、これ以上ないほどの憤怒(ふんど)が浮かんだ。

「せめてもの手向(たむ)けに、同じ方法で殺してやろう。――刃花開放(はなひら)け、黒咲(ブラック・ブルーム)

 朧が指を鳴らすと、クルゼレイの体を内部から、多種多様な黒い刃が刺し貫いた。

「――二人目」

 


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