「お集まりの皆さん、大変長らくお待たせしました」
レーティングゲームの会場。
「これより、皆様がご覧になりますのは、共に現魔王の血族である悪魔たちの一戦――ではなく、神仏悪魔による、諦めの悪い古臭い
聞こえない故彼は語る。黒く塗り固めた胸の内を。
「
世界に対する宣戦布告は、誰にも届かぬ独り言。
「さて、早く結界装置設置しないと。アスタロト側の本陣はどっちだったっけ? ああ、そういえば結界に工作しなくちゃいけないんだよな。それとオーフィスを迎えに行かないと……」
「さて、始まりました。『
真っ黒な椅子の上で、膝の上に寝ているオーフィスを乗せ、朧がサラッと毒を吐いた。
「という訳だから、適当に行ってらっしゃいフリード。適当に殺してきていいよ」
「ひゃはっ! そっれじゃあ、行ってきまぁすっ!」
横に立っていたフリードは人間とは思えない速度で駆け出していく。
「ま、改造した成果はあったかな? どうせすぐに死ぬけど」
フリードを見送った後、朧はすぐに興味を失い、膝上のオーフィスを撫でる。
「あなたはもしかすると、実はぜーんぶ知っていて、知らないのは俺で、守るつもりが守られてるだけなのかも知れませんね。――だからどうだっていうんですけど」
朧が撫でながら呟くその言葉は、実はもう既に何度も自問自答した事。
「ああ、意味もない事を何度繰り返し呟くのか。
「悩む事自体は悪くねぇよ。それがいい結果に繋がるならな」
朧の後ろにはいつの間にかアザゼルが来ていた。
「そうですか。それでは是非とも悩みましょう。――
そう言って、アザゼルに興味を無くした様にオーフィスを撫で続ける。
「おい、普通に無視すんなよ。しかも、お前の膝の上にいるのは……」
「うるさい黙れ。オーフィスが起きるだろうが」
朧は振り向かず、音もなく剣を創り出し投擲する。
「うぉ――」
「だからうるさいな」
アザゼルに悲鳴すら許さず、
「やれやれ、やっと静かになったか」
と思ったらタンニーンがやって来たので再び黒箱に閉じ込める。
「あああああ、面倒だ面倒だ」
光力とブレスで幾度も黒箱を壊し、その度に閉じ込め直す行為が百回ほど続いた時、朧が痺れを切らして苛立ったように叫んだ。
「面倒だ面倒だ。ああそうだ。アザゼルの相手は貴様に任せるんだったな、クルゼレイ」
朧が指を鳴らすと魔方陣が出現し、そこから貴族服を着た男が姿を現す。
「お初にお目にかかる、堕天使の総督。俺はクルゼレイ・アスモデウス。真なるアスモデウスの血を継ぐ者として、貴殿に決闘を申し込む」
「……旧魔王派のアスモデウスか」
その一言にクルゼレイが激昂する。
「旧では無い! 真なる魔王だ! カテレア・レヴィアタンの仇討ちをさせてもらう!」
アザゼルもそれに応じる。
「さて、今頃うちの教え子たちはディオドラの所にたどり着いた頃かね?」
アザゼルが何となく口にした言葉に、朧がこれまた何となく答えた。
「今、たどり着いた所だね。――フリードの野郎、あっさりやられて逃げやがって。後で始末しないと」
小声でついた悪態は誰にも聞こえず、それを上塗りするように朧が言葉を続ける。
「ディオドラ・アスタロトには『蛇』を渡してるけど、元が
「……それじゃあ、やるか!」
アザゼルが気合を入れ直し、人工
「くはっ、ここで現ルシファーのお出ましですか。良かったなクルゼレイ、憂さ晴らしができるぜ」
クルゼレイは朧の軽口に付き合わず、今現れた男――現魔王、サーゼクス・ルシファーを憎々し気に睨みつけていた。
「クルゼレイ、矛を下げてはくれないだろうか? 今なら話し合いの道も用意できる」
「話し合いだぁ?」
サーゼクスの言葉に反応したのは、クルゼレイではなく朧。彼はオーフィスから離れ、黒いオーラを漂わせながらサーゼクスを睨みつけている。
「話し合いだと? 当代の魔王、それは侮辱だ。一度負け、
声を荒げて、自身の覚悟を――決して誰の言葉でも止まらないと――言い切ると、今度はクルゼレイに発破をかける。
「何してやがる、
「言われるまでも無い!」
クルゼレイが両手に巨大な魔力の塊を作り出し、それを見たサーゼクスは目を閉じ、開いた時には目には冷たいものが映り込んでいた。
「クルゼレイ。私は魔王として、今の冥界に敵対する者を排除する」
「貴様が、魔王を語るな!」
怒りの叫びと共に放たれた幾つもの巨大な魔力塊は、サーゼクスの滅びの魔力を球体かしたもの――
そして、自在に動く魔力球の一つがクルゼレイの口から体内に入り込み――
――クルゼレイの腹部に穴が空いた。
「全く、期待外れも
その穴を空けた者――黒縫朧は、腹部から血を流すクルゼレイを、先ほどまでとは打って変わった、何の感情も映らぬ瞳で見下ろす。サーゼクス、アザゼル、タンニーンの三人はそれを見て目を見開いていた。
「貴、様ァァァ! 俺は真なる魔王の血族! 正当なる魔王アスモデウスなのだぞ!」
激昂したクルゼレイに、朧は鼻で笑って返す。
「はっ。王なぞ、ただの人を纏めるための一階級に過ぎんだろうに。リーダー、
もう、朧にとってクルゼレイは道端の歩く
「お、おのれぇぇぇ!」
クルゼレイが最後の力を振り絞って朧に反撃の魔力を放つ。朧はそれを黒手袋で包まれた右手で弾き飛ばす。
「最期に教えてやるよ。カテレア・レヴィアタンを殺したのって、実はアザゼルではなくて俺なんだよ」
それを聞いたクルゼレイの顔には、これ以上ないほどの
「せめてもの
朧が指を鳴らすと、クルゼレイの体を内部から、多種多様な黒い刃が刺し貫いた。
「――二人目」