ある日の事。買い物するため町に出かけた所、見覚えのある金髪ロールを見かけた。
「レイヴェルじゃん。こんな所で何してるの?」
「あ、黒縫さん。お久しぶりですわ」
レイヴェルがこちらに気づき、礼儀正しく一礼する。
「それで、今日この町には一体どんなご用事で来たのかな?」
「……本日は、イッセーさまにお願いがあってこちらに伺いましたの」
「へぇ。魔方陣で直接ジャンプしないとは感心感心。そういう心がけは立派だと思うよ」
「そ、そうですか?」
「少なくとも俺はそう思う。それで、イッセーの家に行きたいんだよね?」
「ええ」
「だったら案内しようか? 通り道だし」
というかお隣さんだし。
「そうですか? でしたらお願いしますわ」
「承りました。お嬢様」
「なるほど、ライザーのねぇ……あいつまだ引きこもってたのか」
ライザーはイッセーにやられてからはドラゴン恐怖症を発症して、引きこもっている。
「はい。それで、グレモリー眷属の『根性』というものがいいと聞きまして」
「はー……根性ね。まあ、根性といえばあいつらが適任かもね」
恐怖症の原因にその治療に当たらせるというのは、医療観点から見てどうなのだろうか?
「こんなご時世に難儀な病発症している場合でもないでしょうに」
「それ、あなたが言わないでくださいます?」
全くだ。
「あ、そろそろ着くぞ。あの大きな建物だ」
「一際大きいですわね……」
「金持ちは何でもかんでも金に任せるから嫌いだ」
最近家族が増えて最近のレイナーレはタイムセールに全力なんだぞ。
「そうですか……」
(そういえばこいつも金持ちのお嬢様だったか……)
「ここまで来れば大丈夫だな」
「はい、ありがとうございます」
レイヴェルはそのまま別れると思ったようだが、方向は同じだったのでまだしばらく一緒に歩いた。
翌日。
「フェニックスー、遊びに来たぜー」
「侵入者だ。捕えろ」
あ、ちなみにこれがいつも通りです。
「フハハ、捕まえられるものなら捕まえてみろー」
緊張感はほぼ皆無です。これで十二度目ですからねー。
ライザーの眷属たち――主に『
「お。あいつら来たみたいだからここまでな」
『ありがとうございました!』
「いや、お礼言われると困るんだけど」
立場上は侵入者だよ。
(それはそれとしてイッセーたちの所へ行こう)
イッセーたちの気配を辿っていくと、ライザーの部屋の前で部長が扉を叩いていた。
「皆さんこんにちはー」
普段通りの態度で背後から話しかけるととても驚いた顔をされた。無理もないが。
そんな最中、ライザーが扉を開けて顔を覗かせてイッセーに気づいてベッドへととんぼ返りした。症状は深刻である。
「やれやれだ」
ため息を一つ吐き、ライザーが立てこもるベッドに近づき、小声で
「ドラゴンが一匹、ドラゴンが二匹、ドラゴンが三匹、ドラゴンが……」
「ぴぎゃぁぁぁーーー!!」
「かはは、ぴぎゃーだってよ。ぴぎゃー」
「貴様、また……」
「あ、ドラゴン」
「ぴぎゃー!」
「ケタケタ。ああ面白い」
(こいつのせいで症状悪化したんじゃ……)
その後、ライザーをなんとか外に出し、庭にまで連れてきた。
「それで、ここからどうするの?」
そうイッセーに問いかけた時、空から何やら大きなものが現れた。
「タ、タタタ、タンニーン! 最上級悪魔の……ドラゴン!」
「これから山にでも篭ろうと」
「引きこもるのが部屋から山になっただけじゃねーか」
その違いは大きい。
ライザーは逃げ出そうとしたが、タンニーンにあっさりと捕まった。
「達者で暮らせよー。って、何をする?」
イッセーとライザー、それに付いていくレイヴェルを見送る気満々だったが、何故か俺もライザーと同じくタンニーンに捕まった。
「これは一体どういうことだ」
「貴様、普通にしているがテロリストだろうが」
「あ、そうだった。お願い見逃して」
「そういう訳にもいかん。お前は取り敢えずこいつらと一緒に俺の領地へ連れて行く」
「よし、飛ぶがいい。あの大空へ」
ドラゴンに連れられて飛ぶのは初体験。ワクワク。
山篭りが始まってから数日が経った。朧はひたすらタンニーンに追い掛け回されていた。
「くはっ! これは死ねる!」
タンニーンの吐き出したブレスを躱しながら、朧は顔に笑みを浮かべる。
「りゃ!」
朧は創り出した自身の二倍ほどの大きさの大剣を振りかざし、タンニーンへと振り下ろす。
しかしタンニーンは体の大きさに見合わぬ速さでそれを避ける。それを朧は大剣の刃を
その大きさからすると想像もできない速さでの攻防が行われるが、威力・範囲が共に大きいタンニーンのブレスに吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた朧は水切りの石のように何度も地面に打ち付けられ、最終的に岸壁に激突して止まる。
「がっ……はぁ!」
朧は壁に叩き付けられながらも離さなかった大剣をタンニーンへと投擲する。
「甘い!」
タンニーンが吐いたブレスと黒の大剣が激突し相殺される。
「……前と比べて力が強まっているな」
「元龍王に褒めていただき光栄」
「……その腕、一体何だ?」
タンニーンの問いに、朧は左腕を隠すように抱える。
「その腕からは同族のオーラを感じる。返答次第ではただでは置かんぞ」
前身に纏うオーラをより一層強めながら、タンニーンは朧に詰問する。
「……大切なヒトからの贈り物ですよ。ですから、他人にとやかく言われる筋合いはありません」
そう答えるとタンニーンに冷たい視線を向け、ドス黒いオーラを発する。
「そうか……む?」
ふとタンニーンが遠くの方を見、朧もそれに釣られてそれを注視する。
「イッセーとライザーか。あんな事する元気があるなんて、修行内容
「そのようだ。……いや、そういえばリアス嬢たちがこの近くの温泉に来ているそうだな」
「……つまり覗きか」
朧は呆れてそれだけしか言えなかった。
「撃墜しましょう。さ、ブレスをお願いします」
「うむ……」
「ふん」
短い呼気と共に矢が夜空を翔け、途中で幾つにも分裂し、赤い鎧と炎の翼を貫いた。
「Hit. だけど、あいつら結局温泉に落ちたか……? ま、いいか」
その後、少女の悲鳴と火炎、男二人の悲鳴が夜空に咲いた。