翌日。ルフェイと合流し、早速英雄派の動向を追う事にした。
修学旅行は同じ班の木場くんに(悪魔的な意味で)頼んで適当に誤魔化して貰おう。
「と言っても、異空間に引きこもっている奴らを見つけるのは至難の業なんだよな……ルフェーイ、そっちはどうだ?」
京都をサーチする魔方陣から目を離し、隣にいるルフェイに声をかける。
「こちらも見つけられません」
「元々一度できてしまった結界を後から見つけるのは難しいからね。発動した瞬間なら比較的簡単に捉えられるんだけど……」
そう言った時、まさにたった今結界が張られた気配がした。
「位置確認――渡月橋の辺りか?」
「はい、そうですね。転移座標固定――難しいですね……」
「流石は結界系最強の
(遠くからだと無理かな……)
「ルフェイ、近づいてから侵入する」
「分かりました」
(しかし、渡月橋のような観光名所は人が多いから転移する訳にはいかないか)
「ルフェイ、跳ぶよ。掴まって」
「はい」
ルフェイを抱えるとビルの屋上から渡月橋へビルの屋上を伝って一直線に向かう。
「よっと……ルフェイ、大丈夫か?」
「大丈夫です」
できるだけ直線的な軌道で跳んでいるとはいえ、着地と踏み切りの際には結構な負担がかかるだろう。出来る限り負担がかからないようにしているのだが。できるだけ負担がかからないようにしているのだが。
「ととっ……誰にも気づかれずに近づけるのはここまでかな?」
高い建物がなくなったので、渡月橋のすぐ近くに降りる。
「ルフェイ、ここからならいけそうか?」
「はい、ここからなら結界内に侵入可能です!」
「それじゃ、俺はゴグマゴグ
(ようやくのゴグマゴグのお披露目だー♪)
「準備できました!」
「早いな!」
俺はまだウキウキしただけだぞ。
「それじゃあ、行くか」
ゴグマゴグの準備は三秒で済んだし。
「それでは、結界内に転移します」
足元に魔方陣が現れ、光を放つ。
光が収まったとき、俺は渡月橋で英雄派と向かい合っていた。後ろにイッセーたちがいた。
「はじめまして、ルフェイ・ペンドラゴンです。ヴァーリチームの魔法使いです。以後お見知りおきを」
隣のルフェイは振り返ってイッセーたちに一礼する。
「あの……私『乳龍帝おっぱいドラゴン』のファンなのです! 差し支えないようなら、あ、握手をしてください!」
………………シカタナイナア。
「サインペンと色紙もあるから良かったらサインも貰える?」
「あ、ああ……」
喜ぶルフェイと困惑するイッセーから目を逸らし、曹操たち英雄派に向き直る。
「……さて、俺たちがここに来た理由ですが……」
「君も大変だね」
超テンションが低い俺を曹操が
「同情するなら大人しくしていろ。それで、ここに来た理由は『ヴァーリチームに監視者を送った罰』だそうだ。余計な事するからだ馬鹿者」
パチンと指を鳴らすと、地面が振動し始める。地震でいうなら震度5はあるだろうか。
地表を割り、地面から十メートルを超える無機物でできた巨人――ゴグマゴグが姿を現した。
(……転移座標間違えた)
原因は俺にあった。
(じゃあもう片方は……?)
その時、俺の足首が何かにガシッと掴まれた。案外近くにいた。
「ごめんマグニ! ゴッくん、俺ごと引っ張れ!」
ゴッくんがその大きな手で俺の首を摘み(掴まれたらその潰されるから)、徐々に強く引っ張り始める。
(伸びる気がする……いや、それ以前に首が抜ける!?)
危うく平均以上の身長が最高クラスになるかと思ったとき、俺の足首を掴んだ手の持ち主が地面から引き抜かれた。地面から抜かれたのは十代前半に見える少女で、レイナーレと同じくメイド服を着ていた。
「大丈夫か? 特に問題はない?」
引き抜かれた肌が陶器のように白い少女はコクリと頷く。残念ながら発声機能と表情筋の再現はできなかったのだ。
「彼女は誰……いや、何かな?」
「よくぞ聞いてくれました!」
よくぞ聞いてくれたな曹操。
「正式名称はゴグマゴグ
頑張った。本当に頑張ったよ俺。作るのに一ヶ月以上はかかった。
「ゴグマゴグの原型無いじゃねえか」
「今時大型ロボなど一体いれば十分だ」
「なんだと、大型ロボにケンカ売ってんのか?」
「ふ」
鼻で笑ってやった。今では小さくて高性能が流行りなのだ。
「よし、それは俺に対する宣戦布告と受け取った。今こそマオウガー
「こっちを無視しないで貰えるかな?」
うるさいなぁ……。
「ゴッくん、橋を壊せ。マグニ、ミサイル発射」
ゴッくんがその太い腕を振り上げ渡月橋をなんかよく分からん黒いモンスターごと破壊する。それに追い討ちをかけるかのようにマグニのロングスカートからミサイルランチャーを取り出して射撃した。
「伸びろ!」
対岸まで下がった曹操がゴッくんに曹操の槍が向けられ、その槍がゴッくんの肩に向けて伸びてあっさりと倒される。
「チッ、後でバランサーを調整しておかねば」
ゴッくんの倒れたことで発せられた重低音を聞きながら考え事している俺に、遠距離攻撃系
「あれ、容赦がない。一応俺仲間だよね?」
これは流石に躱しきれないし防ぎきれない。
「抜刀――霞桜」
なので、最近手に入れた伝説級武器(呪)を影を入口にした異空間から引き抜く。姿を現した銀色の刃は、閃いて全ての攻撃を切断して霧散させた。
(でも相変わらず肩が痛くなるな)
普通に動かせる速度よりも速いから仕方ないのではあるが。ああ、手が勝手に動きそうだ。収まれ霞桜、冗談抜きで。
「……人が気持ちよく寝てるのにうるさいんですよ!」
「何? どうしたのあの人」
(酔っ払い? それでいいのか教育者)
どうでもいいが絶賛囲まれ中である。予想ではもうすぐ無双かリンチが始まる。
「あ、無双の方だったか」
数えたくもないほどの魔方陣が展開され、そこから一斉に魔法攻撃が放たれ始め、風景が変わっていく。
(……ここが異空間で良かった。そうでなければどちらがテロリストか分からん)
しかし、その魔法攻撃は不自然に発生した霧に防がれていた。
(ゲオルグか……)
「少々乱入が過ぎたか。――が、祭りの始まりにしてはしては上々だ。アザゼル総督、我々は今夜、京都の特異な力場と九尾の御大将を使い、二条城で一つの実験をする! ぜひとも静止するために我らの祭りに参加してくれ!」
曹操がそう宣言すると、空間が霧に包まれ始めた。
「ルフェイ、ゴッくんとマグニ連れて先に去ってくれ。このままここに居るとややこしくなるからな」
「はい。でも朧さんは?」
「このまま『実験』とやらの観察をしようかと思う」
「分かりました。それではお先に失礼します」
ルフェイの気配が消えると同時に、霧に包まれた景色が晴れ、本来の渡月橋が壊れていることなく存在していた。
(……やれやれ、とんだ修学旅行になってしまったな)
まあそれでも、泣いてる九重のためにこのままで済ませる訳にもいかないし……取り敢えず酔っ払いヴァルキリーの介抱に向かおう。