ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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京都大戦

 イッセーは地下鉄を進んだようだが、一般人並みの機動力しか持ち合わせていない俺がここから二条城まで行くのは面倒なので転移した。異空間だからできるか不安だったが、驚く程正確に再現されているようで、二条城の裏門前に丁度出た。

「さて、ここからが問題だ」

 如何にして英雄派に気づかれぬように中に潜入するかだ。別にバレても問題ないが、俺としてはバレない方がいい。その方が警戒もされず、実験とやらを歪み無く見ることができる。

(気づきそうなのは曹操を筆頭にゲオルグとジークフリートぐらいだが……)

 ゲオルグは実験にかかりきりになるだろうし、近くに寄るのは戦闘が開始されてからだろうな。さてさて、こそこそ様子を伺いに行きましょうか。

 

 英雄派と虚ろな瞳をした和服の狐美女がいる本丸御殿にたどり着いてからしばらく待っていると、イッセーたちがぞろぞろと入って来た。

 九重が狐美女――母である八坂さんへ必死に呼びかけるも返答はなかった。そう簡単に解除されるような洗脳とか無いし。

 曹操が槍の石突きで地面を叩くと、八坂さんは文字通りの九尾の狐へとその姿を変えた。大きさは十メートルほどだろうか。

「曹操! 九尾の御大将を操って何をしようとしている!」

 俺だったら絶対に答えないが、曹操は答える。

(それは負けフラグだろうが。負けてくれた方が嬉しくはあるが)

 曹操の話を要約すると、京都は『力』が集まる場所。九尾は妖怪の中でも最高クラスであり、その強さは龍王クラスに匹敵する。そして、京都と九尾は切っても切れない関係にあり、それらを用いてグレートレッドを呼び出そうとしているらしい。

 本来なら龍王数匹を使うのがいいそうなのだが、それは少し難易度が高いのでこっちで代用したそうだ。

(京都の方々にとっては迷惑この上ないな)

 そういえば、それよりも気になる単語があった。

(『龍喰者(ドラゴン・イーター)』……物騒な名前だな。オーフィスに仇なす可能性もあるし、正体次第では消滅させる必要性があるな)

 などと考えていると、ゼノヴィアが改良されたと思われるデュランダルを構えるとその刃を包む鞘がスライドし、聖なるオーラが吹き出した。

(おーおー、中々贅沢な武器だな。デュランダルに加えてエクスカリバーの6/7を使用か。扱い切れれば相当な武器だな。ゼノヴィアには無理だろうけど)

 他に見るべき所は匙ぐらいか。ヴリトラ系神器(セイクリッド・ギア)をくっつけたとは聞いていたが、もう見た目は黒い蛇に絡まれている人である。

(見た目まで人間離れしてしまったな……左目も赤くなって蛇みたくなっているし。恐るべしグリゴリ)

 何が恐ろしいっていうと、これを簡単にやっちゃう所が。匙以外にはしないだろうが。

 そして、前触れもなくゼノヴィアがいつの間にか発生していた十五メートルにはなろうかという光の刀身が英雄派に向けて振り下ろされた。

「う、わぁぁぁ……」

 呆れて声も出ないとはこの事か。いきなり派手過ぎる。普通はとどめの一撃では?

(……まあ、あれだけ派手でも単純だから防がれているが)

 単純攻撃はゲオルグが防げるからな。絶霧(ディメンション・ロスト)は超万能である。使用者の腕もあるのだろうが。何故地面から出てきたかは分からないが。

 

 戦闘の描写は面倒なので割愛するが、イッセーと曹操、木場、ゼノヴィアとジーク、イリナとジャンヌ、ロスヴァイセさんとヘラクレス、匙はヴリトラ化して九尾と戦っている。

 ジャンヌとヘラクレスはその名の元々の持ち主の魂を引き継いでいるらしいが……。

(魂って何、食えるの、滅ぼせるの? そして魂を引き継いだところで何か意味あるの?)

 といった風に霊魂否定派な俺としてはどうでもいい話だ。どちらにせよ今は現在進行形でテロリストで名に泥を塗っているんだが。

(まー、順当に行けばグレモリー眷属の全負けだろうなー)

 相手は禁手(バランス・ブレイカー)有りだし。

 ちなみに所有神器(セイクリッド・ギア)はそれぞれ曹操が最強の神滅具(ロンギヌス)黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)、ジークが通常時も亜種の龍の手(トゥワイス・クリティカル)、ジャンヌが聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)、ヘラクレスが巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)。能力はそれぞれ簡単に言うと神殺し、能力倍加に加え腕の追加、文字通りの聖剣の製作、攻撃部位の爆破だ。

 聖槍を除く禁手(バランス・ブレイカー)はこれまた亜種の阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)、こちらも亜種の断罪の聖龍(ステイク・ビクティム・ドラグーン)、そして超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)。こちらの能力は腕が六本になって腕の数だけ力の倍加、聖剣で創った龍の使役、ミサイルだ。

 それくらい禁手(バランス・ブレイカー)が無くても似たようなことはできる。威力はさておくが。

 

 戦闘の結果はグレモリー眷属の惨敗に終わった。

(さて、俺はどうしたものかな?)

 見るのも飽きたし。近くで戦闘が行われたせいか影の中の霞桜がざわめいている。

(まあ、たまにはこいつにも血を吸わせるか……いや、しない方がいいんだろうけど)

 霞桜を影から引き抜き、潜んでいた外壁上から飛び降りると、英雄派の奴らが一斉にこちらを振り向いた。

「はぁーい皆さん、元気してたー?」

 自分的には笑顔で歩み寄ると、皆が皆警戒するように各々(おのおの)の得物を構える。

「おやおや、警戒されるとは失礼な話だ」

「武器を構えている人がいう事じゃないね」

 ご尤もだ。

「さて、暇つぶしがてら斬り合いましょうか。理由は刀に操られてるって事で一つよろしく」

 そう言うと同時に霞桜に意識を通す。すると右手の中の霞桜が本格的に目覚め、体の支配権が一部譲渡される。

 無駄の無い動きで真っ直ぐに踏み込み、一番近くにいたジークの喉元に(きっさき)が伸びる。邂逅(かいこう)から五秒も経たない内に放たれた突きだったが、ジークは魔剣の一本であっさりと弾き、反撃を行おうとした。

「甘いよジーク、刀に操られてるって言っただろう?」

 弾かれた鋒は蛇の鎌首の如くうねり、最初の狙い通り首を狙う。ジークは顔を引いて刃が突き刺さるのを回避し、俺はほぼ唯一思い通りに動く左腕で魔剣を弾く。

 そのまま引かれることなく刃の軌道はうねる様に動き、更に喉を刺突しようと迫る。関節が捩じ切れそうである。ジークは自分でもどこまで伸びるか分からない鋒を飛び退いて躱した。

(少しは俺に気を使え)

 ジークが引いた事でこちらも近くに戻って来た霞桜をやり過ぎだという視線を向ける。

 ジークが引いた正面から曹操の聖槍、両脇からジャンヌの聖剣とヘラクレスの拳が迫るが、それぞれをほぼ同時に霞桜が弾く。

(俺よりも反応速度が早くて対処が的確過ぎる……本来だと相手にカウンターをするんだろうけど、これも俺の体に気を使えと言ったからだろうか?)

 疑問もそこそこに霞桜はそのまま三人にほぼ同時に切り刻もうと動く。その分俺の腕への負担が拙い。普通に動かせる速度を超えているので脱臼しかねないのが難点だ。

「ジーク以外は禁手(バランス・ブレイカー)使わないとか……舐めてんの?」

「それをするとお互いにただでは済まないからね」

 それもそうかと納得していると、後ろから赤い光が放たれた。

「何だ?」

 英雄派共々後ろの様子を見る。霞桜を持っている限り不意打ちされる危険性はほとんど無いので安心である。その分右腕にかかる負担は増し増しだが。

 赤い光に照らされて霊のような虚ろな人影が現れる。そして口々に口走り始めた――『おっぱい』と。

(ストレスで胃が痛い……マッハの速度で神経がすり減る!)

 俺には見えない、現れた亡霊のような人影がおっぱいを連呼しながら不思議な儀式舞踏みたいなことをしていたり、それが溶けて魔方陣ができただなんて俺には見えない。

「――召喚(サモン)、おっぱいぃぃぃぃぃっ!」

 あー、聞こえないったら聞こえない。もう何にも聞こえないし。リアス・グレモリーが出てきたりなんかしているのも見えていない。二人のやり取りも聞こえてなんかいない。

「すいません、今日は帰らせてください」

 そう言って英雄派の前からダッシュで立ち去る。

(ドライグ、俺はお前の味方だ! 強く生きろ!)

 先ほど居た塀の上に上ると、丸くなって現実逃避を始める。空間に切れ目を入れておく事も忘れない。

 

 平常心を取り戻して顔を上げると、リアス・グレモリーなんておらず、イッセーの鎧の肩部に二門の砲塔が追加されていた。その肩かた放たれた一撃は英雄派に向かって飛び、それをヘラクレスが受けようとしたが、曹操に突き飛ばされたためにその一撃は遥か彼方へと飛んでいく。

「たーまやー」

 かつて自分が食らった一撃を遥かに超える威力のそれは創られた京都を空間ごと揺るがした。

 続いてイッセーは追加された砲塔を切り離し、ブースターを増やし、装甲をパージして得た凄まじい速さで曹操に迫る。その速さは視認困難だった。そのままの速度でイッセーは曹操に突っ込んだ。曹操は回避できずイッセーの突進を槍で受けつつも食らった。

 突撃を受けた曹操もイッセーと一丸となったまま聖槍をイッセーの薄くなった装甲に向けて突き込んだが、その一瞬前にイッセーの鎧は先ほどまでとは真逆に分厚くなり、特に分厚い籠手で光の刃を受け止める。

 それに驚く曹操にイッセーの拳が打ち込まれ、曹操は地面に激突して粉塵を巻き上げる。

(死んだか……いや、槍で防いだか。ちっ、肉体の強度は完璧に俺以下のくせにしぶとい奴だ)

 思わず舌打ちしてしまった。

(それにしても……さっきの三形態変化はチェス――悪魔の駒(イーヴィル・ピース)(のっと)った能力か?)

 それ以前に発生したオーラも今までのオーラとは一味違っていた。

(あれこそが二天龍の真価という事だろうか……まあ録画したし、後でヴァーリに見せておくか)

 『赤龍帝の三叉成駒(イリーガル・ムーブ・トリアイナ)』か……対処法も考えておきますか。

(やれやれ、それにしても短期間に強くなりすぎだろう。歴代の赤龍帝はこれを超えるっていうんだからバケモノだよなぁ……その分殺しやすかったそうだが)

 

 イッセーの新能力に感心しながら分析していると、先ほど入れた空間の亀裂が広がり始めた。

(やばっ、お出ましか……!)

 空間の裂け目から現れたのは緑色のオーラを放つ東洋系の(ドラゴン)。そしてその上に乗る小さな人影。

(『西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)』、玉龍(ウーロン)! それと闘戦勝仏、孫悟空!)

 退()くかどうか一迷ったが、猿にしか見えない孫悟空殿に見据えられて撤退を諦める。

(こうなった以上龍喰者(ドラゴン・イーター)とやらは見れないだろうし、さっさと九重ちゃんのためにも九尾の御大将を(なだ)めますか)

 大きくため息を吐くと、英雄派を一人で圧倒している孫悟空の横をすり抜け、(ヴリトラ)の援護に向かったはずなのに既にピンチになっている玉龍(ウーロン)の上に飛び乗る。

「何してるんだか……」

 自分に対してか玉龍(ウーロン)に対して言ったかは自分でも定かではないが、とにかく今この状況に対してため息を漏らし、玉龍(ウーロン)を拘束する九本の尾を弾き飛ばして解放する。

『おおっ!? 誰だか知らないけど助かったぜ!』

「うるさい龍王……とっとと九尾を押さえ込みなさい。ただし、傷つけたら酷い目に合わせるぞ」

『いきなり出てきて難しい注文付けんじゃねえよ!』

 面倒な龍王だな。

(俺の言うことにははいかイエスで答えればいいんだよ)

 会話をするのも面倒なので、背を飛び出した九尾の眼前に飛び出すと、九尾は火炎を吐いてきた。どうして怪物連中はこうも火を吐くのが好きかね。

(ふう)、反らせ」

 魔方陣を展開し気流を操作して炎の機動を若干誘導する。普通に食らったら丸焦げだからな。何とかして火炎を突き抜けると眼前に九尾が現れる。

「拘束術式の持ち合わせは少ないんだけどな……」

 ゲオルグが先ほどまで使用していた術式の消えようとしていた欠片に干渉して再利用する。ただしそのままだと俺の手に余るので手を加える。

()、縛れ」

 この前のロキ戦の時のレージングの残りに拘束系の術式を乗せ、九尾の体を縛り始める。

「ヴリトラ、後は任せた。俺には遠慮無用でな」

 九尾の額に降り立ち鎖を引き絞りながらそう言うと、力を奪う黒炎が容赦なく吐き出され、九尾を俺ごと飲み込んだ。

 


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