ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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実質一人です

 かつて体育館だった場所で、二人の男が向き合っていた。

「やれやれ、できる事なら君と敵対するのは避けたかったんだけどね」

 曹操はいつもの様に聖槍で肩を叩く。

「それが無理なことは分かっていただろう。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』――この単語を聞いた時から、俺はお前を警戒していたし、お前はそれに気づいていた。だから、これはただの予定調和だ」

 朧は黒手袋を着けた両手を組む。

「そうか……けど、俺一人で君と戦うのは少しリスクが大きいからね。少し卑怯な手を使わせてもらうよ」

 朧の前と左右に霧が発生すると、六本腕の剣士、剣で(かたど)られた龍、いくつものミサイルが出現する。

「『阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)』、『断罪の聖龍(ステイク・ビクティム・ドラグーン)』、『超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)』か」

 朧はその正体をあっさり看破すると、まず右腕で装填済みの散弾銃(ショットガン)を影より引き抜き、連射してミサイルを撃ち抜いて爆発させ、ドス黒いオーラに包まれた左手で聖剣龍の鼻面を掴んで六本腕の剣士へと投げつける。

「ジークフリート、ジャンヌ、ヘラクレス、お前らは名前負けし過ぎなんだよ。神器(セイクリッド・ギア)を使って、禁手化(バランス・ブレイク)してもこの程度。ご先祖様はその身一つで世界を救ったというのに」

「攻撃を一度(しの)いだだけで言ってくれるね」

 聖剣龍を五本の魔剣と光の剣で弾き飛ばした六本腕の剣士――ジークフリートの言った言葉に、黙ってかぶりを振る。

「ただの人間を英雄の末裔が三人がかりで凌がれる段階で名前負けだと言ってるんだ」

「ただの人間だと? お前は悪魔の血も混じってるだろうが」

 ミサイルを放った男――ヘラクレスは言葉に反して朧を嘲笑(あざわら)う。

「その方が問題だろうが。俺の悪魔としての才能は下級相当だぞ。貴様ら英雄ならまとめてなぎ倒せねばならないレベルの存在だ」

「そんなヒトが、私の龍を投げ飛ばせるのかしら」

 聖剣で象られた龍の主――ジャンヌの言の葉に嫌な笑みを浮かべて言う。

「それには色々と事情があるけど、教えてやらん」

「不意打ちは防がれたけど、今度は本気で行かせてもらうよ!」

 ジークフリートに合わせて、ジャンヌが聖剣を、ヘラクレスが拳を固めて三方向から襲いかかる。

 それに対して朧は、散弾銃の代わりに取り出した霞桜と『黒き御手(ダーク・クリエイト)』で創り出した黒剣で迎撃する。

 一振りの妖刀と五本の魔剣が激突し、幾つもの金属音を鳴らすが、光の剣とジャンヌの聖剣は黒剣にかき消され、破壊される。ヘラクレスの爆発を伴う打撃は肘や膝、足で受ける事なく受け流される。

 驚くべきは足一本で立っているバランス感覚だろう。そんなんだから禁手化(バランス・ブレイク)できないのかもしれない(おそらく関係ない)。

 しかしそんな無茶がいつまでも続くはずもなく、すぐに限界が来て、ヘラクレスの拳を腹部に受けて発生した爆発で吹き飛ばされる。

「おっと、危ないですね」

 吹き飛ばされた朧は、後ろで熱いお茶を片手に見物していた葛霧のすぐ横を通り過ぎ、旧体育館の壁へと激突し、すぐに葛霧へと詰め寄った。

「そこは普通受け止めるところだろうが」

「無茶言わないでください。私はか弱い非戦闘員ですよ。そんな事できるわけないじゃないですか」

「お前本当に何しに来た!」

 怒鳴る朧に、葛霧は肩を竦めて冷静に返す。

「ところで朧さん、腹が大きく抉れているようですが、痛くはないのですか?」

 葛霧が指差した朧の腹部――先ほどヘラクレスの打撃を受けた箇所は見るも無残に吹き飛んでいた。

「痛くはないね。重傷ではあるけど」

 朧はそう言ってフェニックスの涙を取り出し、傷口にかけ始めた。

「あー、もうちょい要るか。ならあと少しだけ……あっ、手が滑った」

 一瓶を節約しようとする男の姿がそこにはあった。

 

「さて、ここからどうしたものかね」

 フェニックスの涙で傷は癒えたとはいえ、それだけではただ振り出しに戻っただけである。

 相手はまだ神滅具(ロンギヌス)使いが出てきていないのにだ。

「……使うか」

 曹操以外には使う気は無かったのだが、そうも言ってられなかった。

(せめてジークフリートが居なければな)

 朧は苦手とする剣士に内心で悪態を吐き、足元に魔方陣を出現させる。

「アレは拙い……!」

 その声と共に現れたゲオルグが多種多様の魔方陣から無数の攻撃魔法を放つも、その全てが霞桜に切り裂かれて消滅する。

「ゲオルグ、あれがどうしたんだ?」

 曹操の問いかけに、ゲオルグは冷や汗を掻きながら答える。

「あれは禁呪……命を削って発動する、禁じられた魔法だ。命を削る分、その効果は通常の魔法とは比べ物にならない」

「ご明察だ。という訳で、禁呪『天獄(てんごく)』発動――“我らは命を削ってこの世界に生きている”」

 朧が呪文を唱えると足元の魔方陣が純白に発光し、その光が朧の体を包む。

 白い光に包まれた朧は右手に霞桜を、左手に黒の大剣を持って走り出した。

 走りだした朧を狙い、ヘラクレスのミサイルが飛翔する。

「氷、氷、氷、氷、氷、氷――飛び、穿て」

 朧の周囲に魔方陣が幾つも出現し、そこから飛び出た氷弾がミサイルを正確に撃ち抜いていく。

 撃ち抜かれたミサイルは周りのミサイルを巻き込むほどの爆発を起こし、爆発の規模はどんどんと膨れ上がっていく。

 その爆炎の中を、朧は自分の身が焼かれるのも構わずに突き抜ける。その無謀とも言える特攻に英雄派の面々は面食らう。

「龍よ!」

 ジャンヌが再び聖剣で龍を創り出し、朧へと差し向ける。

 悪魔の血を引く朧にとって弱点となるそれを、朧は左手に持った、今や自らの背丈を超える大きさになった黒い大剣を力任せに振り下ろす事で叩き切った。

 しかし迎撃のために止まった朧の足を、ジークフリートがダインスレイブの力で氷漬けにして止める。

「炎、()かせ」

 朧は間髪を容れずに魔法で氷の拘束を破壊したが、回避が一瞬遅れ、ディルヴィングの力で右足を潰される。

「足は潰した。これでさっきまでのようには動けない!」

 だが、そのジークフリートの言葉を否定するように、朧は潰れたはずの足で大地を踏みしめて再び走り始める。

「バカな! 人並みの回復力しかない君では、そんなすぐに動けるはずがない!」

 ジークフリートは驚愕しながらも、近くに迫った朧へと魔剣を振るう。

 防がれると思っていたその魔剣の内三本は避けらたが、残る二本が左の脇腹と右の胸を深々と貫いた。

「なっ!?」

 自分でも当たるとは思わなかった攻撃が当たった事に動揺するジークフリートだったが、その隙を見逃さず、霞桜が自らの意思でジークフリートの首へと吸い込まれるように振るわれた。

 確実に捉えたと朧もジークフリートも確信した一閃は、しかしながら後ろから突き出された『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』に阻まれ、薄皮一枚斬るに留まった。

 それを見た朧は勝手に動く霞桜で切りつけながら後ろに下がる。

「成程、驚異的な回復能力。それがその禁呪の能力か」

 朧が一瞬で詰められない間合いの外に出た事を確認した曹操が聖槍で肩を叩きながら朧を見ると、朧の傷が煙を立てながら消えていく所だった。

「普通は回復すると分かっていても刃の前に身を差し出すとは、常人にはできない」

「貴様らにそう言われたらお終いだな。俺はとっくに終わってるけどな。ついでに禁呪の効果も終わった」

 朧の体から白い光が消えた。

「せめてジークフリートが居なくなれば三割ほど楽になったんだけどな。――葛霧ちゃん」

 今では遥か後ろに居る葛霧へと声をかける。

「はいはいなんでしょうか。あなたのためなら何でもしますよ。常識の範囲内で」

「逃げな。いや、逃がすから事情説明頼んだ」

「任されました。しかし、心底面倒なので、しないかもしれません」

「はぁ……これ託すから、届けろ」

 葛霧は朧が投げたプラスチックケースに収まった円盤を受け取れずに落とした。

「……じゃ、任せた」

「逃げられると思ってるのかな。ここは絶霧(ディメンジョン・ロスト)で構築された結界空間だ。転移はできない」

「甘いぞ英雄」

 朧が指を鳴らすと、ケースを拾い上げた葛霧の足元に二重の魔方陣が展開され、一瞬の閃光と共にこの空間から葛霧が脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけです。後は知りません」

 葛霧に見せられた、朧が英雄派に殴り込む映像を見た一同は、揃って一つの疑問を抱いていた。

 それは英雄派に朧が殴り込んでいた事ではなく、そもそもこの子誰という事でも無かった。

 

(何故受け渡すシーンが受け渡した円盤に記録されているんだ……?)

 


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