ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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うん、死んだ

「驚いた。まさかこの空間から魔法で脱出できるとはね」

「正確には魔法と魔力の合わせ技だ。俺の僅かな魔力の才能は、全て転移に費やした。どこにでも行けるように、どこからでも逃げられるように。――そんな俺には行きたい場所が無いというのは皮肉な話だけど、存外約に立っているのもまた皮肉だな」

 朧はそう言って霞桜を両手で握り、肩の高さまで持ち上げて(きっさき)が曹操に向くように構える。

「この人数相手に続ける気かい?」

「舐めるな英雄。俺の敵は世界の全てだ。貴様ら程度に(ひる)むと思うな。ここから先の俺は神器(セイクリッド・ギア)・魔力・魔法・仙術・体術、ゴチャ混ぜにて挑ませていただく」

 霞桜の鋒が黒を纏い、曹操目掛けて突き進む――

 

 

 

 

 

「かはっ!……やっぱ無理か」

 血を吐きながら、朧は霞桜を地面に突き立てて辛うじて立つ。支えにしている霞桜の刃も所々刃こぼれしている。

 それと対峙する英雄派の面々も細かい切り傷が多数あり、中でも矢面に立って戦っていたジークフリートは少なくないほどの出血をしていた。

「お疲れ様、もうお休み」

 霞桜を影にしまいながら、朧は静かにため息を吐く。

「やれやれ、結局何も為せずに潰えるか。しかし、ここで俺が死んでも第二第三の俺が――」

「君は魔王か」

 朧の台詞に曹操が呆れたように呟く。

「どちらかと言えばゲームのラスボスだな。所詮は負ける運命にある」

 自嘲する朧に曹操は残念そうにする。

「本音を言えば、君とは敵対せずに済ませたかった。君の超常の存在に手練手管を以て立ち向かうその姿勢は、俺たちも見習う所があった」

 それを聞いて、朧は一瞬だけ微笑む。

「俺がオーフィスと出会っていなければ、それもあったかもな。意味のない仮定(if)だ」

 満身創痍で朧は構える。あくまでも朧はオーフィスに敵対する存在を許せない。

「死ぬまで果てなく止まらず潰える。残念ながら俺は諦められんよ」

 朧の黒手袋が規模を広げ、全身を黒が包む。

「止めたくば、その聖槍で射抜いて通せ」

「……そうか」

 黒を纏い突進する朧を、聖槍の光の穂先が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――て、死んでないじゃないか」

 気がついた時、朧は暗い部屋で十字架らしきものに鎖で雁字搦めにされていた。

 貫かれた胸には若干――いや、強烈な違和感が残るものの、消滅する気配はなかった。

「いや、死んだのか? よく分からないな。ちょっと誰か、説明してくれ」

「まさか気がつくとはな。予想だにしなかったぞ」

 部屋の暗がりからゲオルグが姿を見せた。

「ゲオルグか。丁度いい。お前が一番話が通じる人間だ」

 朧はフッと笑うと、ゲオルグを今までにない強い眼光で睨みつける。

「貴様ら……! 俺の神器(セイクリッド・ギア)に、黒き御手(ダーク・クリエイト)に何をした……!」

 憎悪に満ち満ちた言葉と共に、全身から黒いオーラ――否、黒き御手(ダーク・クリエイト)を司る黒い粒子が吹き出す。

「やはり気付くか。いや、お前なら気づいて当たり前か」

「良いからささっと答えよ。既に精神干渉が始まってるので、まともに会話できるのはいつまでかも分からん」

 精神干渉の影響で、口調に影響がで始めている。

「先ほど、英雄派の一人が注射器を使ったのは覚えているな。あれはシャルバ・ベルゼブブ――真なる魔王の血を使用したドーピング剤だ」

 それを聞いて、朧の脳裏に何もしていないのに血まみれになった男の姿が蘇る。

「成程な。その実験に私を使い、その結果我が神器(セイクリッド・ギア)の封印が解除された訳か。いや、それだけではないな。神器(セイクリッド・ギア)そのものにもガタが来ているか。不快な事にON/OFFすらも聞かなくなったようだ」

 朧は吐き気がすると言って、実際に黒ずんだ血を吐いた。

「で、俺をどうする気で? このまま拘束し続ける気でしょうか?」

「貴様はコキュートスへと送られる。誰もがそれを望んでいる」

「だろうね。誰かに庇ってもらうには俺は味方を作らなかったし、慈悲をかけてもらうには私は敵を作りすぎた。故にこれは分かりきったことだ」

 諦めたように俯く朧に、ゲオルグが最後の言葉を贈る。

「君とはそれなりに長かったが、それもこれで終わりと思うと感慨深い。さらばだ」

 それに朧は捨て台詞を返す。呪詛を乗せた言葉を。

 

《コレデ終ワッタト思ウナヨ?》

 

 その言葉を(のこ)して、朧はゲオルグの展開した魔方陣に沈んで消えた。

 一人残ったゲオルグは思わずため息を漏らす。

「終わったか、ゲオルグ」

 ゲオルグの後ろから、相変わらず聖槍を肩に担ぐ曹操が現れる。

「ああ。しかし――」

「どうせすぐに戻って来る、だろ?」

 曹操の言葉をゲオルグが頷いて肯定する。

「コキュートスから脱出できた者はいないが……彼を封じ込め切られる場所がこの世界のどこにあるのかも怪しい。何よりも、彼本来の神器(セイクリッド・ギア)は、そんな終焉(おわり)を許さない」

 ゲオルグの言葉に、曹操は静かに頷く。

「何より、オーフィスに危機が迫ると知って、立ち止まることを彼は自分に許さないだろう」

 

 

 

 

 

「で、あなた誰なの?」

 リアスが普通に居座っている黒髪をツインテールにした灰色の瞳の少女――厄詠葛霧に今更ながら尋ねた。二度目ではある。

「朧さんのお嫁さん(二号)です」

 その発言によって、兵藤家の中の空気が一気に変わった。

 リアスたちが恐る恐る空気の発生源の方を見ると、そこには異様なオーラを漂わせる二人の少女――小猫とレイヴェルがいた。小猫に至っては闇落ちしそうな雰囲気である。

 これは鈍感なイッセーも二人の気持ちを察した。

 なお、オーフィスの方は普段通りであるが、それが逆に怖かったりもする。ちなみにオーフィスがオーラを全開で放出したなら、それだけで戦争になっても耐えられるという触れ込みの兵藤家が崩壊する。

「で、あなたは一体誰なの?」

「通りすがりの美少女です」

 葛霧は終止この調子であった。

 


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