ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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ごめんなさい、感想であれだけ言って朧の活躍はまだです。次回こそは必ずや……!


Ouroboros―オーフィス
Return of from Cocytus


 私、レイナーレの目の前では、常識外れの出来事が起こっていた。

 まず、神滅具(ロンギヌス)である『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』『絶霧(ディメンジョン・ロスト)』『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』の四つに加え、堕天使総督で在らせられるアザゼルさま。更に『神の毒』と呼ばれる堕天使であり、ドラゴンであるサマエルまで現れた。

 正直一介の堕天使である私では今すぐ逃げ出したい気持ちで一杯なのだが、朧さんの娘である――私にはよく分からないのだが、朧さんがそう言っていたのでそういう事にしている――鵺ちゃんがオーフィスさんから離れようとしないのでここまでついて来てしまったが、今は有り体に言って絶体絶命の危機である。

 グレモリーの次期当主と雷光の巫女は封じられ、デュランダル使いとイッセーさんは大怪我を負い、総督殿も腹部に聖槍の一撃を受け、白龍皇さんはサマエルの呪いで戦闘不能になってしまいました。

 他にもいた気がしますが割愛して、今では戦えそうなのは聖魔剣さんぐらいでした。

(今更ながら……こんな状態を見ると朧さんの異常さが際立ちますね)

 腹に穴開けて平然としている人と比べるのは比べられる側が可哀想なので、この状況が超常ながらも異常ではないと考えるあたり、思考が相当に毒されていると言えるだろう。

 

(さて、これからどうしましょうか……)

 まずはオーフィスさんとそれを庇って一緒に捕まった鵺ちゃんを包んでいる黒い物体をどうにかしたいのだが、どうやらそれとサマエルへと繋がっている舌には攻撃が通じないためどうにもできず、かと言って本体や、それを召喚して制御している霧使いに攻撃を仕掛けるためには聖槍使いの守りを突破しなければならなかった。

(つまり、聖槍使いがいる限りどうにもならないって事ですね)

 分かっていた事実を再認識し、気分が重くなる。

 本来なら隣で未だに椅子に座ったまま傍観している牛娘のように終止見守る事に徹するのだが、今回ばかりはそうもいかない理由がある。

 

 一瞬生まれた隙とも言えない隙――構えていた槍を下ろしただけ――をついて、今までこそこそと仕込んでいた仕込みを一斉に発動させる。

 空間に散在させておいた光力を顕在化し、無数の光球へと変えて聖槍使いに向けて撃ち放つ。

 その光の雨と表現できる攻撃に加え、よく朧さんや鵺ちゃんを縛るのに使う光の鎖を伸ばす。

「――ッ、居士宝(ガハパティラタナ)!」

 だが、それは突如現れた光輝く人型に防がれる。しかし、それは想定の範囲内。動きと視界が制限されればそれでよかった。

 攻撃と同時に空へ飛び上がっていた私は、大抵の人間の死角である頭上から全速力で襲いかかる。

 しかし、聖槍使いはすぐに反応してこちらに聖槍を突き出す。

 私の光の槍と聖槍では聖槍の方が間合いが長く、先に貫かれるのは私の方だった。だけど、私はそれでも一向に構わなかった(・・・・・・・・・・・・・)

 元より無傷で済むとも思っていないし、少なくない確率で殺されるであろうという事も覚悟していた。刺し違えられればそれで御の字であった。

(あの人に拾ってもらった命。彼のために捨てるなら本望!)

 しかし、聖槍使いへ一直線に向かっていた体は、途中で横から衝撃を受けて吹き飛ばされた。

 黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)禁手(バランス・ブレイカー)、『極夜なる天輪(ポーラーナイト・ロンギヌス)聖王の輝廻槍(・チャクラヴァルティン)』の七宝の球体の内の一つが横から私を横から襲ったのだ。腹部を貫通していないのは私を吹き飛ばすためだろう。

「これは驚いた。ただの堕天使がここまでできると思わなかった。いや、彼の近くにいる者が普通のはずがないか」

 聖槍使いはそう言うが、私はそれを嘲笑する。

「あなたは……彼の事を何も分かっていないんですね」

 彼は本来、普通のどこにでもいる人間――あくまで本来は(・・・)で、今では立派な超常存在です――で、雪奈ちゃんも黒羽ちゃんも普通の女の子だ。牛娘は知らないが。

 もしあの人やあの子たちが普通でないと言うのなら、それは世界が間違っているのだろう。普通である事を許さない世界が。

(その世界に少しでも歯向かいたかったのですけど、無駄だったようですね……ごめんなさい、朧さん、雪花ちゃん、黒羽ちゃん、ごめんなさい)

 内心で家族(・・)へと謝罪し、迫る光の穂先を受け入れて目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、来るはずの衝撃がいつまで経っても来ず、レイナーレが(いぶか)しんで目を開けると、聖槍の穂先は黒いオーラを纏った腕に止められていた。

 その腕が誰の腕かとは言いづらかった。何故なら、その腕はこの場にいる誰のものでもなく、何も無い虚空から伸びていたからだ。

 いや、何を言ってるか分からないと思うが、実際に何もない虚空から手が伸びて、聖槍の光の穂先を受け止めているのだ。オーラを纏っただけの素手で、最強の神滅具(ロンギヌス)を。

 曹操は聖槍から伝わる感触に、思わず眉を(ひそ)めた。

 止められてはいるが穂先が弾かれている訳でもなく、刺さっていないのに刺さっている手応えがある。引こうとしても抵抗があり、かといって押し込んでも無為な感触が返るばかり。

 例えるならそう、粘度の高い泥に突き刺した感じに一番近いのだが、抵抗力が段違いであった。

 

 そして、腕は黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の光の刃を握り潰した。重ね重ね言うが、素手で。

 光の刃が砕かれた事で自由になった曹操はすぐに後ろへと下がって十二分に距離を取る。

 光の刃を砕いた腕は、何も無い虚空に、まるで(ふち)でも手をかけているかのように。

 

 ビシ

 

 何かが割れる様な音をすると共に現れた異変に、一同は目を疑った。

 何も無い空間に亀裂が入っているという、超常現象そのものな存在たちから見ても異常な事態が起こっていた。

 空間の亀裂が徐々に広がっていき、一定を超えた所でバリンと甲高い音を立てて、もう一本の腕が突き出してくる。

 二本の腕はそれぞれ空間の亀裂を更に押し広げるように、左右に広がる。

 バリバリと、連続する割り裂ける音が連続し、ついに空間に致命的な大穴が空き、そこから闇より黒い漆黒のオーラが立ち上る。

 ここに来て、一同は腕の主に気付く。闇より尚深い漆黒のオーラと、常識を超える現象。この二つの現象を兼ね備え、かつこの場に登場し()るのはただ一人。

地獄の最下層(コキュートス)から自力で這い上がるか……!」

 サマエルを制御するゲオルグが叫び、曹操が聖槍を握る手に一層力を込める。

 湧き上がる漆黒のオーラは密度を薄め、それを発する者の姿が明らかになる。

「朧さん……」

 黒縫朧の凱旋(がいせん)である。

 


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