「あ―――――っ、すっきりした」
そう言った朧の顔色は黒いオーラで伺うことが出来なかったが、決して優れているようには見えなかった。
「おいおい、何だその数は。十や二十じゃねえぞ……? 一体どうしたらそんな数を集められるんだよ」
「不思議なことに俺が行く先々に瀕死の存在に直面しまして。埋葬代わり、形見分けみたいな感じで貰いました。生きてる人間から無理矢理引き剥がしたわけではありません」
「うっ……」
アザゼルの疑問に、朧は何でもないように答え、付け加えられた一言で一名ほど胸が傷んだ。
「で、それを元々の
「……ああ」
朧と曹操が再び構えて対峙する。
今度は緊張状態に突入することなく、一瞬で朧が攻めに出る。
霞桜を構えて突撃し、曹操を一瞬で数度斬りつける。
しかし、その程度で曹操が倒されるわけがなく、すぐに横へと飛んで回避して聖槍にて攻撃を行おうとするが、曹操が回避したすぐ後に、朧は勢いそのままに駆け抜けて曹操の間合いの外にいた。
これに曹操は少し面食らう。先日戦った時、朧は付かず離れずの超至近距離で戦っていた。
それだけではなく、朧は基本的に間合いを保つように戦うと、英雄派は分析していた。
それは確かに正しいが、それは
多種多様で万能多岐な戦い方の
――ただの体当たりである。
「―――――――――――――――――ッ!!」
金属音のような叫び声を響かせながら、朧が高速で曹操に迫り、曹操はそれを紙一重で
「くっ……! 中々手ごわいな!」
朧の攻撃は突進と表現する他ないのだが、その実体が莫大なオーラに加えて一瞬で幾十の斬閃が重ねられるのだ。
突進とは言え、もう既に巻き込まれればミンチにされるミキサートレインと言った感じになっている。
単純すぎるくらい単純だが、それ故に打つ手が少ない。
曹操の
唯一効果があるのは
移植した
「単純な力も極めればここまでのものになるのかっ! これを制すれば俺は更なる高みに登れるだろう!」
「
お互いの得物にそれぞれ真逆の性質を持つオーラを集中させる。
曹操の聖槍が
「輝け、神を滅ぼす槍よっ!」
「閃け、人を絶やす刀よっ!」
全力で振るわれた光の刃と闇の刃が激突し、衝撃波を四方八方に撒き散らした。
「うぉっ!」
「がはっ!」
自分たちが発生させた衝撃波に吹き飛ばされ、二人が後方へと吹き飛ばされる。
しかしそこは芸達者な二人。空中で反転して着地し、すぐにお互いへと得物を構える。
着地したお互いの状態は、曹操は至るところに細かい切り傷を負い、朧の皮膚は全体的に焼け焦げていた。
前者は曹操のガードをも超える霞桜の斬撃によるものであり、後者は攻撃に――霞桜にオーラを回した事で防御が薄くなったところに聖なるオーラを浴びせられた為だ。
だが、どちらも軽傷であり、戦闘続行には何の問題もない。本人たちもそう思っていたし、そのつもりであった。しかし――
「――ゴフッ」
突如として、朧が口から吐血する。
人間なら内蔵に重大な損傷を受けたことを疑うだろうが、朧は一切構わずに次の一歩を踏み出し――
「朧」
オーフィスが
理由は自分に構ってくれず、他人と何かしているので寂しくなったからである。オーフィスの中にグレートレッドを除けば敵味方という概念はおそらく存在しない。
なお、オーフィスが相手に応じて力を使う量が一番多いのは朧だったりする。裏返っていない愛情である。
「邪魔、帰れ」
オーフィスにそう言われた曹操は呆れたようにため息を吐き、
「まあいいさ。俺たちの目的は果たした。異質な龍神の変わりに、俺たちにとって都合の良い『ウロボロス』を創りだす」
それが聞こえたのか、朧が顔を上げた。
「オーフィス量産化計画だと!
微妙に聞き間違えていた上に、欲望ダダ漏れである。
「黙って」
「ガッ……!」
興奮した朧の上にオーフィスが飛び乗って再び気絶させた。
「残りは
再び朧が顔を起こした。その
「何! あの骸骨ジジイ俺のオーフィスに何する気だ! 今度会ったら理科室送りにしてやる!」
「大人しくする」
上に乗ったオーフィスに頭を叩かれ、顔を床にぶつけた朧は再び沈んだ。
「……さて、ここで一つゲームをしよう」
曹操は気を取り直して一誠たちに話しかける。
「もうすぐここにハーデスの命を受けてオーフィスを回収に死神の一行が到着する」
「オーフィスを回収するのは俺だ!」
「落ち着け」
朧が起きてまた沈められた。
「そこにジークフリートも参加させる。君たちがここから無事に脱出できるかどうかがゲームのキモだ。今のオーフィスがハーデスに奪われたらどうなるか分からない」
曹操はもう気にしない事にした。
「オーフィスを奪わせ――ガハッ!」
もう言葉の途中で沈められた。割とまともな事を言ってたのにだ。
「オーフィスを死守しながらここから抜け出せるかどうか、是非挑戦してみてくれ」
「そんなの余ゆ――ッ!」
ついにグーパンで床に埋まるほどめり込んだ。半ば条件反射になりつつあった。
「……最後に聞かせてくれるかオーフィス。彼にそんな事をする理由は?」
それが気になっていたのは皆同じだった。
「静かな朧、好き。うるさい朧、うざい」
静かなのが好きなオーフィスらしい答えだった。
朧無双?いや、オーフィス最強伝説だから。