ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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蝿の王

 赤龍帝の譲渡の力によってリアスの胸から発生したビームによって一誠のオーラが回復し、死神の群れは消し飛んだ。とんでもない話なのだがこれが事実なのである。

 ただ、それも無償ではなく、オーラの回復によってリアスの胸は小さくなってしまった。

(リアス・グレモリーの胸と死神(グリム・リーパー)200体が等価かぁ……どんなエネルギー効率しているんだろう)

 朧は真面目に考察しかけたが、胸に関わる事だったので止めた。もう愛の力でいいやと無理矢理納得させた。

(もう二度とイッセーたちとは共闘したくない。SAN値がガリガリ削られていくからな……クトゥルフも吃驚仰天だぜ)

 ちなみにこの世界にはクトゥルフは存在しない。

 

「さて、ジークフリート、ゲオルグ。チェックメイトだな」

 アザゼルが二人に光の槍の切っ先を向けてそう宣言する。

 今では向こうで残っているのはその二人以外には最上級死神であるプルートだけであった。

 一誠たちが勝利を確信したときだ。空間に快音が響くと共に、空間に穴が空く。

 援軍かとも思ったが、ジークフリートたちも怪訝そうな顔をしていたので違うようだ。

 皆が注目する中、次元の穴から現れたのは、かつて一誠の覇龍(ジャガーノート・ドライブ)によって九死に一生まで追い込まれた、旧魔王派のトップ。シャルバ・ベルゼブブだった。

「シャルバァァァァァ!」

 シャルバが一誠たちとジークフリートたちの間に降り立つと、ホテル間際に居た朧が数十メートルの距離を二三歩で詰め、シャルバ目掛けて襲いかかった。

 朧にとって、シャルバは殺しても殺しても飽き足らない相手。

 だからこそ、今の今まで生かしておいた。自分の手で殺すために、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の一誠からも半死半生の状態になってから助けた。

 そんな世界で一番憎い相手を目の前にして、朧のオーラが今までで一番濃く、激しく唸る。

「くたばれぇぇぇぇぇェェェェェッ!!」

 音を超えた事によって衝撃波を発生させながらのシャルバを狙った朧の一撃は、しかして足元に広がっていた影から現れた巨大な手を腕が貫いて止まる。

「『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』か……! だが、この大きさの魔獣をレオナルドは未だ創れないはず……まさか貴様、レオナルドを強制的に禁手化(バランス・ブレイク)させたのか!?」

 憎悪という名の熱で逆に冷静になった朧の頭脳は、現状を把握し、裏の事情まで暴き立てる。

「流石の慧眼だな。だからこそ、貴殿はあそこで殺しておくべきだったと反省している」

 そう言ったシャルバがマントを翻すと、そこから虚ろな表情をしたレオナルドが現れる。

 シャルバが小型の魔方陣を近づけると、レオナルドは絶叫を上げる。

魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)は理想的な力だ! しかも彼はアンチモンスターを作るのを得意としているらしいではないか。ならば作って貰うとしよう! 現悪魔共を皆殺しに出来るだけの怪物を!」

 レオナルドが一際大きな絶叫を上げると、フィールド全体を包むほどに広がった影から、大きさ二百メートルほどの怪物が現れ、更に百メートルほどの魔獣も幾体も現れる。朧を掴んでいるのはその内の一体の人型の怪物である。

 そして、朧を掴む一体を除く怪物たちの足元に転移型魔方陣が現れる。

「今からこの魔獣たちを冥界に転移させて存分に暴れてもらう! これだけのアンチモンスターなら悪魔たちを滅ぼしてくれるだろう! 一体は貴様らを殺すために残しておいてやろう!」

 それをさせまいと皆が攻撃をするが、攻撃は体の表面を僅かに削るばかりで、そうこうしている内に魔獣たちは一体を残して転移してしまった。

「ふはははは! 貴様らもここで朽ち果てるがいい!」

 イッセーたちは飛び立つシャルバを追う余裕も無く、唯一残った人型の魔獣へと向き直った。

 ちなみに、プルートの姿はこの時には既に無く、ゲオルグたちもシャルバに用済みとされて打ち捨てられたレオナルドを連れてこの空間から去っている。

 

 一誠たちを魔獣の一体に任せたシャルバは、サマエルの呪いで未だ本調子ではないヴァーリに攻撃していた。ヴァーリは本調子ではないため、魔方陣を展開して防御に徹していた。

「どうしたヴァーリ! ご自慢の魔力は、白龍皇の力はどうした!」

 シャルバはヴァーリを口悪し様に(ののし)り、一通りの攻撃を加えると、オーフィスへ手を突き出すと、オーフィスの体に悪魔文字が書かれた螺旋状の魔力が縄のように絡みついた。

「このオーフィスは真なる魔王の協力者への手土産だ! 頂いていくぞ!」

『あ』

 シャルバの所業を見て、その場にいるほぼ全員が「やってしまった……」とばかりに声を漏らした。その直後である。

「オーフィスをお持ち帰りしていいのも俺だけだって言ってるだろうが虫ケラァァァァァ!!」

 遠方から飛来した黒い一閃がシャルバのオーフィスに向けたのとは逆の腕を吹き飛ばし、ホテル外壁に着弾する。

「シャルバァァァ・ベルゼブブゥゥゥ……!」

 ホテルの外壁に三肢(・・)をめり込ませて貼り付いている朧は、もはや全身の黒オーラの密度が濃すぎ、荒々しくうねっているため、姿も表情も伺うことは叶わなかったが、一つだけはっきりと分かる異変があった。

 無いのだ。本来あるべき物が。朧の右腕が、肘から先が丸ごと無くなっていたのだ。

「貴公、どうやってあの魔獣から逃れた!?」

 シャルバが先ほど朧を捕らえていた魔獣を見ると、その魔獣は紅蓮の炎に包まれてのたうち回っていた。

 魔獣を焼く炎は、朧が発動した禁呪『煉獄(れんごく)』によって生み出された炎。肉体のみならず、魂までも焼き払う禁忌の(ほむら)

 無論、それだけの威力を持つ炎が無償という訳ではなく、生命体なら存在問わず燃焼させるその炎は、発動させた朧の肉体も当然の如く焼き払う。

 その炎に対処する方法は触れる前と後で一つずつ。触らないか、触った箇所を分離する(・・・・)かだ。

 そして、朧は発動する際に触媒として使った右手を切断していた。

 

 朧は残った三肢を思い切り曲げ、シャルバ目掛けて飛びかかる。しかし、渾身の突進は避けられ、飛べない朧は地に落ちる。

「ふははは! 貴様はそうやって地に這いつくばっているのがお似合いだ!」

 シャルバは朧にそう吐き捨てると、オーフィスを連れてホテルの屋上まで飛び上がる。

「朧さん、この空間はもう保ちません! 脱出を!」

 上からレイナーレがそう叫ぶも、朧の耳には入っていない。今の朧が考えているのは、オーフィスを助ける方法のみ。

(空を飛べないのが問題なら、飛べばいい)

 今まで散々考えても出来なかった事ではあるが、オーフィスのためなら今まで出来なかった事をできる様にする。

(俺が飛べないのは翼が片側しか無いからだ。だったら、両翼揃えば飛べるはずだ。では、その翼はどこから持って来るか)

 そこで朧は思いつく。足りない片側を補うというなら、既に経験している。

(この左腕。今でこそは左腕ではあるが、大元を辿ればオーフィスの右腕(・・・・・・・・)だ)

 

 オーフィスの姿は時と共に変化し、実質本当の姿は無いに等しい。そもそも、オーフィスは人型ではないので、人の一部に体のどこかを擬態させるというのは簡単な事だと言っていい。

 つまり、オーフィスの細胞は万能細胞に近いのでは無いかと考えた朧は、オーフィスに頼んで体の一部を分けて貰い(朧としては爪の欠片程度で良かったのだが、朧の腕が無くなっているのを見たオーフィスは腕を丸ごとくれた。左右間違えているのはご愛嬌である)、それに手を加えて自身の左腕としたのである。

 ただ問題が一つあり、無限(オーフィス)の体を一部とはいえ移植するので、並大抵の存在なら移植された細胞に食われて死ぬ危険がある事だ(朧はオーフィスと一緒にいた期間が長かったため、耐性がついていたので辛うじて耐えた)。

 つまり、オーフィスの細胞を使用している朧の左腕は翼になってもおかしく無いという事だ。

 

 その考えに思い至った朧は、左腕を影から霞桜を引き抜き、口に加えて左腕を切断し、上にはね上げて霞桜と入れ替わりで口に咥え――いや、思いっきり噛み付いた。

「禁呪『地獄(じごく)』――“他者の犠牲無くして自身の生は無し”」

 本来は他人の能力を奪う能力ではあるが、これを使用する事で肉体の欠損を補う事も可能である。

 例え、それが先天性の欠損(・・・・・・)でも、本来存在しない欠損とは呼べない部位であってもだ。

 しかし、生えてくるのは取り込んだものそのままが生えてくる。

 ならばどうやって翼を生やすのかといえば――

「気合で何とかしてみせる!」

 まさかの精神論であった。

「むむむ……生えた!」

 肉を突き破る音と共に、朧の背中から三対の翼が現れた。ただし左右が非対称であり、左側は今まで通り悪魔の翼。右側はドラゴンの翼だった。これが左側に生えなくてよかった。

「さあ行こう。オーフィスを助けるために」

 朧はそう言って、ホテルの外壁を駆け上がった。

 

 ……飛べよ。

 


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