ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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Heroes
Is he Dead?


 今、私と牛娘、それと鵺ちゃんは、何となく流されてグレモリー家(というか城)に居ます。

 私たちがここにいるのは立場的にはもの凄く微妙(グレーゾーン)なので、一室をお借りしてそこで大人しくしています。

 

 現在グレモリー眷属の皆さんは、イッセーさんとオーフィスさん(それと朧さん)を召喚するために開いた龍門(ドラゴン・ゲート)からイッセーさんの悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だけが召喚されてからすっかり意気消沈してしまい、まるでお葬式のような雰囲気でした。

 それは、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』だけが主の下へ帰還するという現象は、それほどでは無いものの前例があり、その全ての場合において、持ち主は死亡しているだからだそうです。

 そして、ムードメーカーであるイッセーさんを(うしな)ってしまったグレモリー眷属の皆さんはひどく落ち込んでしまっています。

 特に酷いのは眷属の主であるグレモリー嬢と、『女王(クイーン)』である雷光の巫女の二人で、片や部屋に篭って泣き通し、片やまるで死人のように(ほう)けている。他の皆さんも一様にひどい様子で、アーシアさんは自殺を図りそうだったので、軽く気絶させました。

 愛する人を喪ってはそれも仕方が無いとは言えるが、眷族を(ひき)いる『(キング)』と、それを支えるべき『女王(クイーン)』があの状態では、眷属はまともに機能しないでしょう。

 辛うじて『騎士(ナイト)』さんは平常を保っていたが、彼だけでは眷属の皆を励ます事は不可能そうでした。

 平時ならそれも許されたであろうが、今という状況はそれを許してはくれません。

 現在、冥界は先ほどの異空間で創り出された魔獣たちが侵攻してきており、それに呼応するように動いた旧魔王派の残党が散発的にだが襲撃をかけており、それを食い止めるのに彼女らの力はとても重要視されています。

 しかし、今までその信頼を成すためにしてきた事を行う大切なもの(イッセーさん)が、今の彼女らには欠けていました。

 

「はっきり言いまして、全くの別物ですね。まさか一人欠けただけでここまで瓦解(がかい)するとは」

 隣にいる牛娘が口を開いたかと思えば、そんな事を言った。

 確かに、あの泣く子も黙るグレモリー眷属がイッセーさん一人を失った途端(とたん)にこれなのだから、そう口走ってもしょうがないのだが、私としては事情も知らない小娘にそんな事を言って欲しくはなかった。

「良くも悪くも影響力のあったヒトだったんですよ。それこそ、各勢力が注目せざるを得ないくらいに」

 私のフォローのつもりの言葉に牛娘は何度かふむふむと頷くと、黙ってればいいものの、再び口を開いた。

「そしてこの状況を作り出した大本である、悪く言って諸悪の根源であるのがあなたというわけですか」

 何でこの子はヒトの神経を逆撫でるのがこんなにも上手いのでしょうか。朧さんに仲良くしろと言われていなかったら正直二三度殴っていたかもしれません。

 

「ところで、あなたは随分と冷静ですね。朧さんが死んだかもしれないというのに」

 確かこの娘、朧さんの為に生きているはずではなかったでしょうか。それなのにこの落ち着き様は……はっきり言って胡散臭いです。

「おや、同じく冷静なお人に言われたくはありませんね」

「私はあの人が()()くお人と思ってないので」

 あの人が死ぬようなら世界は後三日で滅びかねませんし。

(あはは……洒落じゃないんですよね、いや割りと本気で)

 内心で笑うしかなくなっていると、小娘は嘆息してから口を開いた。

「私としては死んだら死んだで構いません。生き甲斐を失った私も後追いすれば済む話です」

 平然とそんな事を言うとは……本当に掴みづらい子ですね。少し朧さんと似ていますね。決していい意味ではありませんが。

(朧さん、早く帰って来てください。この子は私の手に余ります)

 さっき家に連絡しましたけど、雪花ちゃんは何も言ってなかったのだから、まだ生きてるのか、はたまた消滅したのかの二択でしょう。

 消滅の可能性が残っているので結構不安なのですけど、今更バタバタしたり、慌てふためくのが許される年でもないですしね。

(けど、あの男が帰った来たら、思い切りしばき倒しましょう)

 心配をかけた罰としては丁度いいでしょう。

 

「グルル……」

 足元で鵺ちゃんが不安そうな唸り声を挙げる。

「そうですよね。鵺ちゃんが一番不安ですよね。何せ折角(せっかく)お父さんとお母さんに会えたのに、すぐ別れ離れだなんて」

 補足しておくと、鵺ちゃんが生まれたのは朧さんが居なくなった少し後であるので、朧さんと鵺ちゃんはさっき少しだけ触れ合っただけだ。

 このまま朧さんが消滅したら、無理矢理条理を(くつがえ)してでも蘇生させてみせましょう。そしてもう一度死なせて蘇生させて鵺ちゃんに土下座させます。

「あの……今さり気なく聞き流せない内容が聞こえてきたんですか」

 うるさいですね、この牛娘は。一体何だと言うのですか。

「え、何ですか。あの人、あんな小さな子と事に至っちゃう様な変態さんだったんですか。それはそれで興奮します! 帰ったら私も是非にと頼み込んでみましょう」

 ちょっと、あなた今すぐ朧さんと立場を交代しなさい。あなたなら殺しても蘇るでしょう? それは朧さんも同じ印象ですが。

「言っておきますけど、あの人たちはそういう関係(・・・・・・)では無いと思いますよ。キスさえしてないんじゃないですか?」

 オーフィスさんは言うに及ばず、朧さんはあれでいて初心(うぶ)ですからね。

 ならどうやって鵺ちゃんが生まれたかというと、まあ賢い馬鹿のやり方とでも言いましょうか。とにかく規格外である事は確かです。

「え…………あの、ちょっとそれどういう事ですかね?」

 牛娘の疑問も(もっと)もだ。私も最初に事情を知った時には唖然(あぜん)としたものだ。

「あの人に常識を求めない方がいいですよ。無駄に年食ってのに、変なところで純真無垢(こどもっぽい)ですから」

 どうやったらあんな(いびつ)なヒトができるのか、考えてみたくもないですね。

「それはそれで、手取り足取り教えながらするという楽しみがありますね」

(めげないですね、この子)

 ここだけ朧さんとは対照的かもです。あのヒトは障害は取り除くタイプですけど、この子は障害に適応するタイプです。

 いえ、ある意味ここでも似ているのでしょうか。障害を物ともしないという意味においてはですけど。

 

嗚呼(ああ)、朧さん、早く戻って来ないでしょうか)

 

 正直、この子の相手は結構辛いです。

 


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