ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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世界滅亡の危機は回避されました。


He was alive.

 再び意識が戻ると、最初に感じたのは猛烈な違和感だった。

 なんというのか、まるで別人の肉体に入ってしまったような感覚。もしくは、普段男物しか着ないのに女物を着せられた時のような落ち着かなさがあった。

 

 とにかく現状を把握するために目を開いたところ――

「朧、起きた?」

 何故か全裸のオーフィスが目に入った。

「うん、完璧に起きた。というか何で起きた? 何が起きた?」

 混乱する俺に、オーフィスが説明してくれる。

「朧、肉体滅びた」

 サマエルの呪いを受けたのなら無理もないだろう。

「我、朧がドライグにしたように、魂、別の物に移した。そして、肉体の残りから呪いを抜いて、肉体の残りから新しい肉体を新生させて魂を戻した」

 あっさり言うけれど、肉体を新生させるとか、普通こんな何も無い場所ではできないはずだ。

「そもそも、ここはどこだ?」

 万華鏡のような空が見えるため、おそらくは次元の狭間なのであろうが、だとしたらこの赤い大地はなんだろう。次元の狭間に大地はないはずである(だからこそ次元の狭間(・・)だ)。

(あれ、この地面、生きてる?)

 仙術の察知能力で探ってみたところ、足元から生命反応が感じ取れた。ただ、この気配は強大な割りには薄い。まるで(ゆめ)(まぼろし)であるかの様に。

「ここ、グレードレッドの上」

 予想を斜め上に行った返答に、俺はどうしていいか分からない。

(……こんな時なんて反応したらいいのか分からない)

「笑えばいい?」

 オーフィスと以心伝心したようだ。なら、その言葉どおりにさせてもらおう。

「アハハハハ」

 空笑いしか出なかった。

 

「ええと、他に聞きたいことは……そうそう。俺の魂は一体何に移したの?」

 イッセーには赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)があったが、俺にはそんなものは無かったはずだ。

 ちなみに、魂を一時的に移すのであれば、非生物体――特に普通の鉱物――が好ましい。生物に移すと元々の魂と喧嘩するので、最悪双方消滅の可能性がある。

 この場にはそんな魂の宿っていない物があるとは思えなかった。

「あれ」

 オーフィスが指差した方を見て、俺は少し言葉を失った。

「ねえオーフィス。俺の目に異常が無いとするなら、あれ地面に刺さってないのに直立してる(・・・・・・・・・・・・・・・・)よね?」

 俺の目の前には、(きっさき)だけを地面と接触させ――驚くべきことに一ミリたりとも刺さっていない――見事に屹立(きつりつ)している日本刀が見えた。

「我にも見える。心配ない」

「いやいや、心配な上に不安だよ」

(というか、あれ霞桜じゃん)

 それだとすると別の心配が生まれる。あれは確かに霞桜であるのだが――

「何故か一回り長くなっている気がするよ? それと、今までよりも禍々(まがまが)しいオーラを発してるんだけど?」

 寸法的には通常サイズの打刀(うちがたな)だったはずの霞桜が、今では太刀(たち)を飛び越えて大太刀サイズになってる上、纏っているオーラはどう見ても俺のオーラと同質であった。まとめると超物騒。

「朧の魂、移したらそうなった」

「やっぱり俺のせいか!」

(ごめんよ霞桜! でもありがとう。そのおかげで俺は元気になった!)

 万感の意を込めてこちらも長くなった霞桜の柄を握ると、地面をこれでもかとばかりに貫こうとしていた霞桜はピタリと動きを止め、俺に擦り寄ってきた――刃をこちらに向けて。

「気持ちは嬉しいけど刃を向けるな、また死ぬから」

 せめて(しのぎ)(みね)でしてもらわないと、俺の顔に切り傷が生まれる。

(というか、これ本当に生物じゃないの? もう生き物みたいなんだけど)

 妖刀ってあんまり見ないが、どれもこんなのばっかりなのか、それともこれが特別なのかは判断が付かなかった。

 

「それで、質問その三。何で裸なの? 後いい加減に服を着てくれ」

 オーフィスの裸に興奮するわけじゃなけど、真正面から見るのも気恥ずかしい。

「我、朧の体、新生させた。その時、我、一度本来の姿に戻った」

「なるほど」

 オーフィスが着ている服は、自身が体の表面を変化させた場合と、俺が上げた物との二種類がある。

 オーフィスの本性がドラゴンである事を考えると(ちなみに、俺はオーフィスのその姿を見たことは無い)、人間の衣服など普通に変化したら破れてしまうだろう。

 ここは変化する前に服を脱ぐという知恵があった事を褒めるべきだろう。

(俺も着替えようかな。ボロボロな上に、何故か巨大生物の口内に入れられたかのようにベトベトだし)

 着替えは魔力でできる。実に便利なことであるが、耐久性に難アリなのが玉に瑕だ。

 

 

 

「ちなみに、どうやって俺の肉体を新生させたの?」

 これは純粋な疑問だったのだが、予想を上回る答えが返って来た。

「食べた」

「……ああ、だから全身ベトベトだったのか」

 相変わらずオーフィスとの会話は平静を保つのが難しいな。

 ちなみに、無限であるが故に外部からのエネルギー補給――つまりは食事を必要としないオーフィスは、その気になれば食べたものを消化ではなく再生する事が可能である。

(暇つぶし程度に産み出してもらった能力が、こんなところで役に立つとは思わなかった)

 ちなみに、新生されたものは『無限』の影響を受けて力が最大まで増加するのだが、その反動で自壊するというデメリットが存在する。

 生命で試した事はなかったので、今までそれが生命にも適応するのは分からなかったのだが、どうやら生物にも適応される様である。

「なるほどな。違和感の正体はそのせいか。力が有り余ってしょうがない」

 俺の神器(セイクリッド・ギア)の能力は使用者の能力強化ではあるものの、その原動力は外部――世界の悪意に依存するので、俺自身の能力値(パラメータ)は普通の人間と遜色(そんしょく)ないほどに低い。

 それが残滓(ざんし)とはいえオーフィスの『無限』によって強化されているのだから、俺としてはかつてない感覚に戸惑(とまど)うばかりである。

 

「この肉体には追々(おいおい)慣らしていくとして……――そういえば、イッセーはどこだ?」

 ここに来てようやく他人に気が回るようになった。

 もしこれであいつが居ないとなったら、俺はどうなるのか分かったもんじゃない。

「あっち」

 オーフィスが指を差した方を見ると、赤い鎧が転がっており、その近くには(まゆ)の様なものがあった。

「オーフィス、あれは?」

 その繭を指差して聞いてみると、イッセーの肉体はあそこで新生されているのだという。

 オーフィスの力が一部使われているようだが……まあ、イッセーなので万歩譲って良しとしよう。

 

 現状を把握したところで、俺は大きな悩みが生まれた。

「ここからどうしようか?」

 今までオーフィスの奪還を目指してきたので、いざそれが叶ってみると何をしていいのかが分からなくなる。

(それにオーフィスを抱きしめていると世界の全てがどうでも良くなるし。はふぅ……)

「帰るにしてもイッセーを置いては行けないし、かと言って通信が届くわけもないので、安否を伝える事もできない。イッセーが起きるのを待つしかないな」

 それまではオーフィスを存分に堪能しよう。モフモフ。

 


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