「あ~かの龍ーの、背にー乗ぉって~」
「何で唐突に歌いだしたんだよ」
次元の狭間の抜け出る際、急に歌いだした朧に一誠が尋ねる。
「現実逃避するには歌うのが一番。といっても、俺が知っているのは主に童謡なのだが」
そう言った朧はふと何かを思い出して手を打った。
「そうそう、この前お前が死んだ時も歌ってたな。今にして思えばあれが転機だったな。あの時は八方塞がりで面倒になったから、色々まとめて壊滅させようかなんて思ってたけど」
あの時の朧は色々追い詰められていて、あの時殺人現場に遭遇してなかったら色々と危なかったかもしれない――世界が。
「だからイッセー、お前の死は無駄ではなかったと、今更ながらよく分からん慰めをしておこう」
「死んだけど今は生きてるから! それに本当に今更だな!」
もう半年になろうかというタイミングである。
「今思った事だからな。さて、ここは一体どこなのか……」
朧が辺りを見回すと、遥か後方に冥界の都市が見え、前方にはグレートレッドよりも大きな生物を無作為に取り込んだような魔獣がいた。その周りには強力な魔力を発する悪魔たち。
「うわ、何あれ。作った奴の美的センスを疑うわー」
「いや、そうじゃねえだろ! あれ、シャルバの奴が創り出したアンチモンスターだ!」
「ああ、道理で生理的に受け入れられないわけだ」
朧は死んだからといって、相手に対しての態度を一切変えるつもりはない。嫌いな相手に対しては特にである。
「ところでイッセー、さっきからウワンワン
一誠には何故蝿なだけにかは分からなかったが、そこで一誠はとてつもない違和感を覚えた。
「なあ、朧。俺たちがさっきまで居たのは次元の狭間だよな?」
「何を当たり前の事を言っている。それとももう
「いや、そうじゃねえよ! そんな所に虫なんかいるのか? って話だよ!」
そこまで聞いた朧の行動は早く、すぐにオーフィスと一誠を巻き込まないように配慮して周囲へと攻撃性のオーラを撒き散らす。
その何も壊さなかった破壊の嵐を抜けて、一匹の蝿が巨大な魔獣――『
「くそっ! イッセー、あれ潰せ!」
「何なんだよあれ?」
魔力を高めながら問いかけるイッセーに、朧は
「あれはシャルバの死に残り! 残留思念を宿したシャルバの召喚した蝿の一匹だ!――多分!」
「多分かよ!?」
だが、イッセーもドラゴンショットで蝿を撃ち落としにかかる。それが些細な可能性であっても、二人はシャルバを生かしてはおけない。奴はそれだけの事をしでかした。
残念な事に二人の攻撃は空を切り、蝿は
「くそっ! 逃がしたか……!」
『……なんだと? それは本気で言ってるのか?』
朧が歯噛みする側で、ドライグがいきなり言葉を発した。
「何だドライグ、誰と話して……まさか、電波?」
朧がドライグ(同時に一誠)から一歩距離を取る。
『……グレートレッドだ。あれが気に食わないから倒せと言っている。無論、手を貸してくれるそうだ』
「おお……同士よ。始めてグレートレッドと気が合ったぜ」
遭遇二度目なので不思議ではない。ただ、一度目の状態から考えると変なことではあるのだが、朧が変なのは今更なので言うほどの事でもない。ちなみに朧はオーフィスに敵対しなければ大抵の相手とは仲良くなれる。
「で、手を貸してくれるって具体的にはどういう? 口からビームとか出してくれるん?」
「ちょっと待ってくれ。グレイフィアさんたちが束になっても倒せないような相手に手を貸されても勝てねえよ!」
一誠がそういうのも無理はない。
今
「大丈夫、ドライグとグレートレッドと合体すればいい。今のドライグの体、ある意味で真龍と同じ。合体できる」
それに過剰反応したのは朧であった。
「合体! 男の夢だねぇ!」
「俺、こんなドラゴンと合体したくねえよ!」
ちなみに朧の合体に含むところはない。なお、一誠にはある。
そこで朧は更なる事実に気付いた。
「はっ、もしや、この理論を適応すれば俺とオーフィスが合体できるということに……?」
「できる」
オーフィスの肯定を受けて、朧がガッツポーズを取る。
「それじゃ行くぞイッセー、合体だ!」
「いや、俺まだやるとは言ってないからな!?」
何故か過去最大級までテンションが跳ね上がっている朧に、一誠はついて行けないでいる。オーフィスは叩いて止めるかどうかを思案中だ。
「嫌なのか? だが諦めろ。好きな四字熟語は問答無用な俺だ! それに、特撮とは違ってあちらさんも黙って待っててはくれないぞ?」
朧が指差す方では、シャルバの残留思念の乗った蝿と
「――というわけで、オーフィス、グレートレッド、ゴー!」
その直後、朧とオーフィスは黒いオーラ、一誠とグレートレッドは赤い光に包まれた。