ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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神速の剣戟

 ――ギャキン

 

 ジャンヌとヘラクレスに振るわれた刃は、途中で金属音を(ともな)って止められた。

「おや、木場くんいつ来たの? さっきまでいなかったよな?」

 朧の一閃を止めたのは木場だった。

「それはこっちが聞きたいよ。なんで彼らを狙ったんだい?」

「え、このままだとこいつら悪魔たちにパクられて機密漏洩……しても問題ないな、うん」

 よくよく思い返して見れば、『禍の団(カオス・ブリゲード)』と縁を切られていた朧には、もう『禍の団(カオス・ブリゲード)』がどうなろうが知ったことではなかった。

 そこに思い至った朧はジャンヌとヘラクレスに向けた殺気を引っ込める。

「えっと……なら、次は――うん、それ(・・)かな」

 一度は消えた朧の殺気が再び向けられたのは、先ほど朧の一撃を止めた木場。正確には彼の持つ魔剣だった。

 自分に向けられた殺気を感じ取った木場は、その直後に一瞬で数度振るわれた刃をは持ち前の速度で躱し、または魔剣で弾く。

「――今度はどういうつもりかな?」

「それはグラムだろ? つまり龍殺し(ドラゴンスレイヤー)だ。つまりオーフィスの害になる。だから折る」

 朧から刃が届かない位置まで距離をとった木場が問いかけると、朧はそれにオーフィスありきの三段論法で答える。ここまで来るといっそ清々しいが、押し付けられる側として堪ったものではない。

「で、折らせてくれない?」

 それに対する木場は首を横に振る。その意味は否を示す。

「そう。なら――」

 朧は理由を訊かず、木場との間に開いた距離を詰める。

「力尽くで、折らせてもらう」

 言葉より早く刃が木場に届き、魔帝剣(グラム)を、ひいてはそれを持つ木場の腕を切断しようと奔る。

 それを木場は朧の剣速に負けぬ速さでグラムを振るい、攻撃を弾き、避け、反撃する。

「くっ……」

 木場は思わず声を漏らす。

 朧の攻撃のためではない。今自分が握っているグラムに力を吸われたからだ。

「魔剣の代償か? でも容赦しない」

 できた明白(あからさま)な隙を見逃す朧でも霞桜でもなく、全身から力が抜けたところに無数の斬撃が襲いかかり、木場の手からグラムを弾き飛ばした。

「あ、攻撃止まらないから、防ぐか避けるかしてくれ」

 霞桜が妖刀であるが故に、追撃が放たれるのを朧は止められず、閃く凶刃が木場を襲う。

「――騎士団よ!」

 木場は聖剣を手元に創り出すと、『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の禁手化(バランス・ブレイク)、『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』によって生み出された龍騎士団を身代わりにする。

「おっ」

 朧は少し意外そうな声を出す。朧がこれを見るのは三度目だったが、間近で見るのは初めてである。

 そしてそれよりも驚くべきは、その鎧の継ぎ目を正確に捉え、部分ごとに分割した霞桜の動きであった。

 これには朧も驚く始末である。

「……驚いた。霞桜に合戦経験があるからか、それとも以前の所持者が優秀だったのか……どちらにせよ俺より優秀だな」

 朧は少なからず落ち込み、弾いたグラムに向けて跳躍した。

 しかしその行く手を、突如現れた氷の壁が遮った。

「氷の聖魔剣……? いや、ダインスレイブか」

 氷が出現する一瞬前に発せられたオーラを感じ取った朧は氷の壁を作った正体を看破し、氷の壁に地面に対して約60°の角度で直立する。

「んーと、俺がこの状況で言うのも何だけど、あんまり魔剣は使わないほうがいいぞ。寿命その他諸々減るぜ?」

 その忠告は尤もであるが、そもそもそれを使うに至った原因が言うことではない。

「ご忠告、痛み入るよ」

 その言い分に感じるところがあったのか、木場は素直に同意してダインスレイブを鞘に戻そうとした。

「しかもそれぞれに呪いがあってな? ダインスレイブは抜いたら血を見るまで(・・・・・・・・・・)鞘に納まらない(・・・・・・・)そうだ」

 その言葉の通り、木場が納めようとしたダインスレイブは鞘には納まらず、むしろ弾かれるように朧へと剣先が向いた。

「そんなの五本所有するのは、正直言って大分苦労するぜ? だから、グラムは手放してくれないかな?」

 諦めの悪い朧は再び木場に勧告するが、それに木場は応じなかった。

 それを見た朧はグラムを拾うために氷山を登ろうとして、その足元に大穴が穿たれる。ダインスレイブとは逆の手で抜き放たれたバルムンクによる一撃である。

 朧は足場を失い落下し、霞桜を握る右腕以外の腕を着いて着地する。

「こ……のっ! 魔剣使うと貴様が創るのとは違って代償があるって言って……」

 高所から落とされて最初は怒り気味だった朧の語気は次第に尻すぼみになる。

 朧が目にしたのはそれぞれ一本の魔剣を携えた龍騎士たちだった。

「え、それでも使えるの?」

 その光景を見た朧は現実逃避気味に(あえ)てからの疑問をぶつけてみた。

創造(クリエイト)系の神器(セイクリッド・ギア)ってさ、質量保存の法則無視してると思わない?」

「……超常の存在が言うことじゃないね」

 朧のお前が言うなと思う発言に、木場が苦笑する。

「いやいや、最近までの俺は割りと常識内の存在よ? 神器(セイクリッド・ギア)は一々構造を把握してから創ってたし、魔法だって緻密(ちみつ)な計算の上に成り立つ現象ですし?」

 その二つが前提からして超常の存在であることは頭から抜け落ちている。

「それでコキュートスから脱出できるというのは逆に異常なことだと思うけどね」

「おっと、返す言葉も無い……なっ!」

 会話の途中で四方から襲い来る龍の騎士たちに向けて、霞桜が自動で迎撃する。

 木場と同等の神速の動きを見せる騎士たちに対して、初めは互角に切り結んでいた朧だったが、途中で木場も加わったことで次第に手数で押されていく。

「今までは得物が貧弱だったから然程驚異でもなかったけど、こうなると厄介だな……! 俺からしたら防御の弱さよりもそっちの方が弱点だったよ!」

「僕としては余り嬉しくないけど、褒め言葉として受け取っておくよ……」

 自前の聖魔剣を霞桜に一刀両断された木場が苦笑して呟く。

「でも、いつまでもこうしていても(らち)が明かないな……そろそろ勝負!」

 朧は霞桜を両手で持ち、今まで独りでに動くのに任せるのではなく、自分の意思で横薙ぎに、全周を切り払うように振り切った。

 朧のオーラを受けて黒く染まった刃は魔剣を避けて、それを持つ龍騎士たちをまとめて両断し、更に背後に(そび)える氷塊まで両断した。

「あ……」

 その結果、氷塊の切り離された上端が朧と、その周囲の龍騎士の残骸の上に落下した。

「ぬ……!」

 朧はそれを何とかして受け止めようとしたが、魔剣の力によって作り出された氷の密度は高く、かなりの重量を持っていたため、敢え無く押し潰されるかと思われた。

「せあっ……!」

 だが、その巨大な氷塊を朧は拳一つで打ち砕く。

 しかし、その拳はただの拳ではなく、黒い黒曜石のような(ウロコ)に覆われた、ドラゴンの腕だった。

「思わずやったけど出来るもんだな……イッセーに伝言! ドライグはお前の体を治して疲れているからしばらく休眠状態になると思うよ!――それじゃ()らば!」

 

 氷塊が巻き起こした砂埃に紛れて、朧は姿を消していた。

 砂埃が晴れた跡には、氷塊に混じって四本の魔剣が落ちていた。

「くっ……!」

 まんまと魔剣を持って行かれたことに歯噛みする木場。

「あら? 祐斗、これグラムじゃないかしら?」

 氷塊の中にある一本の魔剣を見たリアスがそういうと、木場はその魔剣を拾い上げて確かめる。

「……間違いありません。グラムです」

「と、いう事は……」

 

「持ってくる魔剣間違えたー! しかもこれダインスレイブじゃん! 鞘は元から持ってきてないけどこれどうしまえばいいの!? どうしまえばいいの!?」

 

 どこか遠くで朧の叫びが聞こえた気がした。

 

「これ一体どうすれば――」

「うるさい」

「がはっ!」

 そしてその叫びは戦っている時もずっと背中に背負っていたオーフィスによって中断させられた。

 


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