婚約者
最近、部長の様子がおかしい。
何をどう言って良いのか分からないが……そう、例えるならマリッジブルー……は無いな。
そんな事を思いながら部室の扉を開けると、そこにはメイドが居た。
それには若干驚いたが、そんな事よりももっと気にするべき事があった。
(部室の雰囲気が悪い! それに、いつにも増して部屋が暗く感じる!)
俺は部屋の隅に居る小猫に近寄って何事かを尋ねた。
しかし、それに対する答えは「待っていれば分かります」という素っ気の無いものだった。
そのまま隅でじっと待っていると、イッセー達二年生三人がやって来た。
それを確認した部長が口を開く。
「みんな集まったわね。今日は部活を始める前にみんなに話があるわ」
「お嬢様、私お話しましょうか?」
メイドの申し出を部長は手を振って断る。
「実はね――」
部長が口を開いた瞬間、床に描かれた魔方陣が光りだす。
魔方陣は普段のグレモリーの物から、その文様を別の物へ変えていた。
「――フェニックス」
木場の口から漏れた言葉は、変化した文様が何処の文様なのかを告げていた。
魔方陣から炎が立ち上る。
それを見た俺は
それは炎の中から現れた赤いスーツの男にかかった。
(あっ……)
「部長、急用を思い出したので帰ってよろしいでしょうか?」
怒りに震える男を見て、俺は抜けぬけと言った。
「駄目に決まってるでしょう?」
「ですよねー」
(というか部長、少し笑ってません?)
「おい、リアス! こいつは一体誰だ!」
ここで先程まで怒りに震えていた赤いスーツの男が部長に食ってかかる。
スーツが既に乾いているのは魔力によるものだろうか?
「彼は
「えーと……先程はすみませんでした。いきなり炎が吹き出たので気が動転してしまい、この様な事に。ええと……」
目の前の男の名前が分からなかったため、言葉を詰まらせる。そこにメイドさんからフォローが入る。
「この方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔であるフェニックス家の三男であり、リアスお嬢様の婚約者でもあります」
「え、ええええええええええええええええええええッッ!」
その言葉を聞き、相手の立場を理解すると同時に、イッセーはとてつもない大声を上げた。
目の前では部長とライザーがベタベタ――訂正、ライザーが部長をベタベタ触っており、イッセーがムカムカデレデレしてる。妄想は良いけど少しは隠して欲しい。
「いい加減にしてちょうだい!」
ついに部長がキレたのか、ライザーに対して
そこからは血縁がどーの、お家断絶がこーの。悪魔の未来がなんとか話しているが、俺は悪魔ではないので聞き流す。
それで結局、レーティングゲームとやらで決着を着ける事になった。
「リアス。ここにいる
眷属を大事にする部長に対してそんな事を言うとは……両親は本気で結婚を考え直した方がいい。幸せな家族とか見えない。なにより生まれてくる子供が可哀想だ。
「だとしたらどうなの?」
「これじゃ、キミの『
そう言いながらライザーが指を鳴らすと、部室の魔方陣が光り、総勢15人の悪魔が現れた。
しかも全員女性で、誰も彼も容姿端麗。
(それはどうでもいいが、別にこいつらそこまで強くなくね?)
イッセーを除けば同じクラスならどっこいどっこいだろう。ただしアーシアは除く。彼女は回復役だから戦闘力は考える必要は無い。回復能力は世界規模でも上の方だし。
あ、イッセーが泣き出した。
「お、おい、リアス……。この下僕くん、俺を見て大号泣してるんだが」
流石にライザーも引いており、そんなライザーに部長は額に手を当てながら話す。
「その子の夢はハーレムなの。きっとライザーの下僕悪魔達を見て感動したんだと思うわ」
(イッセー……今から敵になる相手を
そんなんだから「きもい」って言われてキス見せつけられて下僕悪魔の一人に吹き飛ばされるんだよ。
「弱いな、お前」
アーシアに治療されてるイッセーにライザーが近寄り、嘲りの声をかける。
「お前さっき戦ったミラは俺の下僕の中では一番弱いが、少なくともお前よりも実戦経験も悪魔としての質も上だ」
(悪魔に転生してから一ヶ月程度しか経ってない奴に戦闘経験の話してもな……)
それに戦闘経験の有無とか全く褒められたことではないし。
ライザーはイッセーの
「確かにこいつは凶悪で最強無敵の
「単に殺す意味が無いだけだろ」
「何だと……?」
おっと、つい口を挟んでしまった。まあいい、仕方ないので続けさせてもらおう。
「
(いや、魔王は死んだんだっけか?)
「つまり……貴様はこう言いたいのか?『神や魔王は、人間に見逃されているから今まで生きてこれた』と」
「まさか。そこまでいう気はない。しかし、人間が本気で神や魔王を殺そうと思ったら、ただでは済まないぞ?」
「ほざいたな! 人間如きが!」
「人間舐めんなよ絶滅危惧種……!」
「お二人共、お止めください」
俺とライザーは一触即発な雰囲気になったが、それを止めたのはメイドのグレイフィアさんだった。
彼女の顔に免じて許してやろう。というよりは彼女は敵に回したくない。一体一なら敗戦必至だから。
その代わりに一つの提案をした。
「おい、焼き鳥。俺を今回のレーティングゲームに参加させろ」
「何だと? レーティングゲームは悪魔しか参加できないと知って言っているのか?」
「転生してるしてない程度でうだうだ言うなよ。ハンデにはちょうど良いだろ? まさか確実に勝てる勝負しかしないなんて言わないよな? まあ、問題があるなら使い魔扱いでもいいぞ」
「非公式のゲームですから、参加するのには問題有りませんが……ライザー様、どうされますか?」
「……良いだろう。こいつはゲームで叩き潰してやる。――リアス、ゲームは十日後にしよう。それだけあればキミなら下僕をなんとかできるだろう」
そう言った後、ライザーは手を下へ向け魔法陣を発光させる。
その後、イッセーの方を向いて、こう言った。
「リアスに恥をかかせるなよ、リアスの『
それは間違いなく、部長の事を考えての一言であったのだろう。
「リアス、次はゲームで会おう」
そう言って、ライザーとその眷属は魔方陣の光の中へ消え去った。