ハイスクールD×D Dragon×Dark   作:夜の魔王

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箸休め的な、気分転換的な、忘れないためのような、そんな感じで書いた短編番外。


黒白激突

「何でこんな事になった?」

 多種多様な存在に囲まれた闘技場で、朧はやる気満々なヴァーリと向き合っていた。

(それもこれも、みんな曹操のせいだ。あいつ、人をヴァーリの戦力把握のための当て馬にしやがって……!)

 しかも嫌われ者の自分を指名して断れないようにする手回しを朧はとても苦手に思っていた。

 

「さあ、始めようか」

「心から嫌だ」

 やる気満々なヴァーリに対して、朧は戦う気を欠片も見せなかった。

 しかしヴァーリはそんな朧の態度に頓着せずに、臨戦態勢を取る。

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!』

 ヴァーリの全身が白の鎧に包まれ、目にも止まらぬ神速の勢いで朧に迫る。

「ふっ――」

 朧は軽く呼気を吐いて軽く跳躍。その直下をヴァーリの攻撃が通る。

「危ない……なっ!」

 朧は指の間にナイフのような黒い物体を創り出すと、腕を振ってヴァーリへと飛ばす。

 中々の速さで放たれた黒い刃は白い鎧を捉えるも、敢え無く弾かれる。

「やっぱりこんな小技じゃ無理か」

 分かりきった結果に朧は驚くこともなく、右手に先より大きな刃を創り始め、左腕で魔方陣を描く。

 だが、ヴァーリもそれを黙って見ているわけではない。生まれ持った強大な魔力を無造作に放つ。

 防御も回避も難しい大きさと速さで放たれた魔力の塊を見て、朧は右腕の刃も左腕の魔方陣も動かさず、足元を軽く叩いて出現させた魔方陣で転移する。

 直後、ヴァーリの放った魔力弾は、観客に対する防壁であり、二人にとっての檻である結界に当たって大爆発する。

 結界の向こう側に響くほどの大爆発と大音量の中、ヴァーリは朧の姿を探した。

 そのヴァーリの視界が僅かに(かげ)る。

「上か!」

 見上げて見つけた黒いシルエットに、ヴァーリは間髪を容れずに魔力をぶつける。

 今度の一撃は命中し、その黒いシルエットを弾け飛ばした。

「偽物か!」

『後ろだ!』

 ヴァーリは自分に宿るもう一つの存在――『白龍皇』アルビオンの声に従い後ろを向くと、朧が左の魔方陣をこちらに向け、右腕を引いた姿勢で落下していた。

「――()、焼け」

 掛け声とともにまずは左腕の魔方陣から赤い炎が吹き出す。

 しかしヴァーリの纏う鎧はドラゴンの力からできている。たかが数百度の炎ではヴァーリは傷つけられない。

 身動きもせずに炎に耐えていたヴァーリ。しかし、その視界は一瞬だけ火炎で塞がれる。それが朧の狙いであった。

「せ……やっ!」

 複数本の黒の刃が視界を塞ぐ炎の幕を抜けてヴァーリに殺到する。

 眼球を始めとして急所に容赦なく放たれた剣先を、ヴァーリは全身から放出した魔力で吹き飛ばす。

「何……?」

 周囲の炎もまとめて吹き飛ばしたヴァーリの瞳に映ったのは、5メートルはある漆黒の大剣を構えた朧だった。

「せーのっ!」

 朧は掛け声と共に大剣を思い切り振り下ろした。

Half(ハーフ) Dimension(ディメンション)!!』

 ヴァーリが大剣に向けて手を向けると、大剣の長さ、厚さ、幅がどんどんと半分になっていった。

 自分が持っている大剣の体積が当初の半分未満になった段階で朧は大剣から手を離し、両手から黒い(もや)を出しながら半球状の結界を足場に、ヴァーリと同じ高さで走り始めた。

 ヴァーリは朧に対して魔力を散弾のようにして放つが、朧は右へ左へ――高さ的には上に下に――移動して回避する。

 空は飛べないというのに、何とも器用な事である。

「結束」

 そして朧が何周にも回った後に残された霞が無数にして一つの形を成す。無数の鉄の環が連なってできた鎖。

 左右の腕を引くと、鎖の輪が腕で引いた勢いとは思えないほど一気に狭まる。

 ヴァーリはとっさにさっき使った半減の力を発動しかけたが、そうすると鎖の輪が縮まるだけと考えて取りやめる。

 輪が締まり切る寸前にヴァーリが飛び上がり、鎖は何も捕らえられず空中で(わだかま)る。 

「まだまだ!」

 朧か左右の両手を合わせ、鎖を鞭のように振るう。

 しかし鎖が長すぎるため軌道は大振りで、ヴァーリはそれをいとも簡単に簡単にかわして朧へと迫る。

 自身との距離が数メートルを切った段階で鎖を廃棄、黒の双剣を創りだす。

 黒の剣と白の拳が激突し、火花を散らす。

「触れた相手の力を十秒毎に半分にして吸収する白龍皇の力……それ、思うんだけど――」

 ぶつかり合う剣とは逆の剣がヴァーリの頭部に突きつけられる。

「――(らい)

 その剣先に魔方陣が展開し、雷がヴァーリを打ち据える。

「ぐっ……!」

「当たらなきゃどうって事ない能力だな」

 突き出していた剣をそのまま前に突き出し、ヴァーリの頭部を打ち付ける。

 朧の攻撃はそれだけに留まらず、側転する動きの中、宙に浮かぶヴァーリの首に足を引っ掛け、地面目掛けて叩きつけた。

 そしてとどめとして、全体重を乗せたかかと落としがヴァーリの頭部に振り下ろされる。

 ギロチンのような勢いで振り下ろされた足を、ヴァーリの腕ががっしりと掴む。

「ふふふ……」

Divide(ディバイド)!』

 思わず溢れ出たような笑いに怖気を感じて、朧は足を掴んだ手を振り払って後ろに飛び退く。その足から力が抜け、ガクリと膝を着く。

「白龍皇の半減の力か……!」

 朧は歯噛みして、自分の神器(セイクリッド・ギア)の出力を最大に上げ、一度に創れるだけの武器を創出する。

 しかし力を半分にされたせいか、普段よりも創れる数は少なかった。

(これ以上力を減らされる前に潰す!)

 朧は創り出した武器を手当たり次第に投げつけた。

 しかし、ヴァーリはそれを拳でいとも容易く弾き飛ばす。魔法を絡めても結果は同じだった。

『Divide!』

 更に力が減じ、朧は自分の勝機が失われつつあることを察した。

 攻撃力を自分の力に()る直接攻撃と魔法の使用を止め、影内の異空間に詰め込んだ銃火器類に切り替える。

 手始めに拳銃(ハンドガン)をヴァーリに向けて発砲。しかし、拳銃から放たれた44口径の弾丸はヴァーリの鎧に弾かれる。

 効かないのを確認した瞬間で拳銃を手放し、代わりに重機関銃(ヘビーマシンガン)を影から引き抜き、地面に設置すると同時に連射を開始する。

 先の射撃よりも一発の威力が高く、秒間発砲数は桁が違う。ヴァーリの体を鎧ごと叩く。

 ちなみに、異形の者は余り銃器を使わない。そもそもの入手が難しいのもあるが、異能の力と機械系は相性が悪いのだ。

 そして何より、彼らは自分の力に自負(プライド)を持っており、道具に頼るという事はあまりしない。

 しかし朧にそんなこだわりはなく、使えるモノ(・・)は何でも使う。

 神器(セイクリッド・ギア)を、剣を、魔法を、銃を、知略を、策謀を、全てを余すことなく使う。使い捨てる。

 例えばこんなモノまで――

8.8 cm高射砲(アハト・アハト)――!」

 高速で飛翔するヴァーリに向けて放たれ続け、ついに残弾が尽きた重機関銃を打ち捨て、かつて人間の戦争に使われた兵器まで持ち出してきた。

 決して人に対して向けられるものでは無いその銃口をヴァーリに向ける。すでに手合わせであるという事実は吹き飛んでいる。

 ただの弾丸に込められる魔力を感じて、ヴァーリは鎧の中でニヤリと口の端を釣り上げる。そして自身の魔力を拳に集中させる。

 ヴァーリは人間の作った兵器と、それを操る朧に真っ向勝負を挑んだ。それを感じて、朧は自分に残されたほぼ全ての魔力を弾丸と共に銃口に詰める。

発射(ファイア)――!」

「はあ――!」

 引き金(トリガー)が引かれ、火薬が爆発し、鋼鉄の弾丸が黒の魔力を纏いて音速を超えてヴァーリに向けて飛翔した。

 ヴァーリはその弾丸を見据え、自身の魔力に加えて奪った朧の魔力を乗せた拳をぶつける。

 二つの物体は激突すると金属音と共に衝撃波を撒き散らし、銃弾は砕けてヴァーリの鎧も破損する。

 そこに続けて殺到するただの弾丸。その追撃をヴァーリは鎧を幾度も砕かれながらも避けて朧へ迫る。

 神速の勢いで迫るヴァーリを銃口は追随できず、そして避ける力もほとんど残っていない朧はその身に拳を受けて吹き飛んだ。

 朧は腹部に響く鈍痛を堪えて立ち上がる。それだけの行動が今の朧には億劫(おっくう)だった。

Divi(ディバイ)――』

「それはいい加減に聞き飽きた」

 外傷こそ少ないものの、自身に残された力は少ない朧が気怠(けだる)げに腕を振るうと、ヴァーリの光翼が発する音声が途切れた。

「何だと?」

 その予想だにしない事実に、ヴァーリは思わず戸惑いの声を上げる。

「その力が純粋に白龍皇の力なら手出しできなかったが、神器(セイクリッド・ギア)の機能に変換(コンバート)された力なら、俺はある程度妨害できる」

 彼自身の力はその白龍皇の力で半減されきって微小レベルまで落ち込んでいたが、神器(セイクリッド・ギア)を妨害したその力は彼の力に依らない力である。

 妨害したとは言え、その効果は僅かに一瞬。継続する半減の力を断ち切っただけである。

 つまり、今の白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)は常と変わらない機能を発揮できる。

「中々に面白くなってきた! 行くぞ、アルビオン!」

『力に振り回されないようにな、ヴァーリ!』

「分かっている! 我、目覚めるは――」

 『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』の予兆を察知して、朧は一瞬も躊躇う事なく伏せていた切り札を切った。

 朧が高めた回復途中の魔力に反応して、朧が仕掛けた仕掛け(トラップ)(あらわ)になる。

 結界の内部に縦横無尽に走る黒い線。朧が移動した位置に配置した力の埋没。

「こんな所で覇龍(ジャガーノート・ドライブ)なんてされても困るから――爆破」

 僅かな魔力が足元の黒の線に流れ込み、それを呼び水として埋没させていた魔力が一気に爆発した。

 その威力は並大抵のものではなく、内部に居るヴァーリ、自爆覚悟で発動させた朧に留まらず、結界を破壊して二人の戦いを観戦していた者たちをも巻き込んだ。

 

 

 

 

 

 結果として、ヴァーリを始め、二人の戦いを見物していた十数人の『禍の団(カオス・ブリゲード)』の幹部が怪我を負った。

 その原因になった張本人であり、ほとんど全ての力を失い爆心地の真っ只中にいたはずなのに全くの無傷だった朧はその結果、もとい被害を(もたら)した責任を取らせようとしたものは多く居たが、オーフィスと共に在る彼の弁舌に丸め込まれ、責任はそもそもの事の発端、曹操が取らされる事になった。

 


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