粗暴イレ×ほうきの小説です。
内容が歪みまくっている上に暴力描写も結構ありますのでお気を付けください。

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第1話

 私の目の前に座る、私にそっくりな彼女はくすりと笑いました、以前の私のような長い髪を靡かせて。

それは侮辱するような、小馬鹿にするような、無力な魔女を嘲るような笑いでした。

 何も出来ない癖に斜に構えて、達観したつもりになってる自分の姿はあまりにも憎たらしくて、私は気づかぬうちにナイフを握ってしまっていました。

 

私の握られたナイフを見て、彼女は挑発するような言葉を吐きました。

「ふふ、そんなに刺したければ刺したらどうですか?」

 ですが私はその挑発に乗ることはしませんでした。

正直言ってしまえば、なぜ挑発を我慢出来ていたのかはわかりません。

この時の私は頭が真っ白になるくらいに怒り狂っていました。

 

けれど我慢出来ていたのは、きっとここで挑発に乗ってしまったら私の中の何かが壊れてしまうと理性が歯止めをかけてくれていたのでしょう。

けれど、その理性の枷は無意味に終わってしまうことになりました。

 

「もしかして今回も動けないんですか? 魔女の癖して誰も救えない役立たずのイレイナさん?」

「ふっ―――ざけないでくださいっ!」

 そして気づけば、私は―――

 

 

 

 

 朝日の差し込むキッチンに立ったわたくしは、ぐつぐつと煮え立つシチューを一掬いし、口に含みました。

「ふむ、なかなか悪くない出来でございますね」

 

 わたくしは、未だ寝室で眠るイレイナさまの朝食を作っている最中なのでございました。

 あの国―――時計協ロストルフを訪れて以降、イレイナさまはすっかり全てに対しての活力を失ってしまい、切られてしまった髪を戻すこともしなければ、朝食の用意ですらわたくしに任せっぱなしなのです。

 

 今のイレイナさまは好きだったパンにすら興味を示さず、旅すらも惰性と化しています。

それでも辛うじて旅を続けているのも噂に聞いた『あなたの願いを叶える国』という物を目指しているからに過ぎません、その国に辿り着けば、きっと苦しみから解放されると信じているのでしょう。

 

……本当にイレイナさまは変わってしまわれました、以前のイレイナさまは旅に目的を見出すことはせず、ただあてどなくのらりくらりと旅をしてらっしゃったはずなのに。

とはいえ、だからといってわたくしのイレイナさまへの気持ちに一切の曇りなどありません、イレイナさまが傷の痛みに動けないのであればそれが治るまで看病するのもやぶさかではありません。

 

いえ……素直な言い方ではございませんね、こうやって四六時中世話を焼かせていただけるのはむしろ嬉しいくらいでなのでございます、持ち主にこれだけ必要としてもらえるわたくしは幸せ物です。

 

「いやああああああああああああ!」

わたくしが朝食の付け合わせのパンをナイフで切っていると、突然にイレイナさまの悲鳴が響きました。

その声にわたくしはいてもたってもいられず、キッチンを飛び出して寝室に向かいました。

 

「イレイナさま! 大丈夫でございますか!?」

 寝室のドアを開けると、イレイナさまは頭を抱えながら短い髪を振り回して泣いておりました。

 

「ごめんなさいごめんなさい……私は誰も救えなかった……エステルさん……」

イレイナさまは部屋に入って来たわたくしに目をやることもなく、ただ延々と独白を口にします。

 

ロストルフに住まう魔女への懺悔の言葉を、救えなかった後悔の言葉を。

 あの事件を激しく後悔しているイレイナさまは今でもあの時の事を夢に見ることがあるらしく、夢に見た日はこうなってしまうのです。

 

そしてこうなったイレイナさまはずっと同じことを呟くばかりで、食事も碌にとろうとしなくなってしまいます。

 なんとかイレイナさまを幻想から引き戻すべく、震えるイレイナさまを抱きしめ必死に呼びかけます。

 

「イレイナさま! あれは仕方が無かったことでございます! イレイナさまが気に病むことはございません!」

「エステルさん。やめてください、駄目です。こんな―――」

 しかし状況は悪化するばかり、イレイナさまはあの時の光景を幻視して存在しないエステルさんに手を伸ばしております。

 このまま戻ってこれなくなってしまうのではないか、そんな焦燥に襲われたわたくしはどうにかするべく、虚空を見るイレイナさまの目を覗き込み必死に呼びかけました。

 

「イレイナさま、だめです! それ以上行ってはいけません! イレイナさま! わたくしの目を見てください!」

 呼びかけの甲斐あってかイレイナさまの瞳孔が揺れ、わたくしの目を見てくださいました。

 

「ほう……き……さん? あれ……私は……」

「イレイナさま……よかった」

 しかし安心するのも束の間、途端にわたくしの瞳を覗くイレイナさまの目の色が変わったのです。

 

「ああああ! あなたのせいで! あああっ!」

 突然に怒りを滲ませるイレイナさま。

最初は何をおっしゃっているのかわかりませんでした、あなたのせいでと言われましても、わたくしには何かをした覚えはございませんでしたから。

 

 けれど程なくしてイレイナさんが何をおっしゃっているのか理解できました、どうやらイレイナさまは自分自身に、より正確に表すのであればわたくしの瞳に映ってしまった自分自身という存在に怒りを抱いているのでしょう。

 

「あああっ! その顔がっ、私を苦しませるんですっ!」

 イレイナさまはベットの上に落ちていたナイフを取ると自分自身の顔に突き立てようとします、わたくしが慌てて持ってきてしまっていたものです。

 

「待ってくださいませっ! イレイナさま、それだけは!」

 イレイナさまが自分自身を傷つけるのは見ていられません、ですからわたくしはイレイナさまの手首を掴んで阻止を試みます。

 

「止めないでくださいほうきさんっ! 私は私を許せないんですっ!」

 けれどイレイナさまも強情で、決してあきらめようといたしません。

 

「イレイナさま! どうか思い直してくださいませ!」

それからしばらくもみあいを続けた末、なんとかイレイナさまのナイフを降ろさせることに成功いたしました、しかし、だからといって何か解決したわけではございません。

「はぁ……はぁ……ほうきさん……なんで止めるんですか……」

「はっ、はあ……イレイナさまが自分自身を傷つけるのなんてみたくありませんから」

 

「……じゃあこの怒りを誰にぶつければいいんですか! 私は自分が憎くて堪らないんですよ!」

「……なら、わたくしにぶつけてくださいませ。わたくしはイレイナさまの全てを受け入れますから」

 

「出来る訳ないじゃないですか! ほうきさんは私の大事な人なんですから!」

「……わかりました、ならばわたくしでなければよいのですね?」

 わたくしの言葉にきょとんとするイレイナさま、わたくしはベットの横に置いてあった杖を取ってイレイナさまに渡して、耳打ちしました。

「わたくしに魔法をかけてくださいませ―――」

 

 

 

 それから数秒後、ベットの上には長い髪をしたイレイナさまが座っておりました。

 そして、短髪のイレイナさまがナイフを片手にそれを見下ろしておりました。

 とはいえ、もちろんイレイナさまが二人いるのではございません、わたくしがイレイナさまに髪の色を変える魔法をかけて貰ったのです。

 わたくしは髪の色以外は元々そっくりでしたから、髪の色さえ変えてしまえばわたくしはイレイナさまになってしまえるのです。

 

 今のわたくしだったらイレイナさまの鬱憤を受け止める事も叶うはずです。

 ですがイレイナさまは未だに躊躇があるのか、恐ろし気な表情でわたくしを見下ろしつつも手を出せていません。

 けれどもナイフを握る手が震えているのを見るに、効果は間違いなくあるのでしょう。

 ですから、最後の一押しをすることにしました。

 

「ふふ、そんなに刺したければ刺したらどうですか?」

その言葉にイレイナさまの肩が震えました、息も荒くなっています。

態度を見るに明らかに挑発は効いているようでございました、ならばと、決定的な一言を放り込むのでした。

それでイレイナさまが楽になってくれるのであれば、安い物でございます。

 

 

 

「ふふ、そんなに刺したければ刺したらどうですか? 魔女の癖して誰も救えない役立たずのイレイナさん?」

「ふっ―――ざけないでくださいっ!」

その言葉を口にした途端、言葉に出来ない感覚が腹部に走りました。

眼前には目の据わったイレイナさま、手には真っ赤に血濡れたナイフ。

 その刃の先を追って見れば、それはわたくしの右脇腹に突き立ち、真っ赤な血を啜っておりました。

 

「あっ……かはっ」

「あなたが! あなたが! 何も出来ないあなたは死ねばいいんです!」

 気づくと同時に気が狂ってしまいそうな激痛が走り、痛々しい圧迫感が込み上がってきました。

 

「ああ……うぐっう、痛いっ……あ、っく……」

 人の姿を得て初めて味わった感覚にわたくしは耐えきれず、痛みにうめき声を漏らしてしまいます。

イレイナさまをそんなわたくしを見下ろし、笑みを浮かべました。

きっとイレイナさまそっくりのわたくしが、顔を痛みに歪ませ苦痛に満ちた声をあげているのがそれ以上ない程に快感なのでしょう。

 

「ははは、ははははははは! 痛いですか? ねえ! 痛いですか!」

 イレイナさまはナイフをしっかりと握り、更に奥に押し込みました。

 途端に体を突き抜ける電撃のような痛み、何かが体の奥に侵入する感覚、炎に焼かれたように痛みがじわじわと、けれども激しく主張してきます。

 その腹部がちぎられてしまったかのような痛みに悲鳴を我慢することなど到底不可能でございました。

 

「あああああっっっ!!! ぐっ……あっ、いたいっ、いたいっ! あうっ、ううううっ!!!」

「ははははっははははっ! これがエステルさんの痛みなんですよ! 何もせずに見ているだけだったあなたにはわからないでしょうけど!」

 イレイナさまはナイフから手を離すと、杖を手に取って挑発するような声で、

 

「ねえ、叫んでないで顔をあげてくださいよ」

 わたくしは血が止まらない右脇腹を抑えつつ、イレイナさまの声に従い顔をあげました。

 するとイレイナさまわたくしに向かって杖を向けておられました。

 

「その顔が不愉快です、死んでください」

 わたくしの顔を凄まじい衝撃が襲いました、どうやら光弾のような物をぶつけられたようでございます。

 吹き飛ばされる形でわたくしは壁に頭を打ち、視界に血が滲みました。

 

どうやら頭皮を切ってしまったようでございます、顔の表面を血が伝う感覚と共にローブの胸元が赤く染まってゆきます。

 イレイナさまは動けなくなったわたくしの髪の毛を掴むと、それを無理やり引っ張って顔をあげさせ、笑いました。

 

「へえ、これくらいで動けなくなっちゃうんですか? 少なくともセレナさんは同じことをされて笑っていましたよ? あなたも笑ってみてくださいよ」

 私はイレイナさまの望みを叶えるべく笑おうとします、ですが喉から出る声は意思に反してうめき声にしかなりません。

 先程頭を打ってしまった影響でしょうか、意識が朧気になっていたのでございます。

 

「あ、あああ……ああぅ」

 呻く事しかできないわたくしにイレイナさまは声を荒げて、思いの丈をぶつけられました。

「ねえ、笑ってくださいよ! エステルさんは刺されても戦い続けていましたしセレナさんは笑ってたんですよ!! なのになんであなたは何もされてないのに笑う事も怒ることも動くことすら出来なかったんですか! ふざけないでください!」

 

 きっとそれはイレイナさまの抱える痛みそのものだったのでしょう、イレイナさまはどんなに言葉にしても収まらない激昂と共にわたくしをベットから叩き落しました。

 床に打ち付けられて息が詰まると同時に、刺さりっぱなしだったナイフがより深く刺さってから床に転がりました。

 

 その痛みは言葉に出来ない程のものでございました、そのあまりに痛みにわたくしは、ナイフという栓が抜けて形成された血の池の中心で絶叫してしまいました。

 しかし呼吸が上手くいっていないせいでそれは殆ど声にならなかったようで、喉から出るのは擦れた声だけでございました。

 

「あっく……っ! かっ……あっ……ぐぅぅぅっ! ごほっ……」

「あなたが不愉快なんですよっ! のうのうと暮らすばかりで何も出来なかったあなたが!」

 イレイナさまは左の脇腹の傷口を蹴り上げました、わたくし雷に打たれたかのような痛みに床をのたうち回ります。

 

「あがっ! あああっ! ぐぅああああっ!」

のたうち回るわたくしを次に襲ったのは顔への痛み、イレイナさまはわたくしの顔を踏みつけたのでした。

そして腹部に思いっきり踵を叩きつけたのでございます。

 

「うぎっ、ああああ!! ううううううう!」

「あなたにはわからないでしょう! あの国で誰一人として救えなかった私の無力感が!」

 イレイナさまの怒りを乗せた蹴りが、床に寝転がるわたくしの後頭部を直撃しました。

 頭に衝撃をくらってしまったからでしょうか、この時に意識が曖昧になってしまったのを覚えております。

 

 どんどん意識が曖昧になり始めたわたくしとは対照的にイレイナさまの怒りはより明確な物になり始めたようで、意識が沈みつつあるわたくしに馬乗りになって怒号と共にわたくしに拳を振り上げるたのでございます。

 

「達観したつもりになって澄まして旅をしているあなたは知らないでしょう! 目の前で愛情が憎悪に変わる瞬間を!」

 言葉と共にイレイナさまの拳が右頬を打ちました、嫌な音と共に硬い感触が口の中を跳ね、血の味が口内を埋め尽くします。

 

「誰かが、ついさっきまで愛しいと感じていた人間に殺意を向ける瞬間を!」

 その次には左頬に痛みの感覚、こちらもまた嫌な音が聞こえた気がしますがわたくしはよく憶えておりません。

この時既に意識が消えかかっていたわたくしは、ただ殴り続けるイレイナさまに対して呻きを返す人形と化していたものですから。

 

「あっぐっ! うぐぐぐああああ!! うぐっ、あっ!! あぐっ!!!」

 イレイナさまはそんなわたくしの反応を楽しんでいるようで、突然に高笑いをあげてもおかしくない程に口角を吊り上げて、ただ一心不乱に拳を振り上げておられます。

 

「ねえ! ほら! ねえ! 何か反論してくださいよ! 役立たずのイレイナさん!」

「ぐうっ、あっく! ぐぎっ! ああうああう!! ごほっ、あああっく!」

 

 わたくしが痛みを享受していると、ふと、拳が止まりました。

 不思議に思ったわたくしは覚束ない意識でイレイナさまを見やります。

 するとイレイナさまは静かにわたくしの首元に指を這わせておりました、そして何をするかは考えるまでもありませんでした。

 

「何も出来ない私なんていりません、もうあなたのことを見たくもありません。ですから」

イレイナさまの細い腕がわたくしの首の根を掴み、イレイナさまは歪んだ笑いを浮かべました。

 

「死んでください」

 それは今までに無い苦しみでした、痛みで言えば殴られていた時と比べるべくもございませんが、それとは違う苦しみがあるのでございます。

 明確に自らの命が失われていく恐怖と言えばいいのでしょうか、息苦しい閉塞感と暗くなっていく視界は明確に死を宣告しているようであまりに苦しかったのでございました。

 

「ぐっ……あっ……! ごほっ……かっはっ、ごほ……ぐっ……うえ……!」

「良い顔ですね! もっと苦しんでもっと苦しんでそのまま死んじゃってくださいよ!」

 ですが、一方でわたくしの心は喜びに弾んですらおりました。

なぜならイレイナさまが楽しそうだからです、顔に浮かべたのは歪んだ笑みではありますが、ここまで心地よさそうなイレイナさまは久しぶりなのでした。

 

 きっとこのわたくしの苦しみはイレイナさまの苦しみそのものなのです、だからわたくしが苦しんでいる分イレイナさまは気が晴れて楽になるはずでございます。

 実際、イレイナさまはわたくしが苦しめば苦しむほど、楽しそうに笑っておられます。

 

こんな形でわたくしが苦しみを引き受けられるのであれば、いくらでも引き受けましょう、それで死んでしまったとしてもイレイナさまが楽になってくれるのであれば構いません。

 

 そんな風にぼんやりと考えていると、一層イレイナさまの手に力が込められました。

 どうやら、そろそろ終わらせるつもりのようです。実際わたくしの体も限界のようで既に視界は殆ど見えなくりつつありました。

 

「さようなら、イレイナさん。のうのうと生きていたあなたにはお似合いの結末ですね」

 イレイナさまは心地よさそうに笑いました、その苦しみから解き放たれた清々しい表情はわたくしの記憶の最後を鮮烈に飾ることになったのでした。

 

 

 

「―――さん! ―――ほう―――ん! ―――ほ―――さん! 

 暗闇の中、誰かの声が聞こえました。

「―――ほう―――さん! ほうきさん!」

それはわたくしを呼ぶ声だったのです、わたくしはそれに釣られて瞼をあげました。

 

まず初めに目に入ったのは涙を限界まで貯めた瞳、その次に震える唇、今にも泣きそうな

イレイナさまがわたくしを見下ろしていたのです。

「イレイナさま……?」

 

 わたくしが返事を返すと、イレイナさまは涙をこぼしてわたくしを抱きしめました。

「ほうきさん! ほうきさんっ! ほうきっ……さんっ!」

 わたくしを抱きしめたイレイナさまの体は震えていて、わたくしを呼ぶ声は縋るようですらあります。

 わたくしはあまりに弱ってしまったイレイナさまを慰めるように優しく抱きしめ返しました。

 

「はい、あなたのほうきでございます。ところで、どうして泣いておられるのですか?」

「だって、だって! 私はほうきさんに酷い事をっ……!」

 その言葉でわたくしは現在の状況を思い出しました、わたくしはイレイナさまのふりをしてイレイナさまの怒りや鬱憤を引き受けたのです。

 

 そして死んでしまった……はずでしたが、こうやって抱きしめているイレイナさまの体温はあまりにも現実感に溢れておりますし、体の何処にも痛みはございません。

髪の色が元に戻ってしまっていることを考えるに、きっとわたくしが意識を失った後に魔法が解け、イレイナさまは痛めつけている相手が自分のうつしみではなく、わたくしであるということを思い出し、正気を取り戻して治療した――――きっとそんな顛末なのでしょう。

 

「ごめんなさい……ほうきさんっ……ごめんなさいっ!」

「いいのですよ、イレイナさま。わたくしはイレイナさまの道具でございます、どんな形であれイレイナさまに必要とされるのならばそれが幸せでございます」

 

 イレイナさまは肩を震わせ、涙交じりの声で感情を口にしました。

「私はもう、私が嫌いです……誰も救えず、ほうきさんにまで手を出してしまって」

「いいんです、いいのです……イレイナさまが救われるのなら」

 

 わたくしは赤子にするようにイレイナさまの背中を優しくなでながら、慰めます。

「やっぱり私、自分を殺したいです……今すぐにでも。セレナさんにも、エステルさんにも、ほうきさんにも贖罪しなければいけません」

 

「いいえ、あなたは悪くありません。それでももし、悪いと思うのであれば」

 わたくしはベットに転がっていた杖を取り、イレイナさまに握らせ、同じく転がっていたナイフの柄にイレイナさまの手を重ねました。

 

「いくらでもわたくしにぶつけてくださいませ、自分自身への怒りを、わたくしを傷つけてしまった悲しみを。わたくしは全て、全て受け止めますから」

 



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