縁を伝って、よじ登る   作:並木

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59話 三分間の闘い②

 

 デザーム、ゼル、マキュア、モール。

 イプシロンには四人の化身使いがいる。対し、雷門の化身使いは(かなえ)一人。

 

 「オレがアイツらに対処する! とりあえず、ボールを奪われないように、攻められないように……」

 

 「あはは、ダーメ♡ 本当単純ちゃんなんだからぁ……。ゼルゥ!」

 

 「ああ!」

 

 イプシロンのフォワード・マキュアがゼルに向かって、パスカットを許さない猛烈な威力でパス。

 叶は慌てて、マキュアの方に走っていたのを方向転換して、ゼルの元まで駆ける。

 

 叶の化身・慈悲の女神エリニュスと、ゼルの化身・鉄壁のギガドーンがぶつかった。

 

 「くっ……」

 

 「はぁ……っ!」

 

 化身同士の(つば)()()いはエリニュスの勝ち。

 しかし、化身の核となるようなところが多大に削られた。この調子で化身同士のバトルを続けたら、化身を維持することが危うい。

 

 「マキュア、アンタみたいな子が崩れる瞬間、だーいすき!」

 

 「は……っ!? 嘘だろ……!?」

 

 立て続けにマキュアが来た。

 不味い。叶は視界共有の相手を変更して、時折車酔いのような不快感を感じながら、パスコースを探る。

 

 「ダンシング……ゴーストぉっ!」

 

 「……っ、クソ!」

 

 叶がパスコースを見つける前に、マキュアの化身・魅惑のダラマンローズによるオフェンス技。

 霊的な気の塊が強固に巻き付いて、叶の体を締め付ける。

 

 叶はそれを、元の優れた肉体スペックと、さらにアームドした化身に物を言わせて無理やり剥がした。

 マキュアの足元のボールを、そのまま素早く持ち去る。

 

 「なんでぇ!? マキュア、アンタ大嫌い!」

 

 「よくやった! 阿里久(ありく)、ボールをこっちに回せ!」

 

 「ああ!」

 

 死守したボールを鬼道にパス。しばらくボールを持った後、イプシロンの精鋭たちに囲まれた鬼道は一之瀬にパスしようとし、

 

 「もらった!!」

 

 四人の化身使いの一人・ゼルにパスカットされた。

 円堂のいるゴールにゼルは向かう。シュートブロックの助けになるべく、叶はディフェンスに下がろうとした。

 

 「……ダメ。お前はここから動けない」

 

 「悔しそうなそっちの表情(かお)は、マキュア大好き!」

 

 「ぐっ……、クソっ!!」

 

 模造化身レプリカのモール。少し遅れて来たのが、魅惑のダラマンローズのマキュア。

 化身使い二人がかりに抑えられて、叶は安易に動けなくなってしまった。

 

 仮に強引に化身アタックしようとも、その後に待つのは余力を失ったことによる化身の消失。

 イプシロンのゴールを守るのもまた、化身使いのデザームである以上、極力化身は残しておきたい。

 

 それに、叶が彼女たちを引き付けておけば、イプシロンの化身使い半分の動きを防げる。

 

 「……はぁっ!!」

 

 「ひぃっ!」

 

 ゼルのノーマルシュート。ただし、化身の力をふんだんに込めたものだ。

 

 「うわあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ゼルの正面にいた木暮は、全速力でボールが追い付かないようゴール方面へと走る。木暮本人も驚く、今まで出したことのないスピードだ。

 

 「ザ・タ……早い!」

 

 「ザ・ウォー……キャプテン、すみません!」

 

 シュートブロックも間に合わないスピード。

 木暮はそれを見て涙目で逃げ続ける。

 

 「ひぃぃぃ……」

 

 「木暮! 何をしている!?」

 

 「無理! だってっ、あんなのに当たったら……うわぁ!」

 

 風丸の問いに集中力を乱し、両足を(もつ)れさせて転んだ木暮は、眼前に迫るボールに目を見開く。

 

 「ひぐぅっ、あっち行けよぉ!!」

 

 勢いに任せて頭を地面に付け、逆立ちすると、木暮は独楽(コマ)回しのように頭を軸に下半身をクルクル回す。

 

 「木暮くん……っ、いやぁっ!!」

 

 吹っ飛ばされる木暮を見て、春奈が痛々しい悲鳴をあげた。

 

 「彼……結構優れたディフェンダーかもしれないわね」

 

 木暮の動きにより威力の削れた──しかし、まだかなり強いシュートを見て、夏未が言った。

 

 「円堂くん……」

 

 秋は目を伏せて、円堂がシュートを止めることを祈った。

 

 「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 「円堂くん……!!」

 

 円堂の背中から、紫の気が現れ、人型を作り出し──

 

 「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 「はっ! 驚かせやがって……」

 

 霧散した。

 円堂はそのまま、その体ごとゴールに叩き込まれる。

 

 ホイッスルが短く鳴った。

 得点板には1-1の表示。残り時間は1分半ほど。

 

 「…………こんなヤツら相手に、本当に勝てるのか……?」

 

 「また負けるの……? 嫌だ……」

 

 風丸と吹雪が暗い顔つきで呟いた。

 小さな呟きだったが、周りに広がり、雷門全体に暗いムードを漂わせる。

 

 「まだだ! まだ試合は終わっちゃいない!」

 

 「ああ、残り90秒耐えればいいだけだ」

 

 「そうだぞ! 90秒くらいなら、息止めてるのも余裕だろ? すぐ終わるぞ! ちょっと踏ん張ればいいんだ!」

 

 円堂と鬼道に続いて叶も言った。

 

 「……無理じゃないけど、余裕でもないよね」

 

 「だよなぁ……」

 

 「……?」

 

 一之瀬と土門が話しているのを、叶はコイツら肺が悪いのか? と心配になって聞いた。

 

 「あ、あの……」

 

 「どうしたんだ木暮?」

 

 木暮がおずおずと、小さく手を上げる。

 

 「お、お、オレ……」

 

 木暮は怯えた表情で、期待に満ちた目線でベンチの栗松をチラリと見た。

 続けて、春奈と目を合わせてしまう。笑って木暮に手を振り、「頑張って!」と信頼を見せる彼女を見て、言おうとしていたことが喉から出ていかなくなってしまった。

 

 「……何でもない」

 

 「そうか? なあ木暮、さっきの動き凄かったぜ!」

 

 「ま、まあな……」

 

 円堂が褒めたのに対し、木暮は申し訳程度に胸を張って返事した。

 

 

 

 古株がホイッスルを吹いて、雷門ボールから試合は再開する。

 

 染岡が叶にボールを渡し、叶はイプシロンへ特攻した。

 残り90秒ならば化身を温存するより、相手の化身にとにかく攻撃しまくって、味方の負担を極力減らそうと考えてのことだ。

 

 「阿里久!」

 

 「パスしろ」という意味の鬼道の呼び掛けを、叶は名前を呼ばれただけと意図的に勘違いして無視した。

 

 「いただき! ダンシングゴースト!!」

 

 魅惑のダラマンローズのマキュアによる、化身ブロック技。

 霊的なエネルギーで構成された触手のようなものが叶に巻き付こうとする。

 

 「それはオレには効かねえぞ!!」

 

 叶は馬鹿力でそれを振り解く。

 

 「阿里久! ボールを回せ!!」

 

 鬼道が切羽詰まった様子で叫ぶ。

 叶の元に二人の化身使い──モールとゼルが迫っていたからだ。

 

 「え?」

 

 対抗するため、叶は慌ててアームドしている化身に向けて気を練り上げる。

 

 「通さない……」

 

 「こじ開けてやらぁ!」

 

 モールの化身・模造化身レプリカと、叶の化身・慈悲の女神エリニュスがぶつかる。

 

 「よし、これならまだいける……」

 

 魅惑のダラマンローズや鉄壁のギガドーンよりも遥かに弱い。叶は内心ほっとした。

 

 「これが貴様の最後だ!!」

 

 「お前らのな!」

 

 続けて、ゼルの化身・鉄壁のギガドーンとの競り合い。

 

 「……くっ!」

 

 一瞬の攻防に全てを賭けた両者は地面に膝をついた。

 パワーを使い果たしたゼルの鉄壁のギガドーンが揺らめき、消える。

 叶が鎧のようにして(まと)う、慈悲の女神エリニュスも同様に揺らめいて、何とか持ちこたえた。

 

 零れ球を吹雪が受け止め、歯を食い縛りながら足に力を入れてイプシロンのゴールへと向かう。

 

 「──鳥人ファルコ!!」

 

 そこに、異形の翼人の化身を出しながら、紫の髪の少年が忍び寄った。

 

 彼、メトロンは化身を発動すると、獰猛に笑って、吹雪からボールを奪う。

 

 「なっ……っ!?」

 

 「五人目だと!?」

 

 転んだ吹雪は脱け殻のように立ち上がらない。痛みではなく、戦う気力自体が薄れたような様子だった。

 

 叶はメトロンへと走る。彼のドリブルするボールに叶の足先が触れ、それを契機に化身同士がぶつかる。叶は満員電車で立つように踏ん張り、何とかエリニュスが消えないようにだけ集中した。

 

 「この試合、我らの勝利だ! 見ろ、貴様らのキーパーを!」

 

 勝利の喜色に(まみ)れた顔で、叶からボールをキープすることに成功したメトロンが宣言する。

 彼の視線の先にいる円堂は瞑想のごとく目を閉じ、手を胸に置いて、上体を緩やかに前へ傾けていた。

 

 「円堂は勝負を諦めてなんかいない!」

 

 「フッ……あの姿を見ても言うのか……」

 

 言い返した鬼道を、メトロンは嘲笑した。

 

 「守……! 畜生っ!!」

 

 今すぐ下がって、これ以上イプシロンからの猛攻を受けないように守ってやりたい。なのに、叶は動けない。

 メトロンが叶からボールを奪うと、叶が動けないうちに、すぐにモール、マキュア、ゼル──イプシロンの三人の化身使いが、叶の元へ迫り、彼女の動きを徹底的に封じてきたのだ。

 

 「キラースライド!」

 

 「無意味だ!」

 

 土門のブロックを破り、メトロンはゴールに近づく。

 

 「間もなく三分。我らはこの一撃をもって、試合を終了する」

 

 「ファルコウイング!」

 

 デザームの宣言に応えたメトロンの化身シュートが炸裂した。

 

 「ザ・タワー!! ……きゃあぁぁぁ!!!」

 

 「ザ・ウォール!! うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 塔子と壁山のブロック技は、シュートに触れただけで崩れ去る。

 木暮は目を大きく見開き、涙でいっぱいにして、逃げ場を探すように横を見て──

 

 「木暮くん……」

 

 彼の名を呼び、祈るように目を伏せる春奈を見て、首を小刻みに横に振る。

 

 「あーもう! こうなったらやってやる! おりゃあ!!」

 

 頭を下にして、足を振り回す木暮。

 ファルコウイングの威力には対抗しきれず、ボールに僅かに掠っただけで吹き飛ばされてしまった。

 

 そして、シュートは目を閉じたままの円堂の元へ向かう。

 

 イプシロンはもはや勝利を確信しきって、雷門は困惑と信頼と期待を煮詰めたように、ボールと円堂を見る。

 

 そして、シュートが目前に迫ったとき、不意に円堂が目を開いた。

 

 「うおぉぉおぉぉぉぉ!!! 魔神! グレイト!!」

 

 マジン・ザ・ハンドの魔神を、さらに何十倍も強く雄々しくしたような魔神が、円堂の背から現れた。

 

 土門、塔子、壁山、木暮。

 ボールを取れず、シュートの威力もろくに削れていないようだった四人のディフェンダーの行動は、無駄ではなかった。

 彼らが稼いだ僅かで、されど十分な時間が、円堂の全身に満足に気を行き渡らせ、化身を発動することを可能にしたのだから。

 

 「これが……」

 

 「円堂の化身か……」

 

 感慨深げに風丸と鬼道が呟く。

 

 「何っ……!? バカな! 古会(ふるえ)以外の化身使いなど聞いていないぞ!」

 

 「フン……面白い……」

 

 メトロンが叫び、デザームがしみじみと言う。

 

 「グレイト・ザ・ハンド!!」

 

 円堂が叫ぶ。

 黄金の魔神が片手を突き出すと、暫し拮抗した後に、その掌中へボールが収まった。

 

 「聞けぇ! 人間ども。我らは十日が(のち)にもう一度勝負をしてやろう。そして、宣言する」

 

 溜めて、デザームは言葉を続ける。

 

 「そのときには我々イプシロンも、古会の使うアームドという力を手にしているとな」

 

 「待て!」

 

 これからやることのため、ここで彼らに去られては困る。とにかくデザームたちへの時間稼ぎがしたくて、叶は思わず言った。

 

 「何だ?」

 

 「…………」

 

 用を考えていなかった。

 超能力によりデザームの脳にアクセスしながら、叶は適当に言葉を考える。

 

 「えっと、何でオレのこと古会っていうの?」

 

 「…………。我々エイリア学園にとって、貴様の父……古会(あらた)が深い意味を持つ存在であるからだ」

 

 「オレが? うわあ!?」

 

 インストール率百パーセント。

 サッカーを楽しむ気持ちをもう一度知りたい叶は、けれど万が一円堂の頭をおかしくするわけにもいかないから、デザームからその感情を読み取ることにした。

 

 サッカーを楽しむ思い。その思いを感じるに至ったデザームのこれまでの記憶。その全てを。

 幼少期から始まった彼の記憶は、悲劇こそあれど叶の印象には対して残らなかった。

 

 およそ五年前から始まった、エイリア石に魅入られた吉良星二郎が世界への復讐のために行った、本来彼が保護すべき子供たちへの人体実験。

 エイリア学園の宇宙人たち──ジェミニストームに対して、叶は相手は人間じゃないからいくら痛め付けても良いと思っていた──が本当はただの人間で、しかも叶と同年代。精神的には叶にとって、自分の子供くらいの年齢であったこと。

 イプシロンより上位ランクのチームが、まだ三つもあること。

 どういうわけかエイリア学園は叶の力を研究して、一部の子供たちに化身・模造化身レプリカを移植したこと。さらに一部の力を使いこなした者が、レプリカを真に自分の化身として昇華させたこと──叶の力が、日本を、照美の暮らす場所を余計に危機に至らしめていること。

 

 情報量が多すぎる。処理しきれない。

 それに、もしかしてオレは──

 

 「──存在しちゃ、いけなかったのか?」

 

 叶は頭を抑えてうずくまる。訳がわからない。

 

 「…………?」

 

 デザームは不思議そうな顔をし、次の瞬間、イプシロンはその場から消えた。

 

 「おい、大丈夫か!?」

 

 「頭が痛いの? 他は?」

 

 「わわ……腹でも壊したッスか?」

 

 風丸、塔子、壁山の順で心配そうに叶に向かって呼び掛ける。

 

 「なんで……孤児院の院長さんが……吉良のヤツ、どうしてこんなこと……? エイリア石とか、意味わかんねぇ……」

 

 下を向いてもごもごと話す叶の発言を、周りは意識が朦朧(もうろう)としている故に、支離滅裂なことを言っていると解釈した。

 

 「返事出来ないくらい辛いのかな? 壁山くん、お願い、どこか横になれる場所に運んであげて」

 

 「任せろッス! えっと……どこに……」

 

 秋に返事して、壁山は軽々と叶をおぶる。どこに運ぶべきか迷い、左右をキョロキョロと見回した。

 

 「ご案内します」

 

 「いえ、結構よ。壁山くん、阿里久さんをイナズマキャラバンまで運んでちょうだい」

 

 案内しようと立ち上がった漫遊寺のキャプテン・垣田(かきた)を制止し、瞳子は壁山に指示を出す。

 

 先程の叶の呟きの意味を、唯一正確に理解した瞳子には、叶に聞かなければならないことが山ほどあった。

 

 

 

 

 

 

 「……吹雪」

 

 叶を心配そうにしながらも、円堂の化身発現について喜ぶチームの輪から、いい頃合いを見て染岡は抜ける。

 そして、染岡は端の方で体育座りをしている吹雪に向けて、自分も同じ格好になり目線を合わせて呼び掛けた。

 

 「染岡くん。……ボク、本当にこのチームにいていいの? ここに必要なの?」

 

 「いちゃダメなヤツなんざ、今このチームには一人もいねえよ。……お前は、少なくともオレにとっては大事な……必要な仲間だ」

 

 「阿里久さんよりも?」

 

 「…………」

 

 染岡は肯定も否定もしない。

 彼みたいな人にとって、非常に答えづらい質問をしてしまった。吹雪は次の問いをする。

 

 「ボクは……完璧な、選手じゃない」

 

 「……完璧なヤツなんかいねーよ」

 

 「でも、阿里久さんは完璧なフォワードだよ」

 

 「アイツも完璧なんかじゃないだろ。化身使いのヤツらに囲まれて、動けなくなってたじゃねえか」

 

 染岡の言葉に返事をせず、吹雪は問い掛けた。

 

 「染岡くんは……ディフェンダーのボクと、フォワードのボクのどっちが必要?」

 

 「どっちって……、両方共お前だろ」

 

 染岡は……いや、きっと誰も、吹雪の欲しい返事をくれない。

 

 『お前は完璧なストライカーだ。いや、シュート以外も完璧な、全てにおいて完璧な選手だ! もちろん阿里久よりも強い! お前こそ、お前だけがチームに必要だ!』

 

 だなんて。言われたとしても、嘘っぱちのそれは吹雪を満たさないのだが。

 

 (アイツがいなくなりゃいいのにな)

 

 「アツヤ……!」

 

 そんなこと思っちゃダメだ。吹雪は染岡からの視線も忘れ、頭を横にブンブンと振る。

 

 (それか、エイリア学園に寝返ってやるか? お前らが士郎を大事にしないから、士郎より強いヤツを連れてきたからこんなことになったんだって言ってやれよ。んで、世界中ぜーんぶオレら二人で一緒にぶっ壊そうぜ)

 

 「…………」

 

 アツヤの声を聞いて、酷く魅力的だと一瞬思ってしまい、吹雪は慌てて醜い考えを消そうと努めた。

 

 「なあ、吹雪。お前が何に悩んでいるか、オレには全部はわかってやれねぇ。けどよ、お前はお前だ。吹雪は他のヤツじゃないし、他のヤツにはならなくて良いんだ。お前にはお前だけのプレーがあるだろ」

 

 染岡はかつて自分が感銘を受けた言葉を、悩める吹雪へと真摯に伝えた。

 

 「………………うん、そう、だね……阿里久さんには、エターナルブリザードも、アイスグランドも、使えないもんね……」

 

 吹雪士郎は吹雪アツヤだ。士郎(DF)アツヤ(FW)を求められている。士郎はアツヤ(完璧)になる必要がある。

 士郎の体を試合中動かしていたのが、士郎だけだったということなどない。時間の差はあれど、オフェンス時にはアツヤが表に出てきていた。

 

 『吹雪士郎』のプレーは、士郎だけのものではない。

 

 「…………染岡くんは」

 

 ──ボクと阿里久さん、どっちが必要なの?  

 なんて聞こうとして、それは迷惑だと吹雪は慌てて誤魔化した。

 

 「染岡くんは、強いね」

 

 それだけ言って、吹雪は慌ててベンチに行き、疲れと不安で乾いた喉を潤した。

 

 

 

 

 

 

 頭へかかった負荷を整理し終えて、叶は目を覚ました。

 イナズマキャラバンの一般的なバスよりは座り心地の良い座席に、叶は寝かせられていた。リクライニングシートは目一杯倒されている。

 そんな叶に、大きな影が被さる。

 

 「目が覚めたのね。単刀直入に聞くわ。阿里久さん、あなた、どこでエイリア学園のことを知ったの? あなたは……エイリア学園のスパイ、ではないわよね?」

 

 小さな閉鎖空間の中。

 氷のように冷たい声で、無表情の瞳子は叶を目一杯見下して、キャラバンの通路に立つ。叶の退路をしっかり絶った状態で彼女は尋ねた。




叶がデザーム様から読み取った記憶
→デザーム様個人の思い出+エイリア学園についてのほとんどの知識(真ヒロト関連以外)です。

叶が記憶を読み取ってショックを受けている要因としては、『宇宙人だからボコって良いと思ったのに人間でしかも中学生くらいだった! しかもオレの娘と同じくらい!』と、『オレの力のせいで照美たちの安全がヤバいかもしれない』が大きいです。

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