異世界主人公達を集めたらどうしても戦わせたくなるのが、男のサガだとおもいます。思います。
「ちょっと!本気を出しなさいよ!」
「じゅ、十分全力ですよぉ……」
目の前にいる獣のような眼をした赤髪の少女が全力で斬りかかってくる。
使っているのは木刀なのだが、
彼女の剣は、デルタ並みの膂力に加えて、アルファ並みの剣術の冴えを兼ね備えていた。
どうして僕がこんな目に遭っているかを説明するには少し時を遡る必要がある。
ーー▽▽ーー
「体育の授業を始める」
朝のHRが終わり、ロキシー先生と入れ替わりで入ってきたのは額に角を生やした初老の御仁だった。
「わしの名はハクロウ。なぁに、しがない体育教師じゃよ。
わしの体育の授業は剣術をする。みな木刀を持ちグラウンドにでるんじゃ」
その言葉を受けた皆の反応は千差万別だった。
「聞いた!?剣術だって!」
「エリスは楽しそうでいいね……」
「ルーデウスは嫌なの?」
「一応素振りとかはしてるからある程度動けるとは思うんだけどね、エリスとかと打ち合いしろとかは流石にね……」
「私も、剣はあんまり得意じゃないなぁ……」
やる気満々のエリスに対して、ルーデウスとシルフィは気が重いようだ。
「ははは、何ともレイが喜びそうな授業だ」
「レイだけじゃない……」
ミーシャがそう言って指を指した方向をアノスが見ると、こちらに熱烈な視線を送ってきている男がいた。
『そんなにやりたいなら何時でも受けて立つぞ。』
『あんたから教えてもらった魔法を試したい。』
『今日は剣術だ。諦めろ。』
アノスとアレルが戦ってから何日かが既に経っている。その間、アレルはアノスに教えを乞い、簡単な異世界の魔法を習得しつつあった。
その一つが現在も使用している【
「あの人…すごいね…」
「あぁ、まさかこんな短期間で1から思念魔法を習得してしまうとはな」
「しかも、凄く強かった」
「そうだな、魔剣を持たせればレイといい勝負するかもしれんな。
まさか俺もヴェヌズドノアを使わされるとは思わなかったぞ」
「ヴェヌズドノア無しじゃ勝てなかった?」
「辺り一帯を吹き飛ばしても良ければ勝てたが、お前達が居たからな」
アノスとミーシャがそんな雑談をしていると背後から声を掛けられた。
「おーいアノス!ミーシャ!もう皆行くみたいだから、行こうぜ!」
「あぁ、直ぐに行く」
声を掛けたのはスバルだった。
委員会を決めてから1週間程が経過し、生徒達も段々と馴染み始めていた。
特にアノスは委員長として様々な生徒と関わっている機会が多いので、仲良くしている生徒は多い。
ーー▽▽ーー
「ほれ、腕が下がっどるぞ」
「ひ、ひぇ…」
グラウンドに出た生徒達は先ず、既にある程度剣術を習得している者と全くの素人の者の2つのグループに分けられた。
既に剣術を習得しているグループは決められた相手とひたすら組手を、素人のグループはハクロウ監督の基、素振りから始めていた。
因みに素人グループは
ツトム、ハンナ、アクア、エミリア、シルフィ、ミーシャ、ハジメ、ユエ、シア、夜霧の10人だ。
勿論剣を持つことが出来ない尚文は見学をしている。
「なんで僕が剣術なんか……せめて棒術教えろよ棒術」
「師匠、そんなん言っても授業なんだから仕方ないっすよ」
「ハンナも剣術なんかやらずにシャドーボクシングでもやってた方が良いんじゃない?てか、ダンジョン潜りたい、神台見たい……」
「これ、無駄口を叩くでない」
「くそっ…」
愚痴を言っているのが見つかったツトムがハクロウから叱りを受ける。
「異世界に来てから銃しか撃ってなかったから、剣術なんて分からん」
「ん……ユエも」
「私もです。剣よりハンマーでぶん殴った方が強いと思うんですけどね!」
「そう言う割にお主ら身のこなしは中々じゃの」
「まぁ、ステータスだけは高いからな」
「は!」
「おりゃ!」
「や!」
「……」
「うむ、お主らは熱が入っとるの」
「私はみんなの前で戦える王様になりたいから」
「俺はそんなエミリアたんを支えられる男になってやる」
「ボクはエリスみたいにルディの隣に立ちたいんだ」
「私は…アノスみたいに強くなりたい……」
「目標があるのは良いことじゃな」
このクラスにはツトムとは違い、この授業にも意味を見出している者もいるようだ。
「もういやぁぁあ!
なんで私がこんなことしなきゃいけないの!?
私はアークプリーストなのよ!回復支援がメインなの!!
剣術なんてやったって仕方ないじゃない!」
「………」
「zzz」
「おい、お主、寝るでない!」
「ん?もう授業終わり?」
「まだじゃ、そんな事より、ようそんな立ったまま器用に寝れるの」
「zzz」
「………」
アクアと夜霧に至っては女房役不在の為、制御不可能だった。
ーー▽▽ーー
カン、カン、
経験者組の集まるグループの方では木刀と木刀の打ち合う音が軽快に響いていた。
「はぁぁ!」
「ちょっ、エリスさん!待ってよぉ」
「五月蝿いわね!ほら、さっさと構えなさい!」
「そんな事言っても無理ですよぉ……」
エリスの相手はシドだ。
組手のペアはハクロウがある程度実力が拮抗するように組み合わせを選んでいる。
つまり、シドがエリスと打ち合える実力がある事を一目で見抜いたのだ。流石に経験値が違うようだ。
もっとも、シドの実力をうっすら感ずいている者は他にも何人かいるようだが
「ちょっと!本気を出しなさいよ!」
「じゅ、十分全力ですよぉ……」
(僕が長年磨いてきたモブ力が見抜かれるなんて……
それにこの娘凄く強いね。本気を出せば、勝てるだろうけど、ここは上手くやり過ごすか)
シドはそう思い、大怪我を負わないように気をつけながら相手の攻撃をなるべく大袈裟に食らい続けた。
「うひゃあ、ルーデウスの嫁さん怖ぇ……」
「ばか、そこが良いんじゃんか。
俺は赤髪ツンデレ剣士は大好物だね!」
「この愛妻家め……いいよなぁ、シルフィちゃんは大人しめのボクっ娘エルフだし、ロキシー先生はロリっ子魔法使い教師だろ?俺もそんな正統派ヒロインに恵まれたかったよ」
「はっはっは!皆ベッドの上じゃ可愛いんだよ。まぁエリスは俺の方が食べられちゃうんだけど……」
「くそ、羨ましいな!」
ルーデウスとカズマはハクロウにバレないように端っこで軽く打ち合いながら話していた。
「カズマだって、B組のめぐみんちゃんと良い感じなんだろ?それに王女様からお兄様呼びされて大層慕われてるみたいじゃないか」
「アイリスは俺の自慢で理想的な妹だ。けど妹だからそんな目で見れねぇよ。めぐみんはまぁ、確かに見た目は可愛いし、一緒にいて楽しいけど……」
「はは、ウブだねぇ!カズマなんか俺からしたらまだまだ子供なんだから、これから色々あるよ。ま、俺が童貞すてたのは13の時だったけどな(笑)」
「うぜぇ、ほんと何でこいつがモテるんだよ。そこそこイケメンで強くて金持ってて……良く考えたらモテる要素だらけじゃねぇか!」
カズマの叫びが児玉する中、グラウンドの方では凄まじい破裂音を生み出している箇所があった。
「飛刃」
「っと、以前よりも技の威力が上がってるな。
だが、飛刃」
「!?」
「くはは、貴様が扱える技を俺が出来ないと思ったか?」
破裂音の中心には当然ながら、アノスとアレルがいた。
更にこのグラウンドには他にも激しい戦いを繰り広げている者達がいる。
「くっ、」
「転移に怪力に加え高速移動か、面白い魔法使うなお前」
(何だこいつは、ステータスが違いすぎる。
こちとらもう文字のストックはもう無いんだぞ)
こちらでやり合っているのはヒイロとリムルだ。
アノスとアレルの次点としてヒイロとリムルだったのだが、力の差は大きく、リムルのワンサイドゲームになっていた。
「嘘だろ……ヒイロの野郎が一方的にやられてやがる……」
「よそ見をしないで下さい!」
「っと、この嬢ちゃんも相当強えし……ここはどうなってんだ」
少し離れた所ではラフタリアとアノールドが打ち合っている。
アノールドは普段斧のような得物を振り回しているが、師匠には剣でも闘えるように仕込まれている。
両者にそこまでの差はないが、少しラフタリアが推しているようだ。
「は!てや!」
「えっ、ちょっ、にゃんでそんなに強いの知千香ちゃん!?」
「そんなの私が聞きたいよ!?
何でうちの実家では異世界人と打ち合える程の剣術教えてるの!?」
「ちょっと本気出さないとヤバそうかな。ブースト、岩割刃、双刃斬」
「ちょっ、遠距離攻撃はせこくない!?」
更に離れた所ではエイミーと知千香がやり合っている。
知千香の実家で伝承されている壇ノ浦流では剣や刀を使った技も一定数存在している。なので、両手に木刀を持ったエイミー相手にもいい感じに戦えていた。
エイミーの放った双刃斬が空を切りながら知千香に迫る。
それを知千香は高跳びの要領で回避し、その体勢のまま木刀を放り投げた。
「うわっ!」
「何で壇ノ浦流にはこんな状況に対する技があるのかな!?」
「知らにゃいよそんなの!ってやばば」
突然飛んできた木刀に少し面食らったエイミーとの距離を一気に詰め、知千香は腹に掌底を放った。
それを何とか右手の木刀で受け止めたエイミーだったが、
知千香はすかさずにその木刀をがっちりと掴み、柔術の要領で木刀ごと
エイミーを放り投げた。
「にゃっ!」
突然未知の力に襲われたエイミーは受け身も取れないまま地面に叩きつけられる事になった。
「何で私の戦闘パートだけこんなに詳しく書いてるのかな!?」
知千香のツッコミが木霊したタイミングで
地面に倒れているエイミーの体を緑色の光が包んだ。
「ヒール、エイミー大丈夫?こっぴどくやられてたみたいにだけど」
「ツトム!?そっちはどうしたの?」
「あぁ、今日はもう終わったよ。君達が最後だよ」
「あ、そうなの?にゃはは〜恥ずかしい所見られちゃったな〜」
「ま、流石に彼女が対人戦で異常だっただけだよ。対モンスター戦なら流石に負けないでしょ」
「ま、そだね〜」
エイミーにはそう言ったツトムだったが、内心では知千香の事を分析していた。
(凄いね彼女、唯のツッコミ役かと思ってたけど何であんなに強いんだよ。
ほんとに同じ日本人?なんか背後霊みたいなのいるし)
ツトムには見えている。
知千香の後ろにプカプカと浮かぶ平安美人の幽霊が。
そして、その幽霊も明らかにこちらが見えているであろうツトムの事をまじまじと観察しているのだった。
はい、短いですね。
もっと頑張ります。
追記〜
誤字報告あざす。
まじすまん