NTRゲーの竿役おじさんに転生した俺はヒロインを普通に寝取っていく   作:カラスバ

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33話 始まり

 え。

 マジで?

 率直に言って驚いた。

 なんで俺、告白をされているんだろう。

 朋絵ちゃんに。

 夕日に染まる駅前の広場。

 なるほど告白するには最高のロケーションだ。

 しかし、ちょっと予想外過ぎるぞ?

 まだまだ彼女の心を射止めるような行為はまだまだし始めたばかりだったのに。

 予想だとあと一か月は掛かると思っていた。

 だから、こちらも全然心の整理も準備も出来ていない。

 

 ど、どうしようこの場合。

 彼女は頬を赤らめはにかみながら、俺の答えを待っている。

 俺に求められている答えは二つ。

 イエスかノーか。

 非常に分かりやすいな、こんちくしょう。

 でも、ちょっと待って欲しいというのもある、けど。

 そんな事を言える空気ではない、よなぁ――

 

「やあ」

 

 と。

 

「まさに佳境って感じのようだね」

 

 彼女は、現れた。

 黒い髪に黒い瞳。

 ただし服装は以前と異なっている。

 黒いセーラー服。

 喪服のようにも見える。

 どこにでもいそうな、しかし逆にどこにもいなさそうな雰囲気の少女。

 

「だ、誰?」

 

 と、朋絵ちゃんも彼女の異質な雰囲気を察したのだろう。

 一歩下がり、俺に近づき半ば背中に隠れるような形になる。

 逆に俺は一歩前に出て彼女へと対面する。

 

「誰だ、君は」

「アリス。だけど名前に関してはどうでも良いと思うな。私は君達の物語に関わるべき人間ではないし、だからこうして顔を出すのもイレギュラーな状況だ」

「……」

 

 厨二病かな?

 しかし不思議と彼女の言葉には真実味があって信じなくてはならないという感覚があった。

 

「さて、と。まあ、そんな事はさておくとして。おじさん。武おじさん。貴方は今、分岐点に立っているのは理解しているでしょう?」

「分岐点?」

「物語を終えるか、もしくは続けるかという分岐点」

「人の人生を、そのような一言で言い表すというのは、ちょっと感心しないな」

「でも、貴方は私の言いたい事を理解しているでしょう、ねえ」

 

 彼女が何者なのかはさておくとして、しかし彼女は俺が今立たされているこの状況を理解しているようだ。

 物語。

 エロゲの世界というあまりにも馬鹿げている世界。

 しかし、何故彼女がその事を知っているのか。

 もしかして。

 

「貴方と私が同じような存在だと思っているのだとしたら、それは違うよ。私はあくまで傍観者と言う立ち位置でこの世界にいる。だから、この世界を変える為には、貴方の力が必要なんだ」

「この世界を変える?」

「まあ、そんな大層な事ではないけれど。だけどこの世界はある意味彼女達を中心に回っている。だから、そんな大仰な言葉を使うのも、強ち間違いではないんだよ」

 

 彼女達。

 それは――

 

「4人のヒロイン達。彼女達がそれぞれ異なる問題を抱えているのは、貴方も知っているでしょう?」

「それは、うん。俺は、知っている」

「その為にも、私は貴方にはここで立ち止まって欲しくない。物語を終えては欲しくないんだ」

「……さっきからその、物語を終えると言っているが、俺が何をしたら、どうなってしまうんだ?」

 

 とはいえ、この状況で俺が取れる事は一つしかなく。

 そしてそれが表す事も一つしかない。

 

「日乃本朋絵の思いに応える事。そうする事により、貴方は彼女達を救うという名目がなくなり、ただのおじさんになる」

「……それが疑問なんだよ。俺が彼女達を救うと君は言っていたが、俺の役割はむしろ正反対だろう?」

 

 竿役おじさん。

 NTRをする者。

 どう考えても、彼女達の人生を破壊する立場の人間だ。

 そして再び俺の考えを察したのだろう。

 少女は薄く微笑みながら言う。

 

「そもそもこの世界は竜胆翔がヒロインとラブコメディを繰り広げるというのがメインにあり、そしてそれを破壊するというのが貴方の役割だ。しかし、しかしだよ。その破壊するという行為は、即ち彼女達の問題を問答無用で無茶苦茶にするものだ。それは、物語の結末を知っている貴方なら、何となく分かるでしょう?」

「……それ、は」

「手段はどうであれ、ね。メリーバッドエンドとも言うけれども。だけど彼女達は最終的に笑顔だった。ならばそれは、彼女達の抱えていた問題、蟠りが消え去ったと考えても良い」

「確かにそれはそうかもだが。しかしそれは竜胆翔少年にも出来る事だろ?」

「いや、いや。それは出来ない。何故なら彼に出来る事は、ラブコメディの主人公として、一人の少女を幸せにする事だ。それが誰なのかは今のところ決まっていないみたいだけど」

 

 まあ、それでも彼に出来る事は一人の少女を救う事、それだけだよ。

 彼女は残念そうに言う。

 

「それが悪い事とは言わないけれど。全体的な話をするならば、貴方にはもっと頑張って欲しいと私は思うんだ」

「頑張る、って」

「ああ、つまりは貴方にはこれからもこれまで通りに頑張って欲しいって事だ。そうすれば、おのずと物語は進んでいく――最初はどうなるかと思って見ていたけどね。だけど貴方は、うん。間違いなく役割を全うしているよ」

 

 苦笑をしながらそう語る少女。

 

「それは多分、茨の道ではあるよ。だって貴方にはもっと楽に事を進ませるだけの力が与えられている筈だ。でも、貴方はそれを使わないと決意した。だからきっと、これから貴方はいくつもの選択を迫られるだろう」

「でも、俺は」

「そう。貴方はもう、今更引き返せないところまで来ているみたいだね。だから、私は」

 

 これからも、貴方の頑張りを応援しているよ。

 そう呟いた刹那だった。

 少女の姿は霞となって消え去り、後には俺と、朋絵ちゃんが残された。

 ……そういえば、彼女はさっきの会話を、ずっと後ろで聞いていたんだな。

 俺はなんて言ったら良いだろうかと思いながら振り返る。

 

「良く、分からないけど、さ」

 

 朋絵ちゃんは少し、悲しそうな顔をしていた。

 

「貴方は、武さんには、まだ、やるべき事があるんだね」

「朋絵ちゃん。俺は」

「何も、言わないで。何となく分かったから」

 

 そして彼女は。

 満面の笑みを、精一杯の笑顔を俺に向けてくる。

 

「大丈夫。私の好きになった貴方は、きっとそう言う人だから。だから私は、大丈夫」

「絶対に、約束する。何時しかその時が来たら、俺は君の思いに対して、真剣になって答えを探す」

「あはは、応えてくれるとは言ってくれないんだね。でも、うん。分かった。その時を、私は待つよ」

 

 だから、と。

 彼女は自然な動きで、俺に身体を寄せて来た。

 手が伸ばされ、首に手を回される。

 ぐい、と。

 抱き寄せられ。

 次の瞬間だった。

 

 唇に、柔らかい感触。

 

 ただ、触れ合うだけの、子供染みたキス。

 だけどそれは、間違いなく彼女の精一杯。

 

「忘れないでね!」

 

 きっと、彼女の顔が夕日に染められていても分かるほどに赤いのは。

 

「武さんに一番最初に好きを伝えたのは、私だって事!!」

 

 その頬に、一筋のシズクが流れる。

 

「だから、その時まで! その事を覚えていてね!」

 

 それじゃあ!!

 

 去っていくその背中。

 俺はそれを消えてもなおしばらく目を逸らす事が出来なかった。

 

R-18版は

  • 読みたい
  • 良いから次の話を書くんだよ

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