歌を響かせ、紫雲の彼方へ羽ばたいて   作:御簾

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呼ばれて飛び出て奏さんだ!

感想を反映してな!作者は覚悟を決めたらしい!多少違う描写が入るかもしれないが、無印編もしっかり書くそうだ!

っつーわけで次回予告詐欺になっちまった。

第14話、よろしくな!


第14話 ネフシュタンの鎧(前編)

 響が装者となってから数日後。何度か出撃した響(未来からは少し厳しい目で見られていた)だったが、奏と翼が一瞬で片付けてしまうのであった──!

 

「せぇい!」

「踏み込みが甘いぞ響!」

「ぐへぇ!」

「奏ェ!」

「何だよ!」

「やりすぎよ。ギアを使ってるとは言っても響は素人。私たちが本気を出してどうするの。」

「べっつにー?本気出してねーし?」

 

 二課のシミュレーターでギアを纏って戦うのは、ガングニールの正規装者である天羽奏と、彼女の槍の欠片を持つ融合症例、立花響。ヒートアップしてやりすぎる奏の静止役として翼が同席し、二人は模擬戦を行っていた。理由は、二人がノイズを瞬殺してしまうから。響が一体倒す間に、二人で十数体倒していた時には響は泣きそうになった。

 そして模擬戦の結果であるが。アームドギアである巨大な槍を振り回して戦う奏、その長大なリーチに阻まれて響は一度も攻撃できていない。避けるだけで精一杯だった彼女が唯一見出したチャンスは、槍を手放した奏の拳で潰された。つまり完封である。

 

「奏さん、もしかして槍が無くても戦えるんじゃ…」

「当たり前だろ?…私なりに考えたからな。あの日のこと。」

「あの日…」

 

 奏は響の胸を指さした。そこに刻まれた音楽記号のような傷跡は、紛れもなく奏の槍が突き刺さった痕跡だ。()()()()()()()()、当時LiNKERを必要としていた奏は、ライブにおいてそれを服用せぬまま戦闘。欠けてしまった槍の破片によって響が血の海に沈んだ事を、彼女は決して忘れていない。

 

「だから、その後おっさんに…弦十郎さんに弟子入りしたんだ。」

「え、あの人そんなに強いんですか。」

「めっちゃ強いぞ。」

 

 うんうんと頷く翼を見るに、嘘では無いのだろう。確かにそのへんのサラリーマンは元より、格闘家よりも屈強な身体をしている。歓迎会の際、人体の構造上弱いとされる脇腹を叩いた奏が逆に痛がっていたから、相当鍛えているようだ。

 それなら、と自分は考えた。本来シンフォギアに備わっているはずの機能、アームドギアが使えない自分にとって、彼の指導を受けるのは悪くないのかもしれない。

 

「じゃあ、私も弟子入りしてもいいですか?」

「まぁ、止めはしないけどさ。」

「突然なのね。何かあった?」

 

 奏のような、巨大な槍。

 翼のような、鋭い刀。

 そんなアームドギアを振るって、もし誰かを傷付けたなら──そう思うと怖かった。奏は薄れこそすれノイズへの復讐心を、翼は弱き人を守る義務感を、それぞれ携えている。加えて長らく戦ってきた事で『慣れて』しまっていた。本来ならば響のような反応が正しいのだろう。

 誰かを傷付けることなく、それでも戦う方法。古い記憶の中の紫羽は、己を守りながらその拳を振るっていた。ならばそれで良い。アームドギアを持つ奏と翼が、揃って『勝てない』と言うぐらいに強くなれる。それを持たない紫羽が、それを証明しているのだから。

 

「あの人のように…紫羽さんのように。私は、誰かを守るために戦いたいんです。でも、アームドギアで誰かを傷付けてしまうかもしれないって思って…」

「そっ、かぁ…紫羽みたいになぁ…」

「確かに姉様は拳で戦っていた。それに、元々戦場に立っていなかった響が武器を怖がるのは当然でしょう?」

「なるほどな。私たちはずっと戦ってるし、慣れちまったってか。」

「あの、二人は怖くないんですか?その武器で、誰かを傷付けないかって…」

 

 答えようとした奏と翼だったが、それを遮るようにサイレンが鳴り響く。顔を見合せ、三人は走り出す。インカムから聞こえる声に従ってヘリに飛び乗り、現場に急行する。

 

「っし、行くぞ!」

「ええ!」

「は、はい!」

 

 到着すると同時に、三人はギアを展開。ヘリから飛び降りてノイズを蹴散らしていく。即座に戦闘開始する奏と翼に比べ、戦い始めて日が浅い響は一歩遅れてしまう。

 形になってきたとは言えないながらも拳を構え、響も歌を歌う。

 

「行きま───────」

 

 

 

 

 

 

「立花さぁん!」

「は、はい!」

 

 居眠りしてしまっていたようだ。疲労が抜けきっていないのだろうか。飛び起きた響は頭を振って眠気を飛ばそうとするが、その動きも見られていたようだ。教師から向けられる視線が痛い。

 

「響、どうしたの?」

「いやー、昨日のボランティアで…」

「またぁ?」

「立花さんッ!今度は小日向さんも!」

「「はい!」」

 

 どうやら、響の受難は終わらないようだ。

 

///

 

「響のせいで酷い目に遭ったよ…」

「ご、ごめんね未来…」

「ビッキーはすぐ寝ちゃうもんね!」

「まるで、アニメみたい。」

「昨日もボランティアでしたか?」

 

 そうそう、と答える響は、凝り固まった肩を解しながら答えた。ベキバキという音は、とても現役女子高生が立てていい音ではなかった。既に時刻は昼。疲れきった響の手には、てんこ盛りのご飯と山のようなおかず。最近増えた『特訓』のせいで疲労が抜け切っていない。そして妙に腹が減る。女子高生数人分のご飯を平然と平らげるようになってしまった。それでも太らないのだから不思議だ。未来は訝しんだ。

 若干引いた目で響を見る四人は、こちらに近づく人影を二つ、発見する。未来が響の肩を叩き、そして彼女は示された方を見る。あ、という声と共に彼女は慌てて手の中の料理を机に置く。

 

「ひび…立花さん。少しいいかしら?」

「ね、ねえ響。この人って…」

「うん。風鳴翼さんだよ。」

「「「えぇ!?」」」

「響何したの!?ま、まさか追っかけが高じてついにお縄に…あわわわわ」

「そんなんじゃ無いからぁ!信じてよ未来ぅ!」

「おーおーお熱いこって。」

「「「「天羽奏さん!?」」」」

「ひひひひひひひ響?もしかして、今やってるボランティアって…」

「御免なさい、えーと…」

「小日向未来です!うちの響が何か失礼を…」

「いーや、そんなんじゃないから。」

「立花さんには私たちの臨時マネージャーのような立場で、色々サポートしてもらってるの。ね?」

「は、はい!今日は…」

「悪い、ちょっと『仕事』でな。先生には言ってあるから、急いできてもらえるか?」

 

 仕事、と言った時の奏の顔。アーティストではなく、装者としての顔を垣間見せた彼女の空気に気付けたのは、翼と響のみ。頷いた響は、歩いていく二人を追うように小走りに去っていく。

 ——その手に、お盆を持ったまま。

 

「響!?お盆!お盆!」

「え?…あ!」

「ったくしょうがねえな…」

 

 結局その後、二課の本部に三人がやってきたのは一時間ほど集合時間を遅れた頃だった。

 

///

 

「では、今回の会議はこれで終了とする。解散!」

 

 今回の召集の内容は、ノイズの出現頻度に関するもの。散発的に見えるその出現場所を地図にマークし情報を整理した結果分かったのは、ノイズを出現させている何者かがいる可能性がある、ということ。その証拠に、出現場所は二課の本部——リディアンを中心に円状に広がっていた。

 ここから弦十郎は、二課本部に保管されている完全聖遺物『デュランダル』が狙いではないかと推測。二年前のライブの日失われたネフシュタンと同様に、何者かが狙っているとするならば危険だろう。そう判断した弦十郎は、密かにデュランダルの移送作戦を計画し始めるのだった。

 

 しかし、そんな人間たちの事情なんて知ったことかとノイズは出現し続ける。今日も今日とてとある公園で暴れまわるノイズたちの元に、三人の装者たちが集結する。以前よりも成長した響の拳は、速度こそ奏と翼には敵わずとも一体を正確に潰していく。逃げ遅れた一般人を退避させ、最後の一体を殴り飛ばした彼女の前に現れたのは——

 

「お前が、立花響。融合症例だな。」

「………ダサいね、それ。」

「黙ってろ言うんじゃねえッ!あたしも気にして…んんっ。」

 

 真っ白いインナースーツに、刺々しい鎧を身に纏った銀髪の少女。突如として出現したその少女に、胸の中から浮かんだ感想をぶつけた響に向かって振るわれる鞭。危なげなく躱した彼女に向けて、間髪入れずに二撃目が放たれる。大きく振るわれ、あわや直撃しかけたその鞭は。

 

「だらっしゃあ!」

「響ッ!大丈夫!?」

「は、はい!大丈夫です!」

 

 離れたところでノイズの大部分を受け持っていた、ツヴァイウィングの二人によって弾かれた。しかしその反動で二人は大きく後退。地面を削りながら響の元まで下がってくる。慌てて駆け寄ろうとした響に向け、再び鞭が振るわれる。

 

「はっ!たかだかシンフォギアで勝てるとでも思ったか!」

「どうして、私をッ!」

「あたしの保護者からの依頼でね!お前を攫ってこいってよ!」

 

 高速で振るわれるトゲ付きの鞭は、地面や木を容赦無く抉っていく。それを振り回す少女は一切疲弊していないようだし、何より本気を出していない。まるで遊んでいるかのようにして響を追い詰めていく。

 ステップを中心に巧みな足さばきを用いて回避を続けていた響だったが、突然攻撃の手が止まったことでその動きを止める。顔の前に構えた腕を下ろして前を向くと、眼前の少女は自身を睨んでいた。ように感じた。視線はバイザーに隠れて見えないものの、その口元は不愉快げに歪んでいたから。

 

「なんで、なんで攻撃してこないッ!」

「私は、ノイズを倒すために戦っているの!あなたと戦うためじゃない!」

「だったら、戦わなきゃいけないようにしてやるってな!」

 

 少女が振り上げたのは、見たことのない造形の杖。何事かと構える響と、復帰して隣に並んだ奏と翼。三人の耳に、本部からの通信が入る。

 

『三人とも聞こえるな。眼前の少女が纏っているそれは、完全聖遺物、ネフシュタンの鎧。()()()、我々の元から奪われたものだ。』

「——へえ。聞こえたか翼。」

「ええ。しっかりと。」

「響、お前はそこで見てな。翼、最初は私だ。」

「は、はい!?」

「奏。それでは私の仕事がなくなってしまうわ。」

「何をごちゃごちゃと——」

「ちょっくら本気出してやるって言ったんだよ。あ?」

 

 突如、空気が震えた、ような気がした。奏が大きく槍を振るい、激しい突風を生み出す。今まで感じたことのない、本能的な恐怖。響が見ていた『天羽奏』とは全くの別人のような、『何か』がいた。快活な笑みを浮かべていたはずの彼女は、ただただ冷たい、無感情な瞳で白銀の少女を見ていた。

 ぐるん、と槍を回して構える。奏の身の丈ほどの巨大な槍は、その重さを一切感じさせない軽快な動きを実現している。二年前のライブから適合係数が急激に上昇した奏、その真価はここにあった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。特殊条件下でしか確認されていないそんな現象が、今ここで起こっていた。

 

「言うじゃねえか。たかだか欠片風情が!」

「そっちこそ完全聖遺物手に入れた程度で思い上がってんじゃねえぞガキ。そいつはな。」

 

 隙を見せない。奏の集中力は研ぎ澄まされ、放たれる直前の矢のように鋭く練り上げられていく。ギアの出力が上昇し、歌ってもいないのに溢れ出したフォニックゲインがキラキラと粒子化する。その粒子に流され、長い赤髪を靡かせる彼女は、槍が砕けんばかりの力をその手に込める。

 思い出すのは、二年前の大惨劇。確かにネフシュタンの起動実験も兼ねていたが、自分たちにとっては大きなステージだったのだ。姉に、これまで以上、ベストを超えたその境地まで見せようと誓ったあの場所。そんな舞台を台無しにし、響に戦う運命を背負わせ、あまつさえ姉を生死不明に追いやった原因。己たちの失態の具象が、そこにいる。

 

「私と翼が、観客のために…紫羽(姉さん)のために歌った歌で起動したんだ。」

 

「なんも知らねえガキが、そいつを使ってんじゃねえぞ——!」

 

 だからこそ、奏は叫んだ。眼前の少女が何者だとか、そういったことは一切合切無視だ。翼から感じる思いも、同じのようだ。しかし彼女は『奥ゆかしい風鳴翼』を演じているのか、ただ黙って響の隣で刀を構えている。

 叫んだ己に冷たい視線を向け、少女は振り上げた杖を起動させる。光が放たれ、収まった時。三人を囲うように現れたのは無数のノイズ。本部が慌ただしく分析を始める声が煩い。眼前の少女が杖を掲げて勝ち誇ったような声で言う。

 

「こいつは、ソロモンの杖。これさえあればノイズを出したい放題って訳だ。これでも、勝つって?」

 

「ああ。この程度で、私たちが止まると思わぬことだ。」

 

 絶刀一閃。

 

 響が慌てて周囲のノイズを攻撃し始めた時、既にノイズの半数は消し飛んでいた。半身を切り裂かれ、両手足を叩き斬られ、首に当たる部位を吹き飛ばされる。一瞬でそんな芸当を為して見せた張本人は、炭素が舞う中、一人刀を下ろして佇む。

 

「貴様は完全聖遺物を二つも持っているようだ。」

 

 再び呼び出されたノイズを切り捨てながら、翼は能面のような表情で言い放つ。

 

「だが、教えてやろう。」

 

【蒼ノ一閃】

 

 さらに追加された大型ノイズを優先目標とし、勢いよく跳躍した翼はアームドギアを巨大化させて振り下ろす。対象だけでなく、周囲の小型もまとめて吹き飛ばしたその技の残滓であるエネルギーを揺らめかせて翼は言う。

 

()()()()()()()()()()。天翔ける両翼には、決して届かぬと知れッ!」

 

 ノイズに相対するは、翼。

 

 ネフシュタンに相対するは、奏。

 

 そして…

 

「あわ、わわわわわ…」

 

 何も知らない、立花響。

 

 今、激闘が始まる——!

 

「待ってくださいよぉ〜!」

 

 ………ただ一人を除いて。




ど、どうも。小日向未来です。最近響がツヴァイウィングに関わるボランティアで忙しいらしくて…構ってくれないんですよね。どうしちゃったんだろう…

次回、第15話。「ネフシュタンの鎧(後編)」。

作者さんも頑張ってみるそうなので、感想、評価などいただけると励みになる…そうです。
本当なんでしょうか。

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