歌を響かせ、紫雲の彼方へ羽ばたいて   作:御簾

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体調不良で執筆のための体力がございませんでした。御簾です。おのれ黄砂ァ!


てことで、久しぶりの奏さんだ!作者はまだ頭痛が抜けないらしくてな!スマン、これからも隔日投稿になるけどよろしくな!
そんじゃ第18話!行くぞぉ!


第18話 ウィッシュアポンアスター

「流星群、ですか。」

「流星群、ですよ。」

「見るの?」

「見るよ。」

「誰と?」

「響と。」

「ほんとに?」

「ほんとに。」

 

 

 

 

 

 

「ほわぁ…」

「──────い。」

「はふぅ…」

「───おーい。」

「うぇひひひ…」

「ダメだこりゃ。」

「響。行くわよ。響?」

「うぇへへへ…」

「「なんだこいつ/この子」」

 

 ある日のお昼時。腹を空かせた生徒が行き交うリディアンにやって来たツヴァイウィングの二人は、響を見つけるとそちらに向かって歩いていく。しかし、いつもなら子犬のように走ってやってくる響の様子が変だ。具体的には挙動が。

 呆れてしまい、響の笑い声を聞いて腹を抑える奏はさておき、比較的冷静な翼は響の様子を改めて観察する。一体どうしたのか。ちらりと隣の少女たちに目線をやると、キョドりながらも説明をしてくれた。感謝。

 

「あ、あの…ビッキー、じゃなかった響はその…」

「今日の夜、流星群を見に行くとか。」

「しかもヒナとだよ!?女の子同士で流星群…アニメっぽい!」

「ああ、なるほど…道理で。」

「くくく…げほっ、んで、ぷぷっ、なんだって?」

「小日向さんと流星群を見に行く予定があるんですって。」

「あー、浮かれてるのかぁ…」

「うぇひひひ…」

 

 壊れたラジオかテレビのようにニヤニヤと笑いながら変な笑い声を上げる響から距離をとりながら、二人はジリジリと下がっていく。ぶっちゃけ気味が悪いのだ。浮かれているとかそういう次元ではなく、いつもの響とのギャップが凄まじいために。

 さて、三人娘に軽く挨拶してリディアンを去った二人。慎次の運転する車に揺られながら、奏は携帯を取りだした。静かにそれをいじり始めた彼女を見ながら、翼は目を閉じる。

 

「流れ星、か…」

 

 途中で聞こえたそんな声は、どこか寂しそうで。

 

 何かを諦めてしまったかのような、声だった。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、翼よ。」

「…ん。」

 

 沈んでいた意識を浮上させ、翼は目を開く。少し眠っていたようだ。若干乱れた髪を整えながら、己の相棒を見る。ただ外を見ながら、奏はこちらに視線を向けることなく話していた。

 

「昔聞かなかったか?流れ星が消えるまでに願い事三つ言えたら、願いが叶うって。」

「…ああ、確かに、そんな迷信もあるわね。」

 

 翼が迷信と言った時、奏の肩がピクリと動いた。外に向けられたままの表情は分からないが、顎を支えるその拳は硬く握られている。

 

「でさ。今日の流星群、響が見るって言ってたけど…」

「見たいの?」

「見たいってわけじゃない。ただ一瞬でいいんだ。」

 

 未だ視線は車外に向けられる。しかしその向きは変わった。

 

「戻ってきますようにってさ。」

「奏…」

「紫羽が、戻ってきますようにって。そんなちっぽけな願いでも良いから、私は祈ってみたいんだ。」

 

 見上げる空はまだ明るい。段々と橙を含んできたその空は、憎たらしいほどに澄み切っている。絶好の流星群日和。そんな感想を抱いた奏だったが、鳴り響く警報に顔を引き締める。

 

『奏、翼。ノイズが出現した。響くんにも…』

「ダメだ。今回は私と翼で行く。」

『…理由を聞いても?』

「奏、どうして…」

「あいつを巻き込んだのは私なんだ。」

 

 思い出すのは、幸せそうな笑顔の響。数日前に家を訪ねた彼女と、その隣に佇む少女、小日向未来。彼女達の話の中で、久しぶりに二人で外出したと聞いた。それは、本来ならば戦いとは全く関係のなかったはずの少女たちを巻き込んでしまっているということを示す。

 

「あいつらの日常すら守れなくて、紫羽に顔向けできるかっての。」

「そういう、こと。」

『…確かにな。では響くんにはこちらから伝えておく。』

「ありがとな。」

 

 弦十郎の返事を最後に、一時的に切れた通信。ただ己の手を見つめる奏と、静かに闘志を高める翼。二人を乗せた車の中、慎次がハンドルを切った先、ノイズの群れがいた。

 

「二人とも、準備は。」

「できてるよ。」

「いつでも。」

 

 では、と慎次が手元を操作する。開いた扉の中から飛び出した二人は、聖詠を唱えてギアを纏う。今までとは違う、以前と同じようなツヴァイウィングだけの戦場。取り回しを重視した中型の刃を閃かせ、翼はノイズを叩き切る。

 対する奏は、両拳を合わせてアームドギアを生成し、槍を回して構える。対峙するのは、ノイズだけではない。幾度となく矛を交えた、白銀の鎧を纏う少女。不敵な笑みを浮かべているはずの彼女は、どこか不機嫌そうだった。

 

「フィーネの野郎…わざわざあたしの食べ方なんて指導しなくても良いだろうが…ッ!」

「よそ見とか、舐められたもんだな私も!」

「──ッ、たかだか欠片で完全聖遺物に勝てるわけがねぇだろうが!」

 

 生成した光球を叩きつけるように投げた少女の先、走り去る車を背に立つ奏は、ただ不敵に笑う。それは少女のいつも通り。そっくりそのままし返した奏は、構えた槍の先端を開いて光球を受け止めた。

 ともするとどこかで見られたかもしれないその光景は、紫電と共に弾かれた光球の爆発によって終わりを告げる。決して軽くないはずの負荷を受けた奏だが、その表情は変わらない。

 

「何、笑ってんだよ。」

「さぁな。もしかしたら、今日流れ星が見られるから…かもな。」

「流れ星ぃ?んなメルヘンなもんで笑えるのかよ…幸せだなぁテメェはよぉ!」

「だったらお前もこっちに来いやァ!」

「あたしが、そっちに?有り得ないな!パパとママが、大人が嫌いなあたしに!あの時助けてくれなかった奴がいる場所に行けってか!冗談言うのも程々にしとけよテメェ!」

「頑固なのも程々にしとけよゴラァ!」

 

 やはり合わない。青筋を浮かべた二人は、互いの武器を振るって弾き飛ばす。再生できるはずの鞭を再生せず、ただ無手のまま少女は一歩踏み出した。意図を察した奏は、ニヤリと笑って右足を踏み込む。

 

「だったら、」

「やっぱり…」

「「殴るしかねぇな!」」

 

 およそ少女が放っているとは思えない威力の一撃は、互いの鳩尾に突き刺さった。防御性能で優れるネフシュタンと、発勁でダメージを最小限に留める奏。有効打とならないその一撃を放ち、至近距離で二人は睨み合う。

 

「いい加減に落ちろや!あとそれ(ネフシュタン)返せ盗人が!」

「融合症例見つけたら帰ってやるよ!あとこれ(ネフシュタン)はあたしのマm…保護者のもんなんだよ!」

「あァ!?響なら居ねぇぞ!?」

「…なん、だと…!?」

 

 

 

 

 

 

「…何してるのかしら、あそこ。」

 

 殴りあったと思ったら急に崩れ落ちたネフシュタンの少女。さめざめと涙を流す彼女の肩を叩きながら、奏がハンカチを手渡した。意外と仲がいいのでは無いのかお前ら。

 そんな感想を飲み込み、半数が塵と化したノイズを見据えて翼は刀を構える。その切っ先はブレることなく、()()()()を両断するように光る。絶刀を携え、歌女は戦場を舞う。

 

「──流れ星すらも切り捨ててしまおう。」

 

 ふと胸に去来したのは、そんなフレーズ。流れ星に願いを。ただの迷信と切り捨ててしまうのは簡単だ。それでも、願わずにはいられない。自分だって、姉を想う気持ちは同じだから。

 故に、叶わぬならば斬る。そう思いながら落ちる星を眺め、塵となったノイズを踏みつけながら翼は刀を下ろす。初めは一つ。それが二つ、三つと増えていき、いつしか空を覆う星の雨となる。

 

「響。貴方の日常は、守れたのかしら。」

 

 そして。

 

「姉様。また、戻ってきてください。私も、奏も、貴方よりも年上になってしまいますよ。」

 

 願いを告げる時間が足りるはずは無い。一つの願いを言う間に、いくつもの星が消えていく。しかし翼は構わない。なぜなら三度唱えたなら良し、などとは思っていないから。

 ただ強く、彼女はひたすらに祈り続ける。今は目覚めぬ姉のことを、ただ一心に。強く、強く、星に届くように。

 

「んでな…フィーネの野郎…」

「なんだよそりゃ…そんな酷いことあんのかよ…」

 

 だがとりあえずは、あそこで体育座りしながら黄昏れる二人を何とかすべきではないだろうか。翼は頭を抱えた。敵味方の枠を超えて、何かを感じ取ったのだろうか。奏と少女は空を見上げながらルールー歌い始めた。なんだアレは。

 

「…って!ちがぁう!!こんなことしに来たんじゃねぇ!」

「んな…帰っちまうのかよ!?」

「帰るよ!!融合症例居ねぇだろうが!」

「メシマズ身内同盟は破棄するのかよぉ!!」

「『ぶふぉ!?』」

 

 奏の一言に、翼と、何故か通信機の向こうの了子が吹き出した。げほごほと咳き込みながら翼は思い返す。己の料理はいかほどだったか。全て思い返した。レシピ通りに作ったが黒焦げになってしまっている。ならばこれは己の責任ではない。セーフ。

 

『せ、セーフよ…セーフ…』

 

 何故了子も必死に言い聞かせるように呟いているのか。翼は首をひねった。そういえば了子が料理できるという話を聞いたことがない。専ら昼は食堂、朝と夜は食べているかすら不明という生活を送る彼女のことだ。きっと料理が不得手なのだろう。翼は自己完結した。

 

「いや、確かにフィーネの手料理は不味いけど!」

『ぐはぁ!?』

『了子くん!?どうした了子くん!』

 

 やはり了子にダメージが飛んでいく。もしかして料理が不得手とかではなく本当にできないのではないか。翼は確信した。了子は包丁すら持てないのだと。フィーネ某はともかく、他のオペレーターの苦悶の声が聞こえる以上はそうに違いない。

 

「ちくしょう、お前と戦ってると調子が狂うんだよ!」

「そりゃドーモ。」

「褒めてねぇ!…くっ!」

 

 ゼーハーと肩で息をするネフシュタンの少女は、手にしたソロモンの杖を一閃。ノイズを目眩し代わりにして逃げ出した。放出されたノイズは、翼の千ノ落涙によって殲滅されて一件落着。降り注ぐ星の雨は止んでしまっていたが、それでも二人は空を見上げて願う。

 

『どうか、姉が目覚めますように』

 

 止まった歯車を動かすのは容易ではない。しかしそれでも、錆つかないようにと願う。完全に動かなくなってしまう、その前に。再び会えますようにと、もう一度抱きしめられたいと、思うから。

 

「あ、流れ星。」

「おいおい、みんな行っちまった後だぜ?」

「遅れてやってきたのかしらね。」

「そりゃヒーローだけだろ?」

「でも、姉様はヒーローみたいなものなのよ。」

「んじゃああれは紫羽か!」

「やめなさい叩くわよ」

「んだよ空から降ってきてるイコールあっちから戻ってきてるってことだろ!?」

「なるほど、そういう解釈もアリね。」

 

 願い終えて目を開いた二人の視界、そのど真ん中をぶち抜くように、一際大きな星が煌めく。光る尾をたなびかせ、徐々に消えていくその星が落ちる先には、二年前のライブ会場があった。

 

 

 

 

 

 

「…貴方、何をベラベラ話しているのかしら。」

「い、いや、それは…」

 

 薄暗い…訳でもなく割としっかり明るい部屋の中で、金髪の美女と銀髪の少女が向かい合って座っている。丁寧に手当てされた少女は、眼前の美女…フィーネの視線を受けて肩を震わせた。

 話していたのは、今日の戦いについてだ。食事中に唐突に、『ちょっと今から街を襲撃してきて』という無理難題を押し付けた挙句、目的地に到着するまでひたすらマナーについての指摘をしてきた。愚痴も言いたくなる。

 

「だってフィーネがうだうだ言ってっから!!」

「フィー、ネ?」

「うぐ…」

「私はそんな風に呼んで欲しくないわ…」

 

 よよよ、と泣き崩れる(真似をする)フィーネを見ながら、顔を赤くしたり唸りながら、少女はようやく言葉を捻り出した。

 

「お、おかぁ…さん…」

「………まぁ、いいわ。それで、今日は融合症例が居なかったこと、分かってたのよ。それでも貴方に行かせたのは、あの『ガングニール』の性能テストのため。」

「分かってるっての。…でも、ありゃ()()だ。ネフシュタン使った方が絶対良いぞ?」

「やはり、そうか。たとえ融合症例であっても完全聖遺物には及ばない…か。正規装者の天羽奏なら、と期待してみたのだが。」

 

 黄金に輝く瞳を細めながら、フィーネは手元の端末を弄る。何が表示されているか少女からは確認できないものの、不機嫌そうに皺の寄る眉間は物事が彼女の思惑通りに進んでいないことを示している。

 ヒヤヒヤしながらそれを眺める少女だが、不機嫌そうなのはフィーネだけではなかった。鳴り響く少女の腹の虫も、ご機嫌斜めだ。その音に気が付いたか気が付かなかったか、フィーネはちらりと少女を見る。

 

「…空腹か。」

「おっ…おう!なんか悪いかよ!」

 

 今日一日でフィーネからのヘイトを稼ぎまくった少女は、こうなればいっそ、と開き直って豊満な胸を張る。気持ち肩の下がったフィーネは、夕食の支度をしようと立ち上がる。

 

「あ、いいって。あたしが作ってやるから。」

「…なんだと?」

「ほら…あれだよ。前のケーキのお礼だよ。」

 

 そういえばそんなこともあったな、と思い出してフィーネは上げた腰を下ろし、彼女の料理の手並みを拝見することにした。少なくとも己よりはマシであろうと信じながら。

 

『うわちっ!』

「…」

『え、えっと…これがこうなって…きゃあ!?』

「…」

『み、みりんってなんだよ!?これか!?』

「待て!みりんは今切らしているところで…」

 

〜1時間後〜

 

「出来たぞフィーネ!」

「…ああ、そうか…」

 

 ほくほく顔でお盆を持って来た少女を前に、フィーネは疲れきった顔を向ける。結局二人の合作のようになってしまった、その料理は。

 

「へ、変…だよな?」

 

 焦げているものの、少女でも大丈夫だろうと手渡したレシピ通りに作られた手ごねハンバーグだ。フィーネのように変なアレンジを加えることもなく、しっかり基本に忠実に作られたそれは、不格好ながら香ばしい(香ばしすぎる)匂いを放っていた。

 

「………」

「やっぱいいや、これはあたしが…」

「いや、いい。」

 

 しょんぼりした少女の手元から皿を奪い取り、フィーネは手早く肉を口に運ぶ。苦味があるものの、中身はまだ無事のようだ。しっかり肉汁も溢れてくるし、初めてにしては上出来だろう。

 

「ど、どうかな…」

「…まぁ、私よりはマシだろうさ。」

「そっか。良かった。」

 

 そっぽを向きながらも、フィーネの手は止まらなかった。




フィ「ふむ、このレシピならもう少し砂糖を入れても…」

そうして出来上がるのが、フィーネ特製甘口カレー。
砂糖の甘さで食べられたものじゃないらしい、ですよ?

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