歌を響かせ、紫雲の彼方へ羽ばたいて   作:御簾

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《やっぱRTAの時のガバが酷いです。by作者》
…んだよこれ。冷静になって考えりゃ分かんだろーがよ…っと。
あー、ちわっす、雪音クリスだ。今回はテンポが悪いらしいから、そのへんは目を瞑ってやってくれ。な?
■■さん?と奏さんの…なんだこれ、しーぴー?が見たいやつはRTAの方を読んで待ってて欲しい…ってなんだよ宣伝かよ!
それじゃ第2話、よろしくな!


第2話 始まりの時

「あおい、彼女の様子は。」

「ダメですね。まだ目覚めてません。…そんなに気になります?自分の隠し子のこと。」

「勘弁してくれ。俺にそんな事が出来るように見えるか?」

 冗談ですよ、と笑いながら友里が定位置に座る。司令室には全員が集まり、現在医務室で眠っている女性についての分析が行われていた。苦い顔をするのは、誰も同じ。しかし装者たちは、どこか不思議な感覚を得ていたようだ。

「それでは、あの女性の事なんだが。」

「…司令。よろしいでしょうか。」

 挙手したのは翼。6人の中で先陣を切って攻撃した彼女は、己の攻撃が当たらなかった事に疑念を抱く。その疑念を、少し戸惑いながら話し始める。

「彼女は私の攻撃を()()()()()()()。殆ど全ての攻撃が余裕を持って回避されましたし、そう考えても良いかと。彼女が想定していた間合いは少し短い…そうですね、数年前の頃だとは思いますが。」

「つまり、彼女は翼と交戦した経験があると?」

 いいえ、と己は首を振る。あれは一度や二度交戦した程度で培われるような経験ではない。それに、あの時感じた気配は実戦ではなく『遊び』のようだった。つまり。

「日常的に私と刃を交えています。…恐らく、文字通りの『死合い』で。彼女は響に言っていました。『殺す気で来い』…まさしく本気、私たちの全力で当たらなければ彼女には届かないでしょう。」

 指摘された響は、表情を暗くして俯いた。響歌が駆け寄って、彼女の頭を撫でる。反対側には未来も立っている。暖かな感覚に包まれた響は、確りと顔を上げて頷いた。

「はい。確かに聞きました。そして、あの人の気持ちも…本気でした。最後の最後、私に向けられていた拳は紛れもなく。それにあの人の実力は師匠とほぼ同じか…それ以上だと思います。」

 至近距離の戦闘ならば装者の中でもトップクラスの実力を持ち、弦十郎と殴り合うことの出来る響の言葉に、その場がざわめいた。

 たしかに、と頷くのはクリスと切歌だ。二人とも、己の攻撃を掴み取られたか白刃取りされている。

「先輩の援護に攻撃してみたけどな…不意打ちのはずだったのに、あっさり掴み取りやがった。しかも、自分に当たる分だけじゃない。先輩に

当たりそうだった分まで、だ。」

「イガリマの刃を白刃取りとか、とんでもない実力デスよ…司令でもあんな事出来ないんじゃないデスか?」

「私の鋸、掠りもしなかった…不覚。」

 がっくりと肩を落とすのは調だ。切歌とのコンビネーションにおいて、相手の行動を制限するために放った攻撃は文字通り『全て』回避され、切歌の攻撃への布石を失わせる結果となってしまった。

 次に話し始めたのはマリアだ。彼女が左手から放ったカデン粒子砲砲撃は、確実に相手の不意を打った。

「私の攻撃、完全に見えなかったはずなのよ。調と切歌で隠れていたと思ったし、実際直撃したはずなのに…」

 そう。不意を打ち、確りと直撃した。装者たちの攻撃の中で、唯一の有効打になるはすだったその一撃は、何故か防がれていた。

 頷いた弦十郎は、朔也にアイコンタクト。意図を汲み取り、彼は大型モニターに当時の映像を映し出した。そこには、マリアがHORIZON†CANNONを叩き込んだ瞬間が映っている。

「…止めろ。」

 弦十郎が指示したのは、直撃の直前。その瞬間、彼女のギアが青から赤に変化していた。さらに彼女の右手には、マリアと同様の砲門が展開されている。真っ赤に輝いていることから、展開してすぐさま砲撃し直撃を防いだのだろう。

「これね。」

「ああ。」

 スローモーションですら追い切れない程の高速展開で、彼女はマリアの攻撃を無効化した。そこで彼らは、ある疑問にたどり着く。

()()()()()()()()()?」

 まず映されるのは、彼女がギアを展開してすぐ後だ。慎次に追われている時と、装者の気配に気付いた時。そのカラーリングは、紫をベースにしている。

 次に映されるのは、慎次から逃走する時と、アガートラームの攻撃を防ぐ時。瞬時に真紅に変化した。アームドギアを使用したのも、この時だ。

 最後は装者たちと対面し、戦闘している時。青をベースにしたガングニールと言われても違和感を感じない程のデザイン。

「緒川さんが聞いた聖詠によれば、『ヴィマーナ』ですね。古代インドにおいて、モヘンジョダロ遺跡が一夜にして滅び去った原因とも言われています。」

 古代核戦争と言われるそれは、現代では否定されるのが大半だ。確かにガラス化した地域は発見されたものの、ただそれだけ。古代の超技術なんてものは存在しないし、その地形は現在立入禁止。それが、学説となっている。()()()()()()()()()()()()()()()、学者にとってそんなことは関係ないのだ。

「仮に伝承通りなら、飛行能力を持っているのは理解出来るんですけど…砲撃能力に加えて色が変わるなんて…」

 エルフナインは眉を下げる。力になれない自分が不甲斐ないのだろうか。

「まだ分からないことだらけなんですけど…」

「いや、この短時間で全て解析するのは現実的ではない。これから、彼女に聞けばいい話だからな。」

 分析は一段落を終え、小休止を挟む。話題に上がるのは、当然のように女性の話だ。

「あの人、誰なんだろうね。」

「おかーさんかな!」

 元気に叫ぶ響歌に、空気が弛緩する。確かに髪色は似ているものの、その姿は全くの別物だ。遠目から確認しただけの響歌が誤認するのも無理はない。

「先輩の攻撃は当たらんし、飛び道具もダメ…しかも格闘戦はおっさん並とか。何なんだよアイツ…あれか、女版のおっさんか。」

「司令は男の人だよクリスちゃん!」

「んなこと分かってんだよ分かれよ!」

「ひどぅおい!」

 よよよ、と泣き崩れる響。いつもの事ゆえにさらりと流し、翼はマリアに意見を求めた。

「マリア。どう思う。」

「…限りなく黒に近いグレー、って感じかしらね。私たちのことを知っていて、なおかつシェム・ハに関わりがあるだなんて。平行世界から来た悪の装者…なんて触れ込みの方が分かりやすいのに。」

 なんなら私の攻撃なんて防がれるし、とマリアの猫耳ヘアーがへにょりと垂れる。不意打ちが効かないのは理解出来たが、それでも完璧なタイミングだったのにと悔しがっている。

「あの人…増えてましたよね。分裂するんデスか?」

「切ちゃん、分身かもしれない。」

 なんデスとぉ!?と頭を抱える切歌。当然だ。NINJAは1人だけでお腹いっぱい。さらにもう1人増えてしまえば、常識人として何か大事なものを失ってしまうような…そんな気がする。

「あれ、師匠は?」

「あの人に会いに行く、って言ってたよ。」

「言ってたよー!」

 その時、司令室の外を誰かが走り抜けていった。はて、誰か走るような人が居たのだろうか。ふと思い返して響は首を傾げた。いつも走っているのは、つまみ食いして怒られている切歌、寝坊して慌てている切歌、響歌の事を追いかけている切歌。

「…切歌ちゃん、ちょっと訓練しよっか。全力で。」

「デデデデデス!?」

「喧嘩みてーなノリで訓練に誘うな!」

 その時、アルカノイズ出現のアラートが鳴った。装者たちの顔が引き締まり、モニターに一斉に向けられる。司令が居ないため、音頭をとるのはマリアだった。

「行くわよ皆ッ!」

 

 

 

 

 

 

 …ひまでふ!ひまなのでふ!わたしは『かいぜんをよーきゅー』します!なんか急にみんながどたばたし始めて、わたしはおかーさんと二人でおるすばん。むむむ、あやしい…こっそりぬけだして…

「響歌?なにしてるの?」

「ひゃあ!」

 ばれちゃった。ても急にナインちゃんのとこに行ってなんて言われたら、きになるよね!しかたないの!

「うん、でも…みんな、戦ってるから。大人しくしてよう、ね?」

 はーい…でもひまだからなぁ…

「未来さん!急いで司令室まで向かってください!貴方の神獣鏡が必要になるかもしれません!」

 ふぇ?

 

 

 

 

 

 

「…なに、これ。」

「未来、響歌には。」

 仕事モードの響が、娘には見せないように未来へ伝える。彼女は黙って頷き、目を閉じるように言いつけた響歌の耳を塞ぐ。彼女は聡い子だ。幼少期からS.O.N.G.に出入りしていたからか、話を聞く場面ではしっかり聞いてくれる。

「酷い…」

「…なんだよ、こんなの。」

 翼とクリスが震える声で絞り出せたのは、そんな言葉だった。調と切歌は絶句し、マリアは目を逸らしている。それほどまでに一方的な戦いが、モニターには映し出されていた。

 先程まで激戦を繰り広げていた装者。名前も知らない彼女が、人の形をしたナニカに一方的に蹂躙されていたからだ。

 近付いて殴ろうにも、赤黒いオーラでその拳は阻まれて届かない。拳よりも威力が高いと言われる蹴り。長い足から繰り出されるそれも、すべての攻撃が通らない。

 

 対して、真っ赤な髪を靡かせた少女。赤黒いオーラを纏って立つ彼女は、大雑把に腕を振るって装者を吹き飛ばす。そこで初めて、彼女たちの戦っている場所がリディアン跡地である事に皆は気づいた。数々の戦いで傷ついた学び舎が、さらに原型を留めることなく破壊されていく。

 しかし何度吹き飛ばされても、装者は立ち上がる。ふらつく足を無理やり動かし、()()()()()()()()()()()()()()()()殴り掛かる。己より強いはずの彼女が蹂躙される様を見て、響は歯を食いしばった。

「…これは、()()()()()()()?」

「はい。皆さんがアルカノイズの対応に追われている時に発生しました。恐らく、今はもう──」

「紫羽ッ!」

 その時、術衣に身を包んだ誰かが司令室に飛び込んでくる。解いた髪で分かりにくかったが、その姿は画面の中の装者と同一人物だった。

「待つんだ紫羽くん…!」

「…なぁ、おっさん。そいつ、誰だ?」

 彼女を追って走ってきたのは弦十郎。乱れた息を整えるため座り込みながらも、モニターから視線を外さない女性。彼女に寄り添うように彼は膝を着いた。

「…彼女は、【風鳴紫羽】、らしい。どうやら記憶が曖昧らしく説明がよく分からなかったのだが…その、画面の中に映る女性。彼女は分身だそうだ。」

 見れば、顔立ちも瓜二つ。そうか、と翼は納得する。ここにいるのは、展望台でシェム・ハと話していた少女なのだと。

「違う!わたしは──」

 彼女が髪を振り乱して叫ぼうとした瞬間。モニターに眩い光が溢れ、そして映像が途切れた。緒川の分身が消えてしまったそうだ。そして彼から、衝撃の言葉が放たれる。

「…この時、装者の…仮称【風鳴紫羽】の、絶唱による消滅を確認しました。」

「絶唱…だと?」

 翼の脳裏によぎるのは、かつての相棒の姿。アームドギアを用いずに絶唱を放てばどうなるのか。それは、誰よりも翼がよく知っている。それほどまでに強大な相手なのか、とその身体が震えた。

 絶唱のリスクは装者ならば誰もが知っている。故に彼女たちは考えた。絶唱を使うことで消滅したならば、彼女はきっと、LiNKERを使った時限式なのだと。その時。

「うそ…うそよ…し…う…」

 風鳴紫羽、らしき女性が気を失って倒れ込む。目を閉じた、青白いその顔は。誰かに重なって見えた。

 

 

 

 

 

 

「響歌は、響の所に行っててね。」

「はーい!」

 女性は気を失い再び病室に運び込まれた。風鳴紫羽、そう名乗った女性は別世界の装者ではないか。そんな仮説が立てられた後、突如として天羽奏が現れた。翼に連れられてS.O.N.G.にやってきた、風鳴紫羽の事を知るような素振りの奏。しかし彼女は風鳴紫羽の最期を聞くとそのまま部屋を飛び出していってしまった。

『紫羽を、見殺しにしたってのか!お前らは!』

 違う。そう言えたならどれだけ良かっただろうか。さしもの弦十郎も、奏の剣幕に気圧されて何も言えずじまいだった。

「ぶーぶー、わたしばっかりなかまはずれー。」

 それからしばらくして、未来と響歌は「風鳴紫羽」の病室を訪れた。しかし病室に入るなり直ぐに響歌は追い出され、響の元へ歩いている。不満げな彼女を見かねたのか、どこからともなく現れた慎次が響を呼び出した。

 どうやら響は甲板にいるらしく、慎次に連れられて響歌は不貞腐れながら歩いていた。ご機嫌ななめなプリンセス。そんな感想を抱いた慎次は、

「響歌さん!危ない!」

 しかし飛来した瓦礫から響歌を守った。抱えての待避は間に合わず、響歌を抱きすくめて庇う形になってしまった。

 唐突な本部への被害。瓦礫が飛んできた先には、甲板へと続く扉があった。しかしそこには扉はなく、ただ1人、()()()()()()()()()少女が立っていた。

 

 ぞくり、と背筋を何かに撫でられたかのような感覚。あれと対峙するのはマズイと、長年の勘が叫んでいる。故に彼は、煙幕を展開して撤退を選ぶ。即座に反転し、潜水艦の内部へと消えていく。

《逃がさないわ。》

「何者だッ!」

「緒川さんは逃げてください!響歌も!」

「響、私も。響歌を守るよ、シェンショウジン…!」

「待って!おとうさん!おかあさん!」

 後ろから聞こえた声は、頼もしい装者達の声。痛む体に鞭を打ち、慎次は響歌を抱えて走り続ける。向かうのは、エルフナインの研究室だ。

《逃がさないって、言ったわよね。》

 しかしその少女は、身体から赤黒いオーラを放出して慎次の前にヒトガタを形作る。不定形に姿を変えるソレは、慎次ですら出せないスピードで彼らを追う。響歌を抱え、負傷した慎次では逃げ切ることは出来ないだろう。

「行け慎次ィ!」

「司令!…分かりました!」

「げんじゅーろさん!」

 しかしそのオーラは質量を持ち、なおかつ炭化や分解などの能力は持っていないらしい。今まで暴れられなかった鬱憤を晴らすかのように、弦十郎がヒトガタを殴り飛ばす。

 彼に背中を任せ、慎次はただひた走る。抱える響歌は突然のことに混乱し、暴れだしている。

「しんじ、おろして!おかーさんが!」

「大丈夫です、よ…未来さんなら…!」

 度々ふらつきながらも慎次はエルフナインの研究室まで辿り着き、慌てて出てきた彼女に響歌を託す。

「緒川さん、手当を…」

「いえ、司令の援護に回ります。響歌さんを、任せました。」

 そう言って彼は姿を消した。2人だけが残されたが、その時エルフナインの通信機に連絡が入った。送り主は、やってきていた奏だ。

「奏さん!?…え、は、はい!分かりました!」

 すると彼女は響歌の手を引いて走り出した。後ろからは響の声も聞こえてくる。仲間に任せてこちらへ来たのだろう。

「エルフナインちゃん、響歌!」

「おとーさん!」

「響さん、急ぎましょう。奏さんが言うには、それがたった一つの解決法らしいですから…」

 わかった、と頷く。恐らく響歌は自分が抱えた方が早いだろう。そう判断して響は走るスピードを上げた。

「どこいくの、おとーさん。」

 この状況で、泣き叫んではいない。日頃訓練を見慣れてしまったからだろうか、これも訓練の一環だと思っているようだ。そんな彼女に現実を教える訳にもいかないだろうが、きっと分かってしまうだろう。

 悩みに悩んだ響が出した、結論とは。

「────響歌、貴方に、世界を渡ってもらう。」

「ふぇ?」

 

 

 

 

 

 包み隠さず、真実を教えることだった。




ちょりっす。我シェム・ハ。
あいさつを変えてみたぞ。これで特殊タグを使っ…ておらんな作者め!
おのれ!神罰である!不敬であーーーる!!

…ごほん。次回、「またね」

これ、展開分かってる読者様はもう題名から分かるのではないか?初見様がおるとは思えんしなぁ…え、いる?きっといる?そんなに頷かんでもよかろうに…

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