今回ですが、次回予告詐欺、サブタイ詐欺になっております。
とにかく読んでください。詳細は後書きにて。
では、どうぞ。
第壱話
ある日の事。夏の日差しにジリジリと照らされながら、紫羽と奏は街を歩く。しばらく戦いも無かったことで、二人の時間が取れたとも言う。そんな時間を大切にすべきだろう、と弦十郎の計らいで『デート』をしていた二人だったが。
「奏、こんなのどう?『ツナ義ーズ応援カフェ』。」
「違う、それnasita。コーヒーが美味いんだとさ。行ってみるか?コーヒー淹れるためのヒントが貰えるかもしれないぞ?」
「確かに良いわねそれ。…なんかマスターの顔、胡散臭くない?途中までは仲間だったのに終盤で裏切りそうな顔してるけど。」
「例えが具体的すぎる。」
紫羽のセンスは微妙に世界を滅ぼしかねないものだった。
「あの服とか良いんじゃないか?紫羽の肌、白くて綺麗だしなぁ…」
「良いわね。…背中見えすぎじゃない?」
「あー、傷跡か。」
「ま、私にはカワイイ系の縁は無いわよ。こういうのが落ち着くの。」
「うーん…そうかなあ…」
そんなわけで紫羽はいつも通り、右肩に残る傷跡を隠すような服装。黒のパンツに真紅のタンクトップ、そして極め付けは革ジャンにサングラス。もはや見た目はヤの付く自由業のあの方々なのだが、しかし紫羽の長く細い足と長い髪が印象をガラリと変えている。道行くカップルが揃って見惚れているぐらいなのだ。奏も内心ウッキウキである。
「それじゃここは?シャルモン。」
「…それ知り合いがやってる店ね。腕前は一流だし、私も彼から色々教わったんだけど…」
「けど?」
「最近、なんか別のことで忙しいらしくて。開いてないんじゃない?」
「あ、マジだ。」
スマホ片手に情報収集を続ける奏を見て何をトチ狂ったか、纏めた髪を靡かせ彼女の手を握って歩く姿は完全に夫婦のそれであった。握られた側はたまった物ではないらしく、まるで漫画か何かのように顔が真っ赤に染まっていった。お前らさっさと結婚しろ
「(気温が)暑いわね。」
「(興奮して)熱いな…」
微妙にすれ違った会話を交わす二人は、側から見てもカップルそのものだった。珍しく白のワンピースを着こなした奏は、紫羽に手を引かれるまま顔を赤く染めている。恋愛沙汰に無縁だった奏からすると突然のスキンシップに混乱しているところだ。
「顔赤いわよ。大丈夫?」
「あ、大丈夫!大丈夫だから!」
内心慌てふためく奏を引き連れて紫羽がやってきたのは少し大きな公園。
ライバル心を燃やす紫羽は、サングラスを上げて財布を取り出す。どうやら自分よりも美味という店の味は研究したくなるのが料理人。響と切歌が手放しで絶賛するその屋台は、人の気配がほとんど無い、公園の隅にひっそりと佇んでいた。
こんな場所に位置しているような屋台が有名になるものだろうか。一抹の疑念を抱いた紫羽だったが、目の前に並んでいた常連らしき青年とスタッフが親しげに会話しているところを見て直感する。これは、本物だと。知る人ぞ知る、という表現が正しいであろうその屋台の名前は
「私よりも美味しいというクレープ屋…これは敵情視察なのよ。というわけで奏、何がいい?」
「あー、そんじゃ私は…この『名状し難いクレープのようなもの』で。」
「何それ。…ほんとにそんな名前なのね。私はこの『てけりりフルーツクレープ』をお願い。」
「はい!それでは
「「は?」」
妙に機嫌の良い銀髪のスタッフが勢いよく叫んだかと思うと、突然二人の体が光に包まれる。咄嗟に紫羽はギアを起動し、奏を腕に抱える。LiNKERが不要になったとは言え、紫羽にとって奏は守るべき対象なのだ。
咄嗟に奏を守りながらギアを展開するという反射神経を発揮した、装者の中で最も経験豊富な紫羽であってもこの光に成す術はない。今までに経験したことのない、謎の浮遊感と名状できない気持ち悪さに包まれた二人は──この世界から姿を消した。風鳴紫羽、天羽奏の消失。その事態を見ていたのは、笑った顔を変えないスタッフただ一人。
「さあ、始めましょう。決して交わる事の無いはずの世界同士、決して相容れない者同士の──」
○○○○
「──ッ、何を!」
「紫羽!」
二人の視界から光が消え去った時、そこに屋台は無かった。先ほどとは一転して赤く染まった空が、自分たちの身に超常の何かが起きたことを示している。奏を抱えたまま周囲に意識を巡らせる紫羽だったが、危険物の気配は無いと判断。奏を下ろしてギアを解除し、彼女はサングラスを尻ポケットに差し込んで険しい視線を露わにする。
「私の奏に何してくれてんのよ…」
「あの、紫羽?顔が怖いんだが。あとこれ。」
「御免なさい、どうしたの?」
奏が見せるのは繋がらなくなった端末だ。紫羽のものも同じく圏外と表示されているそれを見て、紫羽と奏、歴戦の二人は確信めいた何かを胸に抱く。
「これは…電波遮断かしら。だとしたら危険ね。早くここから離れないと。」
「良いのか?もしテロリストがアルカ・ノイズを持ってきてたら…」
「本部からの連絡も何も繋がらない状況で動く方が危険よ。一度本部に戻って…」
その時だ。
『やかましいぞ貴様ら。』
「誰!?」
「紫羽?」
突如、紫羽の頭の中に響いた声。キョウカとは違うそれは、しかし己の声。突然叫び声を上げた紫羽を奇妙に思ったのか、奏が首を傾げて紫羽を見る。
「頭の中に、誰か…」
「キョウカじゃ無いのか?」
「いいえ違う、キョウカの気配は無いわ。これは…」
『やれやれ、そこな者は呪詛を受けたままか。仕方あるまいな。』
「貴方は?」
『我はそうさな…シェムたんと呼ぶが良い。』
「シェムたん?何よそれ、ふざけてるの?」
呆れたように聞き返す紫羽だが、シェムたんと名乗るその声は含みのある笑い声を上げて返事をはぐらかす。
『今の貴様には関係のないことよ。そんなことより、誰か近づいてきているようだが?』
「誰かって…」
「紫羽、大丈夫か?」
「ええ。それより奏、近くに人の気配、ある?」
言われて奏は辺りを見回し、耳を澄ませる。
『こっちな気がする!』
『こういう時はここから動かないのが正解なのよ。』
『それは雪山で遭難した時じゃ無いかな…?』
奏に聞こえたのは、馴染みのある声が二人分と、そして初めて聞く声。
「響!?」
「響がいるの?一体何が…」
『まさか、この声──』
響と未来、そしてもう一人。奏に遅れてそれを把握した紫羽は奏の前に立って身構える。二人はともかく、残り一人が何者か分からない。
「この事態…響と未来は通信できてるのかしら。であれば本部に連絡したいところね。」
「空が変わってるしな…確実になんかあったろこれ。」
「あと一人、誰か一緒よ。気を付けて。」
響と未来と行動を共にしているとはいえ信用できる相手とは限らない。ましてやそれが謎の光に包まれるという現象が起こった後ならば、なおさらだ。互いの顔を見るまでもなく、二人は声のする方に身構え続ける。やがてやってきたのは、
「ちょっと待ってて!私が先に見てくるおおう!」
「ん、どうしたひびk」
飛び出してきた響は奏を見て面食らったように動きを止める。そして奏に向かって手招きするとそのまま二人で話し始めた。
「今からやってくる子、一般人なので面識ない感じでお願いします!」
「よしわかった。」
ぶっちゃけ紫羽には筒抜けなのだが。大体事態を把握した紫羽は、仲間外れにされたことを少し残念に思いながら奏に合わせることにした。機密情報を知られて仕舞えば非常に面倒なことになる。本部まで連行、誓約書の説明と署名、エトセトラ、エトセトラ。後始末が面倒なのだ。
「どうしたの響…あっ。」
「勝手に飛び出すなとあれほど…って、天羽奏?」
「ん、私のファンか?」
「は、はい!」
なんだこの茶番。木にもたれながら紫羽は嘆息する。
『茶番、か。それもまた一つの視点かもしれぬな。』
(…結局、あんたは何なのよ。勝手に人様の頭に入り込んで。神様にでもなったつもり?)
『いずれ分かることよ。いずれ、な。…まああながち間違ってはおらんが。』
(ふーん。じゃあ駄女神ね。役に立たないもの。)
『なんだと貴様!?この我を誰と心得る!』
(誰よ。)
『ぐぬぬぬぬうう…そ、そんなことより良いのか。あの娘、貴様を見ているようだが。』
腕を組んだまま俯き加減だった紫羽は視線だけを四人に向ける。四人の中の一人、おそらく友人だろう少女の深淵のような黒い瞳がこちらを眺めていた。
「何か?」
「…貴方は。」
「そこの奏のマネージャーよ。」
「マネージャー…貴方みたいな人はいなかったと思いますけど…」
「は?今も昔も、
「あ、マネージャーさんなんですか。ところでお名前は。」
「守秘義務よ。」
「生年月日は。」
「個人情報よそれ。」
「住所。」
「そろそろ警察呼ぶわよクソガキ。」
「え、あの、奏さん…」
こそこそと話し始めた響、未来、そして奏。確かに慎次がマネージャーだった時期もあったが。
「奏さん、あの人って…」
「え?紫羽だぞ?…ははーん、さてはいつもと違ってて分からなかったな?」
「あのー…その、お知り合いなのかもしれませんけど…
「──あ?」
心底から知らない、そんな表情と共に首を傾げる二人を見て感じた違和感。チリチリと胸を焦がすような嫌な予感は、いつもの奏の直感だ。それが、『何かが違う』と声高々に叫んでいた。そんな己の中に、ぼんやりながら浮かんだ疑問を彼女は口にする。
「ちょっと待て。…なあ響。」
「はい!」
「
「──温泉?」
「ああ、そういうことか。」
納得した様子の奏は紫羽の隣まで一飛びして身構える。突然のことに
「奏?」
「紫羽。こいつら、私たちの知ってる響たちじゃねえ。」
『ふむ、この小娘の直感は動物並みか。ひっそりと囁いた甲斐があったものよ。』
(あんた、私にしか話せないんじゃないの?)
『シェムたんに不可能はないのだ。』
(………フッ。)
『鼻で笑うたな!?な!?』
「とにかく奏、みんな驚いてるから一旦落ち着きなさいな。」
「落ち着いてるさ。一応、な。」
「あのー、また私、なんかやっちゃいました?朱里ちゃんの隠してたポテチとか未来のプリンとか食べちゃったからですか?」
「ねえ響、後でじっくりお話しよ?」
「ちょっとランニングしたくなってきちゃった。あ、こんなところに丁度いい重りが。」
「やめ、ちょ、やめてぇぇぇぇ!」
三人を睨む奏、脳内で駄女神と、そして口で奏と会話する紫羽。向こうでは響が盛大に自爆した上に共食いの被害に遭っているようだが、自業自得なので無視。ベキボキと聞こえてはいけない音とともに響の関節を極めている、朱里と呼ばれた少女。彼女は暴れる響の意識を手刀で飛ばし、ぐったりした響を抱えながら紫羽たちに向き直る。
「──とりあえずどっかで休憩しません?」
○○○○
「あ、ここで。」
「かしこまりました。」
(((なんだこの人)))
「サラッと一番良い部屋取ったな。」
「そりゃそうでしょ。」
公園から四人を引き連れて歩く紫羽は、すれ違う人々の視線を浴びながら某高級ホテルの最上階をサラリと抑えた。ビジュアルからしてお忍び旅行中のトップスタァにも見える彼女に臆することなく作業を終わらせたホテルマン。五人が去った後、彼がバックヤードに連れ去られたのは自然の摂理かもしれない。
揺れやらなんやらをほとんど感じないエレベーターで最上階まで移動し、慣れた手つきで部屋に入る紫羽。自分のことよりも奏を優先するあたり、本当にマネージャーなのかもしれない。響と未来も記憶と現実の齟齬を感じ始めたようだ。紫羽に向ける視線が少し険しいものになってきている。流れるような動きでソファに腰掛け、また三人に座るよう勧める彼女は、何者なのかと。
「はい、それじゃあ始めましょうか。盗聴とかの心配はないから、安心して話しなさい。」
「ありがとう、ございます。…そんじゃ単刀直入に。あんた誰?」
「「朱里(ちゃん)!?」」
「私が知ってる限り、ツヴァイウイングのマネージャーはあんたじゃない。でしょ、響。」
「あー、うん。そうだね。確か男の人だった気がするなあって!」
「それは私の前任者。元々補佐みたいな感じだったけど、今は私よ。」
「いいえ、違う。そもそも、
朱里の言葉に、空気が張り詰める。一般人であるはずの彼女が、どうしてこれほどに堂々としていられるのか。感じる疑念を晴らすことはできなかったものの、頭を抱えた紫羽が放った言葉に一同は驚愕する。
「こんの駄女神…!」
「ん、どうした?」
落ち着いて聞いて頂戴。
「
「「──ッ。」」
「あ、ちょっとなんか買ってきますね。」
「良いわね。はいこれ財布。好きなもん買ってきなさい。」
「──なんでも?」
「なんでも。」
無言のサムズアップ。空気を読んだのか、それとも単なる偶然か。なんにせよ、部外者らしき朱里が部屋を飛び出したことをしっかりと確認し、紫羽は足を組み替える。組んだ腕を足に乗せ、彼女はサングラスを机の上に投げて胸元を示す。その動作が何を示しているのか。それを理解できぬほど、響と未来は愚かではなかった。
「それは。」
「やっぱりそうみたいね。」
ちゃり、と鎖の音と共に豊満な胸の谷間から引き抜かれた深紅のそれを見て、二人は動きを止めた。隣に座る奏も同じものを取り出したことで、彼女たちは眼前に座る女性が只者ではないことを知る。ツヴァイウイングのマネージャーだという紫髪の女性、彼女は一般人などではない、自分達と同じシンフォギア装者だと。
「さあ、話しましょうか。
○○○○
「ふぅン…途中までは一緒…でもなさそうだけど、とにかく貴方たちは違う世界の装者なのね。それで、あの足立朱里ちゃんは貴方たちの学友であり、一般人だと。分かったわ、なるべく配慮しましょうか。こちらとしても一般人を巻き込むのは不本意だから。」
「はい。ありがとうございます。…でも驚きました。奏さんがLiNKERなしでも戦えるなんて。」
「だろ?これこそ愛の力だッ!」
立ち上がってガッツポーズ。愛。どこかで聞いたようなそのフレーズに小さな笑みを溢し、しかし響は素朴な疑問を投げかける。
「あの、奏さん。さっき愛って言ってましたけど。」
「ただいまー。いやー重かった重かった。あ、お姉さん財布ありがとうございます。」
「はいはい。…あれ、こんだけでいいの?」
「え、結構使っちゃったなって思ったんですけど。」
「余裕余裕。金なんていくらでもあるんだから。」
「これが、富豪、かッ…!」
「奏さんの好きな人って、誰ですか?」
「あ?紫羽だけど。」
どさどさどさ。ちょうど部屋に戻ってきたばかりの朱里が荷物を床に落とした音だが、そんなことを気にする余裕など二人には無い。マイペースな紫羽は当然であるかのような反応と共に朱里の荷物を拾い上げていく。ちなみに奏はドンと張った豊満な胸を揺らしながらドヤ顔を決めていた。朱里はぶつぶつ何かを呟いているようだが、その内容が何かまでは聞き取れない。
「へぁ!?」
「なんだその反応…」
いいか?
「自分の想いに、性別なんて関係ねえんだよ。」
「か、奏さん…!」
「これがトップアーティスト、天羽奏…!」
「「それは違うと思う。」」
復帰したらしい朱里と紫羽が揃って突っ込むものの、自分たちの世界を構築している三人には聞こえなかったようだ。呆れながら顔を見合わせた二人は、何かシンパシーでも感じたのか互いに肩を叩き合った。
「コンビニにでも行ってきたの?それにしては随分と荷物が大きいみたいだけど。」
「あー、これはですね。」
朱里が取り出したのはペヤ○グ焼きそば超超超大盛り。それを見て、紫羽は柄にもなくドン引きする。驚異の4000キロカロリー超のそれを食べるものが、ここにいるのかと。最高級の部屋に似つかわしくない、濃厚なソースの香りが漂い始めたあたりで彼女は考えることをやめた。
「紫羽…どうした?」
「私の知ってる響じゃない…あと朱里ちゃんも食べるのねそれ!?」
「むごごごごご。」
「口の中のものを無くしてから話しなさい──!」
スキル、母性。口の周りをベタベタにする二人の前に回り込んだ紫羽は手早く汚れた箇所を拭き上げ、そして服にソースが付かぬよう紙エプロンを装着させる。ここまで僅か数秒、しかも当人たちは知覚していない。いつの間にか磨き抜かれたスキルは伊達では無かった。
「は、早い。これが、奏さんのマネージャーさんの実力…!」
「未来ちゃん。──着いて来れるかしら。」
「追い抜いてみせます──!」
謎の気迫を放つ二人と、容赦無く焼きそばを食べ進める響と朱里。そんな様子を見ながら奏は呆れたように笑う。
「ははは…は!!!!」
「「むぐぅ!?」」
「響!?朱里!?」
「ちょ、奏!驚いてむせたじゃない!ほら水、水!」
突然叫んだ奏に驚いてむせ返る響と朱里。慌てて背中をさする未来と紫羽の視線を受けながら、奏は手にしたパンを口に放り込んで四人に指を突きつける。
「この世界がどこか、調査してねえ!」
「「「あっ。」」」
「は?」
○○○●
「つまり、ここは私たちのいた世界とは違う世界かもしれないと。」
「ええ。SFの世界じゃあるまいし、とは思ったんだけどね。」
ホテルを出た後、二手に分かれて情報収集をすることになった五人。奏・響・未来の三人を見送った後、紫羽は朱里と共に夜の街へと繰り出していく。手持ちの金に余裕があるとは言えないが、ここで金を惜しんでいてもしょうがないとは紫羽の弁である。一般人だという朱里に、できるだけ機密に触れないよう説明を続けていた紫羽だったが、前振りもなく朱里から質問が投げられた。
「お姉さんは、天羽奏…さんのマネージャー、なんでしたっけ?」
「…そうね。」
パーカーを着崩しながら朱里は紫羽を見る。明らかに身のこなしが一般人のそれではないのだが、マネージャーには護身術を修めている人もいそうだしそれでいいかと勝手に納得してしまう。色々思うところはあるのだが、ここで突っ込んでも何も変わらない。そう思って会話を打ち切った。
『この娘…ふむ。』
(何か分かったの?)
『あー、うむ。だがこれは、やめておけ。知らぬ方が良いものだ。』
「あ、そうだ。」
『ピャアアアアアアアア!!!』
そしてそれは、紫羽とシェムたんも同じ。互いに何かを隠しながら歩いていくコンビだが、不意に朱里が紫羽の方に顔を向ける。ぐるん、とフィギュアか何かのように動いた彼女の首に驚いた脳内の声に紫羽は顔を顰めた。やかましい。
「お姉さんの名前、紫羽さんで合ってます?」
「合ってるわ。
「それじゃ、翼さん…風鳴翼さんと何か関係が?」
「妹ね。」
「妹!?」
「そう、妹。私は養子だから血は繋がってないけど。」
「そっすか。…あ、エ○バだ。すみませんワンクレ分だけ金貸してください。」
「貴方ほんと話聞かないわね。」
そう言いながらも財布を取り出すあたり、紫羽も案外慣れているのではないだろうか。
「私、こういうの詳しくないんだけど…そうね。このバンシィとか強いんじゃない?」
「ヒュッ」
「朱里ちゃん?」
紫羽の直感、侮るなかれ。
■
「…そっか、んじゃあ翼は全然違うんだな。」
「ですね。まさかSAKIMORIじゃない翼さんがいるなんて思いまs」
『きゃああああ!』
「な、なに!?」
「こっちだ!」
夜の繁華街。それは、眩くも華やかでいて、そして…人が簡単に死ぬ場所だ。
「やめろ──!」
「た、助け
ぐちゅり。肉が潰れて千切れる悍ましい音が、路地裏に響いた。咄嗟に未成年二人を背中に庇おうとした奏の白いワンピースに、真っ赤な何かが付着する。頬にへばりついたピンク色の人だったナニカの欠片を拭い、奏はギアを纏うことなく動き出す。
「あ、奏さ──」
縺翫?繧医≧縺斐*縺?∪縺吶?√→縺薙m縺ァ縺翫↓縺上?縺吶″縺ァ縺吶°?
「──!?」
「奏さん!」
「まだだ!…よし、良いぞ二人とも。」
恐る恐る通路に顔を出すと、そこには得体のしれない怪物と対峙する奏の姿があった。
「あ、の。」
「──今は、こいつらに集中しろ。良いな。」
「は、はい!」
「
「Balwisyall Nescell gungnir tron──」
ギアを纏うはガングニール姉妹。異なる世界のガングニールが、異形の怪物に向けられる。
「響、お前は未来の護衛だ。良いな。」
「でも一人じゃ──」
ぐしゃ。
「──あぶな、い?」
「余裕だっつの。」
響が言い切るよりも、さらに早く。奏が展開した槍が怪物の胸を貫いていた。一切の容赦を見せない、絶対なる一撃。撃槍の名に恥じぬそれは、視認ができぬほどのスピードを以って振われたらしい。フォールンラバードライブを使わなければ、ただのシンフォギア。響と同程度の出力であるはずのそれは、奏の技量によって戦闘力を引き上げられている。カバー役の翼を伴った戦闘ではあまり気づかれないが、奏のガングニール、その一番の特徴は。
「ブチ抜け。」
紫羽より学んだ寸勁を利用した、時間差攻撃だ。自分の身に何が起こったか分からないのか、胸に大穴を作ったまま吹き飛ぶ怪物。負けじと飛び出した響を見送りながら、奏は槍を形状変化させてガントレットに戻す。未来の護衛を放り出す響に苦笑し、奏は周りを見渡していく。
誰もいない路地裏。何の変哲もないそこには、居酒屋の看板も立てられていた。しかし店内に光はなく、今日が定休日であることを示している。この女性は運悪く人通りのない場所で襲われたのだ。先程から奏の身体で隠しているものの、見るも無惨な姿に成り果てた女性にはその辺のブルーシートが掛けられている。未来と響には刺激が強すぎる。
「でも、こいつは何だ…?」
「奏さん、倒しました!」
あっけない最期だ。未来の側に響を残し、力を失ったまま倒れ込んだ異形のそれに奏が近づいていく。形を残したまま力尽きていることから、ノイズなどではないことは誰にでも分かる。しかしこんな怪物を、奏も、響も、未来も、見た事がなかった。ここから離れようと奏が歩き出した時、流石に二人も分かっていたのか、女性の倒れる方向に顔を向けた。
「どうしよう…これじゃ、私たちが殺したみたいになっちゃう。」
「ああ、そうだな。…この人には悪いけど、ここは警察だけ呼んで退散させてもらおうか。」
未だ消えない怪物の死体もどうすることもできず、写真にだけ収めておいた。別行動している二人の片割れ、紫羽にも伝えるつもりだ。まだ若かったであろう、見ず知らずの女性に手を合わせて三人はその場を後にする。奏が未来を抱え、ギアを使ってビルの上を移動する…そんな忍者じみた行動で。
「奏さん、この街って…」
「少なくとも、私らがいた街じゃなさそうだ。」
「あの光は、一体何だったんでしょう。」
こうして三人の歌姫は、夜の街を駆ける。胸の中に、薄寒いものを抱えながら。
…と、いうわけで。
なんと拙作、『歌を響かせ以下略』ですが、きりきりばい氏(ID:329809)の作品『とある女学生の混沌とした日常』さんとコラボさせていただくこととなりました!え、夢じゃないですよね?
それなりに駄文を書き連ねてきた身ではありますが、人生初のコラボということで朱里ちゃんをしっかり描写できているか心配なのです…!とても面白いので、是非是非ご覧になってください!フリーダム朱里ちゃん、面白いですよ!
私は前半部分、紫羽さんサイドからの描写がございますがきりきりばい氏のお話はどうなることやら…期待と不安で胸がいっぱいでございます…!同氏と肩を並べられるほどの文章を私が書けているのか、それだけが心配です(真顔)
それではまた。私のSAN値が無くならない内に会いましょう。今度は一体、どんな展開になるのでしょうね。交錯する少女たちの戦いを、お楽しみに!
きりきりばい氏作、フリーダム朱里ちゃんの出演する作品『とある女学生の混沌とした日常』はこちら!
https://syosetu.org/novel/254572/