よう!みんな大好き天羽奏さんだ!ほれほれ、待ちかねたか?
今回からようやくアイツが登場だ!この時は私もヤンチャでなぁ…
ってな訳で、第8話!よろしくな!
第8話 わたしのいばしょ
特異災害対策機動部二課、通称『特機部二』。同じく特異災害に対処する機動部一課からは、無駄飯食らいだの税金泥棒だのと揶揄されている。実際、二課の特異災害への出動回数は、創設時から数える程しか記録されておらず、官僚からも存在意義を疑われている彼らであるが、その本質は特異災害『ノイズ』出現後の対処や避難誘導ではない。
彼らが扱うのは『FG式回天特機装束』、通称シンフォギア・システム。現行の物理攻撃手段が一切通用しないノイズへの、唯一の対抗手段…と、
「今のところ見つかってるのは…翼ちゃんだけなのよねぇ…」
「そのようだ。…なかなか見つからないものだな。」
「当然よ!そう簡単に、ホイホイと適合者が見つかってたまるものですか!」
そう、そのシステムには、『適合者』と呼ばれる人物が必要であったのだ。シンフォギア・システムを起動するための『歌』を歌うことのできる人物。しかしその捜索は難航しており、なおかつ要求される高いレベルでとなると殆ど居ないようなものだった。
二課もただ座して見ているわけではなく、適合者を捜索するための隠れ蓑、『私立リディアン音楽院』を設立。適合者を文字通り血眼で探している。現在確認されたのは風鳴翼、ただ一人。その叔父である風鳴弦十郎は、厳しい顔で腕を組む。すると、慌てたようにオペレーターの一人が駆け込んでくる。
「司令!奏さんがまたガングニールを!」
「またか!?」
「おいおっさん!このギア使えねーぞ!どうなってんだよ!」
「か、奏さん…適合値が低ければ使えな…」
「ああ!?んなもん気合いだよ気合い!お前はどうだか知らねえけどな!」
言い争いながら(ほとんど一方的だが)青みがかった髪の少女、風鳴翼と癖っ毛な赤髪を揺らした少女、天羽奏が司令室に入って来た。オドオドと奏を静止しようと頑張る翼だが、半ギレの奏に言い返されて敢え無く撃沈する。
風鳴翼。弦十郎の姪である彼女は、数年前にシンフォギア『天羽々斬』の適合者としてその才覚を表した。しかしながら彼女はまだ12歳。戦場に立つにはまだ早いとの判断で、現在は訓練を中心にギアの練度を高めている。
そしてもう一人の少女、天羽奏。聖遺物発掘現場にて、家族全員を失った過去を持つ彼女は、その日の内に二課に突撃。彼女の勢いに負けた大人たちが実施した検査で、ガングニールへの適合係数が確認された。
「奏くん、一旦落ち着け。まだ無理と決まった訳じゃない。了子くんの研究が進めば、君にもガングニールを纏う日が来るさ。」
「今すぐじゃねーと落ち着かねえんだよ!」
「で、でも無理なものは…」
ギン、と奏に睨みつけられた翼は、逃げるように了子の背後へと隠れてしまう。奏の適合率は決して低いレベルではないのだ。しかしガングニールを起動するには至らないが。その低さをカバーするための研究も了子の仕事の一つ。彼女は慣れた様子でモニタにデータを映す。
「奏ちゃんのガングニール起動計画なんだけど、今は難航してるの。もう少しだけ、待ってくれないかしら?」
「………っち、しょうがねえな…」
ガシガシと頭を掻きながら奏は司令室を後にしようと扉に向けて歩き出す。しかしその先、センサー式の扉が横にスライドして誰かが入ってくる。
「父さ…司令。奏、見なかった?」
「ここにいるぞ。」
弦十郎のことを父と呼びかけたこの少女。
彼女が入室する直前。半ば本能のような形で危険を察知した奏は、ドアが開くまでの一瞬でコンソールの陰に隠れてしまった。その素早さから、まるで猫のようだと有名な彼女。さながら拾われたばかりの野良猫のような奏だが、彼女に対してだけは敵意を顕にしない。
「姉様!」
「あ、翼!今日も訓練してたの?偉いねえ!」
顔を綻ばせながらよーしよし、と翼を撫でる少女。高校生あたりだろうか、制服を身につけた彼女は、一通り翼を撫で終える(その頃には翼の髪はぐしゃぐしゃだが)とハリセンを抱えて立ち上がる。打って変わって鋭い眼光になると、ハリセンを肩に乗せて揺らし始めた。
「いやー、奏がガングニールを強奪したっていうから急いで来たんだけど…ここにいるならラッキーね。」
「
「やだなあ了子さん。決まってるじゃないですか。」
ぶおん、と。ハリセンが立ててはいけないような…普通の人間ならば立てられないような音を立ててそれを抱え直し、彼女はにっこりと笑う。通称、『悪魔の微笑』。
「
「…ちなみに、どのくらいなんですか?」
「翼、聞いて驚きなさい。…20キロよ。」
「すみませんでした」
物陰から飛び出した奏は、流れるような動きで少女にDOGEZAをぶちかました。一連の動きの中にギアペンダントを献上する動きも交えながら、奏はスライディングDOGEZAを見事完遂する。
「うむ、素直でよろしい。それじゃ、行こっか。」
「「「「行く?」」」」
「持久走20キロ。」
「嫌だああああああああああ!!!!!!」
ズルズルズル、と首根っこを掴まれて連行される奏の姿は、文字通り猫であった。ジタバタと暴れる奏の頭にハリセンを一発。スパン、ではなくバシン。その辺の広告を折って作られたはずのハリセンは、一瞬にして奏の意識を刈り取った。
そのまま彼女は、二課のNINJAの名を呼んで、現れた彼に奏を預ける。
「緒川さん。」
「分かりました。あまりやりすぎないようにしてくださいね。」
「はいはい。奏の頑張り次第じゃないかな。」
そのまま去って行く三人を見つめながら、弦十郎は了子に話しかけた。
「了子くん。あいつの右腕…」
「聖遺物かしら?まだ大丈夫、侵食は始まっていないわ。」
彼女の指がキーボードの上を走る。数秒のうちに映し出された少女のデータ。少女の名前の下には、いくつかのパーソナルデータと共に、こんな文字があった。
【融合症例:右腕】
彼女はその右腕に、聖遺物を宿しているのだ。
●
「了子くん。見つかった聖遺物というのは?」
「あー、その…見ても驚かないでよ?」
数年前。長野県で聖遺物の調査が始まった頃に、弦十郎はこんな知らせを受け取った。
『新たな聖遺物が見つかった』
そんな短文と共に送られたメッセージの差出人は、櫻井了子。シンフォギア・システム開発の第一人者であり権威。秘密裏に進められているこのプロジェクトの主任である彼女が、このような短文を送るだろうか。普段の彼女の性格ならばもっとおちゃらけた文面になるはずではないか。
感じる違和感に首を傾げながら、弦十郎は車を走らせて二課へとやって来た。そうして
「ああ。大丈夫だ。」
「それじゃ…はい。」
そう言って彼女はおもむろに隣のカーテンを開いた。
「んな…
「ええ。もっと正確に言うなら、『聖遺物と融合した』人間よ。」
そこにいたのは、紫の髪を広げて眠っている少女だった。見た目は高校生ほどだろうか、彼女は右腕を何かの機械に突っ込まれたまま瞳を閉じている。
生者にあるはずの規則的な胸の上下はなく、彼女の生命活動が停止していることを示していた。それにしては保存状態が良い。
「聖遺物と融合…?まさか、その右腕が。」
「ええ。私はこれを『融合症例』と名付けたわ。」
「融合症例…摘出はできないのか?」
「できるにはできるけど…この子、発見された状況が特殊なの。迂闊に弄ったらどうなるか。」
見た方が早いわ。そう言って了子はタブレットを差し出した。そこに映るのは、どこかの発掘現場だ。話されている言葉から、おそらくインドだろうと弦十郎は推測。カメラの映像は、ゆっくりとどこかに進んで行く。周囲がガラス化したすり鉢状の地形、立ち入り禁止のテープが貼られたそこに侵入したカメラは、やがて壁面の一点を映し出す。
そこには、土の中から露出した紫の金属片。かなり巨大らしく、発掘員全員で掘り出しているようだが、少し様子がおかしい。しばらくすると金属片は粒子となって消滅し、その一角が崩落する。慌てて退避した作業員のうちの一人が、土に紛れて倒れている少女を発見した。
『男共は見るなッ!』
一瞬で飛び出した女性作業員たちが、手に持った毛布を少女に被せる。意識が無いのか、少女はぐったりとして動かない。近づいた作業員(もちろん女性)は、彼女の右腕に違和感を感じたのかそれを覗き込み、慌ててどこかに連絡を取る。
「この時、インド政府に連絡が行ったのよ。そしたらまるで厄介払いみたいに押し付けられちゃって。」
そう言いながら了子は少女の右腕のレントゲン写真をひらひらと振った。はいこれ確認してねと押し付けられたそこに写るのは、前腕部の表皮付近に存在する聖遺物の欠片。幸い、今すぐに何かが起こるわけでは無い。了子は笑いながらそう言って、表情を変える。
「それよりも、この子の発見された状況。どう思う?」
「…あまりにも不自然だ、としか言えんな。」
二人はそのまま考え込んでしまう。秒針が幾度も回ったところで、少女がうめき声を上げた。すぐさま思索の海から浮上した了子は、手早く少女の容体を調べていく。
「うっそ、土葬されてたも同然だったのよ!?どうしてこんなに
「生きているのか…!」
驚愕する二人だったが、少女はそのまま咳き込み始めた。久しぶりの呼吸なのだから当然とも言える。
「大丈夫か!」
「信じられない…まるで睡眠状態から覚醒したみたいよ!?何なのこの子!」
『————ここ、は。』
「フランス語か…俺の声が聞こえるか?これは何本だ?』
『きこえて、ます…よんほん、ですね…』
「意識はしっかりしてるわね。これが本当に蘇生したっての?」
驚愕する大人二人をよそに、上体を起こした少女は不安げに辺りを見回した。
『あの、ここは…』
『ここは特異災害…』
「はーい難しい話は無しよん!ここは日本。わかる?」
『日本…はい。しっかりと。」
だんだんと意識がはっきりしてきたのか、少女の受け答えも明瞭になってきた。どうやら日本語を理解できない、というわけではなさそうだ。途中から日本語を話し始めたため、言語能力は高いらしい。
「君の名前を、教えてもらえるかな。」
「私は…あれ。すみません。分からない、です。」
「うーん、それじゃ、覚えてることってあるかしら?」
「それは…ええと、あ。」
彼女は握りしめていた右手を開き、手の中のものを弦十郎と了子に見せる。赤い円柱状のペンダント。スキャンにかけたそれは——
「ガングニール、だと!?」
「どうして、あなたがこれを…」
「分からない、です。とにかく、これは私が持っておかないと…そう、思って。」
返してもらったペンダントを首にかけ、しかし彼女は不安げだった。
「あの…」
「君の家族は、今どこに?」
「……………」
「そう、か。」
「どうするの?弦十郎クン?」
「行く当てがないなら、俺が引き取ろう。こんな男と二人が嫌なら了子くんでも、あおいでも構わないが…」
「お願いします。私を…家族に、してくれますか?なんでもしますから…!」
おもむろに彼女はベッドから降りると、おもむろに頭を下げた。そのまま膝も折ろうとしたところで、弦十郎の大きな手が肩を掴んだ。頭を上げた少女は、ニッカリと笑う彼の顔を見た。呆れたように笑う了子は、既に戸籍作成の根回しを始めているようだ。
「決まりだな。」
「そうみたいね。」
「あの、どうして…」
「家族を失った少女を見捨てるほど、俺は落ちぶれちゃいないつもりだ。それに、君は
苦笑した弦十郎に座るように促され、少女はベッドに腰掛けた。きょとんとした顔のまま彼を見つめる少女。よっぽど意外だったのだろうか、と彼は腕を組んだ。確かに己の見た目は一般男性とは
「そうだな。差し当たって、君の名前を作らねばならない。」
「私の、名前。」
「ああ。君の名前だ。」
その名は——
●
「ここが、俺の家になる。そして、今日から君の家でもある。」
「大きいですね…」
そうか?と首を傾げる弦十郎。移動中に見た景色から考えると、十分に広い部類に入ると思うのだが。少女は改めて、眼前の養父がどれほど凄いのかを確認した。既に少女はこの時代についての情報は説明を受けており、その全てに適応してみせている。今まで眠っていたとは考えられないほどに。
「では、改めて。」
扉を開いて、弦十郎が振り向いた。
「おかえり、『紫羽』。」
「————はい。ただいま。『父さん』。」