捻くれデブとやべー美人達   作:屑太郎

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捻くれデブとヤベー幼馴染

 命からがら、というわけでもなく。俺はパシリストの実力をいかんなく発揮し、家に帰った。無断欠席は初めてだったが、あの学校の事だそこまで大ごとにはならないだろう。

 

「ただいまー」

 

 とは言ったが今家には誰もいない。だが、習慣はぬぐえないな。

 

「おかえりー」

「うおっ。ああ?」

 

 俺のよく知る奴の声がしてめっちゃビックリした。

 驚きはいろいろな感情に派生するが、今回は怒りだった。

 怒りのままに階段を駆け上り、俺の部屋を開けた。

 

「お前何してるんだよ」

「視たら分かるでしょ? マンガ読んでる」

「俺の家でっていう前提だと疑問になるんだよ!」

 

 俺のベットで布団をかぶり、その中でマンガを読み漁っている俺の幼馴染、清原悠(ゆう)が居た。まあ、漫画の貸し借りとかは今までにしていたが、今回のような事は初めてだ。

 

「まあまあ、そんなに怒んないで。あ、漫画読む?」

「俺のだ。殺すぞ」

「読み終わってからで」

 

 俺はため息と頭を抱えた。何がこいつをそうさせたんだ。

 でも、少しばかり日常が戻って来た事で少しは安心していた。こいつ相手だったら、今回の世にも奇妙な物語レベルの珍事を話すのもやぶさかではない。

 

「てか、君も何しに来たのさ。高校じゃ真面目君じゃん? どうして休んだ?」

「ああ、いいことを聞いてくれた。非常に」

「聞きたくないね」

「俺、女子に告白されたぞ」

 

 お、言っても平気な態度だ。事実がどうかを疑ってるんだな? 残念! 事実です! 残念ってなんだよ! 残念だけど! 

 なんて思いながら、俺はネクタイを緩めながらベット近くに座った。

 

「…………メス豚と?」 

「今だけは雌豚って言うな!!!」

 

 さっきの出来事がフラッシュバックしてきた。あんな記憶永年封印指定だこん畜生。

 

「メ」

「あ?」

「スシリンダー」

「穴という穴に入れてそのまま破壊してやる」

 

 なんていうとあっはっはなんて笑った。こいつは本当に人をからかうのが好きだな。

 

「はー笑った。で? ほんとはどうなのさ?」

「ああ、女子に告白されたから逃げてきたんだ」

 

 俺の後ろのほうで、漫画をめくる音が止まった。はっはっは、悪いな人をからかうのは好きじゃないが、俺の人生自体が人をからかっているような物だからな。

 突然後ろから抱き着かれた、いわゆるあすなろ抱きという状態から悠は俺にささやいた。

 

「ねえ、翔」

「こそばゆい、離れろ」

「つまらない冗談はやめた方が良い」

「ちょおま、ギブギブギブ!!」

 

 俺の首を締めた。悠の細腕がばっちりと頸動脈に食い込んでいる。

 しばらくして俺が落ちかけたタイミングで裸締めを解いた。

 

「何!? そんなつまらなかった!?」

「君が女性から告白されることは1回しかないだろうからね」

「その一回がやべー奴に消費させられたんだよ! だから逃げ帰って来たって訳!」

「返答によってはこの家から君の居場所がなくなると思っていい」

「ここ俺んち! まあ聞いてくれよ」

 

 そういって、かくかくしかじか前話参照というわけで。悠に話した。

 話が進んでいくにつれて、悠の顔がゆがんでいく。そして話し終わったときに一言。

 

「君が狂っている」

「そんな馬鹿な」

「いやいや、俺は狂ってねえ。俺が告白されるという前提が狂っているだけで俺は間違いなく狂ってねえ」

「告白されるなんてそう珍しいことでもないだろう?」

「お前にとってはな。顔は良いし」

「性格もだろう?」

「ああ、勝手に人んちでマンガ読むイイ性格しているよ」

 

 蹴られた。

 

「大体告白されて嫌だったらノーで済むじゃないか」

「罰ゲームだと思ったんだよ」

「罰ゲームだと思ったらなぜ「養豚場に行けば」なんだよ」

「罰ゲーム、断る、つまらない、いじめ、いじめの連鎖、最終的に俺いじめられる」

「君、ネガティブ詰将棋だったら優勝できるぞ」

 

 ネガティブは悪いことじゃない。俺は悪くない。

 

「てか、逆になんで笑わせたらいいんだよ」

「罰ゲーム、面白い断り方、面白い、満足する、いじめられない。おっけい」

「どうしてさ」

「いじめとかやる奴らはチンパンジーだからな。自分が満足すればそこで終わるんだよ、うちの高校皆チンパンジーみたいなものだしな」

「いじめられる原因やっぱり君にあるんじゃないかな」

「馬鹿な、俺は常に周りの人間を見上げているよ、なんたってチンパンジーは豚より上だからね」

 

 無言で悠は首を振った。

 

「ちょっと、お茶淹れてくる。あったかい緑茶と冷たい麦茶どっちがいい?」

「冷たい緑茶」

「殺すぞ、まあ、いいけど」

 

 ちょっとした仕切り直しを挟んで俺はまた自分の部屋に戻った。

 

「ていうか、罰ゲームだったとしてもなんで断ったのさ、気持ちはうれしいけどって言えないぐらいの1000年に一度の醜女だった訳でもあるまいし」

「顔はそりゃきれいなもんだったよ」

「じゃあなんで?」

「俺に告白するような奴にまともな奴がいる訳ねえだろ」

「じゃあ、僕もまともじゃないことになるけど?」

「まともじゃねえだろ、こうやって俺んちで勝手に漫画読んでいる時点で…………いやー、ほんとにビビったなあんとき、告白カウント男で消費することになるとは思わなかったぜ」

「黙れ…………まあ、そうだろうけどさ」

 

 なんか、様子がおかしい。確かに、こいつは男なのに俺に告白したという黒歴史がある、今の俺に雌豚というような物だ。思い出したくないだろう。

 

「で、名前は?」

「ああ、えっと浦野美羽だったっけ」

「…………自分の悩みが嘘みたいに吹っ飛んでいったよ」

「なんでぇ」

「君、本当に世の中のうわさとか知らないんだな」

「噂は噂、それ以上でもそれ以下でもない」

「ちなみに浦野美羽は、ここ周辺で馬鹿みたいに有名だよ」

「ギャングスター的な意味でか?」

「全国模試の上位に食い込み、清廉潔白、品行方正、美人薄命、学校側が理想とする姿といわれているんだけど…………」

「最後の四字熟語だけ少し違うだろ、へえ。俺に告白する時点でまとも度0なんだけど、そうなのか」

「そうなんだよ…………せっかくこっちが外堀から埋めていこうとしているのに」

「あ? なんだって?」

「なんでもない」

 

 どうしたんだ? なんか言っているのは聞こえたんだが、何言っているのかは聞こえなかった。

 

「じゃあさ、今の話きいて、罰ゲームじゃないって確定している時はなんて返すつもりだったのさ?」

「あ? まったく同じ言葉を言うだけだ」

「えぇ…………?」

「男女関係で言ったら、俺より良い奴が、というより俺より下が居ないな!」

「驚くほどの自己肯定感の欠如!?」

 

 俺はネガティブ一周まわってポジティブな人間だ、転ばぬ先の杖百本持つぐらいなら何も持たず転んで死ぬ! みたいな。

 

「そもそも、チンパン高校なウチで俺みたいな容姿の奴がそれと付き合ったら戦争が起こるぜ?」

「じゃあ、イケメンだったら付き合うって事?」

「それはもう俺じゃないし、俺じゃなくていいだろヘイ論破」

 

 結局の所それだろう。

 

「すごい、非モテ率100、200、まだ上がる」

「初期スカウターならぶっ壊れているな」

「はぁ、君は良い性格しているよ」

 

 結局の所、面白ければそれでいい。

 この文脈的には、非モテだという事を差し置いて、付き合えるなら付き合えばいいのに、っていう事か? 

 …………なら、俺が付き合うに値しない人間であることを証明すればいいんだな? 

 

「そうだな、俺の親父が言っていた、高校生の時の付き合ったは桜と同じ時期か20日大根収穫できるまで持てばいい方だってな」

「なにその非モテの英才教育」

「というかさ、そんな簡単なカップラーメンみたいな惚れた腫れた求めている奴に、俺みたいな家系ラーメン出してどうするの!?」

「油少な目、ニンニク多めでよろしく」

「油は俺! 俺は油! デブであることにアイデンティティの重きを置いているのに、それを取っ払ったらただの面白くないガリガリ男の出来上がりだぁ…………もうだめだぁ…………」

「キャベツ、トマト、ニンジン、かぼちゃ…………」

「緑黄色野菜の名前を喋るな! 痩せちゃうだろ!」

「便利な体だな」

 

 俺もだんだん熱が入ってきたな、少しお茶でも飲もう。

 

「痩せてアイデンティティ崩壊する奴君以外に見たことないよ。痩せたらモテると思うんだけど」

「痩せてもデブはデブ! もしくはブス!」

「君痩せたことないだろ? それに、そういうテレビじゃ結構見てくれは良くなっているじゃないか」

「デブとブスの写真並べたら誰でもブス選ぶだろ! 逆によ? お前いきなり今日から女になったら想像するのか?」

「性別は急に変わらないでしょ?」

「性別はマン、ウーマン、ファッティなんだよ! よくわからないって言う顔してんな、いいか、俺をよーく見ろ、貧乳の女よりおっぱいあんぞ!」

「殺す」

 

 すげえ殺意だ…………。

 

「貧乳教の信者だから許してくれ」

「赦そう」

「でも結局痩せてもモテないのよ。漫画小説だけの世界なんだよ、痩せてモテるのは」

「でもそんな君が告白されたんだろ?」

「きっと、両親人質に取られていると思うんだけどさ」

「発想が突飛すぎる」

 

 俺のマシンガントークに疲れてそうだから少し、真面目な話題でも出すか。

 

「正直女は俺の事を家畜ぐらいにしか見てないだろうから、縁切るのが得策だろ」

「そんなことはない。君優しいし」

「残念だったな、優しいは女子語でどうでもいいという意味だ」

「君は何処の世界から来たのさ」

「仮に俺が優しかったとしてもよ? 優しいと言われる条件は俺の行動なわけじゃん?」

「じゃんて言われても」

「休日に家でゴロゴロしている人間と、休日にボランティアに行く人間どっちが優しいかって言ったらボランティア行く人間じゃん? 俺学校じゃ何もしていないからさ。一切生徒と関わっていない」

「灰色通り越して目がつぶれているよ君は…………あー、じゃあ面白い」

「学校じゃ話していない」

「記憶にないだけかもしれない」

「ああ、自己紹介があったな、趣味は読書って言った」

「一番無難で一番孤立する奴じゃないか。じゃあ、デブ専だった」

「そんなもんデブの幻想だ、それにうちの学校相撲部あるし、何なら勧誘されたし」

「うーん…………」

 

 

 なぜ悠は俺に彼女できるという可能性を必死で探そうとしているのか? 

 逆に考えてみよう、あ、めっちゃ面白そうだわ。草葉の陰で見守りたい。

 

 

「まとめれば、学校で見せている性格と備わっている容姿も下の下である以上、学校の女子に告白されるのは不自然。という事だね?」

「自分で言っておいてなんだが簡単に纏められるとむかつくな」

 

 いや、本当にめちゃめちゃ簡単にまとめたな。今までの茶番は何だったんだ。

 

「じゃあ、これまでの人生のどこかで会っているんじゃ?」

「会っていたとしても、そんな、あの人性格良い! 好き! ってなるか?」

「道行くおばあちゃん助けたり、他人に何か影響を与える姿が憧れや恋になる事もあるだろ?」

 

 …………いや、俺人生でいいことやったっていう自覚は無いが? 。まあ、いつだってそんなものか。

 

「仮にそうだとして、告白した後、好きになった理由とかいうだろ?」

「『養豚場に行けば』って言って封殺した奴は誰かな?」

「…………」

 

 要らない報告だが、めちゃめちゃ脂汗が出ている。

 

「君、もしかして…………」

「まて、正直俺、そんなに良い奴じゃないだろう?」

「僕は君を良い奴だと思っているよ? 君は友達の意見を否定するのかい?」

「…………」

 

 あれ? 流れ変わった? 

 

「さっき惚れる理由に優しいを否定したよね?」

「あ、ああ」

「君の思惑がどうあれ、聞いた限りじゃ君の評価は優しいになるんじゃないか?」

「はい?」

「罰ゲーム、面白い断り方、面白い、満足する、いじめられないって言ってたけど、実際は相合い傘だ。それを、消して雌豚にしていた。それは間違いないね?」

「ああ、そうだが」

「…………君が黒板の文字をしっかり消して居なかったとしたら。彼女の目からは彼女を守ろうとしたように見えるんじゃないか、と思うんだけれども?」

「…………」

「仮に罰ゲームでやったとしても、評価は上がるんじゃ」

 

 確かに、しっかりと消しては居なかった。

 いやいや、さすがに土下座してご主人様呼びは無いでしょ。

 

「まて、待つんだ。今言い訳考えるから」

「言い訳って白状してるじゃないか」

「いや待て、俺は悪くねえ。俺は悪くない理由を必死で探しているから今」

「君は自分に好意を向けた相手にこっぴどく振ったサイテー屑男という訳になるんだけど?」

「やめろー!?」

 

 いや、無理。振られるのは良い、けど振るのはダメだ、プライドが許さない。

 

「正直なんで君がそこまで必死に付き合いたくないんだかわからないんだけども」

「モテない生活が長かったからな、正直そこまで要らねえっていうのが一つ。それに、今までの人生でろくでもない女しか居なかったから別にな。あと俺と付き合ってそのことが原因でイジメられるのが目に見えている」

「…………やっぱり君、優しいじゃないか」

「無関心や嘲笑っていうのはクルものがあるからな、イヤだろ、自分が仲いい奴の事笑われるの」

「僕はいつもそう思っているよ」

 

 急にしんみりとした雰囲気になってしまった。

 まあ、しょうがないか。

 

「とりあえず鉄道ゲームやろうぜ、買ってCPUとしかやってねえんだ」

「僕は悲しいよ…………」

 

 そういわれて俺はゲーム機を起動した。50年はやりすぎだった。

 

 

 

 

 

 時を戻そう。それは、鍵山翔が自分の部屋に戻る前の話だ。

 

「お邪魔しまーす」

 

 と、自身の合い鍵を持って侵入したのは一人の女性。清原悠(はるか)だった。

 

「うへへへ、久々だね」

 

 彼女は自らの学校で欠席をしてまで、この家に侵入した。

 我が物顔でとある部屋に行き、そこの布団にダイブした。

 

「翔ぅ…………好き…………」

 

 彼女は、正しく女性である。

 だが、お隣さんであるにも関わらず、幼稚園、小学校、中学校と奇跡的にかみ合わ無かった結果、鍵山翔は悠を男だと勘違いしている。背が低く胸があまり無いのも一因ではあるが。

 それは、悠も知ってはいるが、男幼馴染というアドバンテージを最大限に生かそうとするのは想像に難くない。

 

「んっ…………あっ…………」

 

 いつもは親に黙って来ているため、女性用の制服であるが、今回は部屋の掃除をしようと動きやすい格好にしてきたのが幸いした。

 

「ただいまー」

 

 その一言で達した。いや何とは言わないが。

 汗が滲む全身を悟られないように、布団をかぶり適当にあった漫画を取り寄せた。

 そして、重い体重からくる振動が、彼女の芯を揺さぶる。

 

 男のような振る舞いになるため、努めて脳内を変換させていく。

 

「おかえりー」

 

 そして、長い年月を経て少しばかり歪んだ恋心がしゃべりだした。


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