ドラえもん のび太のスーパーヒーロー大戦   作:天津風

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第0章 プロローグ
眼鏡の少年と戦車乙女の少女の出会い


◇西暦20B6年 12月24日 夜 日本 九州 熊本県 

 

 

「・・・」

 

 

 日本の九州の熊本県のとある公園。

 

 そこでは夜という時間帯にも関わらず、1人の少女が暗そうな表情でブランコに座っていた。

 

 彼女の名は西住みほ。

 

 黒森峰女学園という女子高に通う高校1年生の少女であり、熊本県に本拠地が存在する戦車道の名家である西住流(通称“西の西住”)本家の次女でもある。

 

 まあ、平たく言えば良いとこのお嬢様だ。

 

 容姿は少々地味めで童顔であることも合間って美少女とは言いがたいが、顔立ちは整っており、あと数年もすれば美人になることは約束されているも同然だった。

 

 しかし、そんな彼女がこんなにも顔を暗くしているのには当然の事ながら理由がある。

 

 それは半年前の6月にあった第62回全国戦車道大会が起因となっており、みほは当時黒森峰で副隊長を勤めていた。

 

 まあ、とは言っても、彼女が副隊長に就任したのは完全なる実力というわけではなく、西住まほを強引に隊長に持っていった反感から、出来そうな先輩がほとんど出ていってしまった上に、10連覇目というプレッシャーもあって誰も“西住まほの副官”という立場をやりたがらなかった為、隊長・副隊長を勤めさせて西住流の名を売ろうと考えた西住宗家がみほを副隊長に任命させたにすぎないのだが、その弱体化した時点では西住まほの次に実力があったというのも事実なので、彼女が副隊長に選ばれたのは実力ゆえだったという点も紛れもない事実だ。

 

 しかし、そんな肩身の狭い立場だった彼女を更に追い詰めたのがその決勝戦の事であり、あの時、みほは川に落ちた仲間を助けるために行動を起こしたのだが、それが黒森峰やその上に居る西住家には気に入らなかったらしく、彼女はそれによる物凄い重圧をその身に受けることになっていた。

 

 それこそ『自分は本当は間違っていたのではないか?』と思ってしまう程に。

 

 そして、それは彼女自身だけではなく、他の学校の同級生などにも飛び火したお陰で、クラスメートは誰も助けてくれず、家にも学校にも彼女の居場所は無くなっていた。

 

 当然、このクリスマスイブというイベントの日など、みほには楽しむ余裕すらない。

 

 クリスマスイブのイベントによる世間の活気とは裏腹に、彼女の心はただひたすら暗かった。

 

 

「──どうしたんですか?」

 

 

 そんな彼女に声を掛けてくる人物が居た。

 

 だが、みほは完全に自分の世界へと入ってしまっており、その声に気づかない。

 

 

「あの~」

 

 

「えっ?な、なんですか?」

 

 

 もう1度声を掛けるとようやく気づいたのか、みほはビクッとしながらその人物へと顔を向ける。

 

 そして、みほが顔を向けた先に居たのは1人の同年代くらいの眼鏡を掛けた少年だった。

 

 

「いや、暗そうな顔をしていたから。声を掛けた方が良いんじゃないかなって思って」

 

 

「そ、そうでしたか。すみません!」

 

 

「いや、謝る必要はないよ。僕から勝手に声を掛けたんだし。ところで、君はもしかして家族と喧嘩でもしたの?」

 

 

「い、いえ。そういう訳じゃ、無いんです」

 

 

「じゃあ、帰りたくないとかかな?」

 

 

「・・・」

 

 

 みほはその少年の問いに一瞬言葉に詰まる。

 

 それはある意味で的を射たものであったからだ。

 

 そして、少年はみほの反応にそれが正解だったと確信する。

 

 

「・・・そっか。まあ、それならそんな顔をするのも仕方ないね。しかも、今日はクリスマスイブと来てるから、なおさらだ」

 

 

 少年はみほの気持ちを察するようにそう言った。

 

 

「ねぇ、良かったら悩みを話してくれないかな?僕は赤の他人だけど、だからこそ話せることも有るかもしれないよ」

 

 

 少年はそう言ってみほに悩みを話すことを進めるが、これはなかなか勇気のある行為と言えた。

 

 何故なら、10年前の白騎士事件によって昨今の日本ではISという兵器の普及によって女性優遇制度というものが確立されており、女性にちょっと反抗しただけで逮捕される男性というのもたまに見受けられるような世の中になっているからだ。

 

 特に女性権利団体という組織がそういった“男性の粛清”と言うべき所業を積極的に行っていた。

 

 それは世の中で男性が生きていくことが難しくなったことを意味しているのだが、そういった世の中に必ずしも全ての国が染まっている訳ではなく、例外も存在している。

 

 1つは学園都市。

 

 日本国内に存在する準独立都市であり、この学園都市と“外”の科学力の差は20~30年とも言われている。

 

 この都市は2ヶ月前に起きた第三次世界大戦でロシアと真正面から戦って勝利して、ただでさえ強かった地位を益々強化しており、一部の勢力からはジャジメントの再来とも言われていて警戒する勢力も多い。

 

 2つ目はオオガミグループ。

 

 ジャジメント亡き今となっては世界最大の企業であり、社長のカリスマもあって女尊男卑の空気には染まっていない。

 

 3つ目はNOZAKIグローバルシステム。

 

 かつてジャジメントに敵対していた企業であり、現在ではオオガミグループのライバル会社となる程成長している企業でもある。

 

 こちらの社長は女性であるが、女尊男卑の空気を許してはおらず、それに染まった女性を容赦なく粛清?しているという噂すらあった。

 

 こんな感じに女尊男卑の影響を受けていないところも存在しており、その勢力はかなり大きいのだが、やはり全体的な数で見ると女尊男卑に染まっている人間の方が多いというのも事実だ。

 

 もっとも、2ヶ月前の第三次世界大戦でロシアのISが学園都市の兵器に敗北したことによって、最近ではISの能力に疑問が持たれており、女性優遇制度の見直しの動きなどが男性を中心に広まっていたが、10年もの時間を掛けて固まった体制を崩すのはたった2ヶ月では難しく、また女性権利団体などを初めとした女性至上主義勢力がこういった動きを抑制させていたこともあって、もうしばらくは女性優遇制度は続く見積もりだった。

 

 まあ、そんなわけで日本の大半の地域では女性優位な社会は未だに続いており、もしみほが女尊男卑主義者だった場合、少年の言葉はかなりの問題発言として受け取られる可能性が高かったのだ。

 

 が、幸いなことにみほはそういった人間ではない。

 

 

「ありがとうございます。でも、やっぱり、知らない人には分からない話だと思います」

 

 

 そう、みほの悩みの内容である戦車道は乙女の嗜みと言われていて、ISとは別な意味で男は基本的に関わらない。

 

 その為、みほは少年に話してもおそらく意味はないことだと感じていた。

 

 もっとも、少年は知り合いの女性から戦車道の事を何回か聞いたことがあり、その存在を知っていた(更にその女性というのはみほの小学生時代の友達の姉だったりする)のだが、みほにそれを知るよしはない。

 

 しかし──

 

 

「そうかな?まあ、確かに分からないかもしれない。でも、それは話してみなければ分からないことでもあるんだよ?」

 

 

 話してみなければ分からないというのもまた事実だった。

 

 黙っていても分かって貰えるなどというのは、ただの自惚れでしかないのだから。

 

 

「・・・」

 

 

「──おっと。流石にお節介がすぎたね。ごめん」

 

 

「・・・いえ」

 

 

「じゃあ、僕は行くよ。クリスマスイブとは言え、夜に女の子が出歩くのはあまり良いことじゃないから、気をつけて帰るんだよ」

 

 

「あっ、待ってください」

 

 

 忠告を残し、その場を去ろうとした少年をみほは呼び止める。

 

 

「やっぱり、聞いて貰えませんか?その・・・相談できる友達も居ないので」

 

 

「ああ、構わないよ」

 

 

 みほの言葉にそう返し、少年はみほが座っていなかった方のブランコへと座り、彼女の話を聞く姿勢を取った。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

 話を聞いてくれるという少年に、みほは一言礼を言い、自らの事情を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──なるほど。つまり、君はその決勝戦で仲間を助けたけど、周りはその行為を否定しているって訳だね」

 

 

「・・・はい」

 

 

「う~ん。僕はその場に居ないし、観戦もしていなかったから下手な事は言えないけど、君の行動は間違っていなかったと思うよ」

 

 

「でも、お母さんは・・・」

 

 

「会ったことはないけど、そのお母さんだって本心で言った訳じゃないと思う。ただ周りが君の行為を肯定するような雰囲気じゃなかったから体面を気にしてそう言っただけだよ」

 

 

 少年はみほの母親である西住しほをそう評する。

 

 勿論、実際に会ったことが無いので、これらの少年の評価はあくまで憶測にすぎない。

 

 しかし、少年の気質上、会ったこともない人間の悪口を言うことなど気が引けたし、色々と突っ込みどころがあるとはいえ、曲がりなりにもスポーツである戦車道で本気でそれを口にするのは常識的に考えればあり得ないので、それを言ったのはただの言葉の綾であると少年は判断していた。

 

 もっとも、もし本心から『勝利のためには犠牲はやむを得ない』と言っているのであれば、少年はしほを心底軽蔑していただろう。

 

 曲がりなりにも上の人間が言って良い台詞ではないのだから。

 

 

「そうかな?」

 

 

「きっとそうさ。でも、もし僕の考察が外れていて君の母親が本気でそう言ったのであれば、その母親には見切りを付けた方が良いね」

 

 

「・・・」

 

 

「・・・いや、これは言い過ぎた。忘れてくれ」

 

 

「いえ、間違ってないと思いますので」

 

 

「そ、そう?」

 

 

 少年はみほの反応に少々驚いた。

 

 しほの言葉に無関心という反応ではなく、ショックを受けていることから、苦手ではあっても未だにみほの心中にしほに対する親子の情が存在すると少年は思っている。

 

 その為、流石に先程の親を貶すような発言は失言だったと思っていたのだが、まさかみほ本人から肯定されるとは思っていなかった。

 

 

(これは想像以上に闇が深いな)

 

 

 少年はそう思いながらも、聞いてしまった以上、最後まで付き合うことを決意しつつ、ある問いを行った。

 

 

「まあ、僕の言いたいのは要するにあまり思い詰めちゃいけないよってことだよ。もっとも、学校生活の方は別だろうから、場合によっては転校する必要性も有るかもしれないけど」

 

 

「転校、ですか。でも、戦車道から逃げる私をお母さんが許してくれるかどうか」

 

 

「ダメ元でもやってみる価値はあるさ。それに自分の意思を伝えなければ何も始まらないよ」

 

 

「・・・そうですね」

 

 

 みほは不安そうな表情をしながらも少年の言葉に頷く。

 

 しかし、内心では本当にあの母親に自分の意思を言えるのか不安になった。

 

 小さい頃は子供ゆえの怖いもの知らずな態度によってなんとかしていたが、今同じことをしろと言われれば絶対に無理だと断言できるのだ。

 

 だが、そんな彼女の不安を感じ取った少年は更にこう述べる。

 

 

「頑張ってね。僕は応援することしか出来ないけど、君の心次第ではきっと成功すると思う」

 

 

「はい。相談に乗ってくれてありがとうございました!」

 

 

「うん、じゃあね」

 

 

 そう言って少年は公園から立ち去ろうとする。

 

 しかし、そこでみほが少年の名前を聞いていなかったことを思い出した。

 

 

「あっ、ちょっと待ってください。せめて名前だけでも教えてくれませんか?」

 

 

「名前、か」

 

 

 名前を聞かれた少年は少し悩む。

 

 実は少年にはとある事情があって一時的ではあるものの、学園都市を半ば追放されており、しばらく他人に名前を知られることを隠したいという思惑があった。

 

 

(まあ、ここは九州だし、知られてもそれほど問題はないか)

 

 

 しかし、その友達が居る位置は東京。

 

 加えて言えば、学園都市がわざわざ自分の存在をそれらの友達に言うわけがないし、ここは九州であり、一定の距離が離れているので、自分の名前を言っても問題ないだろうと少年は判断した。

 

 

「じゃあ、改めて自己紹介するね。僕の名前は野比のび太。君は?」

 

 

「黒森峰女学園高等部1年生の西住みほです」

 

 

 こうして、半年後に“大洗の奇蹟”を起こす少女──西住みほと大冒険を始めとした数々の地球の危機を救ってきた少年──野比のび太は邂逅を果たす。

 

 彼らの出会いがこの先の物語に何を及ぼすのか?

 

 それを知る者は現時点では誰も居ない。


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