ドラえもん のび太のスーパーヒーロー大戦   作:天津風

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月の開発

◇西暦20B7年 1月21日 夜 月面

 

 月。

 

 それは地球の衛星であり、地球に最も近い星と言われる星であるが、その地球と月の距離はなんと38万キロ。

 

 とてもではないが、まともに行ける距離ではない。

 

 しかし、20世紀中期の西暦1960年代にはアメリカのアポロ計画によって月に人が降り立っている。

 

 また4年ほど前にも、かつて魔球少年と唄われた少年が宇宙飛行士として月よりも遠い火星に降り立っており、月は既にその地球人類がその気になれば何時でも行ける星へと変わっていた。

 

 とは言え、まともに宇宙に進出しようという輩はなかなか居ない。

 

 何故なら、地球は国家統一などがされておらず、宇宙に進出したら進出したで何処が領有するか必ず揉めると思われた為に、各国は進出を躊躇ってしまっているからだ。

 

 いや、11年前にインフィニット・ストラトスが公開された時にも人類は宇宙へと目を向けなかったことから(もっとも、あれは篠ノ乃束のデモンストレーションが悪かったということもあるが)、現在の地球人類はそもそも宇宙に興味がないのかもしれない。

 

 だが、そんな中、そんな流れに逆行するかのように宇宙進出を行っている者も存在した。

 

 

「ここに来てもう2週間か」

 

 

 月面に建てられたとある建物。

 

 それは月に来た人間のための居住施設であり、そこには先月からこの月へとやって来た少年──野比のび太が滞在していた。

 

 この建物の中は学園都市性の重力調整装置によって地球の重力と同じように設定されており、月の重力に作用されることはない(まあ、のび太の場合はそんなことをしなくとも重力の調整が可能だが)。

 

 もっとも、それは建物の中だけであり、月の外に出れば当然、月の重力下で活動することになるのだが、それでも地球と同じ重力で活動できることは、のび太を始めとしたこの月で活動し始めた者達にとって一種の安心感を与えていた。

 

 

「ええ、そうなるわね。まさか、宇宙に来るなんて思いもよらなかったわ」

 

 

 のび太のその呟きに反応した黒髪の美女。

 

 彼女の名前は中須賀エマ。

 

 去年の夏にドイツで出会ったのび太より2つ年上の19歳の女性であり、現在はのび太の補佐を勤めている女性だ。

 

 彼女は本来なら今年から戦車道の名門であるドイツの大学へと進学する予定だったのだが、戦車道の能力に限界を感じていたことと、のび太に着いていってみたいという思いから、大学に進むのを辞めて日本のIT会社であるNOZAKIグローバルシステムへと入社し、現在はのび太の同僚(ただし、のび太の場合は学園都市からの出向)として様々な行動を共にしていた。

 

 現在はのび太の部下という立場になっていたが、それまでの付き合いもあったので、こうして2人で話すときは自然と言葉遣いは砕けている。

 

 ちなみにこの月の開発事業に参加している勢力は学園都市、NOZAKI、オオガミの3つだ。

 

 それ以外の企業は興味を示しているところもあるが、今のところは態度を保留している。

 

 

「お気に召さなかった?」

 

 

「まさか。月に住めるなんてロマンチックなこと、そうそう経験できないわよ」

 

 

「それはありがとう。でも、あと数年もすれば、月は地球人類の新たな居住地となるだろうから、ロマンチックなのは今のうちだね」

 

 

 のび太は苦笑しながらそう言った。

 

 現在、この月の開発には約40人の人間が作業に従事しているが、来月には100人までに増員される予定であり、その後も安全が確認され次第、更に増員される予定だ。

 

 そして、最終的に開発によって居住地が広がれば宇宙移民を募る予定だった。

 

 そうなれば月に人間が住むなど当たり前となるので希少性は失われることとなり、ロマンチックではなくなるだろう。

 

 

「そういうことは言わないものよ?」

 

 

「すいません。気が利かなくて」

 

 

「もう。・・・そう言えば、作りたいって言ってたあれは出来たの?」

 

 

「ああ、あれですか。既に試作機は出来ています」

 

 

 エマの問いにのび太はそう答える。

 

 ちなみにエマの言うあれとはこの月開発の作業のために作られた有人型ロボット──モビルスーツ(通称MS)だ。

 

 実は月面開発に辺り、一番問題視されたのが作業用の機械だった。

 

 それは当然だろう。

 

 住む分には居住地を建てれば問題ないにしろ、本格的な開発を行うためには宇宙空間で作業する必要があるのだから。

 

 そして、この為に開発されたのがISだったのだが、これは女性にしか使えないので真っ先に却下された。

 

 しかし、普通のシャベルカーなどの工作機械ではでこぼこした場所を開発していくのは時間が掛かるので、人型の工作用ロボットが望ましい。

 

 ならば学園都市の駆動鎧を改造して持っていくかという話も出たが、人間サイズだと落盤などが起きてコクピットに穴が開けば宇宙空間では一環の終わりなので、人間サイズで作業しても問題ないくらいに開発されるまでは、もう少し大きい20メートル前後の人型ロボットが欲しいという事になり、それで考案されたのがこのモビルスーツだった。

 

 そして、動力炉だが、これには当初、N2リアクターや核分裂炉という案が挙げられる。

 

 核分裂炉はJAの時の失敗もあって少々問題となったのだが、宇宙空間で作業する分にはあまり問題にはならないという意見もあったので、候補として挙げられたのだ。

 

 ちなみにこの中にこの2つよりも出力が高い核融合炉という選択肢が無かったのは、参加勢力の中でも最先端の科学力を持つ学園都市(と言うより、学園都市は科学力が売りなので、これが追い抜かされたらかなりヤバい)には核融合炉を使った原子力発電所や戦闘艦艇は有るのだが、それがモビルスーツに搭載できる程小型化する研究は未だ基礎段階にすぎない領域でしか無かったからだった。

 

 その為、最初の段階ではN2リアクターか核分裂炉、あるいは大型バッテリーにして、学園都市が核融合炉の研究に成功次第、順次それを投入していくという方針になったのだが、このタイミングでのび太によってある学説が唱えられる。

 

 ミノフスキー物理学。

 

 それは色々あったが、その一つが核融合炉を小型化して高出力化することが可能というものだった。

 

 西暦1979年にトミノフ・Y・ミノフスキーという学者が唱えた理論をそのまま持ってきたのだが、正直、あまりにも革新的すぎるこの理論に学会はかなり懐疑的であったが、これを聞き付けた学園都市の宇宙開発部門はこれを宇宙で試してみようという事になったのだ。

 

 そして、言い出しっぺであるのび太もミノフスキー核融合炉を搭載したMSの開発に携わっており、今回の試作機完成にも貢献していた。

 

 ただ核融合炉に使用するヘリウム3がなかなか手に入らないので、そこら辺に苦慮している状況ではあるのだが。

 

 

「そう。だったら、夢は叶ったというわけね」

 

 

「いや、まだまだですよ。あれはあくまで人が動かす工作機械で、僕の目指しているのは人間のような感情を持ったロボットとそれを受け入れる社会を作ることですから」

 

 

 のび太には夢があった。

 

 かつて世話になったドラえもんのようなロボットを作り、それが受け入れられる社会を作りたいという夢が。

 

 もっとも、のび太の腕は十分に汚れてしまっているので、それが許されるかは分からないが、せめてあの22世紀の未来のような社会にする為の手伝いだけはしようと心に決めていた。

 

 

「・・・そっか。私とは大違いよね」

 

 

 のび太の言葉を聞いて夢である戦車道のプロという立場を諦めたエマは自嘲するようにそう言う。

 

 

「・・・今ならまだ間に合うかもしれませんよ?」

 

 

「いえ、大丈夫。ここで引いて戦車道に戻ったとしても大した選手にはなれないでしょうから」

 

 

「そうですか・・・ああ、そう言えば2ヶ月くらい前に戦車道をやっている女の子に会いましたね。今どうしているかなぁ」

 

 

「へぇ、その子。可愛かったの?」

 

 

「ええ、確かあの時は高校1年生って言っていたから、僕と同い年ですね。ただし、童顔でしたからそれ聞くまで風華ちゃんと同い年くらいかなと思っていたんですけどね」

 

 

 のび太はあの当時の事を思い出しながらそう語る。

 

 ちなみに風華というのはのび太より2つ年下の現在中学2年生の少女であり、九波という男と野崎維織前社長との間に生まれた娘だ。

 

 母親に似ず元気活発な少女であり、のび太とは小学6年生の時に会ってから色々と付き合いがあった。

 

 まあ、だからこそ学園都市からの追放先にNOZAKIが選ばれたとも言えるのだが。

 

 

「ふふっ、それ本人の前で言わない方が良いわよ。多分、怒るでしょうから」

 

 

「ええ、分かっています。流石にそんな馬鹿な事はしませんよ」

 

 

「なら良いけど。ところで、火星に行く話はどうなっているの?」

 

 

 エマは数日後に控えている火星の調査についてのび太に尋ねる。

 

 そう、実は月の開発と平行して火星の開発もまた検討されており、数日後にその前座の為の調査団の派遣が行われる予定だった。

 

 ちなみにそれに使用される宇宙船の動力炉には(船に搭載する動力炉としては)史上初となる核融合炉が搭載されている。

 

 そして、調査団の人員にはのび太とエマが指名されていた。

 

 

「はい、3日後に出発となります」

 

 

「そう。ずいぶん早まったのね」

 

 

「当初の予定よりかなり順調に作業が進んでいるから。急いではいないんでしょうが、上の連中は気が早っているんだよ」

 

 

「急ぎすぎて少し迷惑ね。まあ、その気持ちは分からないでもないけど」

 

 

 エマはそのような感想を抱く。

 

 確かに今の宇宙開発は順調であるし、月から採取した資源なども順次地球に送られ、学園都市では既にそれを基にした新たな科学技術が産まれようとしている。

 

 だが、現場に居る自分達からしてみれば、まだ宇宙に十分に慣れていない状態で更なる遠くの星を調査してこいというのは少々酷な注文でもあった。

 

 

「まあ、そう言わないでよ。一応、仕事ですから」

 

 

「分かっているわ。それより、火星から戻って地上に降りたら私と一度デートしてくれないかしら」

 

 

「それは・・・構いませんけど、僕で良いんですか?」

 

 

「ふふっ、当たり前よ。・・・風華に先を越されるわけにはいかないもの」

 

 

「えっ、今なんて?」

 

 

「なんでもないわ。じゃあ、そういうことでね」

 

 

 エマはそう言って、作業に戻るためにその場から立ち去っていった。

 

 

「なんだったんだ?・・・まあ、エマさんみたいな綺麗な人にデートに誘われるのは名誉なことだけど」

 

 

 のび太はエマが聞いたら顔を真っ赤にするような言葉を呟きつつ、自らも作業に戻るためにその場から立ち去った。


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