ドラえもん のび太のスーパーヒーロー大戦 作:天津風
◇西暦20B7年 3月2日 昼 グリプス市
突然だが、ガンダムは18メートルもあり巨大。
そうなると、当然ながらその重量は重く、一歩一歩進むごとに足踏みの音と少しばかりの地響きが起こる。
もっとも、空中に居るオータムにはその地響きは感じられなかったが、モビルスーツが大地を踏みしめる際の轟音は聞こえてきた為に彼女は咄嗟にそちらを向いた。
「はっ。向かってこようってか?あんなデカブツじゃ幾ら早く動いても避けられるぜ!!」
オータムはそう言って嘲笑う。
それは漫画やアニメなどでよくあるテンプレ的な慢心の仕方であったが、それでも彼女の考察は間違ってはいない。
何故ならば、このISという兵器は基本的に速度は現代戦闘機(約マッハ2)並みであり、機動力に関しては現代戦闘機とは比較にすらならないからだ。
去年の第三次世界大戦では学園都市の戦闘機であるHsF─00に敗れてしまったが、あれは7000キロ(約マッハ5、7)オーバーという圧倒的速度と常識破りを通り越したもはやオカルトじみた運動性能によって封殺されたのであって、学園都市以外では依然として最強の兵器として君臨している。
対して、モビルスーツは宇宙空間という無重力地帯ではかなり有用であり、ISにも勝てるかもしれないと見なされてはいるが、重力の存在する地上ではただの陸戦兵器。
一応、バックパックにあるスラスターを使用することで短距離ならば飛べるが、それではとてもではないがISの機動にはついていけない。
それはMSの中でも最高と言われる機動力を持つガンダムでも例外では無かった。
「さあ、掛かってこいや!出来るものならな!!ギャハハハハ!」
オータムはそう言いながらも迎撃体制を整える。
それは油断しているにしては見事な対応であったが、この油断が彼女の命取りとなった。
そして、ガンダムはまだ届く距離でないにも関わらず、ビームサーベルを思いっきり横に振る。
すると──
「─────は?」
次の瞬間、オータムの両脚はビームサーベルの高熱によって焼かれ、完全に焼失する。
・・・前述したようにガンダムは所詮MS。
加えて、ビームサーベルは振る前に最大までその刀身は伸ばされており、本来ならまだ刀身が届かない距離で剣を横に振れば、当然の事ながらこうはならなかった。
そう、乗っているのが
彼女がダメージを受けた原理は簡単だ。
ビームサーベルの刀身をワープの原理、ドラえもんの道具で例えるならば“とりよせバッグ”や“どこでもドア”などのように空間と空間を繋げてそこに至るまでの道をショートカットさせたのだ。
そして、彼女は通常の空間で間合いを見てしまい、このショートカットさせた空間を計算に入れていなかった。
まあ、これについては彼女に責められる要素など無い。
未熟、熟練を問わずに常識を弁えている戦闘員ならば空間をショートカットさせる術など計算に入れないのだから。
いや、そもそも彼らの世界の中では超能力すら信じがたいものであり、それで戦うなど
だが、彼女にとって不幸であったのは、のび太がその“普通”に当てはまらない人間だったことだ。
だからこそ、彼女は何が起きたのか分からないまま、地面に向けて落下していく。
「・・・呆気なかったな」
それを見たのび太は拍子抜けすると共にビームサーベルの威力に驚いていた。
冷静に考えたらこのビームサーベルは対MS戦をも想定しており、全長20メートル前後の頑丈なMSを撃破することを前提に造られている兵器が精々2、3メートルにすぎないISを撃破することはその質量差から見て容易だったのだが、仮にもISは外の世界では世界最強と吟われた兵器。
特に絶対防御と言われるエネルギーシールド?はその名前相応の防御力があると思っていたので、まさかビームサーベルの一振りで撃破出来るとはのび太も思っていなかったのだ。
「まあいいや。早く始末できる越したことはないし。それより、さっきは少しミスっちゃったな」
先程の一撃はオータムの胴体部を狙ったのだが、結果は足の部分を少し掠めただけだった。
その事を反省しつつ、のび太はビームサーベルを振り上げ、オータムに止めを差すために振り下ろそうとする。
だが、その時──
『──少尉。野比少尉、応答してください!!」
「どうした?」
管制塔からの通信に、のび太は一旦ガンダムの振り上げた手を停止させ、慌てた様子の管制官の話を聞く。
『緊急事態です!第三倉庫に保管されていたジムの数機が勝手に動き出しています!!しかも、こちらの通信に答える様子がありません!!』
「なに?」
その連絡でのび太はだいたいの敵の狙いを理解する。
(そうか。この襲撃はあくまで陽動。本命はMSを手に入れることか)
のび太はそう推測する。
なにしろ、この基地にはMS以外にはこれといったものはない。
そんなところに無駄に襲撃を掛けているというよりは、最初からMSを狙っていたと考える方が自然な考え方でもある。
(もしかしたら、ガンダムの情報も知っていて狙っていたのかもしれないな。やれやれ油断も隙もない)
そんなことをのび太が思っていた時、今度はアカリがある連絡をしてきた。
『大変だよ!この施設のメインコンピューターがハッキングを受けてる!!』
「・・・これで確定だね。やっぱり向こうはMSを狙っているか。防ぐことは出来そう?」
『難しいよ。パソコンの性能が学園都市製の物より低い上に向こうのハッキングレベルもかなり凄くて・・・初動も遅れちゃったし』
「分かった。じゃあ、最重要な情報から順に消去して相手に見せないようにしてくれ。今後のMS開発に支障が出るかもしれないけど、見られるよりはましだ。その間に僕はジムを盗んだ人達を始末しにいく」
『分かったよ。気をつけてね』
そう言ってアカリは通信を切り、機密情報を隠滅する為に電脳空間へと潜っていった。
それを見届けた後、のび太は先程落とされたオータムを一瞥する。
「・・・命拾いしたね。でも、次はこうはいかないよ」
のび太はそう言うと、盗まれたというジムに対処するためにガンダムを操って第三倉庫へと向かった。
◇西暦20B7年 3月2日 夜 某所
「派手にやられたねぇ」
束はそう言いながら、パソコンのスクリーンに映された映像を見る。
そして、その画面の先にはホルマリンの中で治療らしきものを受けているオータムの姿があったが、その両足は存在していない。
昼に行ったエゥーゴ施設の制圧は結果的には一部を除いて失敗してしまったのだ。
暴れている途中で突如現れたガンダムにオータムは陽動と何時もの遊びも兼ねて戦闘状態に入ったのだが、この時、ビームサーベルの影響範囲と火力を見誤ってしまい、ギリギリのところでかわしたのだが、そのビームサーベルはISのエネルギーシールドと絶対防御を
そして、そのままであれば通常なら止めを刺す筈なのだが、襲撃部隊の別動隊であるMS強奪部隊の存在に途中で気づいたのか、地面に這いつくばるオータムを無視してガンダムはそちらに向かい、更にはその別動隊が奪ったジムが撃破されてしまったことで、本命であるMS強奪も失敗してしまったのだ。
これは明らかにティターンズの負け戦だった。
それを自覚しているティターンズの幹部であるスコールは、
「・・・確かにその通りだけど、何も成果が無かった訳じゃないわよ。MSのデータはちゃんと手に入れた」
そう、別動隊は2つ存在し、1つがMSを奪う役目、もう1つがMSのデータを奪う役目を持っていた。
MSを強奪する部隊の方は失敗した上に全滅してしまったが、彼らがやられている間にMSのデータを奪う役目を持った部隊はデータを回収した上に撤退にも成功していたのだ。
だが──
「う~ん。でも、残念だけどガンダムのデータは完全に消えちゃってるね。ジムの方はプロテクトが間に合ったけど、それでも3割近くが消えちゃってる」
入手したデータは盗まれたことに気づいたアカリが対応した為、既にのび太の持っていたガンダムのデータは名前と機体の表面だけしか残っていない有り様だったし、ジムの方も3割近くが消失していた。
これでは完全に真似するのは不可能だろう。
「それじゃあ、この作戦は完全に失敗だったということ?」
「いや、そんなことないよ。これで限定的だけど、MSは製造できる。ただし、核融合炉の方は無理そうだね。そっちから優先的に消されちゃったから」
「あなたが出し抜かれるなんて、向こうにも優秀なハッカーが居るようね」
「それはどうかな。必ずしも相手の存在が人間だとは限らないからねぇ。まあいいや。それはそれとして、今後の予定を話そっか」
「・・・ええ、その方が良さそうね」
束の言葉にスコールが頷き、彼女らはティターンズの方針について話し合った。
「次の目標としては各国──特にアメリカの掌握といきたいんだけど、今のティターンズの状態じゃあまり保証は出来ないわね」
スコールはそう言って、計画の根幹であるティターンズの問題点を指摘する。
既に世界最大の経済大国たるアメリカの政権奪取についての計画は立てているのだが、それがあまりにも強引なものであるために大規模な反政府勢力が出来上がる可能性は否定できず、下手をすれば州ごと反政府勢力となってしまう可能性すらあった。
そうなってしまうとアメリカを取る旨味は半減してしまうし、逆に泥沼に嵌まってしまう可能性もあるので、スコールとしてはどうにか穏便にアメリカという国を獲りたかったのだが、その方法がなかなか思いつかないのだ。
いや、思い付くには思いつくのだが、それは向こうがなにもしてこないこと前提になっており、現実的な案にはなっていないというのが本当のところだった。
「ふむ、なるほど。要するにアメリカを取れればだいぶこっちが有利になるという訳なんだよね?」
「まあ、そうね。でも、向こうだってバカじゃないからそんな簡単には・・・」
「大丈夫だよ。方法なら有るからね」
そう言いながら笑う束の顔は酷く歪んでおり、これまで多くの修羅場を潜り抜けてきたスコールは彼女の浮かべた笑顔に身震いを感じざるを得なかった。
(これは・・・組む人間を間違えたかしら?)
そう思うスコールであったが、今さら後には引けないということは彼女自身がよく知っており、こうなった以上、前に進むしか選択肢はなかった。
──そして、後に世界は思い知る。
今回のグリプス市のエゥーゴ施設襲撃事件を以て、後にグリプス戦役と呼ばれることになる戦いが始まったということを。