狙撃手のダンジョン攻略   作:センチュウ

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一人称チャレンジ


水の都炎上事件 2

 

 骨の竜との戦闘が始まって数時間。

 俺はボコボコにされていた。

 

『『『■■■■■■■■――――――――――ッ!!!!!!!』』』

 

 赫怒の咆哮と共に鉄筋にゴム巻いて鉄板貼りつけたような大質量の尻尾を横なぎにぶん回す。クソが。当たらねぇ。アメンボみたいに水面滑ってんじゃねぇぞクソ骨がぁ!!!!

 

 この数時間、殴られては離脱されのヒットアンドアウェイ戦法でボコボコにされている。おかしいだろ。その戦法って火力の乏しい軽戦士が自分よりでかいモンスター相手にするやつだよね? 殺戮バフと死にかけバフで強化された緋色の傷(スカーレッド)の天然装甲を貫通する攻撃手段を持ってる奴がみみっちい事やってんじゃねぇぞ殴らせろやゴラァ!?

 

 喋れぬ身で悪態を垂れ流しても状況は好転しない。考えろファロス。お前が望んだ怪物との死闘がここにあるぞ。

 

 再びの顔面パンチで水面をゴロゴロ転がりながら思考を巡らす。殺戮バフと死にかけバフのおかげで相手の攻撃は決定打に欠けているが、そうじゃ無かったら今頃俺は顔面グチャグチャのミンチ状態にされているだろう。念のために緋色の傷(スカーレッド)化を解いてなくてよかったわ。遠くから不意打ちで渾身の狙撃をブチ込むなら兎も角、動き回りながらクロスボウを乱射したところでコイツに当たる気がしない。

 

 ん? 不意打ち?

 

 閃きを得て気配隠蔽(ステルス)を発動。俺の体が景色に溶けて同化し、骨恐竜はこちらを見失な……見うし…………クソがバレバレじゃねーかやっぱり緋色の傷(スカーレッド)状態だと精度が落ちるよなぁ!

 

 ゴロゴロと転がされながら苦し紛れにゲロナパームをまき散らして点火。轟音と共に大爆発が水面を這うように炸裂する。しかし骨恐竜は当然のように全弾回避。やってらんねぇ……いや待てよ? ヤケクソ気味にばら撒いたけどこれって結構いけるのでは?

 

 俺は見逃さなかったぜぇクソ骨君よぉ……骨の表情なんざチンプンカンプンだが爆発の余波に巻き込まれかけた時、やたら大げさによろめいたよなぁ!? さてはテメェ高機動かつ高火力だが生存に欠かせない装甲機能がペラッペラなんじゃねぇのぉ!?

 

 即興で組み立てた作戦はこうだ。

 ゲロナパームと肉弾戦でクソ骨を誘導しつつどうにか地形にハメて一発叩き込む。余波だけであんなによろめくんだ。まともな一撃を叩き込めばあのクソみたいな機動力もどうにかなるだろう。多分。

 

 そうと決まれば即行動。待ってろよカルシウム野郎その全身粉々にして畑の肥料にしてくれる。

 

 

 

 1時間後

 

 

 

 んぬァ―――――――!!!!!! クソ機動!!!!!

 

 作戦変更だ。ほとんど遮蔽物のない湖でコイツをハメれる地形なんぞある訳ないだろうが。カウンターと設置技でどうにかするんだよ。

 

 爆発するマーブル模様をまき散らしながらアメンボクソ骨ザウルスを猛追するが、当然のように回避される。やっぱ緋色の傷(スカーレッド)の弱点って俊敏さが皆無な所だよなぁ……後で対策考えなきゃ。

 

 その頭を粉砕せんばかりに力を篭められた噛みつきをクソ骨は余裕のあるバックステップで回避。そこでヤツは今までにない動作を見せた。

 

 

 ……何だあれ、土下座?

 

 

 唐突ながら、ミノタウロスというモンスターがいる。

 人間の如き同地に牛の頭を持つ連中なのだが、そいつらは追い詰められた時の切り札としてとある攻撃手段を持っている。まぁ突進なんだけど、コレがなかなか馬鹿に出来ない。

 両手が地面に着くほどの前傾姿勢から繰り出されるその突撃は、捉えた獲物を悉く天高くに突き上げていく質量兵器だった。

 ソレと似た気配を、目の前の骨竜から感じる。

 

 ―――ファロスは与り知らぬ話であるが、ジャガーノート側も実は追い詰められているのである。

 ジャガーノートの特徴として、力と俊敏に秀でている事、耐久が著しく低い事、ファロスが知らないモノでは魔法を反射する外殻、そしてあらゆる防具を貫く爪。

 

 さて、この特徴の中でジャガーノートを追い詰める最も大きな要因は、紙装甲と爪である。

 問題だ。ひたすら鋭利さを求めて研ぎまくった結果、紙のような薄さになった刃物を想像して欲しい。普通ならば豆腐を切り裂いているはずのソレが、内部に溶岩を溜め込んで真っ赤に赤熱した鉄塊を殴り続けた場合、或いは鉄部分を貫通して溶岩に飛び込んだ場合、刃の切っ先はどうなってしまうのか?

 その答えは、灼熱の血液を浴び続けてボロボロになった骨の指先が物語っている。

 

 

 ヤツが纏う雰囲気が明らかに変わった。これまでの無機質な殺意だけじゃない。かつて緋色の傷(スカーレッド)黒死の天霊(トゥルーク・ワイエット)が死に際に見せた情熱的な殺意。ソレに似ているんだ。

 よくよく観察してみれば、骨竜の指先はボロボロになっている。当然か。こちとら殺戮バフと死にかけバフで鬼強化された緋色の傷(スカーレッド)だぞ。素手で殴りかかれば逆に焼き潰されるのは当然だ。

 

 ―――成程? 最期の突撃に賭けるって訳かよ。俺は好きだぜそういうの。テメェの火力と俺の耐久を比べてやろうじゃねぇか。

 来いよクソ骨。お前の殺害を偉業とし、それを以て俺は次のステージ上がってやる。

 

 骨竜の全身にこれまでにない力が籠められ、関節がミシミシと厭な悲鳴を挙げる。

 四肢にありったけの力が装填され、そして―――弾けた。

 

『――――――――――――――――――――――――――ッ』

 

 音を置き去りにし、数百(メドル)の距離を一瞬で駆け抜ける。ひたすら殺戮のためだけにデザインされた凶弾が向かう先は紅蓮の三つ首。

 三つ首に備えられた六つの眼球は確かに骨竜を捉え、隆起した脚部の筋肉は水面を鷲掴みにし、きたる衝撃に備えている。

 

 突撃する者と待ち受ける者の距離は瞬く間に詰まり、そして、衝突。

 

 

『『『■■■■■■■■――――――――――ッ!!!!!!!』』』

 

 

 最初に、鱗が砕ける音を聞いた。

 次に、骨が折れる音を聞いた。

 最後に、全身を砕き割らんばかりの衝撃を感じた。

 

 しかし、それでも、緋色の傷(スカーレッド)は、ファロスは、斃れない。偉大なる好敵手の姿を借りて無様を晒すことは許されない。他ならぬファロス自身が許さない。

 

『『『■■■■■■■■………………ッ』』』

 

 火山の如き重低音。鱗は砕け、骨は跳び出し、半死半生の身と化しながらも敵の突撃を正面から受け止めた傲然なる三つ首の覇者は、目前の挑戦者に牙を剥く。

 

 俺の勝ちだクソ骨野郎。

 

 三つ首が骨竜の頭部を捉え、噛み砕く。

 

 ジャガーノート。過去にはファミリアを一つ壊滅させたこともある殺戮の使者は、白い灰と化して霧散した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そうして一人の小人の挑戦は幕を閉じた。

 

 決着の後、二度あることは三度あるとガチガチに警戒して緋色の傷(スカーレッド)のまま安全地帯を目指した結果、新種のモンスターと間違えられて冒険者達と交戦しかけたり、地上に戻ってからステータス更新したらマックロクロスケに爆笑されたり、ギルドにレベルアップの報告をしたらハーフエルフの受付嬢に死ぬほど怒られたりした。

 

 余談だが、今回の俺の挑戦は『水の都炎上事件』と呼ばれるようになった。

 

 




 前提条件をすべて無視した上でファロスvsジャガーノートをする場合、ファロス側にとっての最適解は気配隠蔽(ステルス)状態で遠方から『本物』のクロスボウで『本物』の矢を不意打ちで撃ち込むことです。
 威力だけの話をするなら投影による劣化品でも過剰火力なのですが、ジャガーノートには魔法反射があるので効果が無いどころかファロスが自爆するんですよね。なので実物を使って物理攻撃をします。(なお、ファロスは魔法反射について全く知らないので初見殺しで死ぬ)
 最初の構成では人間としてのファロスにボスラッシュ二枚抜きをしてもらう予定だったのですが、基本的には狙撃手の皮を被った魔法使いモドキであるファロス(人間)ではジャガーノート以前にアンフィス・バエナの赤霧に対抗できない悲しみ。どうにかアンフィス・バエナを撃破してもファロス(人間)はジャガーノートの発生条件である大規模な破壊活動をしないのでそもそも遭遇すらしない件。


 ここで余談を一つ。
 意図的ではないが、ジャガーノートを召喚してしまった上に単騎でぶっ殺したことでファロスはウラノスに呼び出されてOHANASIをする羽目になった。ファロスによるジャガーノートへのヘイトが更に高まった。

ウラノス「もうやるんじゃねぇぞ(意訳)ついでに誰かに喋ったら分かってんだろな?(超意訳)あといくつか引き受けて欲しい依頼があるんだけど受けないなんてことないよね?(超絶意訳)」
ファロス「あのクソ骨死んでも俺に迷惑かけやがる……あ、フェルズさんじゃないっすよ?」

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