ハイスクール・フリートー乙女達の航海日記ー   作:三坂

30 / 31


(大変おまたせしましたー
久しぶりの投稿です)

今回は大淀乗組員の会話メイン回です。
ご了承ください


EP29 パーシアス作戦

 

 

5月5日

 

 

 

「こっこれは…!!」

 

 

 

シュペー救出作戦を終えてミーナ達と別れた晴風、大淀乗組員一行は工作艦明石や給糧艦間宮と合流するためにモルッカ諸島へ訪れていた。もちろんここで合流したのもシュペーや比叡戦で損傷した部位の応急修理や部品交換、そして食料や日用品などの補充を兼ねているから。

 

 

もちろん現在進行系で作業は進んでいるようで、明石と並ぶように停泊していた大淀の前部甲板では何人かの乗組員生徒達が集まっていた。…しかしその中で一人だけ明らかにキラキラさせている人物がおり……

 

 

 

「これってドイツの20.3cm砲じゃないですか…!一体なんでこれが…ってかそれよりも写真写真っ…!」パシャャャ!!

 

 

「…上里さん張り切ってますね……(汗)」

 

 

「あはは…(汗)やっぱこっち系の趣味があると興奮しちゃうんだろうねぇ」

 

 

 

大淀の前部甲板、以前は妙高などでも使われてシュペー戦で大破してしまった20.3cm砲は既に撤去されており新たにそこには日本の巡洋艦が搭載しているものとは明らかに違う角ばった砲塔がそこにあった。

 

そんな主砲下ではかなり興奮気味状態の上里が目を輝かせておりスマホ片手に四方八方から新しく換装した砲塔を写真に収めている。

 

 

相変わらずというか彼女らしいなと思わず苦笑いで見ている高嶋や小野瀬を横目に見ながら羽南は明石艦長である杉本に視線を向けながら尋ねていく。

 

 

 

「あの…これは一体…?」

 

 

「…シュペーのテア艦長とミーナ副長から大淀に渡すように言われてた装備だよ…」

   

 

「えっ?シュペーの子達から…ですか?」

 

 

 

「うん…、見た目は普通のSKC/34 20.3cm(60口径)砲と何ら変わりないけど、既存のよりも射程、火力、精度が格段に強化されててシステムも最新式だからほとんど別物って言っていいかな?」

 

 

「別物……」 

 

 

「というか君たちホント凄いよねー…、こんな装備を他国でしかも学生艦で運用出来るなんて滅多にないよ…」

 

 

「ふぇ〜?それはどいうことですか?」

 

 

 

どうやらこれはシュペーのミーナやテアから大淀に渡すように言われていた装備らしく、杉本の話を聞いた羽南は驚きの表情を浮かべていた。

 

もちろん事前にその話を本人から聞かされていた春香(ここにはいないが)はそのことを明かしていないため、大淀乗組員のほとんどは知らないということに。

 

 

経緯を聞いた羽南達は再び興味深そうな雰囲気で新しい武装を見上げていくが、そんな一同を見てふと杉本がポツリと意味ありげなことを口にする。それを聞いた晴は相変わらずマイペースな口調で話しながらそれはどいうことかと首を傾げながら尋ねていく。

 

  

 

「…だって、その主砲つい最近本国のドイツで技術を集約されて開発されたモノホンの新型らしいよー。しかも向こうでもまだ全く配備されてないみたい、だから実質君たちが最初に使えるってことだねぇ」

 

 

「ほほーっ、まだ本国で運用されてない新型主砲を私達が最初に使えるなんて誇らしi……えぇぇぇぇ!!??」

 

 

 

晴の質問にいつもの雰囲気で杉本は答えていくがしれっととんでもないことを口走る。それがあまりにも自然過ぎたためそのまま頷きながら流しかけた上里であったが、直後辺りに響き渡るレベルの絶叫を響かせた。

 

 

 

「えっあっそれって本当なんですか…!?」ガハツ

 

 

「えっ、そうだよ…?シュペー艦長本人がそう言うんだからそれは間違いないかな…。丁度実戦でのデータが欲しかったからタイミング良かったって満面の笑みしてたし」

 

 

「…いくら実戦データが欲しいからってそんな技術集約したような砲をポンって渡すかなぁ…(汗)」

 

 

「…確かに杉本さんの言う通り既存のSKC/34 20.3cm砲よりも格段に性能が爆上がりしてますね…。火力や精度に関しては前積んでた20.3cm砲よりもかなり上ですよ…」

 

 

「…というか君たちの艦長さんからその話は聞いてなかったの?なんかテア艦長は伝えたってニコニコしながら答えてたけど…」

 

 

 

驚きを露にしている上里の隣でそれは本当なのかという口調で小野瀬が突っかかるように食い込み気味で話す。そんな彼女に対し、少し驚きはしたもののそうだよ?と答えながらその時のテアの心境を語っていた。

 

まさかそんな本国でも運用していないどころか試作段階の兵器を簡単に他国艦に渡すもんなのかなと、羽南は苦笑いをしつつ頭を抱えていた。その隣では柚乃がタブレットで既存のSKC/34 20.3cm砲のデータと比べながら本当だという表情を浮かべている。

 

 

ってきり艦長からその情報を共有されているもんだと思っていた杉本は、そんなわちゃわちゃな艦橋組を見て春香から聞かされてないのかと不思議そうな表情をしながら首を傾げていく。

 

 

 

「えっあっいや…艦長からは特に何も…」

 

 

「…もしかしてさっき別れる時にやけに艦長ニヤニヤしてた…、艦長らしくないなーっていうくらいの笑みだったから不思議に思ってたけど…。まさかこれを知ってて…」

 

 

「…たぶんドッキリとして言わなかったんでしょうね…(汗)ホノらしいというかなんというか…」

 

 

「…なんだ大淀の艦長みんなに秘密にしてたんだ、それならこの反応も納得だね…。…あっこれ換装した武装に関するデータが入ったUSB」スッ

 

 

「あっありがとうございます(受け取り)、そういえば艦長の話で思い出しましたけど春香さんはいずこへ行ったのでしょうか…?」

 

 

 

特に春香から何も聞かされていないと高嶋が眉を細めながら答えると、そういえばさっき艦長と別れる際に何やらニヤニヤしてたことをふと思い出した上里がこれのことだったのかという納得の表情を浮かべている。

 

羽南の付け加えるようなセリフを聞いた杉本は、そりゃあんな反応するしみんな知らないよねという納得の顔を浮かべながら今回の武装交換分のデータが入ったUSBをポケットから取り出して手渡していく。

 

 

そんな二人を見ていた小野瀬がそういえば春香はどこへ行ったのかという疑問を口にした。杉本と合流する前に用事があるといってその場を後にしてから一向に戻ってくる気配がない。

 

 

 

「確かに小野瀬の言う通りですね…ハル何してるんだろ……(少し心配そうに)」

 

 

「どーせ用事っても武蔵捜索に関する件だろっ?なら心配することはないさ」

 

 

「うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大淀艦長室

 

 

「……パーシアス作戦…」

 

 

 

艦橋組が噂しているのとほぼ同時刻、艦長室の室内では春香がいつになく神妙な表情で何枚もホッチキスではせられたとある紙の束に目を通していた。その表紙には大きな文字で書かれた『パーシアス作戦』という文字が…

 

 

 

「武蔵捜索に学生艦の参加を認める…、とは言えど流石に主力はブルーマーメイドになるから私達はいざという予備戦力として本土近海で待機…」

 

ー…とは言えど武蔵の所在が分からないからその通りに行くか…、最終航路からしてフィリピン方面なのは間違いないけど…。なんか引っかかる…ー

 

 

 

どうやらこの書類は現在行方を眩ませている武蔵捜索や戦闘に学生艦の参加を許可させるというもので、様々なことが書かれていた。もちろん表紙には作戦の許可として『横須賀女子海洋学校』や『海上安全整備局』、『国交省』などの印鑑が押されている。

 

本来であれば危険を伴うような作戦に学生艦の参加許可なぞ降りないがそうも言ってられないのが現状。舞鶴の教員艦隊は先の武蔵との戦闘でそのほとんどの戦力を失っている状態であり、ホワイトドルフィンも他の事情で参加不可となれば実質的に動かせるのはブルーマーメイドの艦艇のみ。

 

 

そうなれば現在の戦力で武蔵を止められるかという非常に怪しい状態ということになる上、例の通信障害もあるため現在のシステムで構成されたブルマー艦艇では教員艦隊の二の舞いに成りかねない。

 

それに現状最終航路から過程してフィリピンへ向かってはいるものの万が一の事態もあり得るため、予備戦力として残して置きたいというのが本音だろう。

 

 

書類に一通り目を通していた春香は、なりふり構ってられない状況なんだなっと言うことを改めて確認しつつ果たしてその通りに物事が進むのかと疑問の表情をしていた。確かに今までの比叡やシュペーなどの動きからすれば武蔵がフィリピンへ向かっているのは誰でも想像出来る。

 

ウィルスに感染すると動きが単調になりやすいため、軽く徴発すれば簡単に乗ってくるし複雑な航路はほとんど取らない。…それなら武蔵が突然日本近海に現れることもないのだが、彼女の心情はどこか落ち着きがなく何か嫌な予感を感じていた。

 

 

 

「とりあえず…晴風にも情報が言ってるだろうから出発する前にみんなに情報共有しておこう…」ガチャ

 

 

 

だが今気にしてても何かが変わるというものでもないため、とりあえずはこの情報をみんなや晴風と共有しておくことにした春香は書類片手に艦長室の扉を開けて部屋を後にしていくのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

太平洋側

日本近海にて…

 

 

 

辺り一帯に濃厚な霧が発生しているせいかほとんど周りが見えないと言ってもいい海域、しかし波は比較的穏やかのようで静かな時間が続いていく。

 

 

 

ザザーン……

 

 

 

…がそんな静かな雰囲気を一変させるように霧の中からゆっくりと大きな影が近づいてきた。それは漁船や小型艇とは全く比べ物にならないほどであり、聳え立つ中央の構造物はまるで鋼鉄の城を模様しているようにも見える。

 

 

 

「…一体…どこに向かってるの…、…誰か…武蔵を止めて………」

 

 

 

鋼鉄の城と言ってもいい構造、艦橋とも言える場所の上部一角では窓から外の様子を見ていたもえかの姿が…。自分達のいる場所以外がウィルスによって汚染されてしまい、制御が効かなくなった武蔵の行く末をただただ見つめていた。

 

一体これからどうなってしまうのか、果たして武蔵はどこへと向かっているのか…?そんなことを考えていた彼女はポツリと呟くように届きもしない助けの声を嘆いてしまう。…だがそんなことは知らんというばかりに、ウィルスによって制御が効かなくなった大型直接教育艦『武蔵』は目的がなく絶望に包まれた航海を続けていくのであった。

 

 

 

 

 

 






ついにテア艦長がいっていた新装備が明かされましたね。
見た目はプリンツ・オイゲンなどに搭載されているSKC/34 20.3cm(60口径)砲と変わりはありませんがなにやら魔改造されているとのこと。

というかテア艦長そんなヤバそうな兵器どっから入手したんですか()



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。