ソウル・オブ・メモリーズ~幕間の章~(凍結中)   作:アユ夢

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第43話・巨黒魚の丸焼き

「おはよう、四葉」

「おはよう、アイズさん」

 

 

翌朝、まだ日の出ない早い時間帯に中庭に出てきた僕は、同じく中庭に出てきたアイズさんと挨拶を交わして、離れた位置でそれぞれ、剣と刀を鞘から抜いた。

 

 

ヒュ

キキュ

パパパパ

ビュッ

 

 

そこから、縦、横、斜めと無尽に振るって、僕は、刀を鞘に収めた。

 

 

ビビビビッ

「・・・」

ピッ

ザラァ

チィン

「おぉ~」

パチパチ

「・・・」

 

 

そして、アイズさんは最後に木から落ちて来た一枚の葉を一瞬で細切れにして、剣を鞘に収めた。

その一連の流れが、あまりにも見事で、僕は、アイズさんに拍手を送った。

 

 

「「・・・?」」

「・・・」

 

 

そこで、誰かに見られてる気がして、振り向くと庭と繋がる塔の出入り口付近で、レフィーヤさんが目を見開いてたたずんでいて、その手には分厚い本を抱えていた。

 

 

「はっ!すっすごかったです、アイズさん!私つい見とれちゃってっ、声をかけるのも忘れちゃいました!」

「えっと・・・ありがとう?」

 

 

どうやら、レフィーヤさんもアイズさんの剣技に見とれて、固まっていたらしく、目を向けられると、思い出したように、笑顔で僕と同じように拍手をした。

 

 

「本当にこんな朝早くから剣を振られてるですね・・・だからアイズさんはあんな強くて・・・まさか、四葉ちゃんも・・・私も見習わなきゃっ」

「・・・」

 

 

レフィーヤさんは興奮しているのか、頬を赤くして近づいてくる。

その瞳はキラキラと輝いていて、アイズさんに尊敬の眼差しを向けて、僕の方も見ると、レフィーヤさんは語尾に力を込めて、意気込んだ。

 

 

「アイズさんと四葉ちゃんは、剣術を誰かに教わったりしたんですか?魔導士の私から見ても、すごい切れがあるなってわかるんですけど・・・」

「・・・お父さん、かな」

 

 

そして、アイズさんはレフィーヤさんに質問された事に、少し考えた素振りを見せた後、ポツリと答えた。

 

 

「お父様が・・・そういえば、アイズさんのご両親は今は何を・・・?」

「あっ、レフィーヤさん、後ろ」

「へっ?」

 

 

その答えを聞いたレフィーヤさんが、そこまで言葉を続けたところで、その後ろに近付いてくる人を見て、僕は、そっちを指さして、レフィーヤさんに教えた。

 

 

「レフィーヤ。書庫に行って本を取ってくるのに、どれだけ時間がかかっているんだ」

「リ、リヴェリア様・・・」

 

 

レフィーヤさんが、その人、基、リヴェリアさんの方を振り返ると同時にリヴェリアさんは声を発した。

 

 

「はぁ~、アイズや四葉の鍛練に現を抜かしている暇はないぞ、お前も修業中の身だ。朝食の時間まで続けるぞ。アイズ、四葉、また後でな」

「ア、アイズさぁ~んっ、四葉ちゃぁ~んっ・・・」

 

 

僕とアイズさんを見たリヴェリアさんは、ため息を一つ吐いて、レフィーヤさんをずるずると引きずって、中庭から去っていった。

その時、ちらりとアイズさんを見たら、軽く手を振っていて、僕も、それに習って手を振った。

 

 

「私達も、中、入ろうか?」

「うん!」

 

 

そして、僕等も中庭から塔の中へ戻った。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

カチャカチャ

「「・・・」」

 

 

その後、シャワーを浴びに行って、食堂に行った僕とアイズさんは前みたいに朝食の料理や皿を配膳する人達に紛れて、その配膳を手伝った。

今日のメニューは野菜たっぷりのスープとサラダ、野菜と塩漬け肉のサンドイッチ、そして、野菜入りのオムレツみたい。

 

 

「うおっ、アイズさん、四葉ちゃん、いつの間に!」

「ありがとうございます、でも大丈夫ですから!」

 

 

で、配膳を手伝ってると、前回と同じように見つかって、丁重に手伝いを断られた。

 

 

「ティ、ティオネさん、朝食は俺達が・・・」

「団長の朝ご飯は、わ・た・し・が作るのよ!手出し無用よ、引っ込んでなさい!」

 

 

その事に僕とアイズさんはしょんぼりしていると、厨房の方から、楽しそうなティオネさんと団員さんとのやり取りが聞こえてきた。

どうやら、ティオネさんはフィンさん用の朝食を作ってるらしい。

そのやり取りを見ていて、良いなって思いつつ、僕とアイズさんは優しく食堂から追い出された。

 

 

「・・・どうしよっか」

「散歩」

「うん、じゃあ、それで」

 

 

仕方がないので、前回と同じように散歩することにした。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「あっ」

「うっ・・・」

「?」

 

 

アイズさんと当てもなく廊下を歩いてると、曲がり角でベートさんとばったりと出くわした。

出会い頭にぎょっとしたベートさんは、口の端を軽く痙攣させながら、笑みを浮かべた。

 

 

「・・・よ、よお」

「・・・」

 

 

無茶苦茶ぎこちなく挨拶をするベートさんに挨拶を返そうとした時だった。

 

 

「おっはよーアイズ!」

ドンッ

「ぐおっ!?」

 

 

その時、ティオナさんがベートさんを押しのけて、正面からアイズさんに抱き着いてきた。

 

 

「四葉もおっはよー!」

「おはようございます、ティオナさん」

「べーっ」

「ぐぎぎぎっ」

 

 

そして、アイズさんに笑顔で抱き付きながら、僕にも笑顔で挨拶をしてくれたティオナさんは、背後のベートさんを振り返り、舌を出した。

それに歯を食い縛るベートさんを他所に、ティオナさんはアイズさんの手を引っ張ってこの場を離れ出した。

 

 

「アイズー、あの狼男と話してもいいことないから、あっち行こう?四葉もおいで?」

「おい、こらっ、聞こえてんぞド貧相女!?」

「ド貧相とか言うなぁああああああああ!!」

「え、えっ・・・」

「あ、あの・・・」

 

 

すると、いきなり、口論し始めるベートさんとティオナさん。

 

 

「朝っぱらからうるさいぞ!!廊下で騒ぐでない、お主等!」

「ガレスさん」

「四人とも、そこに正座じゃ!特にそこの三人!上級冒険者としての立ち振舞いを今一度ただしてやるわい!!」

「なっ!?」

「え、私も・・・!?」

 

 

そこにガレスさんが登場して、二人を止めてくれるかと思ったら、二人とアイズさんと共に僕も、朝食の時間までガレスさんに一頻り注意された。

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「・・・足、痛い」

「私も~」

「私も」

「大丈夫ですか?お三人の分の朝食は私が取っておきましたから」

「ありがとう、レフィーヤ」

「ありがとう、レフィーヤさん」

 

 

そして、朝食の時間になって、食堂に移動した僕等。

もう、足が痺れすぎて、ここまで移動してくるのが大変だった。

だから、レフィーヤさんが僕等の朝食を確保してくれて本気の本気で助かった。

 

 

「♪~♪~」

「!?」

 

 

その時、ティオネさんの上機嫌な鼻歌が聞こえてきて、そのティオネさんの方に自然と僕の視線が動いて、それを見た瞬間、目を見開いた。

 

 

「ア、アイズさん」

キュッ

「??どうかしたの?」

「あ、あれ」

「さぁ、団長。私の愛の料理です。たーんと食べてください」

「あっ」

 

 

そして、ヤバイと思ってアイズさんの腕を掴んだ僕は、ティオネさんを指さした。

そうしている間にティオネさんはソレをフィンさん前に置いた。

 

 

「ねぇ?何で、ティオネさん、フィンさんにモンスター食べさせようとしてるの?」

「「「えっ」」」

 

 

ソレを見て、あえて小声で僕は、聞いた。

すると、アイズさんだけじゃなく、ティオナさんとレフィーヤさんも固まった。

 

 

「ぷっ」

「!」

「ハハハッ!!」

「フフフ、違いますよ?四葉ちゃん、あれはモンスターじゃなくて魚です」

「さ、魚!?ふ、普通の!?モンスターじゃなくて!?」

 

 

次の瞬間、アイズさんが吹き出したのを皮切りに、ティオナさんがお腹を抱えて笑い出し、レフィーヤさんも笑いながら、ティオネさんのアレの正体を教えてくれた。

 

 

「ゴォらぁぁあ!!四葉ぁぁぁあ!!」

「は、はい!?」

「私が団長にモンスター食わせるわけねぇーだろ!!普通の魚だバカァ!!変なこと抜かしてると、その脳天、カチ割るぞぉ!」

バッ

「ヒッ!?」

 

 

そして、バッチリソレを聞いていたティオネさんにものすごく怒られて、僕は、思わず、両腕で頭を庇った。

だって、一Mは超えていそうな大きな体でいびつで強固そうな鱗をした奴を誰が普通の魚だと思うよ。

僕は、一瞬、足はないけど、二十二層の湖にいたヌシに近い何かだと思ったし。

 

 

「まあ、まあ、ティオネ。四葉は巨黒魚を見るのが初めてなんだよ。勘違いしても仕方がないさ」

「団長」

「四葉、もう一つ、ビックリすることを教えてあげるよ?これでも、子供なんだよ?」

「こ、子供!?そ、それで!?」

「うん!」

「!!!?」

 

 

それに更に上乗せされて、フィンさんが目の前の丸焼きにされたモンスター、基、魚を指さして、その事を教えてくれた。

じゃあ、一Mを超える子供の親の魚って、いったい・・・。


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