同盟上院議事録異聞 〜周回遅れの星・タケミナカタ民主共和国〜   作:Kzhiro

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「これからのこの世界では常識に囚われてはいけないのです」(「カムナガラノミチ」初代教主 スワ・サナエ、聴衆に向けて)


周回遅れの国・タケミナカタ民主共和国 1

一般的に「交戦宙域」と呼ばれるイゼルローン近辺の諸星系の歴史は大変古く、古くはルドルフ・フォン・ゴールデンバウムによる銀河連邦簒奪とそれを逃れたポッケー・ナイナーニェン元帥が本拠とした銀河連邦サジタリウス準州を起源としている。

 

しかし宇宙は当然ながら広大でその中には手付かずの星系もいくつか存在していた。

 

タケミナカタ星系はまさしくその典型例であり、発見されたのが同盟建国から50年後という非常に遅い期間に発見、開拓作業が行われた星系である。

 

当時アルレスハイムという窓口を介さずに直接ハイネセンにやってくる亡命者や社会の落伍者の増加に手を焼いた同盟政府はこの大きく航路から外れ経済的価値などないに等しいこの星系に彼らをいくつかの支援装備と共に送り込むというある種暴挙に等しい行為により開拓を進めていった。つまりタケミナカタは同盟政府にとって「不必要」とされていた人材のゴミ箱としてその役割を始めたのである。

 

ゴミ箱の中のゴミはどんどん数を増し、やがていくつかの街を形成したとき、一つの悲劇がこの惑星を襲った。

 

コルネリアス1世の大親征である。帝国軍が大挙してイゼルローン回廊を越境、サジタリウス腕に襲いかかったのである。

 

しかし帝国軍はこの星系の存在を当然知る由もなく、そのまま素通りしていった。

 

当時のタケミナカタには一つの弱点が存在していた。それは超光速通信網があまり整備されておらず、他星系の情報インフラを間借りして外との連絡を行っていたのである。

 

当然ながら全ての情報はシャットアウトされ、外がどのようになっているかも、自分たちがどのような状況に陥っているか伝えることも不可能になってしまった。

 

何もかも分からない状況で市民たちはパニックになり、やがてその混沌の中から二つの派閥が生じた。

すなわち同盟が勝利したと信じる「勝ち組」と帝国が勝利したと考える「負け組」の二つである。

 

「勝ち組」と「負け組」の二つの派閥はこの星の処遇、いわゆる帝国か同盟、どちらにつくかという議題で相争い、内戦とはならなかったが途方もない血を流した。この時の流行語として「議論とは野蛮な。ここは穏便に暴力で…」という言葉から当時の血生臭さが窺えるだろう。議論はもはや無意味だったのである。

 

全てが落ち着いたのは帝国軍が宮廷革命により撤退し、同盟軍が一大反攻作戦を実行し、タケミナカタを「奪還」してからであった。

 

タケミナカタに進駐した同盟軍はまずその有様に驚いたという。何しろ帝国軍がイゼルローンの向こう側に撤退したにもかかわらず、彼らはやれ帝国が勝った、やれ同盟が勝ったと争っているのである。タケミナカタの人間が同盟が勝利したと気づくまでは進駐から二週間ほど経ってからであったという。

 

それからのタケミナカタの状況は少しは良くなった。進駐した同盟軍は情報インフラをはじめとする各種インフラを修理、整備し、種々諸々の復興に着手したがそれを行った後すぐさまハイネセンへと帰っていった。まあそれでも昔のようなゴミ溜めのような状況からマシになったのは確かではあったが。

タケミナカタ民主共和国と呼ばれる国家が成立したのはこの時である。長い間持ち堪えたことが功を奏し無事同盟政府から加盟国への格上げが認められたのだ。最も、その実態は放って置かれただけであったのだが。

 

それからのタケミナカタは細々と技術発展の恩恵を受け取りちょっとずつ自領を発展させながら外の情勢へと目を向けていった。アスターテ、ヴァンフリート、エル・ファシル、アルレスハイム。後の世に交戦星域と呼ばれる星々を使節団は共に歩む者を探して尋ね回り、その長い長い旅路の果てに彼らが目につけたのはほんの隣の星系、すなわちデルメル平和共和国であった。

 

デルメルの豊富な地下資源はタケミナカタの生活を維持するのに必要不可欠なものであったし、なにより彼らが目につけたのは負け組にとって重要なものが、すなわち『歪な平和』の産物であるフェザーンの独立商会、オリュンポス・カンパニーが抱える警備部隊、現地駐留の帝国軍が存在していたためであった。

 

多少はマシになったとは言え未だタケミナカタの通信インフラは劣悪そのものであり、常に周回遅れの情報を受け取ることを強いられていた。仮に同盟軍が敗北して交戦星域の制宙権を失った際、いつでも帝国に投降できる窓口が欲しい。負け組にとってしてみればこの警備部隊は窓口にふさわしい存在であった。

 

直ちにデルメル政府、そしてオリュンポス・カンパニーとの腹を割った話し合いが始まった。その結果としてデルメルから貿易協定とオリュンポス・カンパニーの支社進出が決定されたのである。すなわち、それは今の状況がさらにマシになるという意味合いがあった。経済的植民地になるという意味合いでのマシになる、という意味合いであったが。

 

「おらたちが輝くための一歩がいま歩み出されただ!おらたちはイゼルローンの輝ける星になるだ!皆、頑張ってくれ!」

 

当時の棟梁、勝ち組を構成する農民共同党所属のアルベルト・シュミットは集まった民衆たちに、彼らに親しい言葉でそう語りかけたという。この時、誰もが明るい未来を夢見ていた。

 

が、現実は厳しかった。その経済的価値は交戦星域全てから見て低いものであったし、そのおかげか通信インフラもいつまでも整備されていなかった。今でもこの星は周回遅れの情報を受け取ることを強いられている。何が真実で何が嘘なのか見分けがつかない。

 

宇宙暦796年現在、タケミナカタは他の諸国が見れば羨ましがるほど平和であった。しかし、それは裏を返せば経済的価値が皆無故の平和とも言えるであろう。

 

そんなのどかな農業惑星の小さな宇宙港に、一台のシャトルが降り立った。

 

 

 

現在のタケミナカタ民主共和国の同盟弁務官であり、勝ち組党を構成する農民共同党の議員である立派な白髭の男、アントン・シューマン博士はシャトルの着陸の衝撃によって無理やり休息を中断させられた。

 

「んもう、全く、この惑星はぐっすりと休ませてもくれないのか…!!!」

 

シューマンは怒りながらリクライニングシートをゆっくりと立て直し、外の光景を見やった。いくつかのビルと遠くに見える広大な田んぼ、畑が織りなす緑のカーペットが彼の目に真っ先に入った。ハイネセンや他の惑星からここに帰ってくるたびにもう何度も見慣れている光景だ。

 

「全く、こんなはずではなかったのに、なんでよりにもよって弁務官なんかに任命されるんだ!」

シューマンはそう言ってからすっくと立ち上がり、ぷりぷりと怒りながらシャトルから外へ出た。

 

亡命者系の子孫であるアントン・シューマン農学博士はエル・ファシル中央大学農学科で学位を取った後、何十年か農業関係の仕事で働き、つい6年ほど前に故郷タケミナカタに農業的革新からの国力増大をもたらすべく選挙に打って出た男であった。

 

だが政治の世界で彼を待ち受けていたのは農業的革新以前の話であった。やれ同盟軍は勝っているのか、やれ帝国軍は勝っているのか、到底まとまりがつかない政治家たちであった。

 

一体いつになったら農業政策に打って出られるのだろうか。そもそもまとまりがつくのだろうか。そう思いながら彼は個性のある議員たちに揉まれながら議員としての責務を全うしていた。情報畑ではないアントンでもこればっかりは貧弱な情報インフラを恨んだものである。あれさえ整備しておけば他の構成諸邦と同じく正確な情報を受け取れ、こんなそれ以前の議論に終始することはないものの!

 

だが彼にとっての転機は2年ほど前に訪れた。前任の同盟弁務官であった負け組系のジョン・ヤマモト議員が何やらハイネセンの弁務官総会で何か失言をやらかしてしまったらしく解任され、新しく彼が同盟弁務官に任命されたのだ。曰くエル・ファシルをはじめとする仕事上のコネがあることがその理由だそうだ。

 

以後彼は慣れない外交官としてハイネセンに交戦星域各地に各地を多忙に飛び回っている。一時期は分身の術を覚えてしまいたいと考えてしまったほどに、多忙に宇宙を飛び回っているのだ。

 

つい最近はハイネセンの弁務官総会に顔を出してきて、今まさしくその結果を議会、そして政府に報告のために戻ってきたところである。仕事先で何回か知り合ったロムスキー氏を始め、アレークシン・リヴォフ、サンムラマート・アシリア、エドヴァルト・フォン・リッツなどの「民主主義の縦深」の濃いメンツと会うのは流石にある程度頑健に鍛えられている彼でも疲れる仕事である。特に前任者の失言の影響がまだ抜けきれていないのだから、その挽回のためにさらに労力を使用した。一年前となるとある程度冷たい視線を向けられていたのだから、多少はマシになっただろう。この惑星とおんなじである。

 

「全く、この惑星の重力はいつまで私を縛りつけるのだ。苦労が耐えやしないではないか。」

 

シューマンはそうぼやきながら簡単な金属、麻薬等探知検査を受けた後、宇宙港のゲートを潜っていった。博士はこれから始まる議会を想像してしまいため息をついた。

 

「こんなはずではなかったのだがなあ…」

 

議員になって早6年も経ったのにまだ慣れていない。足取りは重かった。

 

 

 

「…以上で、ハイネセンにおける同盟弁務官総会、その結果についての報告を終わります。」

 

勝ち組、負け組問わず何十もの視線がシューマンの体を突き刺さる。弁務官に就任してから2年であるが彼はまだ慣れ切っていなかった。

 

議席の一つから手が上がったのが見て取れた。

 

「ホンマ・ヨシムネ棟梁、発言どうぞ。」

 

シュルツ議長が挙手をした男、すなわちこの国の元首たる棟梁である農民共同党のホンマ・ヨシムネである。

 

ずんぐりとした恰幅のいい、気の良いおじいちゃんを思わせる笑顔の男が立ち上がったのをシューマンの目は捉えた。あのニコニコしている笑顔を見るたびに彼の精力というか、やる気というかが失われていくような気がするのは気のせいなのだろうか?

 

「えー、シューマン議員。弁務官総会ご苦労様でした。それでタケミナカタ民主共和国の棟梁として尋ねたいのですが、結論を言いますと同盟は現在のところ勝利している、という認識でよろしいのでしょうか。」

 

そら来た、と博士は思った。これこそが現在この長閑なタケミナカタを長い間蝕む病理である。情報インフラが他と比べて整っていないせいでここに届くのは周回遅れの情報であり、そのせいで正確な情勢の把握が不可能なのだ。そのおかげでこの星の人間は誰も正確な情勢を把握できない。言おうとしたら空回りする。ここにいる国民の信任に基づく議員でさえも。

 

「…議題となった先のアスターテ会戦では2個艦隊が壊滅、一個艦隊が甚大な被害を被ったとのこと。結論を言って仕舞えば、現在は同盟不利と言っても過言ではないでしょう。」

 

「ほら見ろ!やっぱり同盟が負けているじゃないか!」

 

いつものことながら反対方向の議席からヤジが飛んできた。またしてもこれである。周回遅れの情報はそれだけのみならず議会を二つの会派に大きく分けてしまった。すなわち、同盟に追従する現状維持派の勝ち組党と帝国に追従しようとする派閥の負け組党である。

 

今発言したのは負け組を構成する国民同盟の議院であるアルフリート・ランドン議員である。

 

「もうこれで分かったでしょう!同盟にかつての勢いはなし!アッシュビーの栄光は死んだんだ!どうせこのまま帝国にむざむざ踏み潰されるくらいならもう帝国に降伏しましょう!それが国民のためなのですから!ねえ、そうでしょう?棟梁!あなたも愛国者ならわかるはずだ!」

 

頭が痛くなってきた。現実が見えていないどころの騒ぎではなく、そもそも伝えられる現実が不透明だとここまで悲劇的に、ダイナミックに騒ぎ立てられるのか。シューマンは呆れながらも感心した。

 

「この売国奴がぁ!よくもそんなことが言えたもんだな!」

 

反対側、すなわち勝ち組側の議席からも叫び声が上がった。

 

アントニオ・ホンダ議員。勝ち組系列のタケミナカタ協同党の有力議員であり、タケミナカタ・サンバ協会の会長で総合格闘家上がりの議員である。彼は叫び声を上げた次の瞬間、すっくと立ち上がりそのはちきれんばかりの筋肉に覆われた上半身を議場の諸議員たちに見せつけた。

 

「真に銀河に民主共和の啓蒙の光をもたらさんとする同盟がこれから巻き返すに決まっておろうがぁ!神州たる同盟は不滅!それを信じずして帝国にタケミナカタを売ろうなどと!不遜なことと知れ!この売国奴めが!」

 

ホンダ議員はその体格に見合う大きな声で議場を響かせながらそう叫んだ。勝ち組も勝ち組でよくここまでダイナミックに騒ぎ立てられるものである。シューマンはこちらにも内心呆れ果てながら感心した。

 

「なんだとぉ!貴様は現実が見えていないのかぁ!」

 

「現実が見えていないのはそっちだろ!報告によれば同盟政府は何かしらの反抗作戦を企図していると聞こえなかったのかァ!」

 

「どうせ失敗に終わるに決まっているだろ!」

 

「なんだと!降りてこい!ぶちのめしてやる!」

 

2人の声だけは大きい議員たちつられてか、周りもそうだそうだ、貴様こそ、と野次馬の如き様相を示し始めた。

 

「み、皆さん静粛に、静粛に!」

 

シュルツ議長がなんとか場を収めようとしているが、空回りになっているようである。

 

「諸君!静かにせんか!今は静粛に、落ち着く時だぞ!静かにせんか!ホンダ議員!あれほど落ち着いていろと言ったのに!」

 

ヨシムネ棟梁もホンダ議員をはじめとして勝ち組の議員たちをなんとか落ち着かせようと努力している。が、こちらも空回りに終わりそうだ。

 

(またこれか。)

 

シューマン博士は内心呆れ果てながらこの狂騒を眺めていた。いつも自分が議会に報告を持ち込むといつもこれである。勝っているのか、負けているのか、同盟につくべきか、帝国につくべきか。正確な情報が何一つわからないせいでいつもこのように議会は荒れ放題だ。

 

一周遅れの国、と誰かが言っていたがまさしくその通りだとシューマンは一瞬思ってしまった。一周遅れの情報を受け取るおかげで議論はいつも一周遅れ。その場でずっと足踏みをしている。

 

みんな内心ではこんな狂騒なんてやりたくないはずだ。選挙でちゃんと選ばれて、国民の意見をきちんと政治に反映させたい。だが議会ではいつもそれ以前の問題だ。

 

こんな国にいったい誰がしたのだろうか?いや、誰という問題ではない。この国を取り巻く現実という悪魔の果実がそうさせたのだ。せめてハイネセンがここら一帯を整備してくれていたなら、少しはマシになったはずなのに。シューマン博士はあの居心地の悪い巨大都市惑星を想起して、ため息をついた。

 

「み、皆さん!落ち着いて!落ち着いてください!」

 

ある1人の議員が止めに入った途端、議会での騒乱は嘘みたいにピッタリと止んだ。短く切り揃えられた緑の髪の議員がこの狂騒を止めたのだ。

 

「ハフリどの!売国奴を放っておくというのですか!」

 

ホンダ議員が声を荒げながらハフリと呼ばれた議員にそう尋ねる。

 

「あなたにとっては売国奴でも、ここでは国民に選ばれた議員じゃないですか!私も、あなたも!じゃあ私たちがここでやることといったらグッと堪えて国民のためになるような議論をするべきじゃないですか!それが我々、選挙で選ばれた議員ってもんでしょう!ホンダ議員、違いますか?」

 

ホンダ議員はハフリと呼ばれた議員の言葉にぐぬぬ、と唸ると、「ハフリどのが言うくらいならそうなのでしょう。」と言って元の議席へと戻っていった。他の議員たちも、勝ち組は勝ち組の、負け組は負け組の、それぞれの議席へと戻っていった。

 

(またハフリどのか。)

 

シューマンは緑髪の議員を見ながら内心そう思った。

 

スワ・タダユキ議員。勝ち組にも負け組にも属さない中立派閥を単独で構成する「惟神会」の党首を若いながらも務める議員であり、この星の最有力宗教である「カムナガラノミチ」(一般名称はモリヤ派宇宙神道)の総本山、モリヤ・シュラインのハフリ(漢字表記で祝)を務める男である。

 

この星においてスワ一族の権威はそれこそ天に昇る太陽の如きものである。彼らと「カムナガラノミチ」の始まりは13日戦争よりもっと前、それこそ神代の時代から続くとされている。

 

現代宗教においてのカムナガラノミチは13日戦争後、90年にもわたる世界紛争の時代において「異界」から当時のハフリ、スワ・サナエが戻り、心身共に荒廃した人々を救済して回ったという歴史から始まった。当時地球に存在したモリヤ・シュラインの主神であるモレヤ神の直系子孫であった当時のハフリは人々から尊敬と畏怖の念を集め、地球統一政府樹立時代にはその統治範囲がそのまま構成邦の一つとなったほどの影響力があったと言う。

 

地球政府がその範囲を拡大していくことにハフリの権威は大きく高まった。人々が地球の外へ、世界の外へと一歩一歩、揺り籠から出た赤ん坊の如く歩みを進めるたびに各地に分社を立てていき、日常に密着していきながら勢力を広げていった。よくこの時代は旧世紀より宗教勢力の影響力が減少したと言われるが、こちらは日常に密着したことによりかえって影響力を感じさせることができず、後世の歴史家がどう説明つけていいのかがわからず一番混乱したところであったと言う。

 

シリウス戦役の動乱を信者たちの力添えによりなんとか乗り越え、銀河連邦の時代にはその勢いは頂点に達した。当時テオリアにあったモリヤ・シュラインは各地からの信者が集まり、いつも賑やかであったと言う。

 

そしてついに彼らにとって試練の時が訪れた。ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの皇帝即位である。

 

ルドルフはオーディンをはじめとした北欧神話を基軸とした宗教を正教とし、それを人民に強制したことにより、信者は目に見えるまで減少、さらには分社も徹底的に取り壊され、その勢いを寂れつつあるテオリアの一角に止め置かなければならない時代を伯爵位こそ与えられたが170年ほど強制された。

 

当然神の正統なる子孫はこのパッと出の専制君主を容認しなかった。高位の貴族たちに広められた信仰の伝手を使い、あれやこれやと生き延びて、そしてついにアルタイルからハイネセンなる奴隷が新天地を求めて出立しようとした時、御神体といくばくかの歴史的資料を持参して彼らに無理やり加わり、そして長い旅路の果てに辿り着いたハイネセンにその居を立て直した。

 

そのハイネセンに居を立て直したはずのスワ一族がなぜこんな寂れた田舎惑星に居を建て替えたのか。それは何もなかったこの星に強制移住させられることを信者の1人から聞いた当時のハフリ、スワ・タダテルが彼らの境遇に涙し、彼らの旅路に同行したからであった。

 

そのおかげかタケミナカタの人間は神の子孫、現人神であるスワ一族を恩人のように慕い、彼らの信仰を進んで受け入れていったのだ。その証拠としてタケミナカタの名前の意味とその由来を調べてみるといい。この星がカムナガラノミチの神の名を冠しており、それがスワ・タダテルによって名付けられたことがすぐ出てくるだろう。当時の強制移住させられた哀れな人々から見てみれば、スワ・タダテルは地球教の聖ジャムシード、そして開祖スワ・サナエの影を見たに違いなかっただろう。

 

もう一度言うがこの星でスワ一族の権威は天に登る太陽のようなものである。即ち、どんなにいがみ合っていても、どんなに争っていても、ハフリ、あるいはその血縁者の言うことであるならば、すぐさま収まってしまうのだ。今目の前で起きたこともまさしくそれである。

 

シューマンはこの国が本当に民主共和国であるのか内心疑っていた。スワ一族の鶴の一声で全てが収まってしまうならば、何のための議会であろうか。何のための選挙であろうか。民主共和国の看板を下ろし、神聖共和国かいっそのこと神聖王国と名乗ったなら、どれほどこの星の政治的情勢がマシになっていたのだろうか。

 

だが、ここではスワの当主タダユキは一介の議員である。どのような血筋のものであろうとも彼は選挙によって民衆に選ばれ、民衆の利益を代表してここに立っているのだ。彼の言も最もなことである。

 

「…ああ、棟梁。どうも収まったようで。質問の続きをどうぞ。」

 

シュルツ議長が出番を奪われたためか、いかにもバツの悪そうな調子で国家元首に質問の続きを求めた。

 

「え、ああ。いいのかね。ウォッホン。ではシューマン議員。ハイネセンはアスターテの敗戦を埋め合わせるために…」

 

議会はまだまだ続きそうだ。まあ、劇的な改善などあり得ないどころか毒にしかならない。ちょっとずつ改善していくしかないのだ。野菜も、穀物も、そして政治も。そのための議会であり、そのための民主主義であるのだから。シューマンは一瞬思い浮かんだ邪念を振り切り、棟梁の質問を聞きながらそんなことを考えた。


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