Re:ナツキ・スバルが女だったら 作:ラノベキャラの女装ネタ好き
僕、オットー・スーウェンの不幸は今に始まった事ではないですが、最近は輪をかけて酷い気がします。
「「「…………」」」
「な、何なんですかぁぁぁ!貴方達っ!」
黒い頭巾を被ったナイフを振り回す集団に襲われて、積み荷の大半を失ったり、
「ガルルルル!!!!」
魔獣の群れに出くわしたり、
「……ハッ!?ここは?」
目が覚めたら全身が痛くて、土地勘のない場所に放置されていたりと、正直メンタルはボロボロです。
ほんと、行商人が竜車が失うとかシャレになりませんし、新しい物を用意出来るお金もなければ訳あって実家とは絶縁状態。
……正直人生詰んだなと乾いた笑みが漏れました。
成り行きで、
どうせ酷い目に遭うなら目の前の彼女を襲ってやるくらいの気概があれば、もう少し人生を楽しんで生きられたのかもしれませんが、どんな状況であれ女性に乱暴を働くなど考えられないことでした。
毛布を深く被った僕は鈍痛に顔を歪めながら「早く朝よこい」と強く念じます。
「むにゃむにゃ……ちょっとトイレ」
「あれ、いつの間にか寝ていたのか」
オットーが重い目蓋を開けた時に飛び込んできたのは日差しの明かり。
横に並べられた椅子の上にナツミさんの姿がないことをみるに普通に熟睡してしまっていたらしい。
「どうしましょうか……」
思えばここが何処だが分からなかった。倒れた自分をナツミさんの知り合いが運び込んで、彼女が面倒を見てくれていたのは昨日の話で伝わったが、肝心のここがどのような場所であるか聞いていなかったのだ。
記憶の最後はメイザース領付近の街道を竜車で移動していたので普通に考えればメイザース領の中ということになるが、自分がこんな怪我を負った理由も気になる。
まだ痛む体に鞭を打って立ち上がろうとするオットーは『むにゅり』とした片手の感触、
片手に収まる、ナツミのおっぱい。
「どうして」、だとか「何故」という疑問は浮かばなかった。
むしろ「服越しなのにこんなに柔らかいんだ」とか「この後、死ぬんだろうな僕」みたいな斜め下のことを考えていた。
「む。ふぁあ~」
しかし艶めかしい寝息に心臓が跳ね上がる。
この瞬間だけ全身の痛みが吹き飛んでいたと後のオットーは語った。
「あれ、オットー」
ナツミが目を開けたのとほぼ同時。
オットーはバネのように体をくねらせ、そのまま地面へ。
「たいへん申し訳ありませんでした!!!!」
気付いた時には地面を見ていた。
そこに至る経緯がなんであれ、女性の胸を触る。それ即ち禁忌であると、ジャンピング土下座をかましていた。
「…………はへ?」
第二章2『お婿にいけない』
オットーが寝ているベッドにナツミがいたのは、寝ぼけた彼女が誤って侵入してしまったからだと事態は判明した。
ナツミはオットーが胸を揉んでしまったことに対して笑って許してくれたが、それを聞いたフェルトはオットーに白い目を向けた。
「それで、兄ちゃんはどうするんだ?」
ナツミの腕を取ってシャァァと猫のように威嚇して問いかけるフェルト。
罪悪感に苛まれるオットーは「胃が痛い」と嘆きつつも、「申し訳ないですが、ここは何処か伺ってもよろしいでしょうか?」問いかける。
「ここは、ワシの盗品屋じゃ」
「盗品ッ!?」
「おいおい、何ビビってんだよ。スラム街なんだからあっても不思議じゃないだろ」
「スラム街……?」
盗品屋というワードにたじろいだが、スラム街という言葉に首を傾げる。
オットーの記憶が確かならメイザース領は広くとも、その大半は魔獣の住む大森林に覆われ、小規模の村が一つあっただけの筈。治安が悪いというならそれまでだが、そんな話は聞いたこともない。行商人の伝ではメイザース領の村はよくも悪くも普通の村という話だった。
ここにきてここがメイザース領内ではないのかと気付き始めたオットーは再び尋ねる。
「スラム街と聞けば王都以外に馴染みのない言葉ですが、ここは王都と言うことなのでしょうか?」
「何だ兄ちゃんも気づいたらいた口か」
「僕も?」
「多分、オットーとは別口だと思うけど私も気付いたら王都に居たんだよ。当初は身寄りもなければお金もないと結構危ない状況だったけど今はロム爺達にお世話になって、帰る方法を模索中」
感触深く激動の一日を振り替えるナツミ。それに大精霊の悪戯にでもあったのかと心配そうに見るオットー。彼は思わず何か手助けになれればと声に出そうとして、むしろ今は自分が助けて欲しい状況だったことを思い出す。
(でもメイザース領付近で気を失って、王都のスラム街で目が覚めるってどういうことだ?)
こちらはナツミさんのパターンとは違い、明らかに人為的な何かが関わっている。何の為にオットーを襲ったのか、身ぐるみを剥いで、そこらに投げ出すというならまだしも、そこそこ離れた王都に連れ込んだのは何の意図があってのことなのか。
「う~ん」
「まあ、直ぐに何をするか決められないよな」
悩むオットーにナツミは立ち上がる。
「そろそろ昼食時だろ?
今日は私が用意するからフェルトもオットーも食べていけよ」
「マジかっ!だったら、『かれーらいす』が食べてぇ!」
「お前、
「『ぽてとさらだ』ということは姉ちゃん、当然マヨネーズもかけるのか!」
「おうよ。マヨネーズ足し足し奈月家特製ポテトサラダよ!」
「ワシはあんまり好きじゃないんだがのぅ~」
フェルトの嬉しそうな手前、表立って嫌いとはいえないロム爺をチラリと見て、ナツミはロム爺のポテトサラダはマヨネーズ少なめにしとこうと心のメモに書き留める。
オットーは悩み所だが、マヨラーの勘として多分好きな方だ。
フェルトと同じぐらいの量で問題ないだろうとエプロンを巻くと、慣れた手つきで芋の皮剥きを始めた。
「ほふぁ……」
まもなく香る鼻腔を擽る良い匂い。
オットーが視線を向けるとナツミは一端の料理人顔負けの手つきでフライパンに火を通して豪快に肉を焼いていく。
実の所、ナツミの料理の腕は地元の肉屋や魚屋やらと本番の職人に手取り足取り教わったもので、また本人の飲み込みが良いものだから老婆心を擽られた彼らにあれよこれよと技術を詰め込められ、実は母親である菜月菜穂子の腕をぶっちきりで超越していたりする。
だが菜月菜穂子がまだまだ娘には負けてられないと無駄に凝った料理ばかり作るものだから、本人は単にレパートリーが増えただけだと思っている。
カレーぽい何かとはいえ、現地の物でカレーを再現出来たのもその為で、フェルトは将来金持ちになったらナツミを料理人として雇おうと心に決め、ロム爺は盗品屋を辞めて定食屋でも開こうかと考えるほど、今ではガッツリ胃袋を捕まれていた。
「ほら、お待ちどう!」
ご丁寧に見栄えまできっちりとしえ整えられたそれ。
ごくりと喉を鳴らしたオットーが恐る恐る口に運んで――、
「結婚しましょう」
溢れんばかりの幸せが脳内を埋め尽くした。
子供が三人。大きな家。毎日ナツミのご飯を明るい家庭で食べる自分まで妄想して、フェルトのドロップキックに気を失うことになる。
オットーはヒロインなのでナツミとのカップリングはありえません。