義妹がVTuberで、俺はそのマネージャーらしい   作:御宅 拓

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#50未来と明日を繋ぐ者の出会い

 

 

 

 瀬川さんとの打ち合わせを終えた翌日。

 一つのベッドで仲良く規則正しい寝息を立てながらまだ寝ている涼音と旋梨ちゃんよりも早く起きて、軽くシャワーを浴びた。

 

 どうでもいい話、夜に入る風呂よりも、朝に入る風呂の方がサッパリできる気がする。

 特にまだ頭が覚めていない時だと尚更気分は爽快、やる気に繋がる。

 

野郎の入浴シーンはやめてくれって?

 

 ンなもん妥協してくれ。

 涼音や旋梨ちゃんの入浴シーンを露わにするわけがないだろう。

 

 しばらくして寝汗と今日のやる気を出した俺は上の服を持ってくるのを忘れ、ひとまずパンツとジーパンだけ風呂場から出た。

 

「あっ……」

 

「んあ?」

 

 頭にタオルを被せながら出ると、そこには目を擦って立っている寝起きの涼音が居た。

 

「おはよう、涼音」

 

「お、お、おはよう兄さん……!」

 

「お、おう?」

 

 なぜか両手で顔を隠しながら顔を赤くする涼音に、とりあえず挨拶をした。

 隠す割には指の間からチラチラと見ているのが丸わかりだが、何か変だろうか。

 

 とりあえず引き出しから半袖を取り出し、半ば濡れているが気にせずに着た。

 

「ふぅ……」

 

「に、兄さん。なにか、飲む?」

 

「じゃあコーヒーを頼む」

 

「う、うん……!」

 

 ぎこちなく話してくる涼音に俺はコーヒーを頼み、デスクトップを起動させた。

 昨夜は瀬川さんとの打ち合わせで鈴音たちの配信を見逃している部分がある為、その振り返りと提出する書類をまとめなきゃならない。

 

 やがて涼音が自分が飲むミルクティーと、俺が飲むコーヒーを淹れてくれた。

 マグカップを受け取り一口飲む。苦味がより引き立ち、気持ち的に旨味を感じさせる。

 

「あの、兄さん……」

 

「んあっ、どうした」

 

「……旋梨さんのこと、好き?」

 

 キーボードを打っていた手が止まる。

 なにやらもじもじと、それでいながら不安げにそう問いかけてきた涼音。

 

 しばらくその質問の意図がわからなかったが、俺は涼音に目を向けて言った。

 

「いや、好きは好きだけどもう一人の妹みたいな感じだな。恋愛感情は抱いてない」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 嘘は言っていない。

 旋梨ちゃんにもこの事は伝えてある。

 

 俺の言葉に涼音はホっとしたのか、胸を撫で下ろした。

 そういや確かに、ここ最近は旋梨ちゃんを中心に動いている気がする。

 

 きっと薄々ながらも、涼音はそれをどこか寂しいと感じていたのかもしれない。

 

「俺の気持ちは涼音にしか向いてないから、安心してくれ」

 

「う、うん……。あ、ありがとう……」

 

 これで少しは不安を取り除いてあげられただろうか。

 軽く微笑む涼音に、俺も吊られて微笑み片耳にイヤホンを挿してアーカイブを振り返った。

 

 

ーーそれから、一時間後。

 

 

「ゆうにぃ、おはよ〜」

 

「あ、あぁ……」

 

「旋梨さん、さすがに近すぎだと思う……ッ」

 

「そんなことないばい」

 

 着飾った楽屋は広いし、なにより来客用に座る椅子は多めに置いてある。

 それなのにも関わらず、寝惚けた感じで身を寄せてくる旋梨ちゃんは俺の隣に座った。

 

 そして対抗するように涼音も反対に座り、旋梨ちゃんと同じように身を寄せてくる。

 だが、なんだろうか。書類が捗らないというよりよりも、押し当てられている感触が如何に豊満ではないのがわかってしまう。

 

「ゆうにぃ、凄くいい匂いするけん」

 

「まぁ、朝風呂したからな」

 

「兄さん、今日の予定は……?」

 

「そういえばスケジュール更新するの忘れていたな……。とりあえず午前は二人とも休みで、午後からは配信してもらう形だ」

 

 なぜか今日はべったりとしてくる二人に、カバンから本日のスケジュールを取り出した。

 テーブルに置いたスケジュールに飲み物を口にしながら二人は目を通す。

 

「いつも通りと同じやけんね」

 

「下手にあれだこれだと変えても、やりづらいだろうからな。それに、どちらにせよ旋梨ちゃんには音楽ゲームで出てもらうから、そもそも変えようがない」

 

「私は雑談だね、兄さん」

 

「これまでの統計データを見る限りでは、やっぱり涼音の雑談が受けているらしいからな。ゲームもそれなりにいいんだが、なんでも視聴者とのやり取りが上手い分要望が多いんだよ」

 

 実際二人のアーカイブを見直したり、トゥイッターのリプ欄を見ると大きく分かれていた。

 涼音は個人勢の時から培ってきた視聴者とのコミュニケーションがズバ抜けて上手く、ゲーム配信よりも評価されている。

 

 対して旋梨ちゃんは音楽ゲーム一本だけでやってきたこともあり、音ゲー界隈の有名人含め多くの視聴者を獲得している。

 

 VTuberとしてやってるだけにそれは一種のエンターテイメントとしてだが、もしこれが個人で本気を出せばすぐさまTOP10には入るぐらいの実力を秘めている。

 

「涼音たちは自分なりにやればいい。結果は考えず、やれることはやる。ただそれだけ」

 

「ゆうにぃって、よく考えてくれるとね」

 

「そもそも束縛が嫌いなら、旋梨ちゃん的にもこの方が気楽だろ?」

 

「まぁそうっちゃけど、ゆうにぃになら束縛されてもよかと?」

 

「なに言ってんだ、このバカ」

 

 思わず本音が出てしまう。

 しかしそれでも堪えてないのか、旋梨ちゃんはどことなく機嫌良くココアを飲んだ。

 

 すると涼音はムスッとしたまま立ち上がり、壁に設置してあるテレビを付けて、ゲームを起動させた。

 

 しかもコントローラーの代わりに、なにやら丸いリングを持っていた。

 

「涼音、それはなんだ?」

 

「リングフィットネスだよ……。今凄く流行ってて、身体を動かすゲームなの……」

 

「あ〜! それ知ってるばい! 他のVTuberたちもやってるゲームやけんね」

 

「うん……!」

 

 涼音と旋梨ちゃんの二人で盛り上がりを見せる中で、俺はカタカタッとそのタイトルを調べてみた。

 

 すると確かにゲームではあるのだが、家で出来る運動ということでかなり高評価だった。

 俺が知ってるの運動じゃないが、その昔マ○オのダンスダンスレボリューションをやったぐらいだぞ……。

 

「ふっ……はっ……!」

 

「頑張れ〜、涼音ちゃん!」

 

「はぁ……はぁ……! んんっ……!」

 

 二人の背中を見ながら作業していたが、そのゲームが始まると同時にセンシティブに触れる容量で耳に入ってくる。

 

 次第には旋梨ちゃんも遊び始め、俺は両耳イヤホンして耐えた。

 なんだかんだ悲しいかな、男に生まれてしまった定めというべきか。

 

やはり思ってしまう、なにがとは言わないが。

 

 それから好きな音楽を嗜み、涼音たちの様子を伺いながらも順調に事が進んだ。

 テーブルに散乱している各書類をかき集めて整理した後、海斗から連絡が来る。

 

 どうやら午前の仕事が珍しく無いようで、気晴らしにドライブしようという誘いだった。

 俺は涼音にすぐ戻ると伝え、旋梨ちゃんから極力目を離さないようにだけ頼み、準備をしてミライバから外へ出た。

 

「お前の車に乗ることが久しぶりだな。それでどこにドライブする気なんだ?」

 

「まぁちょっと駅近くの喫茶店まである人物を迎えに行こうと思ってな。翔太くんの手助けをしてくれる子でお前にも会いたいらしいんだよ」

 

「なんだそいつ、物好きだな」

 

「あぁ、違いない。とはいえお前も前に一度会ってる子だぞ?」

 

「んあっ、そうなのか?」

 

「ほら、前にお前の実家へ帰省する際に寄ったパーキングエリアでスリに遭った男の子だよ」

 

「……あぁ! あの子か!?」

 

 海斗の説明に俺は思い出す。

 名前は確か天道祐樹、持病で喘息を持っていたと思うが、年齢にそぐわずしっかりしているような子だった覚えがある。

 

 なぜそんな子と接点を持っているのか不思議だった俺は海斗に聞くと、どうやら俺が涼音たちに事情説明しに車へ戻っている間に知り合ったようで、連絡先まで交換したそうだ。

 

 更に追加情報で、祐樹くんは俺のことを前々から知っていたらしい。

 パーキングエリアでの出来事を前に混乱、余裕がなかった為に声をかけるどころか、俺を思い出すことができなかったそうだが、なんでもテレビの取材番組を見て知っていたらしい。

 

 それから色々と話を聞きながら、車を走らせて数十分。

 目的地である駅へと着き、海斗はその近くのコインパーキングへと車を止めた。

 

 それからしばらく二人で歩き、集合場所である喫茶店へと足を運んだ。

 

「さて、どこに……。おっ、居た居た」

 

 入店すると同時に海斗は辺りを見渡して、祐樹くんを見つける。

 俺はそんな海斗の後ろをついて、祐樹くんが座っている席へと向かった。

 

「よっ、祐樹くん」

 

「ッ! お、おはようございます池上さん! それに、ーー神代さん」

 

 海斗に挨拶をした後、俺に挨拶をしてきた。

 俺らよりも高い身長、それでありながら威圧感よりも優しさに満ち溢れていた。

 

 そしてなぜか、パーキングエリアで会った時とは別に、祐樹くんから見えない境遇の糸が感じられた。

 

 言葉にするのは難しい。

 ただそれでも、パーキングエリアではなくその前から知っていたかのような感じ。

 

 

「裕也でいい、海斗の付き添いだが、よろしく頼むよ。祐樹くん」

 

 

 

 

 


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