ゴブリンスレイヤーと白霊   作:アンゼルム・ケーニッヒ

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7話

 火のない灰は装備を整備する。

 よく使う武器と防具を取り出して『修理』の魔術を使い、耐久力を回復させる。神の武器如く強化された武器は酸の噴射でも受けない限り壊れない。何故なら篝火に触れれば世界を一度リセットされ、武器や防具の耐久力は勿論生命力や集中力を含めた全てが回復するからだ。

 

 しかし白霊として呼び出されている現在、篝火には触れられない。エスト瓶は敵を殺せば回復するし、体力や集中力も指輪や愚者派生した武器を使えば少しづつだが回復する。

 節約だ。消費アイテムである黒火炎壺や松脂は殆ど使っていない。使うとすれば闇霊に侵入された時などだろう。

 

 ゴブリンスレイヤーによって召喚されたのはまだ彼が子供だった頃、彼の村がゴブリンに襲われ、崩壊したところで召喚された。それから数年間ずっと共に歩んでいる。

 今までにない長期召喚。世界を何度も繰り返している火のない灰からすれば戯れに過ぎない。が、それでも召喚主(ホスト)は守る。それが白霊として今するべき事だ。

 

 火のない灰は上級騎士装備に身を包み、宿から出る。行くのは冒険者ギルドだ。今日は休みだ。眠らない火のない灰にとって行動しないというのは退屈な時間に他ならない。

 心折れない限り動き続けるのが火のない灰だ。

 食事も睡眠も必要ない。あるのはソウルへの渇望と使命だけ。あらゆる場面で最適解の行動をする。そして他の人物と交流を持つのは必須事項であると言えた。友好的な関係を築けば珍しい品を譲ってくれるかもしれない、未知の魔法を売ってくれるかもしれない、白霊として窮地に助太刀してくれるかもしれない。

 

 だから火のない灰は時間があり、尚且つ召喚主が安全な時は冒険者ギルドで人と交流するようにしている。縁があれば共に戦うこともある。

 冒険者ギルドに着いた火のない灰は、近くの椅子に腰掛ける。すると声をかけられた。

 

「お久しぶり、ぶり、ね。元気に、してた?」

「貴公か……何故ここに?」

 

 槍使いの相棒、魔女だ。

 紫色の長髪に泣きぼくろが特徴的な美女で、肉感的と強調されるほど抜群のスタイルを持つ。おっとりとした口調と相まって、妖艶でなまめかしい雰囲気を持っている。

 肩や胸元が大きく露出しているローブに魔女帽子を身にまとっており、身の丈ほどの大きな杖を所持している。

 

「仲間が、装備を、取りに行ってる、暇潰し。それよりも、貴方は、知っている? 鉄の、巨人の話」

「いや、知らないな」

「つい最近の、話だから、情報が出回って、ないのね。鉄の巨人は、文字通り、金属で出来た巨人、のこと。それを擁する組織が、声明を、発表したの。冒険者、と国家を、従える新たな秩序、統治企業連盟。この世界の、あらゆる種族と国家に対して、宣戦布告したの」

「それは剛気な話だ。それで?」

「主だった国は、完全制圧され、あらゆる種族を力で支配している、らしいわ」

「その割にこの辺りは平和だが……まぁ辺境だからな」

「彼らの、圧倒的な力と、組織力は、全て祈らぬ者(ノンプレイヤー)の駆除、に注いでる、みたい、よ? 支配したのも、私たちを、効率良く活かす手段でしかない、みたい」

「支配するが徴収せず、か。不明瞭だが、我々祈る者(プレイヤー)の味方をしてくれるならそれはそれで結構な事じゃないか。纏まらない世界で数少ない勇者頼みをするよりも、不自由があれど統一された軍隊の方が被害を抑えられる。戦いは数と言われるが、その真骨頂は高い質を多く得られることにある。特に神殺しにおいては数も質も必要となる。祈る者(プレイヤー)による総力戦、それを手助けしてくれるんだ。善神の化身かもしれないな」

 

 皮肉げに笑う。

 魔女は受付の上にある時計を見て「時間、ね。元気で」と残して去っていった。入れ違いにゴブリンスレイヤーと牛飼娘がやってくるのが見える。同時に昇格の話を受けていた女神官も部屋から出てきていた。

 女神官はゴブリンスレイヤーを見つけると駆け寄っていく。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!」

「どうした」

「お体は大丈夫ですか?」

「ああ」

「あの、これ、見てください!」

「黒曜……十位から九位になったか」

「はい! 無事に昇格しました! 経験点が足りるかちょっと不安でしたがオーガと戦ったのが大きかったみたいで」

「オーガ?」

 

 そこに火のない灰は話しかける。

 

「あのデカイ人形の怪物の事だ。地下遺跡にいただろう?」

「アイツか」

「そうだ、そいつだ」

「火のない灰さん!」

「黒曜に昇格になったんだね、おめでとう」

「はい! それもこれも全部お二人のおかげです!」

「いや……」

 

 ゴブリンスレイヤーは首を振った。

 

「俺は何もしていない」

「いいえ、そんな事はないですよ! 最初に会った時に助けてくれたじゃないですか」

「だがお前の仲間は全滅した」

「それは……でも、それでも私は助けてもらったんですからお礼くらいちゃんというべきだと思うんです」

 

 女神官は頭を下げた。

 

「ありがとうございました」

 

 女神官は「神殿に報告してきます」といって去っていった。

 

「随分と複雑そうな雰囲気を出しているな。感謝されるのは嬉しいが、自分のような存在にそれだけの価値があるのか分からない。といったところか」

「その通りだ。俺はゴブリンだけを殺してきた。守るためでは無く殺す為に戦ってきた。結果的には助けられた人もいただろう。だが理由が違うのであればその感謝を受け取るのは間違っているように思える」

「どちらでも良いのさ、そんな事は。守る為に戦って殺せれば良い。殺す為に戦って守れた命があっても良い。感謝なんてものは結局は相手次第だ。勝手に感謝させておけば良い。目的はゴブリンの排除。それを見失わなければ何があっても良いのさ」

「そう、だな。その通りだ。俺はゴブリンスレイヤー。ゴブリンの天敵であろうとする者」

 

 ゴブリンスレイヤーは何かを得たようだった。

 

「これからも宜しく頼む」

「任せろ。お前の背中は俺に預けな」

「では、牛飼娘のところへ行ってくる。さらばだ」

「ああ、また明日」

 

 ゴブリンスレイヤーを見送って、火のない灰はこれからどしようかと当たりを見渡す。すると妖精弓手を見つけた。エルフ特有の長耳は垂れ下がり、落ち込んでいるのが一目でわかる。

 火のない灰は近づき、声をかけた。

 

「貴公は随分と気落ちしているな」

「そりゃあ落ち込みもするわよ。アイツらとはそれなりにパーティ組んでいたんだし」

「闇霊は戦闘力と戦術に長けている。あそこで二人が死んだのは私のミスだ。済まなかった」

「やめてよ。冒険者を選んだのは二人なんだから、それに貴方は最善を尽くしていたでしょ。今回は運がなかっただけ」

 

 ため息をついて、妖精弓手は壁に背をついてしゃがみ込んだ。

 

「汚れるぞ」

「この休みの間に、二人の死亡報告とお墓を作ってきたわ。長い間生きているから、こういう経験は過去にもあったけど、慣れないわね。辛い。泣きたい」

 

 火のない灰は膝をついて、妖精弓手を抱きしめる。

 

「泣きたいのならば泣くと良い。それも生者に与えられた権利の一つだ」

「何それ。それじゃあ貴方は生者じゃないみたいじゃない」

「その通りだ。今の私は白霊。霊体だ。ゴーストといっても良い。召喚主(ホスト)に付き従うこの世あらざる者。それが私だ」

「そういえばあの赤いの。闇霊って言っていたわよね。あれは何なの?」

「あれは生者のソウル……具体的には火の宿主を狙って異世界より侵入してくる悪しき霊体だ。私とは正反対の性質を持つ。守護ではなく殺害を目的とした存在だ」

「そんな奴がいたなら名前くらい聞いたことがあると思うんだけど、何一つ情報がないのは何故?」

「それは分からない。だが私の世界では日常茶飯事だったのは事実だ。この世界で召喚されて、何度か戦っているが、奴らが現れた時には一定の空間が切り取られ霧の壁が発生する。その中で起きた事は外部には漏れない。そして例外なく殺されていると推測する」

「過去にも闇霊はいたけど、皆殺しにされてるから情報が上がらなかって事?」

「冒険中に行方不明ならばならよくある事として片付けられてしまうだろう?」

「なるほどね。そういう事か。ありがと、教えてくれて」

「これも何かの縁だ。貴公にはお守り代わりにこれをやろう」

 

 そう言って火のない灰は妖精弓手に指輪を渡した。

 

「指輪?」

「そう、犠牲の指輪という。犠牲の儀式によって作られる罪の女神ベルカの神秘の指輪。死んだときソウルを手放さないが引き換えに、この指輪は失われる。犠牲の価値は敬う者次第だ」

「うーんと、つまりどういう事?」

「もし死亡した時この指輪を装備していたなら、死を肩代わりさせることが出来る。指輪は壊れてしまうが、欠損部位も含めて再生する」

「なにそれ!? 凄い指輪じゃないの!?」

「ああ、これを貴公にやろう。貴公はゴブリンスレイヤーに心を割いてくれている。その礼と先行投資だと思ってくれ」

「ありがたくもらっておくわ」

「……おい、何故左薬指につける。意味がわかってやっているのか」

 

 そういうと指輪を翳しながら、悪戯っぽく笑って言う。

 

「あら、知っているわよそれくらい。生まれて初めてだからね。特別感を演出したのよ。貴重なものをくれたんだもの、相応の返しをするのが礼儀でしょう? この指輪に誓って、もし貴方が困っていたらいつだって駆けつけるわ」

「そうか。まぁ良いだろう。好きにすると良い。私はこれで行こう。裏庭で新人の稽古をつけているらしい。それを見にいく。貴公もついてくるか?」

「へぇ……確かにベテランの冒険者に新人を教育させようって動きはあったけど、ここはもうやってるんだ。ついていくわ。もう用はないしね」

「好きにしろ」

 

 落ち込んでいた姿はどこへやら。晴れやかな笑みを浮かべて火のない灰の後をついていく。その妖精弓手の頬はほんのりと赤かった。愛おしげに指輪に触れる。

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