貞操観念逆転世界におけるニートの日常   作:猫丸88

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 黒崎加恋視点

 

 

 連休の明けた翌週の登校日。

 授業開始まで残り20分ほど。読書をしている友人や、相変わらず猥談や恋バナの話題に花を咲かせているクラスメイト達。

 そんな中、教室の窓際の席の4人の程の集まりの中に私、黒崎加恋はいた。

 周囲に聞こえないように注意しながらではあるものの、LEINグループ【ゲーマー美少年捜索隊】のメンバーが私へと詰め寄ってきている。

 

「何か申し開きは?」

 

「忘れてた。ごめん」

 

「カナデさん見たかった……っ!」

 

 悔しがるメンバーたちの嫉妬の視線を受ける。

 そう、友達になれたことが嬉しすぎて写真を撮るのを忘れていたのだ。

 

「いや、ほんとにごめんって」

 

 平謝りすることで何とか許してもらう。

 次のオフ会では絶対に撮っていいか聞いてみるからさ、と伝えたところ「また参加するつもりなの!?」と驚かれた。

 え、するつもりだけど……?

 まあ参加できなかったメンバーたちは優先的に参加できるようにすることになるかもだけど。

 

「しかも超イケメンだったんだよね?」

 

「贔屓目抜きにしても人類最高峰クラスじゃないかな」

 

「くぅぅ」

 

 悔しがる彼女たちを横目にスマホを起動すると、さっそく交換したばかりのLEINのやり取りを見た。

 そこには昨夜にDMとは違うアプリで交わしたカナデさんとの会話があった。

 顔が思わずにやけてしまう。このLEINは友達の証だ。今までとは違うやり取りに新鮮味を感じた。

 何より関係の進展具合だ。このまま順調にいけば恋人としてイチャイチャ出来る日も遠くはないだろう。

 

「完全に自然受精狙ってる顔だね」

 

「悪い顔してる」

 

 友人たちの言葉を軽く流し余裕を返した。

 

「ふふふ、進展が順調過ぎて怖いよ」

 

「でも最初はLEIN送るの凄い怖がってたよね」

 

 そんな時、横から入ってきたのは百合だった。

 いきなり現れた友人の姿に少しばかり驚く。

 

「な、なに急に? 何のこと?」

 

「1時間くらいウジウジしてたし、送ったら送ったで既読がなかなか付かないってことで30分くらいずっと『怖い怖い』って言ってたし」

 

「うぐ……だって相手はあのカナデさんなんだよ? 少しくらい緊張しても仕方ないと思うんだけど」

 

「まあ、気持ちは分かるけどね」

 

 百合はスマホを制服のポケットに仕舞った。

 

「だけどオフ会の日に勝負を決めれなかったのは迂闊だったね。ここからは私たちも攻めまくるからね!」

 

 私のためだと言っていたのはオフ会の日までだ。

 そうなるとグループのメンバーたちがカナデさんを奪い合うライバルとして参戦してくる。

 そのことにちょっと弱気になったりもした。だけどこっちだって何もしてないわけじゃい。

 カナデさんとお友達になることに成功したんだし、LEINでの会話だって問題なし。友人としてLEINを交換したメンバーが他にもいるのが唯一の懸念だろうか。

 

「あ、そうそう。話変わるけど【DOF】で今度新しいボス出るじゃない? 今夜カナデさん誘ってボスに向けたレベル上げに行かない?」

 

「それなら私も行きたいかも」

 

「あーごめん。私はちょっと難しい……今日は先約があって」

 

「加恋はどうする?」

 

 誘われてしまった。カナデさんが参加するなら当然私も行く。

 友達と一緒にPTを組むのも随分と久しぶりなことのように思えた。

 オフ会の日はカナデさんとずっとLEINしてたし。

 

「あ、でも大丈夫?」

 

「? なにが?」

 

 百合の言葉にそちらを見る。主語がなく心当たりもないので何の事なのか分からない。

 

「テスト」

 

「え」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。

 虚を突かれて、百合を二度見した。

 

「週末の学力テストだよ、加恋ってば、ずっと上の空だったからそれも心配だったんだよ?」

 

 自分の顔が引き攣るのが分かった。

 周囲を見る。

 皆の「え、知らなかったの?」みたいな反応と視線が集まった。

 知らなかった。私の成績は普通……だけど、最近はお世辞にも勉強に身が入っていたとは言えない。

 カナデさん男説の真実。チャットHにボイスチャット。さらには畳みかけるようにチャットミス事件。好意を自覚してオフ会が決まって……

 これだけイベントが重なってしまえば集中なんてできるはずもない。

 いつもやってた家での予習に至っては、最近はまったくやってない。

 問題の出題範囲によっては、赤点を取る可能性は十二分にあり得た。

 

「確か最近やった範囲を中心に1年のところからも適当に出していく、みたいなこと言ってた気がする」

 

 それって全部じゃ……?

 しかも最近の範囲が重点的に出されるというのは無視できない情報だ。

 よりにもよってカナデさんとのあれこれが重なった最近の範囲というのは……

 

「……補習とかあったり?」

 

「補習に加えてプリントも渡されるんだってさ」

 

 補習……それに加えてプリントというのは随分と自由時間に制限ができてしまう。

 いや、問題はそこじゃない。ゲーム関連のあれこれで成績が落ちたなんてお母さんに知られたらゲーム禁止令が出る可能性もありえる。

 そうなるとカナデさんとしばらく話せなく……だ、駄目だ! カナデ欠乏症にかかってしまう!

 顔色を悪くする私を見かねたのか皆が百合と私の間に入ってくる。

 

「大丈夫だよ。加恋成績悪くないでしょ?」

 

「この前の英単語テストは何点だったの?」

 

 英単語テスト……ど、どうだったっけ。

 確かに丁度チャットミス事件の辺りで抜き打ちのテストがあった記憶が本当に薄っすらとある。

 点数に関しては全く覚えてない……怖すぎるけど鞄からテスト用紙を教科書の隙間から探していく……あった。

 

「お、何点?」

 

「4点」

 

 スッ、と音もなく逃げ去ろうとした百合の袖を掴んだ。

 明らかに気まずそうな顔をしているし、ちょっと引かれている気もする。

 

「いやいやいや、私だってそんなに成績良くないんだよっ!? 4点の人に勉強教えてたら私まで補習組になるからっ!」

 

 そんなことは分かっている。

 だけど今逃がすわけにはいかなかった。

 

「だ、大丈夫だって! あれでしょ? どうせあの事件でテストに集中できなかったとかそういうことでしょ?」

 

 分かってるなら逃げないでほしい。

 というか今逃げられたら本当に終わる。

 20点満点のテストとはいえ4点なんて取ったことがない。

 自業自得なのは分かってるけどこんな成績で一人放り出されたら、カナデさんに幻滅される事態になってしまう。

 

「ならさならさ~皆で勉強会しない?」

 

 声の方向に顔を向けるとそこにはのほほんとした笑顔を浮かべる椚木優良の姿があった。

 ビックリした。神出鬼没だね優良は……しかし、この時ほど優良に感謝した日はないかもしれない。

 私が必死に視線で訴えかけると皆は「やれやれ」とか「仕方ないなー」みたいなことを言いながらも同意してくれた。

 

「自信がないメンバーに成績上位のメンバー数人で教える感じかな?」

 

「そうだね。多すぎても場所がないし」

 

 人数はある程度絞るらしい。

 確かにLEINグループ全員では無理だよね。

 となると薫と晶が教えてくれるのかな?

 グループメンバーで一番成績が良いのはあの二人だし。

 薫と晶の予定が空いてて受けてくれるのなら、だけど。

 あとは場所かな……?

 すると、手が上がった。

 

「場所なんだけど私の家とかどうかな? お母さんがしばらく出張でいないんだけど」

 

 そう言って立候補してくれたのは百合だった。

 

 

 

 

 


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