黒崎加恋視点
「お邪魔しま~す」
自分の家のように靴を揃えずに脱ぎ捨てた優良を注意してから、私も自分の靴を脱いだ。
以前遊びに来たことがあるので知ってはいたけど、改めて見ても開放感のある間取りだった。
百合のお母さんは仕事の都合で今はいないようだけど、家に一人でいるのはちょっと寂しそうだ。
もしかして百合が私たちをこの家に誘ったのはそういう気持ちがあったから……っていうのは考えすぎかな。
百合に案内されるままにリビングへと向かうともうグループの皆は集まっていた。
部活動や委員会で来ることの出来なかったメンバーはいるから全員で7人。
どうやら私と優良で最後だったらしい。
「飲物入れて来るから待ってて、お茶でいい?」
「うん、ありがと」
そう言って飲物を取ってくる百合。
その背中を見送ってからもう一度部屋を眺めた。
「相変わらず家大きいね~」
というよりは、リビングが広いのかな?
リビングの壁紙だけ真新しい感じがするしもしかしてリフォームとかしたのかな。
百合の家ってもしかしてお金持ち?
って、あんまりジロジロ見るのは失礼だよね。
優良の言葉にそうだね~と、返してさっそく鞄から筆箱などの勉強道具を取り出した。
「あ、その前にさ」
「ん?」
すると教科書を取り出した私に対してグループの一人が待ったをかけてくる。
「百合のことだからどこかにエロ本とか隠してないかな?」
「リビングにはさすがにないんじゃない?」
「いやー分からないよ? 親がいないからって案外ここのおっきい画面でAV見てたりとか」
ぴっ――
そんな冗談と共にリモコンを押した瞬間DVDレコーダーの中身が再生された。
そこから再生されるのはお腹の弛んだ中年らしき男性と年若い20代くらいの女の人が絡み合う動画だった。
「うおっ、ほんとにあった」
「相変わらず百合はブレないね……」
皆の視線と意識はDVDへと向けられる。
友達のいる前でというのも恥ずかしい気はするけどやっぱり皆ソワソワしていた。
そりゃこんな刺激が強いものが目の前にあったら気になるよね。
この場にいるのが処女の集まりなら尚更だ。
「んーだけどさすがにこれは微妙かなー……」
「かなり昔のやつだね」
「最近は男性保護法とか厳しくなってきたからね」
画質はとても古くノイズが酷い。
しかも、少しだけ見えた男の人の局部周辺は大きなモザイクで隠されてしまっていた。
カメラの視点移動も男の人の顔が映らないように気を遣っているのでこれで興奮できるかと言われれば微妙なところだろう。
処女真っ盛りの皆でもさすがにこの映像では意見が分かれているようだった。
「ん? どうした加恋?」
私はというと目を手で覆って映像が視界に映るのを防いでいた。
「私浮気はしないから」
カナデさんにAVなんて見てると思われたくないし。
やっぱりカナデさんがいると思うと罪悪感が沸いてしまうのだ。
興味がないと言えば嘘になるけど、鋼の精神で煩悩を振り払った。
「加恋ってほんとにカナデさんにぞっこんだよね」
「あれだけ格好良かったら惚れるのも分かるけどね~」
いやいや、私があの人を好きになったのは顔だけが理由じゃないからね?
そもそもの話カナデさんを好きになったのは顔を知る前だ。
言ってしまえばこれは純愛なのである。
そう言ったところ皆は「えー?」と、声を上げ疑ってきた。
「じゃあ、エロいことはしたくないの?」
「それはしたいけど」
「なら不純なのでは……」
一途かどうかってことだよ。私の性欲の方向はカナデさんにしか向かない。
まあカナデさんがエッチなことが苦手な人なら当然我慢するけど……
話してる間にも一人がキョロキョロしていた。どうやら他にも何かないか探しているようだった。
「おっ、棚の裏に何か落ちてる?」
「ちょっと、失礼だよ?」
遠慮のない友人たちに苦言を呈した。
そんなことを話していると飲物を持って百合が戻ってきた。
「なんの話?」
……自分の所有しているAVが再生されてて全く動揺を見せないのはさすが百合だった。
家探ししているメンバーたちを百合が見た。
「ああ、別にいいけど大した物ないんじゃない? ちょっとずつだけど定期的に掃除してるし」
「棚の裏側に何か落ちてるんだよね」
どうやらそれが気になるらしい。何とか手を伸ばしているけど届かないようだ。
無遠慮なメンバー達に苦笑した。本人の許可が出たこともあってさらに遠慮がなくなっている。
そうしてから百合からコップを受け取る。
氷で冷たくなったお茶を一口飲んで喉を潤した
「それより百合ってここでAV見てるの?」
「お母さんが家にいない時くらいだけどね」
百合といえどもそちらの羞恥心は残っていたらしい。
エログッズを親に見られるのは抵抗があるようだ。
「そろそろ始めませんか? あまり長い時間居座るわけにもいきませんし、加恋は余裕もないでしょう?」
薫の言葉に忘れかけていたことを思い出す。
そうだった。今日は勉強会をするために集まったんだった。
百合のお母さんが家にいないとはいえ、あまり遅くまでいるのは当然迷惑になるだろう。
今のうちに分からないところを聞いていかないと。
けど、薫が私を心配してくれるのは意外だった。
てっきり私の邪魔をしてくるのではとさえ思ってたのに。
同じような感想を抱いた百合が薫を揶揄うように言った。
「なんだかんだ薫ってツンデレだよね」
「引き千切りますよ?」
「それ気に入ったんだね……」