NieR:Automata It might to [BE] 作:ヤマグティ
水没都市。
次のユニットが霧の中からうっすらと見えてきた。
『こんにちは!資源回収ユニットです。防衛体勢に入ります!』
またあの声で、前とまったく同じセリフを言って資源回収ユニットがギギギと壁を動かす。
こちらもいつでも攻撃できるようにと意識を集中させる。
すると、ふと視界の端に、資源回収ユニットの近くの水辺から霧とは違う黒い煙がうっすら見えた気がした。
なんだろう。と思い、資源ユニットに入るのを後にしそちらに向かう。
あったのは墜落して、ボロボロになった恐らくは飛行ユニット。そこからプスプスと煙が小さく出ていた。
ポッドがその残骸に向かって行き、暫く調べて口を開いた。
[報告:当機体より9SのIDを確認。]
「ナインズの機体……。」
ここに機体があるならナインズもここの近くに落ちてた事になる。
…こんな遠くに落ちてたの?ここからあの場所まで歩いて?
ナインズは汚染されていき、ボロボロになって、その中で最期に何を思っていたのだろう。
もう私にはわからない。知る由もない。
そう思っていた時。
[飛行ユニットのメモリー内に未送信メッセージを確認。]
「……。」
いつの物だろう。私を逃がしたすぐ後?録音する暇があるならその時しかない。
…だとすれば、それは遺言だろう。
まだ聞いてもないのに、そんな確信がある。
だって君の事だ。録音機能のある場所で、自分が少しでも死ぬ可能性があると分かれば事前に録音をする筈だ。
……聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ちが交差する。
「……再生…。」
『こちらヨルハ部隊所属9S。この録音を聞いた人がいるなら、ヨルハ部隊所属2Bに会ったときにこう伝えて下さい。』
『単独行動が主な任務である僕らS型モデルにとって……。』
『…いや。』
『僕にとって、あなたと共に過ごした日々は…例え少しの間だけのものだったとしても…僕の大切な、大切な宝物でした。』
『本当はもっと話したい事。聞きたい事、一緒にしたかったことがもっと……もっと沢山あったけど………。』
『……君との時間をありがとう。2B。』
プツン
[メッセージ終了。]
あの日聞いたとき以来の、君の声。
そして内容に感情が込み上げてくる。
「…ナインズ…っ…!」
落ちていた飛行ユニットの欠片の一つを拾い上げ、握りしめる。
あぁ…、…ここで終わりたくなってしまった。
その思いから、君の刀に目を向ける。
…駄目だ。この刀はその為に使うものじゃない。
全て…全て終わらせると…この刀に誓ったんだ。
今にも滲んできそうな涙を堪え、再び資源回収ユニットに向かって歩き出した。
次の資源回収ユニットの入り口に立つ。
「また…何か書いてある。」
これもまた前と同じように扉の上に天使文字で何かが書かれている。
[魂の箱。と記載。]
「魂…。」
魂。ここに来る以前、ナインズを弔ったときにもその言葉を意識していた。
…ナインズは安らかに眠れただろうか。
扉の先のエレベーターに入り、上を目指す。
エレベーターが止まり、塔の中を進んでいく。
ここも構造は前と変わっていないのだろうか。
壁や床の金属の坂をみてそう感じる。
だが違いはあるみたいだ。広間に出たとき、前とは明らかに違う点があった。
「敵が…いない…。」
あの無機質な声も、あの機械の体が動く音も、何も聞こえない。
だが、部屋の真ん中に何か置いてあるのが見えた。
「これって…。」
ロックのかけられた箱のような物がある。
確かこれは…ハッキングで開けられたものだ。
ナインズが見つけては開けていたのを思い出す。
「ポッド。」
[了解。]
ポッドにハッキングさせ、開けさせる。
中には何もない。だが、箱を開けた直後に次の階に続くエレベーターが下りてきた。
「…そういうことか。」
ここではハッキングでシステムプロテクトを解除しなければならないのだろう。
次の階に向かうと、やはりまた幾つか箱があるのが見えた。
「あ。待って。」
ポッドにハッキングを仕掛けるの止めさせる。
「ポッド。私にハッキングさせて。」
確かポッドの疑似ハッキングの権限を私に移す事ができた筈だ。
[疑問:2Bがハッキングを行う理由。」
ポッドが当然の疑問を口にする。
「…いいから。」
[了解。]
ポッドからハッキングの権限を貰い、ポッドを介してハッキングを仕掛けた。
「……君はいつもこんな大変な事を…。」
ハッキングが終わり、意識が元に戻ると自然と口からその言葉が出た。
それからは箱にハッキングを仕掛けては開け、仕掛けては開ける。
……ハッキングは何というか、非常に面倒で難しい。
何度も失敗しては弾かれた。
でも。
何度もハッキングに失敗して手こずっていた筈だが、不思議とそこに不快感はなかった。
その代わりにナインズがいつもしていた事を自分もしているという感覚が、私の気持ちを満たしている。
幾つか箱をあけていると、何か情報のようなものが手に入った。
塔システムについての情報だ。
目を通すと、何となくあの塔が何かの射出を目的とした事がわかった。
「射出……?あの塔は砲台なの?まさか…人類の月面サーバを狙って?」
[情報不足の為、否定も肯定も不可能。」
「…砲台なら、尚更破壊しないと…。月面サーバが……。」
そう言いかけて、ふと自分が月面サーバを守ろうとしている事に気付いた。
……私は、人類がとっくに滅んでいることを知っている。
月面サーバには人類の遺伝子情報があるにはあるらしいが…果たして再生が可能かどうかはわからない。
そして何より…、ヨルハ部隊は壊滅した。
それでも尚私は月面サーバを守ろうと思っている。
……どうやら私はまだヨルハ隊員らしい。
…はっきりと言ってしまえばヨルハ隊員が、ヨルハ部隊という組織が素晴らしいものだったとは言い難い。
むしろ、戦争意欲の維持の為だけに作られた茶番のような、虚構のような存在だった。
それでも…。
それでも…ヨルハ部隊で過ごした日々は本物だった。
司令官。6O。21O。他にも沢山の仲間達。
そして…ナインズ。
皆と過ごした日々は。
ナインズと過ごした日々は。
共に戦った仲間たちは本物だった筈だろう。
そうだ、ヨルハの為に、死んでいった仲間達の為に、そしてナインズの為に、私は戦い続ける。戦い続けなければならないんだ。
失ってしまった全てに…報いる為に。
そう、改めて決意した。
…が、そんな思いも次に手にいれた情報への感情で上塗りにされてしまった。
次に手に入れたのはブラックボックスに関する情報だった。
それを見て、固まった。
「どういう事…?私は…、私はこんな情報は知らされてない…。」
﹝機密事項SS﹞と書かれ、司令官ですら知り得ないとされているその情報は、ブラックボックスが機械生命体のコアで作られたことが記載されていた。
なんでこんな機密事項の情報が機械生命体の手に?
いや、それよりも
そんなことよりも
私達が機械生命体と同じもので作られている?
それじゃあ…つまりそれって……。
「そんな…そんな筈ない……。」
私が…あれほど憎んだ機械生命体と、倒すべき敵と同じだっていうの……?
そんな事ない。そんなのあり得ない。
私は、私達はアイツらとは違う。
だって私達には心がある。感情がある。
仲間と共に過ごし、泣いて。笑って。怒って。ときには憎んで。
平和を望んだり、孤独に寂しさを感じたり、
見えないなにかを信じてみたり、
人類に憧れたり、
家族や兄弟に憧れてみたりして…。
それから…それから……。
…あぁ…でも、それって……。
…いや、違う。
違う!違う違う…!!
私達と違って機械生命体のやることに意味なんてない。
そうだったでしょ。
そう言ってたでしょう。
ねぇそうなんでしょナイン__________
ふと、音が聞こえてきたことでハッとする。
どうやら、上に向かうエレベーターが下りてきたようだ。
私は…まだ整理できない頭のまま、エレベーターで上り、屋上に出た。
屋上に出ると、またあの光球。コアのようなものがあるのが見えた。
またあの時のように破壊しても良かった筈なのに、頭が整理できてないからなのか、それともナインズとの追憶を求める意思からか、無意識のうちにハッキングを仕掛けていた。
次回。例のCM回。