NieR:Automata It might to [BE] 作:ヤマグティ
Episode.15 [私トノ違イハ何カ]
[……2Bがそんな状態に……。]
ポット153は042から報告を受けると不安そうになる。
[2Bの精神状態はもう危険な状態に達しつつある。早急な対処が必要だ。]
[……だが、データオーバーホールは行ったが、異常は治らなかった。システム上の問題ではないと推測。]
ポッド042は淡々と起きた事を分析・報告しているが、どこか彼も不安そうだ。
[…システム上の問題ではないのなら随行支援ユニットの機能では対処できないのでは?]
[………肯定。]
無機質な筈の二機の声は、心なしか悔しそうに聞こえた。
………っと。う~ん。ポッドたちの会話にも多少の違いが出てますね。これは面白い。
要記録。要記録っと。
おっと、そろそろA2が再起動しますね。準備準備。
2Bの方はどうなってるのかなぁ。まぁ多分ナインズ君みたいな感じになってるんだろうけど…。
ちょっと気になるなぁ。
…気になるけど……。
あの人の報告記録凄い文字量だから読むの時間かかるんだよなぁ…。
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[どうやらA2の記憶領域に9Sのデータが混在しているようだ。]
[どのような影響が表れるか、このまま経過を観察しようと思う。]
[了解。ネットワークが破壊された機械生命体だが、継続して暴走している個体も多い。警戒するように。]
[了解。]
「……ウッ……。」
意識が戻ってくるのを感じる。
どうやらあの後、私は倒れこんでしまったらしい。
体がダルい……。起き上がりたくないな…。
だが、このままでいる訳にもいかないから起き上がる。
[おはようございます。A2。]
何があったんだっけな。えっと……。
「……一体…。」
[ヨルハ機体A2は5分42秒前に再起動された。]
[原因:大型機械生命体との戦闘による過負荷によるもの。]
あぁ。そうだ。あの丸いのと戦ってたんだったな。ハッキングかけられて、それで疲れて倒れこんだのか。
[推測:疲労の原因の大部分はBモードの使用にあると思われる。その為、今後の使用は控えるべきである。]
「私の勝手だろう…。そんなの……。」
[使用を控えるべきである。]
「うるさいな…。」
ダルい体を動かして砂漠から帰ろうとするが、砂に足を取られて動きづらい。
「くそっ……。砂だらけで鬱陶しいな…。」
[報告:燃料用ろ過フィルターが劣化。砂漠での戦闘時に、内部に微細な粒子が入り込んだ模様。]
[推奨:早急な当該部品の交換。]
「交換って言われてもな…。」
私には部品を作る技術なんてないし、部品を作れる知り合いもいない。
[レジスタンスキャンプで使用された記録を発見。]
「レジスタンスキャンプ…。」
あまり他のアンドロイドと関わったりしたくないが…他にあてがない。
それに…レジスタンスキャンプ…。私が9Sの記憶を受け継いだ時に一瞬見たあれが正しいのなら……。
行くしかないか。
[それと今後はBモードの使用は控えるべきである。]
「しつこいなお前。」
いつの間にかマークされているレジスタンスキャンプを目指して歩きだした。
暫くすると砂漠をぬけ、体力も少し戻り足取りも軽くなってきた。
[今後のBモードの]
「そればっかりうるさいなお前。」
このハコは相変わらずこんな感じだ。何回目だよそれ。
このハコよっぽど9Sの事が大事だったらしい。
さっきなんて
[質問:砂漠での戦闘で9Sの武器を使用しなかった理由。]
とか聞いてきた。使い慣れ以外にあるか。
無機質な声と口調してるから淡々とした奴だと思っていたが、とんでもなく面倒な奴だ。
そもそもとしてだ。別に私は9Sの意志を継いでやろうとか思っている訳じゃない。
あの日のあれはアイツがたまたま私の前で汚染されかけてたから放っておけなかっただけだ。
あのまま汚染されて敵になられても迷惑だし、介錯してやる情けぐらいはあったから。
本当にただそれだけだ。
というかそもそもあのガキ自体そんな好きじゃないんだよ私。
生意気だし、ハッキングは小賢しいし、
それにいつも私に会うたび私の事忘れてやがるんだアイツ。
あの時はさすがに短期間の再開だから覚えてたみたいだが…何なんだアイツ本当に。
いつも会うたびに同じ事聞いてくる。
「どうしてヨルハを裏切ったんですか!?」ってな。
前にそれ答えたろ。ってはっきり言ってやった時の顔はいまだによく覚えてる。
(何を言ってるんですかねこの全裸…。)
みたいな顔してやがった。
ふざけんな。なんで私があんな可哀想な物見る目をされなきゃいけなかったんだ。
その顔する資格あるの私だろうが。
お前も何か言ってやれよと2Bの方を見てもアイツは目をそらすだけだから、結局私だけが頭おかしい奴みたいな扱いになってしまった。
そして次会ったときにはやっぱり忘れてた。今でも腹が立つ。殺すぞ。
というか、殺してきた。
最初こそハッキングに苦戦したが、一度対処の仕方を覚えてしまえばどうとでも対応できるからな。
私が対9Sの経験を積んでくの対し、あっちはいつも私とは初戦だから、そのうち只の一方的な暴力になってた。
毎回同型の別人に会っているのかとも考えたが、今まで何回も仲良くセットでぶっ壊してきてやった2Bが私の事覚えているような挙動をしている辺りそうではなさそうだ。
となると、アイツ深刻な健忘症でも抱えてたのか?
それとも事あるごとにデータバックアップする間もなく死んでんのか?
あるいは………あぁもうなんでアイツのこと詮索してるんだ私は。どうでもいいだろうそんな事。
……最近の私は何か変だ。
自慢じゃないが私はここぞという時ほど腕が利くから大抵の事は力で解決できた。考えるという動作にはあまり頼ったことがないし、必要もない。
砂漠での戦闘もそうだ。工夫すればいいとかなんて、急に頭が冴えた事はない。
9Sの記憶とやらを取り込んでから…なんかおかしくなってないか私。
あぁーもう止めだ。9Sの事なんて考えるな。自分が自分でなくなりそうだ。やめだやめ。
考えるなら2Bの方にしよう。
怖かったなぁアイツ。あんな声だせたのか。
基本何も喋んないから凄い意外だったな。
というかアイツ初めて会ったときは一人だったし違う名前を名乗ってた気がするが……。確か処刑モデルだっけ?
まぁ初めて会った時以外は大体9Sと一緒にいて2Bと呼ばれていたから多分部隊異動でもしたんだろう。
あの感じだと恨まれてるよな。9Sの事なんて散々ぶっ壊してる筈なんだがな……。なんで今回だけあんな…。
9Sから遺言を聞いてるが正直会いたくないな…。
…優しい貴女のままでいてほしい。…か。
普段は優しい奴だったんだろうな。
ふと、9Sの記憶を介して2Bの姿が浮かぶ。あの淡々とした、無機質で、何かを諦めたような顔。
あんまり気にしてこなかったが、やっぱり顔そのものだよな。
まぁ多分2Bは私のデータが流用された同じベースで作られてる筈なんだからそれはそうなんだが。
そういや顔だけじゃないな。昔は私も2Bみたいな髪型してた。それと形は違うが黒いゴーグルと黒いカチューシャも付けてた。
ゴーグルはあの日自分で捨てたが…結構便利だったなと感じることもあったな。
あと今でこそほぼ全裸で素地もまるみえの体だが、服もあんな感じの好んで着てたっけ。懐かしいなぁ…。
…ん?
2Bの姿と、昔の私の姿を思い浮かべてみる。
あれ……2Bって私じゃないか?
そう考えてみた瞬間。途端に親近感のようなものが湧いてきた。
変な話だ。恨んできてる相手に親近感なんて。
…ふと、ビルの濁ったガラスに写った自分の顔を見る。
髪を切って短髪になってることで、余計に2Bを意識させた。
マークされていた地点が見えてきた。
さて、どうやってレジスタンスに話しかけようか。そう思っていた時だった。
「ひゃあぁぁ!」
女のような叫び声がした。
私は目を疑った。
機械生命体に襲われている機械生命体が居たのだ。
2BとA2のパーソナルデータって同じらしいけど、それって一体どこまでの同一性があるんでしょうね。