引きこもりの生きる意味はVTuber   作:御宅 拓

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同期の存在

 

 

 

 

 

 雅の悪戯から救われた祐樹は、小鳩が持ってきたコンビニ弁当を貰い食べていた。

 その隣には小鳩も同じく弁当をテーブルに広げて食べており、その窓際にあるソファーの上で雅は正座をしていた。

 

「あの〜、小鳩先輩……。そろそろ足が痺れて来ちゃって限界なんだけど……」

 

 にっこりと、そして冷や汗を掻きながらも小鳩に問いかける。

 しかし小鳩から返事はない。そして雅は視線を祐樹に移し、如何にも助けて欲しいと言わんばかりに見つめていた。

 

 そんな雅の視線を感じる。

 だが小鳩からとてつもない圧を感じる。いや、弄られてる側からすると、安易にキスという色仕掛けをしてきたのだから自業自得だ。

 

 とはいえバランスの悪いソファーの上でかれこれ15分と座っている雅に同情せざる負えない。

 

 なんとも言えない空気の中、弁当をゆっくり食べていると、楽屋のドアが開かれた。

 

「こんにちは! 小鳩ちゃんに天道さん! それと……雅ちゃん?」

 

「ッ! 千花さ〜ん!!」

 

「これは一体、どういう状況なのかしら……」

 

 元気よく入ってきた千花に続いて、舞花が部屋の状況に目を通して動揺する。

 事の次第を祐樹が分かりやすく、そして短く伝えると、千花は笑いながら対面先の椅子に座りその隣に舞花が座る。

 

「雅ちゃんは相変わらず弄るの好きだよね!」

 

「誰でも弄るわけじゃないよ〜!」

 

「まぁ天道さんは面白い反応をしてくれるから弄りたくなるのはわかるわ。でも、今はもう小鳩ちゃんが居るのだから程々にしなくちゃね?」

 

「そうそう! 男の子より女の子の嫉妬と恨みは凄まじいんだよー?」

 

「なんか、当たり前のように俺と小鳩さんが交際してることバレてるんだけど……ッ」

 

「うん? だって小鳩ちゃんが嬉しそうに報告をしてきたからーー。んぐっ!?」

 

【お口チャック】

 

「行動も執筆も達人級ね……恐ろしいわ」

 

 裏でのやりとりを暴露されかけた小鳩はおかずを千花の口に放り込み、圧をかけた。

 それに対して祐樹のボディーガードは伊達じゃないことを知り、青冷めた。

 

 しかし舞花の救いもあって、雅は解放されることとなる。

 そして椅子に座り足を伸ばしてへらぁ……と心地よさを感じた。

 

「これに懲りて天道さんを弄らないことね」

 

「弄りたくなるようなことを天道さんがしなければいいんだよ〜」

 

「いや、俺のせいですか!?」 

 

「あはは! でも度が過ぎると後ろからグサァ!ってされちゃうかもね!」

 

「肝に銘じるよ〜。正座は辛いからね〜」

 

 だらんとしながら小鳩の異常なガード強さを目の当たりにした雅。

 納得した雅にフンスッ!と鼻を鳴らし、小鳩は弁当を食べ始めた。

 

「それにしても、ほんと小鳩ちゃんって喋らないよね」

 

【そんなことない】

 

「いや,そんなことあるよ〜。さっきは怒らせちゃったからあれだけど、全然なんだよね〜」

 

「天道さんとも文字のやりとりなのかしら?」

 

【天道さんとは普通に話してる】

 

「ずるい! 圧倒的にずるい!!」

 

 完全に贔屓である。

 というのも、小鳩は付け足して祐樹は特別だからと言った。

 

 千花たちが特別とかじゃなく、嫌いだからとかではなく、その特別があるだけでも心理的にも嬉しくあると。

 

「むー。あっ、天道さんニヤけてる!」

 

「ッ! ニヤけてないです!」

 

「ううん、ハッキリ見たもん! 特別って小鳩ちゃんが伝えた際、ニヤニヤしてた!!」

 

「そんなバカな……ッ」

 

 否定しつつも慌てて口元を手で隠す。

 だが千花の言う通り、ニヤけていた。それは無意識なのか、舞花たちも見ていた。

 

「じゃあ小鳩ちゃんに対する天道さんの特別ってなにかしら」

 

「と、特別ですか……?」

 

「えぇ。小鳩ちゃんが天道さんにだけ声を出して喋るように、天道さんもあるのでは?」

 

「んー、なんですかね。考えたこともないんでわからないです……」

 

 特別という言葉を考えると、自分は小鳩になにを与えられているのだろうか。

 交際し始めたとは言え、特別と言うほどのものを与えられていないのではないかと少し焦り始める。

 

 そんな祐樹を横目にした小鳩は、箸を置いて首から下げていたネックレスを取り出して嬉しそうに見せた。

 

【天道さんがくれた特別はこれかな】

 

「それは確か、俺が世話になっているお礼に買ってきた青い鳥のネックレス……。まだ付けてくれてたんですね」

 

【大事なものだから】

 

「「「甘い……ッ」」」

 

 嬉しそうに、そして大事そうに片手で握りしめる小鳩と、少し照れ臭くもあり嬉しさを隠しきれない祐樹。

 

 そんな二人の甘い雰囲気に覆われた千花たちは目の前にある尊さの塊に口から砂糖を吐き出していた。

 

 すると楽屋のドアが勢いよく開き、そこからソラが現れた。

 

「甘ああああああああああああああいッ!!!」

 

「うわぁ!!??」

 

「「「「ッ!!!」」」」

 

唐突な登場に全員が身体を跳ねらせる。

 

「ちょ、伊波先輩!? 鼻血! 鼻血が出てますよ!?」

 

「心配無用! タイミングを伺って話を聞いていたのだけれど、尊さによって自分のことのように幸せを感じているだけだよ!」

 

「お姉ちゃん! ティッシュティッシュ!」

 

「あったかしら……!!」

 

「とりあえず止血だよ〜!」

 

 鼻血を垂らすソラに、全員が協力し合い止血に走った。

 せっかく美人だ整っている顔が台無しだとそれぞれが思いながらも、ソラを空いている椅子に座らせて落ち着かせた。

 

「いやぁ、ごめんよ! 話があって来たんだけど逸れてしまったね!」

 

「ほんとビックリですよ……。その癖、治らないんですか?」

 

「好きに対しての欲求が強くてね、昔からこんな体質なんだよ。それはそうと、今日はビッグニュースがあるのだよ!」

 

「また実験台!?」

 

「千花ちゃん、流石に私はすぐに可愛い後輩を実験台に使わないよ。今回のビッグニュース、それはズバリ! 君に関することだ!」

 

 バアアアアアン!と指を差した先は祐樹だった。

 

「どういうことですか?」

 

「それはだね、一ヶ月遅れで君に同期ができるという朗報なのだよ!」

 

「えっ? ええええええええええっ!?」

 

 同期という言葉に、祐樹は声を荒げた。

 小鳩たちも祐樹に同期が居た事実に驚愕を隠しきれないでいた。

 

「ちなみにこの話は宮田さんから許可を貰っているのだけれど、基本的に○期生には最低二人から三人のアバターが用意され、その活動開始も同時期になる予定なんだけど、祐樹くんの同期は諸事情で一ヶ月遅れての開始になってたんだよ」

 

「俺に、同期……!」

 

「むふふ、やっぱり食いつくよね。まぁ活動の機関だけ見れば後輩とも呼べるけど、私はこれでも天才科学者! そんな君の同期の写真を宮田さんから受け取っておいたのさ!」

 

 スマホを取り出し画像ファイルを漁る。

 一同はソラのスマホを除き込み、祐樹の同期となる人物について目を通そうとした。

 

 身内での先行情報、決して外部には他言無用。

 そう言いながらもソラはスライドしながら、入手した同期の写真を探す。

 

 ……が、その途中で見えた写真に小鳩がガッ!とソラの腕を掴み止めた。

 

【今なにか見えました、見せてください】

 

「ナニモ、ナイヨ」

 

 片言で誤魔化そうとするも、小鳩の圧力に負けてその写真がタップされる。

 そして拡大化された写真は、今日配信をする前に少し楽屋で仮眠している祐樹の寝顔だった。

 

「ちょ、これ盗撮じゃないですか!?」

 

「なっ、人聞きの悪いことを言うんじゃない! これはれきっとした研究資料なのだよ!!」

 

【どういうことですか?】

 

「ひえっ!? い、いやこれはだな! 朝にこの内容を話そうとしたのだけれど誰も居なくて、そこには仮眠してる祐樹くんが居たからつい撮ってしまったというか、なんというか! つまりこれは全部無防備な祐樹くんが悪いのだよ!!」

 

「なんで俺が悪いんですか!? しかも全然研究資料じゃないですし!!」

 

「つまり、盗撮だね!!」

 

「うん、盗撮だね〜」

 

「盗撮よね」

 

「違うもん!! 祐樹くんの寝顔が可愛くて撮ったとかじゃないもん!!」

 

【消します】

 

「えっ? だめえええええええええッ!!!」

 

 無慈悲にも抵抗するソラの隙を突いて、小鳩は祐樹の寝顔写真を消した。

 しかも徹底的に、過去に消した画像ファイルの方も消した。

 

 『私の推しがあああああああっ!!』と嘆くソラに、誰一人と同情はしなかった。

 結局その後、しくしくと涙で顔を濡らしながらも祐樹の同期となる者の写真を見つけて開き、紹介した。

 

「うぅ……この子だよ……」

 

 スマホに表示されたその人物。

 車椅子に腰を下ろした銀髪ショートの少女。

 

 しかも特徴はそれだけでなく、紅と蒼の綺麗な瞳をしたオッドアイ。

 

「……ッ!」

 

「なにこの子、めっちゃお人形さんみたい!」

 

「これが天道さんの同期となる子なのね。千花の言うように、綺麗ね」

 

「んー、ボクが男の子だったら惚れちゃうぐらいの可愛さだな〜。……って、天道さんどうしたの〜?」

 

 同期となるその少女を見た祐樹は、目を見開いていた。

 それは惹かれているというよりも、ただただ驚愕という感じだった。

 

 そんな祐樹の様子に小鳩は袖を掴み、意識をハッとさせる。

 

「す、すみません……」

 

【この子がどうかしたの?】

 

「い、いえ……どうかしたとかじゃなく、実は俺この子のこと、知ってるんです……」

 

 会う前からこの少女のことを知っている。

 そう発言した時、泣きじゃくっていたソラ含めて誰もが声を荒げた。

 

 物静かな小鳩さえ少し声を漏らす程に、そして少し不安になりつつもギュッと袖を掴んで、祐樹に問いかけた。

 

 

「三年前、中学の頃に喘息で入院したことあったんですけど、その時に同じ部屋だったんです」

 

 銀髪ショートにオッドアイ。

 これだけの特徴を忘れるわけがない。

 

 祐樹とこの少女の関係性は同じ病弱ということと、入院した時に同じ部屋だったという過去。

 

 まさかこの場で再会することになるとは思いもせず、祐樹は動揺を隠しきれずに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 


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