厨二万歳RPGのラスボスに転生した一般人はどうすりゃいいですか?   作:波打ち際のトッポ

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あまりにもスランプが続くので息抜きとして書いた何か。



プロローグ

 崩壊していく祭壇で瀕死の男と涙を流す一人の少女がいた。

 方や槍を片手に涙を流す金髪の女、方や体に夥しい量の武器が突き刺さり胸に穴が空いた黒髪の男。

 誰がどう見ても瀕死な男は、もう喋るのも辛いはずなのに茶化すように少女へと言葉を投げる。

 

『聖女様、仲間が待ってるぞ。お前らの敵は倒したって伝えようぜ?』

 

 止めを刺した筈の相手にとても優しく笑いかける男。

 自分の体が冷たくなってく感覚に襲われながらも、最後は笑顔でと……そんな思いで、彼は笑う。

 

『……私も残る』

『ッ――ハハ、お前そうなったら動かないだろ――仕方ないなぁ』

 

 ここに残るという少女に対し懐かしむように何かを思いながらも男は、

 

『吟狼、最後の仕事だ此奴を送ってくれ』

 

 最後に残ってくれた配下を呼んで、無理矢理にでも彼女を送ることにした。

 

『嫌だ絶対嫌だ。君を一人にさせるもんか、死ぬときは一緒って約s――――』

『ごめんなアリア約束は守れない、じゃあな元気でいろよ?』

 

 睡眠の術を不意打ちとして使い、彼女を眠らせその言葉を贈った男は信頼できる家族に彼女を任せて体を引きずりながら玉座まで移動して、

 

『願わくば、彼女のこれからの旅路に幸福を』

 

 その言葉を残し、崩壊する祭壇と共に虚無へと消えていった。

 

 

 

□   □   □

 

 

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! 終わっだァァァァ!」

 

 エンディングが流れ始めて、スタッフロールを見ながら最初に出てきたのはそんな汚い咆哮だった。

 一人しか居ない家にそれが響き渡り、その事実に虚しくなるも今はそんな事は気にしてられない。だって今俺の中には、このゲームをクリアしたことによる達成感と感動があるからだ。

 そういう事なので虚無感なんて感じる余裕なんてないのだ!

 

「パソコンに張り付くこと一月、遂にアリアルートクリア!」

 

 八月の夏休みの一人部屋に響くのは野郎の叫び、心のそこからのその言葉は部屋に響き渡る。

 あまりにも硬くなった体をほぐすため、一度伸びをすればギシギシと嫌な音が鳴るも、長らく動かしてなかった体が動いたことで謎の気持ちよさに襲われた。

 

「ァ、アァァ本当に長かった。このルートだけ長すぎるだろ、いや確かに事前情報だとめっちゃ時間かかるって言ってたけどさこの量はヤバかった」

 

 エンディングが終わり、ロード画面を見てみればプレイ時間は脅威の六百四十時間。半月以上のプレイ時間に軽く戦慄してしまったが、正直なところ文句はない。

 だって凄く楽しかったし。

 

 俺がプレイしていたのは『混界のサーガ』という、厨二病万歳なオープンワールドアクションRPGだ。

 このゲームは、世界各地にある神話や物語をこれでもかというぐらいに詰め込んだ混沌闇鍋系ゲームで、常人がやれば胃もたれするぐらいには厨二要素が満載な素晴らしい一品。

 男主人公の名前が一緒だって学校の友達が教えてくれたからやったのだが、そんな軽い気持ちで出来るような代物ではなく、その面白さのせいで俺の夏休みは八割は消えたと言えよう。

 主人公を男で選んだ場合のルートは狂気の十八、女で選んだ場合でも十、それに加えてその二十八個のエンディングを迎えた後にプレイできる隠しルート二つの計三十ルート。 

 一度開発陣にどうしてそんなにルートを増やしてしてしまったんだと問いただしたくなってくるが、そんな気力はもう残っていない。

 で、話は変わるがさっき見てたのが男主人公クラマの隠しルート。

 今まではラスボスとなった女主人公を各ルートのヒロインと共に倒すというモノだったのだが、隠しルートはなんと彼女に負けて生き残らせるというシナリオになっているのだ。

 もうさ、まじで難しかったわ。

 だってこのゲームすっごい自由だから。

 能力の割り振りに正解はなく作れる装備は数百以上。正解なんて分からないし、難易度激ムズ。

 ルート一個が一本のゲーム並の量、その上ラスボスの行動がルート事に違うというヤバイ仕様。

 作るのに六年かけたと言われていて、どうした開発陣本気出しすぎだぞ? と、そんな事すら思ってしまうのはしょうがないだろう。

 間違いなく自分がプレイした中で一番楽しかったこのゲーム。

 でも一つだけ文句を言わせて欲しいのだ。

 それは、なんでアリアルートハッピーエンドじゃないんだよという事だ。

 いや満足はしている。

 少なくともあの結末は好きだし、あれはあれで完璧だったから良いのだが、一プレイヤーとしてアリアと主人公であるクラマには幸せになって欲しかったのだ。

 全ルートをプレイした上でのその感想。

 男主人公にも女主人公にもそれぞれ葛藤があり、何より最初は二人とも両思いだったのだ。

 それがたった一つのすれ違いで、変わってしまい戦う運命にあるなんて本当に辛いし凄いストーリーだった。

 

「まあそれでも、この結末は良かったな」

 

 こういうモヤモヤが残ってこその神ゲー。

 どうせこの先、技術を持ったヤバイ方々がいくらでも二次創作でもしてくれるだろうから、俺はそれを楽しめば良い。

 自分でやってもいいが、生憎俺は厄介なオタクなので自分が一番求めるモノはかけない質でいるので無理。

 ふと机を見て見れば、このゲームのために買ったエナドリの残骸が転がっていて、よく寝ずに頑張れたよなという感想を抱いてから俺は、すぐ近くにあるベッドに横になった。

 

「あ、やべパソコンの電源切ってない。でもいいか、面倒だし流石に寝たい」

 

 ずっとぶっ通しでゲームをプレイしていたせいで、もう頭も体も限界。

 正直なところくらくらするし、多分今すぐにでも布団に入れば俺の意識は無くなるだろう。それに自動的にスリープはしているはずなので、電気代は気にしなくても多分大丈夫。

 ……だってもう電気代に関しては誤差だし。

 

「でもやっぱりハッピーエンドみたいよなぁ」

『なら、お前がやってみろ』

 

 布団を掛けて眠る直前、ふと呟いたそんな言葉。

 それは誰もいない部屋に響き亡くなるはずだったのだが、何故か返事が返ってきたのだ。

 聞こえてきたのは、ここ一月で聞き続けた誰かの声。

 声のする方を見てみれば、スリープしたはずの画面が光っていてそれを見ていると吸い込まれるような感覚に……。

 

『任せたぞ』

 

 そんな声を最後に普段眠る時とは違う感覚に襲われて――――。

 

 

 

□   □   □

 

 

 

 日の光が射してきて、その眩しさと鳥の声で目が覚める。

 背中にあるのはベッドの感覚ではなくどちらかというとさらさらとした別の感触。

 ちょっと意味が分からなくて、混乱しながらも微睡む意識で目を開ければそこには一面の草原が広がっていた。

 

「よし、夢だ」

 

 どういう状況なのかは分からないが、とりあえずこれは夢だろう。

 きっとファンタジーゲームをしすぎたせいで、頭がファンタジーして、ファンタジーな夢を見ているだけだろうから?

 だってほら、空を見れば龍が飛んでるよ? こんなの夢以外ないだろ。

 だからなんか声が幼くなっている事とかも説明できるし、何の心配もないし不思議なことなんて一切ない。

 だから視線が低いとかは気にならないし、風の気持ちよさとかも分からない。

 

「あー空が綺麗ダナー」

 

 それにしても不思議な夢を見るものだな。

 だってどっかでこの草原とか見たことあるし、というか二十九回ほどこの光景を見せられた気もするが、きっとそれは気のせい。

 

「クラマー!」

 

 おや、なんかまた聞き覚えのある声が聞こえるぞ?

 どこからその声が聞こえてきているのか気になって、そっちの方を見てみれば気の上に人影が……。

 

「おはようクラマ遊びにいこー!」

 

 そしてその人影を認識した瞬間、跳び上がってくる人影。

 次に感じるのは投げられたような感覚と浮遊感、そして地面に倒れる時自分の体が勝手に受け身を取るという異常事態。

 少なくとも、俺はこんな綺麗に受け身なんか取れなかったはずだ。

 それに投げられるときに感触があったというのがまずおかしい。

 

「ん? どうしたのクラマ、そんな鳩が豆鉄砲くらった顔して? おーい、あれ? 反応しない?」

 

 混乱する頭に立て続けに襲ってくる情報量。

 目の前にいる、将来絶対美女確定の見たことある少女。

 腰まで伸びる白銀の髪、陶器のように白い肌、全てを吸い込むような深紅の瞳、そして人形と見間違うような容姿、その全てが完璧で、幼いながらに謎の魅力を持っている少女。

 

「アリア?」

「うんアリアだよ。それよりどうしたのクラマ、そんな信じられないような顔をして」

「ちょっと待ってね」

 

 よし待ってマジで待ってウェイトウェイト。

 とりあえず一度整理しよう、これは明晰夢という事でおーけー?

 だってそうじゃないと説明が付かない。

 確かアレだろ? 自分が夢を見ているという自覚をしながら見れる夢で、色々内容を自由に変化させることを出来るという。明晰夢には感覚があるという記述もどっかで見たしきっとそう。

 きっとこれはあれだ。

 つまりこれは俺が混界のサーガをやり続けたせいでみた夢だ。

 よしそれだな、答えは出た。

 つまり夢ならなにしてもいいという事でいいのか? つまり、混界のサーガの広すぎる世界を感覚有りで楽しめる事だよな。

 なんか間違っている気もするが、今は多分考えても仕方ないのでこれがきっと最善策。

 

「ねーいつまで待ってればいいの?」

「もういいよアリア、というか何の用なの」

「さっきもいったけど、遊ぶの! 鬼ごっこしよー!」

「鬼ごっこだともうちょっと人集めないと駄目じゃない?」

「あ……村に戻るよクラマ!」

 

 とりあえず違和感ないようにゲームの過去編でのやり取りでこの場をやり過ごした俺は、そのまま彼女に着いていくことにして、とりあえずこの明晰夢を楽しむことにした。

 

 

 雲一つない蒼空。

 そこを泳ぐ龍の背中に黒ずくめの何かが立っていた。

 彼? 彼女? 何者とも分からない三つの誰かは空から地上を見つめていて、暫くしてから一つが口を開いた。

 

「あれが、私達の王か」

「攫ウのかァ?」

「いや今はその時ではない、引き続き監視を続けるぞ」

 

 最初は女の声、その次ぎに発せられたのは声帯を無茶苦茶に混ぜたような気味の悪い声。そして黙したままの黒ずくめは眼下で少女に着いていく少年の姿を見て……。

 

「必ず、迎えに行きます。吾らが王よ」

 

 


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